第119話 健診?
山中さんと話をしながら待っていると、エレベーターからジュリアさんと秋山さんが出てきた。
「あ、ハルトさん、お待たせしました」
ジュリアさんが笑顔でそう言いながらこちらにやってくる。
「ううん。健診はどうだった?」
「多分、大丈夫だと思います」
まあ、月一でやってるからな。
いつも元気だし、1ヶ月前も大丈夫なら大丈夫だろう。
「じゃあ、次はハルト君ね。上に行くわよ」
秋山さんが顎でクイッと上を差した。
「わかりました。じゃあ、あとでね」
「はい。私は買い物に行ってきますので」
ジュリアさんがそう言うと、階段で1階に降りていった。
「秋山さん、行きましょうか」
「ええ。5階ね」
俺と秋山さんがエレベーターに乗り込み、5階のボタンを押し、到着を待つ。
「これからジュリアちゃんと出かけるの?」
秋山さんが聞いてくる。
「あ、いえ。夕食を一緒に食べようってことになってるんですよ」
「ふーん……そのまま泊まり?」
「いえいえ、明日は仕事ですし、そんなことはないですよ」
仕事かー……
土日はなんでこんなに早いんだろうか?
早く完全週休3日制にならないかな。
「そう。仲良くやってるのね」
「村田さんとかから聞いてます?」
「色々とね……こっちよ」
5階に着いたのでエレベーターを降り、近くの診察室に入った。
「何気に5階に来たのは初めてですよ」
「女性用だからね」
このビルは1階がぼったくりの喫茶店、2階が受付や会議室、3階が職員のスペース、4階が男性用診察フロア、5階が女性用診察フロアだ。
「村田さんは実家の用事って聞きましたけど、何なんです?」
「東京にいる妹さんが婚約者を連れて、帰ってきたんですって」
あー、そういう……
「それは休まないといけませんね」
「本人は嫌がってたけどね。『で? お前は?』という親の視線が嫌なんだってさ……すごくわかるわ」
村田さんも秋山さんも独身だ。
「秋山さんは? 村田さんとかどうです?」
仲良いじゃん。
「山中さんと同じことを言うわね。既婚者の余裕かしら?」
「いや、俺、既婚者じゃないですけど……」
「時間の問題でしょ。そう村田君から聞いてる」
「まあ、そのつもりではありますけど……」
筒抜けすぎるわ。
別に隠していることじゃないからいいけど。
「なんか嫌だわー。子供の頃から知っているジュリアちゃんが女になり、これまた子供の頃から知っているハルト君が私より先に既婚者になるのね」
その言い方の方が嫌だわ。
「もうちょっと言葉を選びません? 女って……」
「いやー……ねえねえ、この夏に海とか行くの?」
ん?
「多分?」
何て言えばいいんだろう?
「ふーん……」
「ジュリアさんが何か言ってました?」
「ちょっと水着の相談に乗っただけ」
あー、まあ、秋山さんを頼るか。
「そういう話もしたんですよ。夏かなーっと……」
ということにしておく。
「まあ、いいんじゃないの? あのジュリアちゃんが行く気とは思わなかったけどね」
それは俺もそう思った。
正直、海で遊びたいなーとは思ってたけど、誘いにくかった。
だから昨日、向こうから誘われてちょっとびっくりしたのだ。
「人が少ないところに行こうとは思ってますよ」
少ないどころか誰もいないプライベートビーチだけど。
「それが良いと思うわ。ジュリアちゃんは奥ゆかしい子だからあまりそういうことは得意じゃないでしょうしね」
人前で水着になることね。
「俺にはいいんですかね?」
「旦那が何を言って……あー、これは村田君にも山中さんにも言わないけど、あなた達、まだそういう関係じゃないの?」
そういう関係とはああいう関係だろうな。
「そうですね。手は繋ぎましたけど」
あと、一緒の部屋で寝ている。
「中学生か……いやまあ、お見合いだし、それで良いのかもね。ジュリアちゃんもだけど、あなたも一応、良いところの子だもん」
良いところ(アパート暮らし)
「そういう気持ちがないわけではないですけど、焦らなくてもいいかなって……知ってると思いますけど、近いうちに縁談を受ける旨と共にジュリアさんに結婚しようって言うつもりなので」
もう浅井の神様にも言ったし。
「うん、良いと思う。一瞬、ガキかって思ったけど、ジュリアちゃんが相手ならそれが良いと思うわよ」
ガキですみません。
「ジュリアさんはどんな感じです? 色々と聞いてません?」
「まあ、聞いてるけど……楽しそうよ? それに前向きというか、向こうは完全にその気じゃない? キスもえっちもしてないみたいだけど、色々と出かけたり、海に行くんでしょ? 余裕、余裕」
俺も断られることは考えていないが……
「そうですか……多分、来月の健診の時には何かしらの報告はしますよ」
「あら? 近いうちって本当に近いうちなのね。てっきり半年以内とかだと思ってた」
「いやー……俺が悪いんですけど、見合いをしてからもうちょっとで1年になりますからね」
めちゃくちゃ遅いと思う。
「そういえばそうだったわね……関係性が進むのは早かったけど、始動がものすごく遅かったわ」
すみません……
「実際、女子大生と見合いってきつくないですか? しかも、超金持ちの上級ですよ?」
「まあ、わかるけどね……でも、もう大丈夫?」
「はい。個人を見るようにしましたから」
「よろしい。仲良くしなさいね……じゃあ、採血するわねー」
秋山さんが採血の用意をしだした。
「採血だけは好きになれません」
「仕方がないでしょ。それとさー……ジュリアちゃんが会っていきなり私を見て、顔を逸らしたんだけど、何か知ってる? 笑ってたようだけど……」
あ、写真……
「さ、さあ? くしゃみじゃないです?」
「そう? やけに高校の時の話を聞いてきたんだけど?」
ジュリアさん……
「よくわかりませんけど、悪いのは村田さんだと思いますね」
「そう……じゃあ、腕出してー」
注射器を持ちながらそういう話をしないでほしいな……
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