第115話 天然でいい仕事をするタマちゃんじゃの……
「すごいなー」
俺達はさっきまで人が集まっていたリヴァイアサンを一番近くで見える場所に移動する。
「寝てますね……」
「うん、寝てるね」
起きないかな?
「起きろー」
サクヤ様がそう言って、ガラスを叩いた。
「よしなさいよ……あんた、よくそんなことができるわね。怖いじゃ……な、いの……」
サクヤ様を止めようとしていたタマヒメ様の動きが止まった。
それもそのはずでリヴァイアサンの目が開いたのだ。
しかも、がっつり俺達を見ている。
「おっ、起きたの!」
「私は悪くない、私は悪くない……」
タマヒメ様はジュリアさんの後ろに隠れてしまった。
「起こしたら可哀想ですよ。せっかく寝ているのに」
「サービスせい。泳ぐところを見てみたい」
わがままな神様だな。
自分だったら絶対にグチグチ言うくせに。
「まあ、それは俺も思いますけど、悪いですよ」
「あんたら、なんで普通に会話できるのよ。襲ってくるかもしれないじゃないの」
いや、そんな危ない竜だったらとっくの前に被害が出てるでしょ。
「でも、動く気配はないですよ?」
ジュリアさんが言うようにじーっとこちらを見ているだけでとぐろを巻いたままだ。
というか、どう見てもウミヘビだな。
「つまらんのー。ノルンにチクるぞ」
何てだよ……
サービス精神の悪い竜だったぞ、かな?
「まあ、良いじゃないですか。見れるだけでもラッキーです」
「そうですよ。あっちでサイン会と握手会をしているディーネさんに感謝です」
ディーネさんは清楚なおしとやか巫女の仮面を被って頑張っている。
「まあの……ん?」
「あ」
「おー……」
リヴァイアサンがとぐろを解き、動き出した。
「ひえっ、食べる気だ」
タマヒメ様が俺とジュリアさんの服を掴んで寄せ、ダブルガードする。
すると、動き出したリヴァイアサンが神殿周りを優雅に泳ぎだした。
それと同時に中央に集まっていた人達から『おー!』という声が一斉に漏れる。
「でかっ」
「すごいですね……」
「タマちゃん、サービスしてくれたぞ。パパとママに甘えてないで見ろ」
俺がパパかな?
まあ、ダブルガードしているし、そう見えるだろう。
「……おー……おっ、でかっ!」
タマヒメ様が俺とジュリアさんの間を少し開け、覗いた。
俺達が両開きの扉かカーテンになった気分だ。
「すごいじゃろ? 我のおかげぞ」
「そ、そうね。私はちょっと用事を思い出したから先に帰ってるわ。ばいばい」
タマヒメ様は早口でそう言うと、転移を使い、消えてしまった。
「逃げおった……しかも、自分のところの子を置いて……」
「仕方がないですよ。タマヒメ様は怖がりですから」
ジュリアさんがフォローする。
「まあのー……」
俺達はその後も3人で優雅に泳ぐリヴァイアサンを見ていき、写真を撮ったりする。
しかし、リヴァイアサンは徐々に動きが遅くなると、そのままとぐろを巻いて寝てしまった。
「サービスは終わりか……」
「サービスしてくれただけいいじゃないですか」
良いリヴァイアサンさんだ。
「どうでもいいことを聞きますけど、えら呼吸なんですかね? 肺呼吸なんですかね?」
ジュリアさんが真面目な顔で聞いてきた。
「肺呼吸じゃない?」
ヘビだし。
「溺れないんですね……」
「長いこと水中にいられる動物もいたと思うよ。クジラとかそうじゃない? あれは哺乳類だからえら呼吸じゃなかったような……」
確かね。
「へー……ハルトさん、詳しいんですね」
男の子は皆、詳しい。(偏見)
「昔、図鑑で見たんだよ」
昆虫か海の生物のやつ。
「おぬしらはどうでもいいことで盛り上がれるんじゃの」
「別にいいじゃないですか」
「いや、良いことって意味じゃ」
サクヤ様はそう言って、俺達の手を取り、タマヒメ様のせいで離れた手をくっつけてきた。
俺達は手を握ると、再び、ゆっくりと歩きだし、湖の中を見ていく。
すると、ポツリポツリと人がガラス側に戻ってきて、俺達が一周した時には中央のサイン会は終わっていたのでディーネさんのもとに向かった。
「すみません」
「いいの、いいの。それよりも泳いでるところを見れて良かったなー」
根はとても良い人なんだよなー。
「ありがとうございます」
「当然のことを……あれ? 小さいのが一人いないぞ」
もちろん、タマヒメ様のことだ。
「あやつはリヴァイアサンにビビって帰った」
「あー、たまに泣き出す子供とかいるんだよなー」
さすがに小さい子はなー。
安心とかそういうこともわからないだろうし、あんなにでかいと怖いだろう。
「ちょっと怖がりな方なんですよ」
「しゃーない。とりあえず、神殿の案内はこんなところだな。もし、また来るなら通ってきた管理用の階段を使っていいぞ。教会の人間に言っておく」
「ありがとうございます」
またジュリアさんと夜にでも来ようかな?
ジュリアさんはすごく気に入ってるみたいだし。
「いつでも来てもいいし、何でも頼るんだぞ。最優先にするから」
すごいな、この人……
本音が駄々洩れだ。
「わかりました。また何かあればお願いします。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺とジュリアさんが頭を下げる。
「よーし、帰ろー」
俺達は来た時と同じ管理用のらせん階段を昇っていく。
そして、教会まで戻ると、ディーネさんと別れ、教会をあとにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!