第112話 神殿へ
翌朝、ジュリアさんに起こされ、一緒に寝室から見える眺めの良い平原を見渡す。
「水の国の方もだけどさ、なんか別荘だと気持ち良く起きられるね」
「そうですね。眺めが良いこともありますが、ドキドキワクワクがありますしね」
家で起きる時は大抵、仕事に行かないといけない時だしね……
「今日は特にドキドキワクワクだね」
「ええ。水の神殿です」
湖の中にある神殿。
しかも、リヴァイアサン付き。
「じゃあ、2人を起こして、準備をしようか」
「はい」
俺達は寝室を出ると、今日も仲良く寝ているサクヤ様とタマヒメ様を起こす。
そして、3人がお風呂に行き、その後に俺も入り、朝の温泉を満喫した。
風呂から上がり、朝食を食べると、異世界の服に着替え、水の国の別荘に飛ぶ。
「タマヒメ様も来られますよね?」
タマヒメ様もちゃんと異世界の服に着替えていた。
「ええ。リヴァイアサンとやらがちょっと怖いけど、湖の中にある神殿っていうのが気になるもの」
「おぬしなぞ、一口じゃの」
「あんたをバカだと思うのはたまにものすごいブーメランなことを言うことね」
たまに言うね。
「我の方がちょっと背が高いぞ」
「誤差よ、誤差。まんまどんぐりじゃないの」
「どんぐり様、ケンカしないでください」
どんぐりでも可愛いんだから良いじゃないか。
「どんぐりで悪かったの。おぬしはノルン派じゃものな」
「違いますって」
ノルン様は素敵な方だけども。
「何? あんた、ノルンが良いの? あいつ、性格悪いわよ?」
そりゃ毎日のようにゲームでボコられたらそう思うわな……
サクヤ様みたいにやめればいいのに。
「違いますって。それにこんなに良くしてくださっているんですから性格が悪いということはないですよ。ちょっとゲームをしたら人格が変わるだけです」
勝利主義者なのだ。
「ふーん……まあ、いいけど」
「行きますよ」
俺達は別荘を出ると、キラキラ光る海沿いを歩いていき、東の大通りを歩く。
「朝から人が多いわね」
タマヒメ様がジュリアさんの服を掴んだ。
「こちらの世界は始動が早いんじゃないかっていうのが俺達の見解です」
「あー、そうかもね。昔は日が昇ったら動き出してたもん。ましてや、海沿いの町ならもっと早いかも」
漁に行くからか。
俺達は大通りに面している店を眺めながら夕食のバーベキューの食材をピックアップしていった。
そして、中央の広場にやってきたので教会の方に行く。
「あれがノルン?」
タマヒメ様が教会の屋根についている女神像を指差した。
「ですね。まあ、ノルン様の美しさの十分の一も出ていません」
まあ、仕方がないことだろう。
「な? ノルン派じゃろ」
「金髪が良いのかしら? ジュリア、染めたら?」
「え? 髪をですか? 似合うかな……?」
ジュリアさんが自分の綺麗な黒髪を摘まむ。
「そういうことじゃないですから。ジュリアさんも染めないでね。俺、その長い黒髪が好きだから」
というか、金髪は絶対に似合わないし、浅井家の連中に何を言われるかわからん。
「そうですか? じゃあ、このままでいきます」
ジュリアさんはどこか嬉しそうだった。
「……行くかの」
「……そうね」
サクヤ様とタマヒメ様はしらーっという顔をすると、教会の扉を開け、中に入ったので俺とジュリアさんも続いて、教会に入った。
教会の中は火の国の教会の作りとほぼ同じでかなり広く、ステンドグラスから入る日光で明るい。
ただ、火の国とは違い、多くの観光客らしき人達がおり、右奥で列を作っていた。
「いっぱいいますね」
「湖の中に神殿じゃからな」
完全な観光スポットだもんな。
どうしようかなーと思っていると、教会のシスターさんらしき女性が近づいてきた。
「おはようございます。地下の神殿ですか?」
「え? あー、そうですね……あ、いや、ディーネさんはおられますか?」
「ディーネですか……」
シスターさんが俺をじーっと見てきた後にサクヤ様を見た。
「あ、ハルトって言います」
「ハァ……かしこまりました。少々、お待ちいただけますか?」
「あ、はい」
シスターさんは列ができている方向とは逆の左奥に歩いていった。
「ため息をつかれましたけど……」
「歓迎されておらんのかの?」
「良くない態度ね。やっぱりノルンのところだわ」
「何か理由があるのでは? なんとなく想像はつきますけど……」
俺達がそのまま待っていると、満面の笑みのディーネさんと無念そうな顔をしたさっきのシスターさんが左奥から出てきた。
「な? 大事な仕事なんだよ! 超大事!」
「はいはい……わかりましたからちゃんとしてください」
相変わらずの元気なディーネさんにシスターさんが呆れている。
「あれか……」
「勉強タイムだったんじゃろうな」
「私達をダシにサボるわけか……」
「まあまあ……」
俺達もシスターさん同様に呆れていると、ディーネさんがやってきた。
「おはようございます。今日もいい天気で良かったですね」
外行きディーネさんだ。
本当にこうしていると、清楚でおっとりとしたお姉さんだ。
「ええ。今日はバーベキューをするので良かったです」
「それはタイミングが良かったですね。今夜遅くから数日は雨です」
そうなんだ……
明日は組合だし、それ以降も仕事だからちょうど良かったな。
「天気がわかるんですか?」
「それも巫女の仕事です」
水の巫女は気象予報士らしい。
「火の国のサラさんも噴火がわかるって言ってましたね」
「各地の巫女はそういう役割があるのですよ。どうでしょう? その辺りを説明しましょうか? 地下の神殿に行っても良いですが、この時間はリヴァイアサンも寝ています」
おねむか。
せっかくなら泳いでいるところを見たいな。
「じゃあ、お願いします」
「では、こちらへどうぞ。資料室に案内しましょう……な? な? 仕事だろ?」
ディーネさんがついてきたシスターさんにアピールする。
「わかりましたから……では、失礼のないようにお願いしますね。それと言葉遣いに気を付けてください」
ディーネさんが教会内でどういう風に思われているのかがよくわかるわ。
「わかっておりますとも。では、こちらです」
俺達はシスターさんをこの場に残し、ディーネさんと共に左奥に向かった。
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