第110話 相性 ★
家に帰ると、ジュリアさんとタマヒメ様と別れ、洗濯をし、掃除をしていった。
「水の国はどうでした?」
珍しく、ゲームをしているノルン様が声をかけてくる。
「すごく良かったです。海は綺麗ですし、海産物も美味しかったです。あ、巫女様に一声かけてくださり、ありがとうございます。おかげで別荘をもらいましたよ」
「いえいえ。ですが、ディーネを気にかけてあげてください。サラと違ってしっかりはしてないので」
まあ……
「良い子ですよ?」
「それはわかっています。不真面目なところもありますし、サボり癖もありますが、清らかな心を持った子なのです」
清らか……
あ、いや、裏表のない子だし、純粋っぽさは感じる子だった。
「わかりました。来週は神殿の方に行きますし、何をすればいいのかはわかりませんが、気にかけておきます」
「頼みます……ところで、このキャラ、途中で死ぬってネットで見たんですけど、本当ですか?」
死ぬなー……
死ぬことで有名だ。
「ネタバレじゃないですか」
「構いません。途中離脱するキャラを育てる意味はありませんから」
そこに愛がない人だな……
「死にます」
「じゃあ、いりませんね」
というか、いつの間にかゲーム機まで増えてるな……
◆◇◆
私はベッドの上で膝を抱え、楽しそうにコロコロでカーペットの掃除をしているジュリアをじーっと見ている。
昔から魔法より家事なんかが好きな子だったが、本当に楽しそうだ。
「ご機嫌ね」
「楽しかったですから。最近は毎日が楽しいです」
良いことだ。
「異世界? それともハルトといること?」
「両方です。この町しか知らない私にとっては何もかも新鮮ですし、ハルトさんは優しいですから」
どっちもか……
「異世界は怖くない?」
「魔物はいますけど、平和な世界だと思いますよ。私は東京とか都会の方が怖いです」
この子はなー……
優秀な子ではあったが、実は都会の大学に行かすより、地元の大学に行かすべきと進言したのは私である。
この子は人の悪意、特に男の欲望を知らなすぎるのだ。
「あんたは都会に行くのはやめた方がいいわよ」
「そうですね……あ、でも、ハルトさんが連れていってくれるって言ってましたね」
あの男は気遣いが上手というか、相手が求めているものを与えるのが上手だ。
魔力や魔法の腕もピカ一だし、数百年前だったらそれはそれは良い当主になれただろう。
「ハルトと旅行に行くの?」
まあ、異世界も旅行みたいなものだけど。
「ええ。県外に出るのは組合の申請がいりますけど、岩見の当主パワーでどうにかするって言ってました」
それで行けるのは岩見の人間だけ。
つまり、ジュリアも岩見の人間になってからということだ。
この前、はっきりジュリアを嫁にもらうって言っていたが、ハルトは本気なんだな。
「ジュリア、ハルトと結婚するの?」
あえて、こういう言い方で聞いてみる。
「どうでしょう? ハルトさん次第だと思います」
「あんたの気持ちは? 家のことなんか気にしなくていい。もう政略結婚なんて考える時代じゃないし、単純にあんたがどうしたいか」
「私はできたらハルトさんと一緒になりたいと思っています」
考える素振りもない。
「なんで? 異世界に行けるから?」
「もちろんそれは楽しいですし、私の人生を変えてくれた出来事です。でも、それ以前にお見合いをした時からそう思ってました」
思ってた以上にジュリアのハルトに対する好感度が高いな。
「どの辺?」
「私はあまり男性が得意ではありません」
「女の子ばっかりの学校に通わせちゃったもんね」
ごめん。
「それもありますが、なんとなく怖いんですよ。見ず知らずの人なのに急に声をかけてくるじゃないですか。しかも、なんか良くない視線を感じます」
あー、この子は歩いているだけで声をかけられるか。
要はナンパだ。
「ハルトは感じない?」
「んー……感じないこともないですね」
まあ、ハルトも男の子だ。
「それは仕方がないことなのよ」
それがなければ人類はとっくの昔に滅んでいる。
「もちろん、わかってます。私も子供ではないので……でも、ハルトさんは強引さがないですし、こちらに合わせてくれるんですよ」
ふむふむ。
「続けて」
「最初にお見合いした時に2人で組合の喫茶店でお茶をしました。正直、何をしゃべったかは緊張であまり覚えていないんですけど、ただ一つ、ケーキやコーヒーを飲むスピードを合わせてくださったことだけは覚えています」
あー、あの子は合わせる子だからな。
「それが良かった?」
「はい。私は遅いですし、男性は早いじゃないですか? 兄や父がそうです」
「そうね。男の人はせっかちな人が多い」
向こうは女は遅いって思っているんだろうけど。
「ハルトさんは嫌な顔一つせず、待ってくれるんですよ。デートした時も異世界に行った時もいつもです」
「おおらかな子だからね。ずっとほのぼのとしている」
「それが私にとっては良いのです。安心感がありますから」
安心感か。
まあ良いことだ。
「そっかー。じゃあ、仲良くやりなさい。それよりも組合に電話しなくていいの? 来週、行くんでしょ」
「あ、そうでした」
ジュリアはコロコロを置くと、スマホを手に取り、電話しだした。
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