第109話 観光2日目
別荘に戻った後はソファーでゆっくりと過ごしていく。
「波の音を聞きながら小説を読むのも良いね」
「はい。心地良いです」
ジュリアさんが笑顔で頷いた。
「ねー。タマヒメ様はどうです?」
タマヒメ様にも聞く。
「んー? 良いんじゃない? なんか昔を思い出すわ」
昔?
「あー、わかるの。昔は波の音でも虫の鳴き声でもそういう自然の音しかなかった。昨今は夜でも色んな音がするからのう」
なるほど。
わからないでもない。
「東京はもっとひどかったですね」
正直、うるさかった。
「でしょうね。地方はまだ良い方よ。でも、ここはもっと良い。自然の音が心を安らかにするのよ」
へー……
「外はどうでした?」
「まあ、悪くなかったわね。淀んだ感じもしないし、綺麗な町だったわ」
夕方になったらナンパ師もいなくなったしな。
「タマヒメ様、私達は明日も町を見て回る予定ですけど、一緒に行きませんか? 色々なものを売ってますし、湖も綺麗ですよ」
ジュリアさんがタマヒメ様を誘う。
「じゃあ、行く……」
「ええの。じゃあ、4人で行くか。というわけでそろそろ寝るぞ。おぬしらも寝よ」
サクヤ様がそう言ったので今日はお開きになり、ジュリアさんと2階の寝室に行く。
しかし、すぐにはベッドに入らず、2人で窓際の対面式になっている椅子に腰かけると、窓の外を見る。
「暗いね」
「ええ。でも、遠くに灯りが見えます。漁船でしょうか?」
「多分、そうじゃない? イカだったかな? 夜にライトを当てたら寄ってくるからそれを捕まえる漁がなかった?」
「あったような気がしますね」
イカで合ってたかな?
「………………」
「………………」
俺達は特に言葉を発せずに窓の外を見る。
「……タマヒメ様とサクヤ様は仲が良さそうでしたね」
ジュリアさんがつぶやくように言葉を発した。
「そうだね。実際、仲が良いんじゃない? 同じような時を生きる神様だし」
具体的にいつの時代から存在している神様なのかはわからない。
とにかく、昔であり、軽く1000年は超えていそうだ。
「ええ。でも、私達は争ってばっかりでした」
岩見と浅井はずっとそうだ。
「仲が良い時期がなかったって聞いてるね」
「私もです。時代は変わり、魔法使いは衰退しました。でも、私はこれが良いことだと思っています。浅井と岩見の争いもなくなりましたから」
「そうだね」
まだ浅井の上の年代はウチに思うことがあるだろうが、争いはなくなったと言っていいだろう。
それはサクヤ様とタマヒメ様を見ればわかる。
「タマヒメ様、本当に出てこない神様なんですよ。実を言うと、私はこれまでタマヒメ様と話をしたのは10回もいかないくらいでした」
全然、話してない……
遠い親戚みたいな距離感だ。
ウチとは大違い。
「家にはいたんだよね?」
「ええ。でも、ほとんど姿を現しません。何らかの行事やイベントがある時くらいですね」
屋根裏とか倉庫にいる座敷わらしだもんね。
「それが随分と出てきてるねー」
外に出ない人だなーって思っていたけど、浅井から見たら実はめちゃくちゃ出ていたんだな。
「サクヤ様やノルン様のおかげだと思います」
「遊んでるもんね」
「ええ。それはとても良いことだと思います」
「そうだね。これからも嫌がらなかったら外に連れていってあげようよ」
ビビりなのはビビりだからな。
「そうですね。明日は日曜日ですし、午前中しかいられません。楽しまないと」
家のこともしないといけないからなー。
「そうだね。来週は神殿だよ」
「はい。それと多分、忘れていると思いますけど、健診がありますよ?」
そうだった……
月に1回は組合に行かないといけなかったんだわ。
「うん、完全に忘れてた。また一緒に行こうよ」
「そうですね。明日、山中さんに電話してみます」
「お願い。じゃあ、寝ようか」
「はい。おやすみなさい」
俺達はそれぞれのベッドに入ると心地良い波の音を聞きながら就寝した。
翌朝、ジュリアさんに起こしてもらってベッドから出ると、窓から外を覗く。
「やっぱり良い眺めだなー」
「本当ですよね。海がキラキラ光ってて、すごく綺麗です」
夕方の海も良かったけど、朝の海も綺麗だな。
「ホントにねー。俺達の神様を起こそうか」
絶対にまだ寝てるし。
「ええ。そうですね」
俺達は寝室を出る。
すると、吹き抜け構造の建物なのですぐに下の様子が見えた。
「やっぱり寝室を使わなかったね」
「本当にベッドより床が好きなんですね」
1階ではソファーの下に布団敷いて寝ているサクヤ様とタマヒメ様がいる。
しかも、サクヤ様のおみ足がタマヒメ様の顔に乗っていた。
「可哀想に……起こそう」
俺達は階段を降り、ソファーのところに行く。
「サクヤ様、タマヒメ様、起きてください。朝ですよ」
2人に声をかけた。
「……おー、起きてるぞー」
「……何これ?」
タマヒメ様が顔に乗っているサクヤ様の足首を持つ。
「何をする? くすぐったいわい」
「いや、あんたが何してんのよ?」
ごもっとも。
「朝ご飯を食べて、町に行きましょう」
「そうじゃの」
俺達はジュリアさんが作ってくれた朝食を食べ、準備をする。
着替え終えると、別荘を出て、4人で町中を見て回ることにした。
そして、昨日見て回れなかったところを重点的に回っていき、気になる店があったら足を止める。
やはりこの町は海関係のものが多く、中にはボートまで売っていた。
「飲食店だけじゃなくて、食品として魚介も売ってるのね」
タマヒメ様が水槽に入っている魚や貝類を見る。
「浜焼きをやってるらしいんですよ。あの別荘にもそういうバーベキューセットがありました」
「へー……」
「来週にでもやってみます?」
「あんた、魚とかの下ごしらえできるの?」
え?
困ったことを聞かれたのでジュリアさんを見る。
「あ、私ができます」
さすがだ。
「ウチの子は偉いわー」
「ウチの子は洗濯物を畳むのが早いんじゃぞ」
そのフォローはいいっす。
「ジュリアさん、お願いできる?」
「ええ、任せておいてください。テラスでバーベキューしましょう」
「そうしよう。夏だなー」
「良いですよねー」
俺達は来週の予定を決めると、その後も町を見て回っていく。
そして、一通り見終えたので適当な店に入り、昼食の焼き魚定食を食べると、元の世界に帰った。
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