第105話 魚!
一通り部屋を見たので下に降りると、サクヤ様が1人でソファーに座っていた。
「タマヒメ様は?」
「行かない。怖いもん。夕食だけ付き合うわ……じゃと」
うん、想像できるな。
「じゃあ、3人で見て回りましょうか」
「そうじゃの。では、行くか」
サクヤ様が立ち上がったので別荘を出ると、海沿いを歩いていく。
「この辺は本当に人がいませんね」
ジュリアさんが海を眺めながらつぶやいた。
「多分、教会の私有地なんじゃろ。静かで良いじゃないか」
「それもそうですね。夜に花火も良いかもしれません。小さい頃に家でやった時にタマヒメ様がはしゃいでいた記憶があります」
微笑ましい光景だろうなー。
そして、家で花火をやるというパワーワード。
ウチはずっとアパート暮らしだったから公園とかでやったわ。
でも、最近は公園もダメだろうし、今の子はどこでやっているんだろう?
「ええかもな」
俺達が歩いていくと、海水浴場に戻ってきた。
先ほど通った時よりも人が増えており、中には子供も混じっている。
「ナンパ師っぽいのもいるね」
海にいるのに海にも入らず、海を見ることすらしてない男が数人いた。
「いますね……さっきの話、ここで楽しむのはちょっと難しそうです」
お嬢様には無理だろうな。
俺も嫌だもん。
「ここは広いが、やめた方が良いな。まあ、プライベートビーチで楽しもうじゃないか」
「それもそうですね」
俺達は海をあとにすると、中央の湖を目指して、東の大通りを進んでいく。
「良い匂いがするのう」
「醤油ですかね?」
醤油の焦げた匂いがする。
あちこちの屋台で魚介系を焼いているのだ。
「醤油があるのか?」
「さあ?」
当たり前だけど、知らない。
「魚醬では? 地味に使ったことがないので知りませんけど」
俺も知らない。
ナンプラーだっけ?
「なんでも良いじゃろ。こっちの世界の料理は今さらじゃ」
「それもそうですね」
「いまだにボアが何なのかも知りませんしね」
多分、豚系の肉だと思うが、肉以外のボアを見たことないな。
「まあのー……我は釣りがしたいな」
店には釣竿なんかも売ってるし、エサも売っている。
なんかうねうねしたミミズを売っているのだ。
「それもやりましょうよ。俺もやりたいです」
「私もやったことがないのでやってみたいです」
「ええの」
俺達は店なんかを見て回りながら歩き、中央の湖に戻ってくる。
湖の周りは広場になっており、ベンチがそこら中に置いてあり、家族やカップルらしき人達が腰かけていた。
「憩いの場みたいじゃな」
「みたいですね」
なんかベンチでイチャついてるカップルもいる。
「湖を見てみましょうよ」
「そうだね」
ジュリアさんが勧めてきたので湖の方に向かう。
そして、柵に手を置き、覗いてみた。
「リヴァイアサンさん、いる?」
「さあ? 反射してよくわかりませんね」
深さ50メートルだし、厳しいかも。
「神殿も見えないね」
「やっぱり神殿から見るものなんじゃないですかね?」
多分、そうだろうな。
「ここって釣りがオーケーらしいけど、リヴァイアサンさんが釣れないのかね?」
「ふふっ、さすがに無理ですよ」
まあねー。
「そろそろ昼じゃし、飯にせんか? ギルドや町を見て回るのはその後にしようぞ」
確かに腹が減ったな。
「そうしましょうか」
「どこに行きます?」
「どれも一緒って言っておったの。ギルドがある北の方に行ってみるか」
「そうしますか」
俺達は北の大通りに向かい、キョロキョロと良い感じの店を探す。
「どこがええかのう……」
「サクヤ様の神様パワーで良い感じの店を選んでくださいよ」
「よし……むむむ! あそこじゃ!」
サクヤ様が左前にある店を指差した。
「じゃあ、そこにしましょうか」
俺達が店に入ると、カウンター席が数席、テーブル席が2つしかないそこまで広くない店だった。
「いらっしゃい。3人ならテーブル席へどうぞ」
厨房にいるおっちゃんがそう言ったのでテーブルにつく。
「見かけない顔だけど、観光さんかい?」
どうやら一人で切り盛りしている店らしく、おっちゃんが声をかけてきた。
「ええ。今日着いたんですよ」
「そうかい。この地方はパンじゃなくて、米が主食だけど、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません」
ウチもそうだし。
「じゃあ、おすすめは焼き魚定食だな。良いのが上がったんだ」
へー……
「それでいい?」
ジュリアさんに確認する。
「ええ」
「我もそれで良い。観光地ではおすすめを食べるもんじゃ」
確かにね。
ボアのバター焼きもぐつぐつも当たりだった。
「大将、焼き魚定食3つ」
「あいよー」
注文を終え、待っていると、次第に魚を焼いた匂いが店に充満していく。
それに炭の匂いもしており、炭で焼いているようだ。
「もう美味いってわかる気がします」
「我の神力じゃ。ハズレはない」
「期待大ですね」
そのまま待っていると、大将が焼き魚定食を持ってきてくれた。
定食は焼き魚に米と汁というシンプルなものだったが、魚がでかい。
30から40センチはある。
「今朝、良いのを仕入れたんだからシンプルに塩焼きだな。この町はウチみたいな店が多いんだが、さっき嬢ちゃんが言ってたように好き嫌いがなければおすすめを食べた方が良いぜ。魚介は毎朝、漁師から仕入れるんだが、日によって獲れる魚も違うし、おすすめが変わるからな」
なるほど。
確かにそうだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「まあ、楽しんでくれ……っと、いらっしゃーい!」
丁寧に説明してくれた大将は他のお客さんが来たので厨房に戻った。
「ほれみい、我の言う通りじゃ」
「そうっすね。食べますか」
「いただきます」
俺達は焼き魚定食を食べることにし、魚を箸で摘まみ、一口食べる。
魚は白身魚のようで淡白な味わいだが、脂が乗っており、非常に美味しい。
「美味いのう」
「塩だけのシンプルな味付けですけど、それも合ってますね」
確かに。
「日本人は魚ですよね」
「そうじゃの」
俺達はその後も焼き魚定食を堪能していった。
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