第102話 聖地?
窓から眺めていると、湖が見えてくる。
すると、馬車が止まった。
「ここが町の中央の湖」
「でかいのう」
「すごいですね」
湖は想像以上に大きく、向こう岸の建物が小さく見えた。
「どれくらいの大きさなんです?」
ディーネさんに聞く。
「直径200メートルで深さは50メートルの超でかい湖。ここはちょうど山から流れてくる川と海の中間地点なんだ。川が淡水でここが汽水、そして、海が海水でそれぞれ獲れる魚も違う。とはいえ、この湖は理由があって、釣りしかできない」
「そういえば、遊泳禁止って聞きましたね」
サラさんが言ってた。
「うん。この湖には竜が住んでいるんだ」
はい?
「竜?」
「うん、竜。神殿から見られるんだけど、リヴァイアサンっていうでっかい蛇みたいな竜種がこの湖を巣にしてる。女神様の使いと呼ばれてて温厚な竜なんだけど、ここで泳ぐとエサと間違えられて食べられちゃうんだ」
マジ?
「え? そんなのがいるんです?」
「いるんです。だからここは聖地と呼ばれるようになったんだよ。そのリヴァイアサンも神殿から見れるぞ。いつも寝てるけど、運が良ければ泳いでいる姿も見える」
すげー気になるな。
「あ、チェスターさんが言ってたやつって……」
「そのリヴァイアサンでしょうね」
「倒しちゃいけないやつって言っておったしのう」
多分、そうだ。
「倒したらダメだぞ。守り神みたいなものだし、何よりも観光名所だから」
ドラゴンが見れるならそりゃ人も集まるわ。
「見てみたいです」
「うん。言ってくれれば案内するから。あそこにでっかい教会があるでしょ。あそこがウチで湖の神殿に繋がっているんだ。私は基本的にあそこにいるから訪ねてきて」
ディーネさんが近くにある教会を指差す。
「わかりました」
「絶対だぞ。そんでもって、ここの注意点を説明するな。まずだけど、ここって夕方はすごく綺麗なんだ」
そんな気はする。
湖は波紋も見えないし、夕日で絶対に映えると思う。
「すごそうですね」
「そう、すごいんだ。そして、ものすごくロマンチックなんだよ。だからここで過ごしたカップルはノルン様の祝福を得られるという言い伝えがあるということを先代の巫女が作ったんだ」
はい?
「作ったんですか?」
「まあ、そこは観光のためだし」
観光のためにノルン様を利用している……
いやまあ、日本にもそういう聖地みたいなのはいっぱいあるけど。
「それだけすごいなら良い雰囲気になるのは確かですしね」
「そうそう。その反面、ここはナンパスポットでもある。ほら、男が1人でつっ立ているのが何人かいるでしょ。あれはナンパ師」
確かにいるな……
「この町はカップルの聖地でもあるけど、ナンパの聖地でもあるんだ。それが良いか悪いかはわかんないけど、そういう目的の旅行客や地元の人間がいるのは確か」
チェスターさんが言ってたな。
「海もですよね?」
「それはもちろん、そう。ジュリアさんは間違っても1人でここや海に行ったらダメだぞ。秒で声をかけられる。そんでもってナンパ師はしつこいんだ」
「わかってます。私はハルトさんと行動しますので大丈夫です」
ジュリアさんは1人で動かないって言ってたしな。
「ならいいや。ここはそういうことで有名だから気を付けること。最悪はノルン様に誓った相手がいますって大きな声で叫んで。教会の衛兵がすっ飛んでくるから」
浮気がNGな世界だったな。
「わかりました」
「じゃあ、ここはこの辺で。またゆっくり見てよ。次はこのまま北門に行く…………北門へお願いします」
ディーネさんが小窓を開けると、再び、おしとやかな声で御者に声をかける。
すると、馬車が北の大通りに向かって動き出した。
「北は山ですよね?」
「そうそう。ハルトさん達は魔法ギルドと冒険者ギルドに所属しているんだろ? その両ギルドは北の大通りにあるんだ」
配達の仕事があるから魔法ギルドと冒険者ギルドの場所は把握しておきたい。
「北の山も西の山も入れるんですか?」
「西の山は魔物がそんなに出ないし、ちゃんと登山道に結界が張ってあるからハイキングコースになっている。北の山は逆に魔物や獣が多くて、冒険者や猟師が行く。そういう仕事もあると思う。詳しくはギルドに聞いてくれ。私は登山とか嫌いだから詳しくは知らない」
嫌いそう……
歩くのも嫌って言ってたもん。
「ドラゴンとかワイバーンは出ます?」
「うーん、ドラゴンはないけど、ワイバーンは目撃情報がないこともない。でも、滅多にないな。そういうのは火の国だ」
そっか。
じゃあ、この国ではドラゴン、ワイバーン狩りはなさそう。
「荷物を届ける際に仕事の話も聞いてみましょうか」
「そうじゃの。面白そうな仕事もあるかもしれん」
「健康のためのハイキングも良いものですよ」
確かにね。
歩いた後のお風呂とお酒が非常に良かった。
「なんか真面目な夫婦だなー……あ、そこが冒険者ギルドで対面が魔法ギルドね。この辺はギルドが固まっているんだ。理由は町が徐々に大きくなったってやつのせい。ある程度大きくなったら一斉に各ギルドが来たから同じ場所に固まってる」
時期が一緒だから同じところに建ったわけか。
「同じ場所の方が助かりますね。仕事をした際は両方に行きますので」
討伐料を冒険者ギルドで受け取り、魔石を魔法ギルドで売るからだ。
「なら良かった。じゃあ、北はこんなもんでいいか…………湖まで戻ってください」
ディーネさんがまたもや小窓を開け、おしとやかな声で御者に声をかける。
コロコロ変わって大変だなーと思った。
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