第101話 俺は貝が好き
「海はまあ後で……それよりもこの町のことを聞きたいです」
「そうだった……えーっと、これから一通り、この馬車で町を回って説明していく」
「馬車ですか?」
「歩きたくないし」
あ、はい。
「疲れますもんね」
「そういうこと。では、出発前にこの町を軽く説明しよう。この町は東に海が広がっているし、北と西には山がある」
「そんな感じでしたね」
外から見てもわかった。
「山から川が流れ、海に繋がっているからこの町は水が豊富なんだ。特に町の中央にある湖が超有名」
「その湖の中に神殿があるんですっけ?」
サラさんに聞いている。
「そうそう。今日は神殿の中までは入らないけど、言ってくれればいつでも案内する。絶対に声をかけるんだぞ。サボれる……じゃない、ノルン様のお客様を案内するとても大切な仕事なんだ」
この人、嘘がつけない人だな。
「わかりました」
「本当に頼むぞ。それでこの町は聖都と言うんだが、それは火の国と一緒だな」
「そうですね。火の国の首都も聖都でした」
「うんうん。この聖都は円形に広がる町なんだが、その中央に湖、すなわち、神殿があるんだ。そして、そこから十字に大通りがあり、各門に繋がっている。ここは南門だな」
つまりこの大通りを進んでいけば湖に行けるわけだ。
「なるほど」
「火の国の聖都は各区画で明確に分かれただろ? 住居区とか繁華街とか」
「分かれてましたね。トロッコ列車で行き来してました」
移動も楽しかった。
「ウチにはそういうのはほとんどない。どこにも家はあるし、店や飲み屋もある。始まりが中央の神殿でそこから徐々に人が集まって円形に広がっていった町だから区画整理をしていないんだ」
「最初は小さかったんですか?」
「ただの漁村だったと記録に残っている」
やっぱり歴史資料は残っているんだな。
「そういう資料って見れます?」
「え? まあ、神殿の書庫にあるから見れるけど、つまんないぞ」
「面白いよね?」
ジュリアさんを見る。
「そうですね。町の歴史を知ることが最大の観光だと思います」
サラさんから聞いた歴史の話も面白かった。
ちょっと噴火とか悲惨なこともあったけど。
「変な奴ら」
そうか?
「そういうのも含めて、色々と知りたいんですよ」
「ふーん、じゃあ、神殿に来たら書庫も案内するよ。そういうわけでウチは明確に2つの名所があるが、町の色んなところに店があるし、町探索も結構人気なんだ」
確かに楽しそうだ。
「明確な名所というのは?」
「まずは湖。神殿があるところな。もう1つは海。海岸では泳いだり、釣りをしている人も多い。一応、山があるからハイキングもあるけど、それは火の国の方が良い」
まあ、あそこはすごいもんな。
「泳げるんです?」
「普通にな。まあ、これはとっておきがあるから後にしよう」
とっておきって何だろう?
「あのー、そこまで接待して頂かなくてもいいですよ?」
「ダメ。火の国で接待されたのにウチがしなかったら何を言われるかわからない。観光地はそういうのが致命的になるんだ」
そのための紹介状か。
「ハルト、厚意に甘えようじゃないか」
「わかりました」
まあ、ホストがこう言ってるわけだしな。
「そうそう。甘える時は甘えるもんだぞ。というわけで町を軽く見て回ろう…………出発を」
ディーネさんは小窓を開けると、おしとやかな声で御者に声をかけた。
すると、馬車が動き出す。
「大変ですね」
キャラが180°違う。
「ホント、大変。でも、楽しいぞ。町に出るとちやほやされるし」
「町にはよく行かれるんです? サラさんは出てるみたいですけど」
「町に出ないとやってらんない。巫女ってつまんないもん」
ディーネさんは本当に嫌そうな顔をしている。
「頑張ってください」
「まあねー。仕事だと割り切るしかないね。あ、この辺もだけど、色々なお店がある。この町は海関係の店が多いんだ」
ディーネさんにそう言われたので外を覗いてみると、魚介を焼いている屋台から貝殻なんかを売っている露店なんかもあった。
店舗は飲食店や釣りの店なんかも多い。
「海の町って感じだね」
「ですね。馬車の中でも匂ってきます」
うん、すごくいい匂いはしている。
「ディーネ、おすすめの飲食店はあるか?」
サクヤ様がディーネさんに聞く。
「いっぱいあるね……うーん、いっぱいあるね」
いっぱいあるということはわかった。
「おすすめがないのか?」
「ぶっちゃけたことを言うと、どこも一緒かなー。どこでも名物の刺身、煮込み、焼き物は食べられるもん。魚介を売っている店も多くて、浜焼きなんかも人気」
浜焼きは良いな。
雰囲気ありそう。
「店に行く時は適当に入ればよいのか?」
「うん。変な店はないと思うな。差があるとしたら立地。湖の近くやオーシャンビューが見れる店は無駄に高い」
それは観光地ならではだな。
仕方がないことだろう。
「じゃあ、適当に探すか」
「刺身がおすすめ! 大陸広しといえど、生魚を食べられるのはウチくらいものなんだ!」
その生魚を古より好んで食べている島国の人間って言いづらいな。
すんごいドヤ顔してるし。
「楽しみです」
「……そうじゃの」
「お魚は好きです」
2人も空気を読んだようだ。
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