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大きな影と小さな影

新月の夜


嘉雅里(カガリ)神社の一の鳥居の上に現れる、大きさの違う影が二つ。




「ねぇ、いつまでここに居るつもりなの?」


振り子のように揺れる影が退屈そうに声を発すると、もう一つの影は両耳に着けている二枚板の耳飾りを風で揺らしながら溜め息を吐くと、


「帰りたいんやったら帰れば?」


と声を発すると直ぐに満開の桜並木が夜風に揺れるのにつられ、参道に等間隔で立つ灯籠の光もユラユラと同じ様に揺た。

暫くすると、暗闇からゆっくりとこちらへと近付いてくる何かを察知した大きさの違う二つの影が、まるで重い腰を上げるかのように立ち上がる。


「はぁ、来ちゃったよ」

「ドンマイ、さっさと終わらせよ!!」


そう発した大きな影改め、神咲(カミサキ) 橙矢(トウヤ)が己の影に手をかざし、


「我、汝に命ずる。黒き血を持つ者に、粛清を!!」


そう叫びながら飛び降り、近付く事で濃くなった己の影にもう一度手をかざすと、橙矢自身を飲み込む程の大きな影の円になった。

そして、ゆっくりと片手を挙げるのと同時に影の中から穗(刃部分)までもが漆黒に染まった一本の槍が現れた。

一方、小さな影改め桜樹(オウジュ) (ハヤテ)がその場で両手を突き上げ、


「我、桜樹の名の元に命ずる。黒き血を持つ者に、安らぎを!!」


と叫ぶのと同時に両腕に風が纏いそれを薙ぎ払うと、両手には黒い大扇が握られていた。


そんな二人の行動をじっと見ている何か改め......


「相変わらず面白い組み合わせですね。てか、凄くお久しぶりですねー、橙矢さん?」

「......刹那(セツナ)

「え、僕の事を覚えてくれてたんですか?嬉しいなー」


深く被っていたフードを取愛らしい顔でクスクスと笑う、黒狼(クロオオカミ)の刹那だった。

刹那は後ろで繋いでいた両手を解き、スっと左の手を挙げると、待っていましたと言わんばかりに刹那の後ろから狼の影達が橙矢の首目掛けて飛びつこうとした。

すると、両者の間に颯が飛び降り姿勢を低く取り、二面の大扇で大きな円を描くかの様に両腕を振り回し、


「影者よ、汝の逝く所へ送ってやる、烈風!!!」


二面の大扇を振り切ると強風と共に数体の狼の影達は天へと舞い上がり、風と共に姿を消した。そして、残りの数体はそのまま橙矢に牙を露わにして襲いかかるも、橙矢は焦りもせず笑みを浮かべ槍を構えた。


「橙矢!!」

「そんな焦らへんくても、平気や」


いつの間にか自分から離れてしまった事に心配する颯を他所に橙矢は、向かってくる者を槍で串刺しにしそして、


「影者よ、汝らの死をもって粛清する!!!」


と叫ぶと串刺しになっていた者達の姿形が霧の様になった。

一連の流れをただ黙って見ていた刹那は数十体いた影があっという間に消されたにも関わらず、歓喜の声を上げ二人に流石ですね!と言いながら拍手を贈り、一歩前に足を踏み込んだかと思えば、十メートル程離れていた橙矢の肩に手を付き耳元で、


「橙矢さん、やっぱりアナタはこちらに来るべきですよ。あの方もお待ちですよ?」

「うっさいわ、人の耳元で喋らんといて!」


と刹那の手を振り解こうとした時、刹那の長い爪が橙矢の頬に一本の赤い線を着けた。

ゆっくりと下へとまた赤い線が出来たが、橙矢は乱雑に己の着物で下へと下がる赤い線を拭った。


「あちゃ、橙矢さんにお怪我をさせてしまいました」

「刹那、貴様!!」

「おやおや、あの高貴な桜樹のお方の発言がこんなにも......」

「黙れ、もう用は済んだんやろう。もう少ししたら夜が明ける、はよせな消えてまうで?」


人間の影から生まれた黒狼達は、光にとても弱く特に日光は少しでも髪の先が当たっただけでも、でも消えてしまう。

だが、どうしてその事について橙矢が知っているのか、刹那おろか颯ですら知らない。勿論、橙矢自身から話すつもりは無いらしい。


「はーさんも少しは落ち着きよ」

「だって、橙矢の頬に!」

「こんなん、いつもの鍛錬でつくる痣よりマシやと思うんやけどなー」


もう一度袖で傷を乱雑に拭って見せた橙矢に、血が出てるから焦ってるんだよ、となんて言えない颯がいた。


「あはは、やっぱりおかしな組み合わせですね。まぁ、僕は嫌いじゃないですけどね」


再びフードを被りまだ朝日が射し込んでいない森へと姿を消した。

そんな刹那の後ろ姿を見送った二人は帰る場所へと、足を運んだ。


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