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モサモサモブ眼鏡ガチ恋勢

 モサモサモブ眼鏡、もといミドリの本来の姿を取り戻したアカネは、ホクホクとしながら大きなベッドの上で寝転がっていた。


 普段なら、高級な天蓋てんがい付きのベッドに砂埃すなぼこりと汗で汚れた体を横たえた時点で、謎の罪悪感による腹痛を引き起こし、ベッドの下に入り込み、体を丸めて震え始めることだろう。


 しかし、今回のベッドはミドリの自室に押しかけて奪ったものなので、実に堂々とした様子で真ん中に寝転がり、ついでにクッションを抱き締めたり、ツルツルのシーツを撫で回したりして全身で高級感を味わっていた。


 ちなみに、ミドリはベッドのすみの方で毛布にくるまって泣いている。


「うう~、酷いでござるよ、酷いでござるよ、アカネ殿~。拙者、ちゃんとメリステム様に頂いた能力を使って、真面目に働いていたんでござるよ。ハーレムくらい良かろう? 別に、強制したわけでも、エッチなことをしたわけでもないでござる! 大体、元は向こうから寄って来たんでござるよ!?」


 ミドリがメリステムから与えられた能力は、友情から恋愛感情まで、細かく愛情の種類、量を操り、相手を自分のとりこにする魅了の魔法と、瀕死ひんしの人間及び不治の病すらも癒す回復魔法、そして、威力は弱いが死霊しりょう系のモンスターには高い威力を誇る光の攻撃魔法だ。


 インフレを起こしたミドリのチートに、アカネが「チートは一人一個まででしょうが!!」とキレたのは言うまでもない。


 また、転生時に希望すれば身体的な特徴を変え、獣人や妖精などの別の種族になることも可能であったし、アカネの望んだような美貌を手に入れることもできたのだが、ミドリは視力だけを治してもらい、容姿などは変えなかったらしい。


 ミドリはメリステムから与えられた魔法を駆使して、お姫様の不治の病を治したり、王都で流行した死の病を根絶させたり、田舎いなかの魔獣を狩り取ったりと、考えられ得る限りの聖女の仕事を全うし、人々の尊敬を集めていた。


 チーレムを築きたいというよこしまな思いがあったことは確かだろうが、心優しいミドリのことだ。


 仕事には熱心に取り組み、目の前の人間の幸福を心から祈ったに違いない。


 随分と国に貢献してきたようであるし、なんだか、ドゥフドゥフした趣味程度で簡単にハーレムが崩壊し、見限られてしまったのが不憫になってきた。


所詮しょせん、その程度の繋がりだったってわけよ。一方的な幻想が崩れたらおしまいの関係なんて、むなしいだけよ。モサモサモブ眼鏡を受け入れてくれる人を見つけなさい。少なくとも、私はアンタを親友だと思っているわ。アオイもね」


 ミドリの肩にポンと手をかけ、グッと親指を立てるのだが、

「幻想とハーレムをぶち壊した奴が言うことじゃないでござる! 全く! アカネ殿は最低なところも含めて、お変わりないでござるなあ!」

 と、怒られてしまった。


「大体、アカネ殿はどうしてここへ? アカネ殿も、死んじゃったんでござるか? 拙者、アカネ殿に会えたのは嬉しいでござるが……」


 「アチラ」での再会を喜ぶということは、ある種、その死を喜ぶということでもある。

 ミドリが気まずそうに指を擦り合わせるのを見て、アカネは苦笑いになった。


「相変わらず、ミドリは性根が優しいわね。久しぶり、会いたかった! で、いいのに。私だって、ミドリに会えたのは本当に嬉しいわ。それと、私は死んでないわよ。まあ、死にかけたし、多分向こうには戻れないけど、後悔もないしね」


 そう笑って、アカネはここに来た経緯をミドリに説明した。


「ふむ、なるほどでござる。その感じだと、やはり、アオイ殿もこちらに来ていたんでござるな。会いたいとは思ってござったが、同時に、やはりアオイ殿も無く亡くなっていたのかと、内心複雑でござるなあ」


 ミドリは眉間に皺をよせ、ため息をついた。


 だが、対照的にアカネはあっさりと笑って、

「そんなに重く考えなくていいと思うけどね。だって、三バカ代表のバカヤンキー、斉藤葵よ? チート貰って、誰よりも人生エンジョイしてるんじゃない? アイツまでチーレム築いてやがったら、ぶっ壊してやるわ!!」

 と、まだ見ぬ天誅に闘志を燃やした。


 すでに天誅されたミドリとしては、苦笑いである。


「友の幸福くらい、祝ってあげてほしいでござるよ」


「私にはチートなんてないのよ! チーレムと過剰なウハウハは駄目!!」


 ミドリから得た情報によると、やはりアカネの能力をチートとして扱うのは難しいらしい。


 なにせ王都では物流や文化が発達していて、生活水準もかなり高い。


 塩や布なんかは普通に手に入るし、転生者、あるいは転移者というだけでちやほやされ、物品をみつがれるため、王都やその周辺の町を出なければ、アカネたちは能力を使わずとも楽しい生活を送ることが出来る。


「とはいえ、アカネ殿の能力もかなり便利だと思うでござるが。場所によっては、本当に思い描いたような使い方を出来るはずでござるよ」


 一見チートには見えない能力で大逆転するという物語もあるし、実際、一市民として生活を送るにはアカネの能力が一番便利だ。

 しかし、アカネはフルフルと首を振った。


「いや、私だってユリステム様には心から感謝してるわよ。でもね、こう、チートっていうのは、もっと夢のような能力なわけよ。例えば、ブンってこぶしを振っただけで大岩が割れたり、アンタみたいに瀕死ひんしの人間をいやしてみたり、魅了の魔法を使ってイケメンを骨抜きにし、ハーレムを……ミドリ、チーレム、許すまじ……」


 チートの能力は分かりやすくド派手なものが良い、というのもあるのだが、結局のところ、ハーレムにつながるか否かが重要らしい。


 アカネはチートについては諦めがついても、ハーレムは諦めきれなかった。


 とにかくモテまくって、不特定多数のイケメンたちからちやほやされ、可愛い! 素敵! と褒めそやされてみたいのだ。


 それこそ、数 十人くらいに「俺には貴方しかいない!!」的なことを言われてみたい。


 まあ、実際にそんなハーレムができてしまえば、アカネは胃と心臓を痛め、泣いて逃げ出すのだろうが。


 再度ジロリとミドリを睨むと、彼女はアワアワと慌てだす。


「もう崩壊させたんだから、いいでござろう!? これ以上の死体蹴りは無しでござるよ。それに、拙者は磨けば光る系モブ眼鏡でござったから、魅了を使わずともモテたゆえ、初めの頃しか使ってないでござる。痛い!!」


 磨いても鈍くしか光らない系モブへの挑戦状としか思えない。


 アカネがフンッとミドリの鼻をつまんで引っ張ると、彼女は涙目になって毛布の中に引っ込んで行った。


 そして、布の隙間すきまからアカネを睨んでいる。


 そうやって、しばらくモチャモチャとじゃれ合っていると、コンコンとドアがノックされた。


「どうぞでござるよー」


 ミドリが気楽な声を出して入室を許可すると、レイドが一礼をして部屋に入って来た。


 マナーを守ってか、あまりアカネたちには近寄らずに少し離れた場所で立ち止まる。


「アカネ様。お部屋のご準備が出来ましたので、お迎えに上がりました。アカネ様?」


 淡々と出される言葉を聞いた途端、アカネはベッドの中心から逃げ出し、毛布の上からミドリにしがみついた。


「嫌よ! セレブリティーな高級空間で一人にされたら、震えて四肢ししが爆散してしまう! ミドリちゃん、今日はお姉さんと寝ようよー!!」


 すでに顔を青くしてガタガタと震え、嫌だ、 嫌だと全力で首を振るのだが、

「お断りでござる。アカネ殿は、一人で震えて眠っていればいいでござるよ。どうせ明日にはアオイ殿を探しに城を出て、しばらく旅をするんでござるから、拙者は最後のセレブで優雅ゆうがな時を一人で楽しむでござる。邪魔しないでほしいでござるよ」

 と、あっさりと引き剥がされ、レイドに引き渡されてしまった。


 アカネは執行猶予無しの有罪判決が出てしまった被告のように、トボトボと落ち込みながら絨毯じゅうたんを踏みしめる。


 あっという間に宿泊予定の部屋につくと、レイドはピタッと立ち止まり、クルリと彼女の方を振り返った。


「ミドリ様は、アカネ様について行かれるのですか?」


 まだ国王や宰相などの上の人間には話を通していないが、ミドリもアオイ探しについて行きたいと言い出したので、二人でちょっとした旅をする予定になっていた。


 アカネが頷くと、レイドは、「そうですか」とため息をついた。


 そして、元から鋭い目つきを更に鋭くし、何やら思いつめた表情で、じっとアカネを見つめた。


「どうか、私を、旅のおともとして連れて行っていただけませんか? おそらくですが、交渉次第では、王はミドリ様が城を出ることを強く拒否しないはずです。ですが、その際に一人か二人、護衛の騎士を国から派遣することでしょう。その護衛として、どうか、私を選んでいただきたいのです」


 よろしくお願いします、と丁寧に頭を下げる。


 そしてそのまま、自分は貴族の生まれだが平民の夫婦によって育てられたため、一般常識に詳しいだとか、騎士としての実力は申し分ないといった情報を加え、己を売り込んでくる。


 淡々と話す声にはあまり感情がのっていないが、全身から並々ならぬオーラを放出しており、正直かなり怖い。


「や、別にいいですけど、なぜそこまで? 多分、私たちのダラダラした旅から学べる事なんて、一つもないですよ。普通に民間の宿屋に止まりますし、必要なら野宿もしますし」


 庶民育ちであるなら、平民と貴族の生活の違いに大きな衝撃を受けることも少ないだろう。


 旅についてくるならば、温室育ちの騎士よりも彼の方が適していることは明らかだ。


 アカネたちの顔見知りでもあるし、強制的に見知らぬ人間がついてくる可能性を考えれば、むしろ彼がついて来てくれる方がありがたい。


 だが、騎士とはいえ城勤めをするような彼の生活は、貴族とまではいかずとも、かなり贅沢ぜいたくで潤ったもののはずだ。


 庶民の暮らしや、それ以下を知っているからこそ、今の生活を手放すのは苦痛なのではないだろうか。


 物好きがいたものだな、と首を傾げていると、レイドがそっと顔を上げ、ずっと無表情だった頬をほんのりと赤くした。


「その、実は、ミドリ様が好きなのです。初めてお会いした時から、ずっと……」


「モサモサモブ眼鏡が!?」


「はい」


 目を丸くして驚愕するアカネに、レイドが真剣な眼差しを返す。


 どうやら、異世界に来て困り果てているミドリを拾ったのはレイドらしい。


 王都のすみっこで右も左も分からずにオロオロ震えていた彼女に声をかけ、転生者であることを知ると、保護が受けられるからと城へ招いたのだ。


 その頃のミドリは、当然ながら全てがモサモサとしていて、おまけに泣きじゃくっていたから顔面もボロボロだったのだが、

「あの時のミドリ様は、まるで前日に捨てられて困って泣いている、毛並みの荒れたチンチラのようで、その、大変可愛らしかったのです」

 というレイドの話しぶりを見るに、まさに、ミドリのモサモサモブ眼鏡なところに愛らしさを感じたらしい。


 言葉としては、どう考えても悪口でしかないのだが、話している間はほっこりと温かい笑顔を浮かべており、何ら悪気を感じていないようだった。


 チーレム女王として君臨していた頃も、彼女の美しさや堂々とした品のある振る舞いよりは、時折ボロを出して庶民を見え隠れさせ、手が触れ合う程度の交流でドゥフッとなっているところにかれたのだそうだ。


 ただ、彼はミドリを観察するがゆえに、彼女のちやほやされたいが、実は男性が苦手という繊細な心を察していた。


 そのため、ハーレムからは一歩引いていたのだが、そうしていると、積極的なハーレムメンバーとイチャついている姿をガッツリと見せつけられることになってしまい、かなり複雑な心境だったようだ。


 その話をしている間、穏やかだった表情を歪め、ギリッと歯ぎしりをしていた。


『なんとまあ、物好きな。早速さっそく、モサモサモブ眼鏡を受け入れてくれる人を見つけてんじゃないの。というか、こんな真面目な人に好かれているのに、ハーレムなんか築いてちゃ駄目でしょうが! ミドリ!!』


 アカネはしぶい表情になり、脳内でミドリを叱り飛ばす。

 すると、レイドは再び表情を硬くし、ジッとアカネを見つめた。


「あの、アカネ様。アカネ様は、周囲に顔と性格のタイプが異なる複数のイケメンを侍らせ、存在するだけで褒められんばかりにちやほやされ、生活の一切の面倒を任せ、時に少々スケベな触れ合いをし、浮気スレスレを繰り返しながら、男性たちの心をもてあそび続けたいのですよね?」


 彼にも同人誌を投げつけていたため、ハーレムについて多少の知識を身に着けたらしい。


 内容を詳細に説明されると、自分はとことんまで屑なことを望んでいるのだと思い知らされる。


 だが、ぜひチーレムを築き上げたいと声を大にして叫び、神に向かって土下座までしたアカネだ。


 ここで、「いや、そこまでは望んでないよ」などと遠慮する方が、かえって不誠実だろう。


 覚悟を決めたアカネは、両手を腰に当て、

「そうよ! 私はチーレム、は無理でもハーレムを築き上げて、億万長者もハンカチを噛んで悔しがるような、ウハウハな生活がしたいわ!!」

 と宣言した。


 すると、レイドは引くでも軽蔑の眼差しを向けるでもなく、至極しごく真面目な様子でコクリと頷く。


「なるほど、かしこまりました。アカネ様は転移者ですから、やり方次第では、ハーレムも夢ではないと思います。私は、一員にはなれませんが、アカネ様のハーレムづくりに誠心誠意ご助力いたします。ですから、どうか私を旅の仲間に入れてください」


 再び土下座をせんばかりに頭を下げられ、本気でハーレムづくりを手伝おうと、計画まで口走り始める。


 その凄まじい気迫を背負った姿に、むしろアカネの方がドン引いてしまう。


「ん? うん。いいですよ。いいですけど、え?」


 なんだか話が噛み合わないような気がして、よくよく話を聞き直してみると、レイド曰く、王の側から護衛として彼が選ばれることは難しくないらしい。


 なにせ、同人誌騒動で取り巻きたちは完全にミドリを軽蔑しており、護衛の仕事を嫌がることが予想される。


 また、平民からのたたき上げで騎士となり、かつ、能力が非常に優れている彼は、目の上のたんこぶや異物として認識され、同僚や上司たちからうとまれている。


 大きな問題にはならなかったが、冤罪をかけられたり、悪いうわさを流されたりといくつか事件が起こっており、城の中では理不尽に問題児扱いをされていた。


 そのため、左遷のような扱いとして護衛の任につかせ、城から追い出すというのは、わりと取りやすい手だった。


 だが、そうしてミドリとともに旅をするには、最大の難関がある。


 それが、アカネである。


 親友であるにもかかわらず彼女のチーレムを妬み、実に生き生きとモブ眼鏡を暴露して勝ち誇っていたアカネだ。


 ミドリを一途に愛する自分の存在を嫌がり、嫉妬し、最大限の妨害をしてくるに違いない、せめて交渉材料を作らなければ! と、意気込んでいたのだそうだ。


「何よそれ、最低な人じゃない!」


 アカネがイラっとしながらレイドを睨むと、彼はすみませんと謝った後、

「お言葉ですが、チーレムを崩壊させているアカネ様は実に楽しそうで、略奪が成功した山賊のようでしたよ」

 と、苦笑いを浮かべた。


「はあ!? ま、まあね、そこは認めなくもないけれどね。でも、別に、ミドリの幸せを、一切合切、拒絶するわけじゃないわよ。というか、基本的に、ハーレム以外は否定しないわ」


 勢いでくだけた話し方になってしまったが、これから仲間として旅をするようになるならばため口を使う方が楽だろう。


 アカネはこのままの話し方でレイドに接することを決めた。


「そうでしたか。良かった……安心いたしました。それでしたら、ほとんど確実に私が護衛となりますので、明日からよろしくお願いいたします」


 レイドは、ふわっと笑うと、軽やかに去って行った。

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