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ずっと貴方のメイドです

 朝食も食べ終わり、今日もアオイはモフモフハーレムを築き上げていたわけだが、最後の別れだからだろう。


 何やら感動的な雰囲気が漂っており、流石のアカネも、嫉妬でぶち壊してやろうなどとは思わなかった。


「アオイ様~! 私たちのこと、絶対に忘れないでくださいね、アオイ様~!! これ、旅のお邪魔になってしまうかもしれませんが、それでも、持って行ってください、アオイ様~!!」


 昨日ケンカをしていた羊獣人が、モコモコの愛らしい羊のぬいぐるみを手渡して泣いている。


 アオイはそれを優しく預かると、羊獣人を緩く抱き締めて背中を撫でた。


「大丈夫ですよ。アカネさんのリュックサックには無限に物が入るので、キチンと持っていきます。メイメイさんのことは、決して忘れません。ふふ、良い毛並みに、良いお耳です」


 モフモフと耳を撫でれば、メイメイは余計に泣き出してしまい、

「アオイ様~! 私も、アオイ様のこと、ずっと忘れませんから~!!」

 と、アオイを抱き締めている。


 ひづめがガッツリと背に食い込んでいて痛そうだが、もちろん彼女は満面の笑みである。


 勢いあまった鹿獣人の角にドスッと刺され、流血しても笑顔だった時には、一種の狂気を感じた。


 アオイは先程からこの調子で、使用人たちからお菓子やぬいぐるみ、日用品などを手渡されており、彼女の背後にはプレゼントの山ができていた。


 アオイの方も丁寧なブラッシングと言葉で気持ちを返し、使用人一人一人の名前を呼んでいる。


 普段は並ばない人間の使用人も、プレゼントを渡すために並んでおり、アオイがかなり慕われていたのだと分かる。


 聞けば、アオイはマナの専属メイドと同時に、新人の教育係も担っていたらしい。


 彼女の教え方は丁寧で、優しくて、使用人たちの憧れの的だった。


 加えて、体力があるからと力仕事を率先して行い、ディルがいた頃は、彼にちょっかいを出され、セクハラ、パワハラ、モラハラの被害にう使用人たちを守ってきたのだという。


 アカネが良い話だ、と頷きながらアオイたちを見守っている隣で、ミドリが負のオーラを放出し、むくれていた。


「アカネ殿、天誅なさらないんでござるか? ハーレムでござるよ。それも、とびきり豪勢ごうせいな。ほらほら、男性獣人に抱き着か

れてるでござる」


 ミドリがアオイとロバ獣人を指差し、リュックサックをグイグイと引っ張って急かすのだが、アカネはヤレヤレと首を振った。


「いや、どう考えても親愛のハグでしょ。これをぶち壊したら、最低どころじゃないわよ。もう、アレよ? 地獄行きよ? 全く、どうしたのよ。ハーレムぶち壊されてしょげてたアンタが、人のドリームをぶち壊そうなんて、よくないわよ」


 ズレたリュックサックを背負い直して冷静にミドリをいさめるのだが、そんなアカネの態度に、かえって彼女は怒りを燃やしているようだ。


 アカネの胸ぐらをつかんで揺らし、

「それをアカネ殿が言うでござるか!? それをアカネ殿が言うでござるか!? ドゥフアア!?」

 と、涙目で悲痛な怒声どせいを上げている。


 そしてミドリはそのまましゃがみ込むと、

「うぐぐ、拙者の時は、誰も見送りにきてくれなかったでござるに。絶対に、天誅したか否かの差でござる。だって拙者、聖女時代かなり頑張って仕事してござったし。ドゥフゥ、ドゥフゥ……」

 と、落ち込み始めた。


 チラチラとアカネの方を見るのだが、この懇願は別に可愛らしくないので、アカネの心は揺れない。


 あからさまに無視をすると余計にミドリがしょげて、グルグルと恨み言を吐き続ける。


 その肩にレイドが優しく手を置いた。


 慰めてくれるのかと、ミドリが期待した様子でレイドを見つめるのだが、

「ミドリ、多分ですが、人望の差です」

 と、バッサリ切り捨てられ、ペタリと床に溶けた。


「レイド殿まで!? 今日は刺さないで欲しかったでござるよぉ。拙者の頑張り聖女時代って、一体……」


「落ち着いてください、ミドリ。ミドリの取り巻きは、その、大半があまり性格の良い者ではありませんでしたし、仕方がありませんよ。ミドリの審美眼しんびがんが腐っていたのです。大体、ミドリだって、彼らの容姿や名前をよく覚えていないでしょう? そのくらいの関係だったのだと思いますよ。それに、ミドリは私がいるのですから、いいでしょう?」


 這いつくばってウウッと泣くミドリに目線を合わせ、苦笑いで優しくトドメを刺す。


「慰めるのか、刺すのか、どっちかにしてほしいでござる」


 弱るミドリだが、彼女に眠るMの血が騒ぐのだろう。


 何故これでミドリが慰められてくれないのか、と不思議そうな表情のレイドに頭を撫でられ、ドゥフッとひっそり笑んでいる。


 ミドリのことはレイドに任せることにし、アカネは再びアオイの方を見た。


 ちょうどアオイは最後の一人をブラッシングするところであり、その相手はマナだった。


 きっと、彼女はわざと最後に並んだのだろう。

 ブラッシングが終われば屋敷を出てしまうアオイに、たくさん話したいことがあるのだろうから。


 マナは小さな小包を抱えたまま、ちょこんと椅子の上に座って、丁寧にブラッシングされていく。


 その間、楽しそうに屋敷での思い出を話していた。


 最後に、人間でいうところの頭髪に当たる部分の毛並みを整え、ブラッシングが終わる。


 椅子から立ち上がったマナが、アオイに小包を差し出した。


「これ、アオイにあげるわ」


 ツンとした口調で手渡された小包を、アオイは大事そうに受け取ると、

「開けてもよろしいですか?」

 と、問いかけた。


 頷くマナにお礼を言って、中から取り出したのは、手のひらよりも少し大きい通信機器だった。


 見た目は、スマートフォンが流行る前に普及していた、折り畳みの携帯電話に酷似している。


 メタリックな青に輝く携帯電話を、アオイはまじまじと見つめた。


 すると、マナも桃色の携帯電話を取り出した。


「アオイのケータイには、私の連絡先が入っているのよ。聖女様が発案した携帯機器をさらに改良したもので、メールの他に電話もできるんですって。メイド風情ふぜいには高級な品なんだから、感謝してよね! 一日に一回は電話かメールをしなきゃ、許さないんだから!」


 いつにもまして語気を強め、ツンツンとしているマナだが、よく見れば目の端に涙が浮かんでいる。


 尻尾を自分の腰に巻き付けており、決してアオイを見ないように顔を背けているようだ。


 皆の前で泣きたくないから、マナは両足に力を込めて虚勢を張っていた。


 アオイは、携帯機器の入った小包を一度ポケットに仕舞って、両手でふんわりとマナの手を包み込む。


「ありがとうございます、お嬢様。絶対に毎日連絡いたします。マナお嬢様は、私の大切な主で、かわいい妹ですから。どこにいても、私はマナお嬢様のメイド。何かあれば、すぐにお申し付けください。たとえ世界の反対側にいようと、お嬢様のために駆けつけてみせますから」


 チラリと見てしまったアオイの穏やかな笑顔が、母の姿に重なる。


 途端にこらえきれない涙が溢れ出して、マナの両頬を濡らした。


「やっぱり、アオイが行っちゃうのヤダ! アオイはずっと私と一緒にいるの! いっぱい抱っこして、めてくれて、怖い夢を見たって、大丈夫って言ってくれるんだから!!」


 言葉にすれば止まらないようで、マナはわんわんと泣きながらアオイに抱き着いた。


 両腕どころか、尻尾までアオイの背中に回してギュムギュムとしがみつき、メイド服を涙で濡らしていく。


「お嬢様……」


 アオイはマナが泣き止むまでずっと彼女を抱き締め、トントンと背中を優しく叩いていた。


 しばらくすると、マナの涙は一応止まり、アオイに毛並みを整え、ハンカチで目元を拭ってもらいながら、スンスンと鼻を鳴らした。


 そして、何かを言いあぐねるアオイが曖昧に口を開く前に、言葉を出す。


「アオイ、私が困ったら帰ってくるの、絶対の約束だからね。ずっと私のメイドっていうのも、同じよ。嘘ついたら、いっぱい、いっぱい怒るんだから! アオイ、行ってらっしゃい」


 自分の我儘わがままでアオイを引き留めてはいけないと思ったのだろう。


 涙声でしっかりと言葉を口にし、再び涙で潤む目元を細め、マナは気丈に微笑んだ。


「行ってきます、お嬢様。私が戻ることの出来ない間も、どうかお元気で」


 アオイもほがらかな笑みを見せ、最後にマナを抱き締めると、名残惜しそうに手を放した。


 救い出した子供たちや使用人など、大勢に見送られながら屋敷を出たわけだが、その間、マナはずっとアオイに向かって手を振っていた。


 アオイも何度も振り返っては手を振って、屋敷の敷地から完全に出た時、少しだけ泣いた。

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