東京悪夢物語「光る男」
東京悪夢物語「光る男」
私の住んでいるアパートはボロい。
築50年は経っている。壁は剥がれ、雨漏りもする。
かなり住みづらいが、家賃28000円。都内でこんなに安いアパートは他にない。我慢するしかない…
仕事の帰り、
私は、眠い目を擦りながらアパートの廊下を歩いていた。
「今日は疲れたな。早く帰って眠よう」
最近、店長は人使いが荒い。人手不足はわかっているが、一人で3人分はキツイ。
こんな生活をいつまで続けるのか…
ピカッ、
突然、まばゆい光が輝いた。
何だ、写真でも撮ったのか?こんな深夜に、
しかし、人気はない。
ホタルか?
たくさんホタルでも飼っているのかな?新しい照明器具か?
その光は、人工的な光ではなく何か優しい自然な光だった……
数日後、仕事の帰り。
ピカッ、
また、まばゆい光が輝いた。
奥の部屋からだ、この階の一番外れ。
その窓から漏れる怪しい光。
少し、窓が開いている。
私は、恐る恐る中を覗いてみた。
中には、
男が一人ただずんでいた。
男は両手を広げ、上を向いていた。
ピカ、
光った!男が光った。男の全身が光った。
何だ、何が起きたんだ!
ガタ、
しまったバックを落としてしまった。
私は慌てて、その場を立ち去った。
ある日、
ガチャ、
街中が停電になった。
会社も家も商店街も、街すべてが真っ暗になった。
「LEDも光らない」
「スマホも光らない」
「懐中電灯も光らない」
何もかも真っ暗だった。
すべてが暗い、
人々は暗闇の中、ジッとしていた。
私もアパートでジッとしていた。
ふと見ると、
暗闇の中、あの部屋だけが光っていた。
窓から漏れる光。
私は、再び、あの部屋を覗いてみた。
中では、
あの男がまた、立ちすくみ、
両手を広げ、上を向いていた。
ピカ、
全身が光った。
全身がホタルのように光った。
その光は、人工的な光ではなく優しい自然な光だった。
すると、
ガラ、
男は窓を開け、空へと飛び出した。
パタパタパタ、
羽根を広げ、
ゆっくりと飛ぶ、光る男。
パタパタパタ、
男はそのまま飛んでいった。
暗闇の中、
月の光もなく、
その男だけが光っていた。
空を飛ぶ光る男。
人々は、皆、その光を見つめた。
仕事や情報、時間を忘れ、
ぼんやりと、その光を見つめた。
そして、ゆっくり、ゆったりと夜を過ごした…
翌朝、停電は直った。
システムのトラブル、太陽のプラズマ、はたまた電磁波兵器など。憶測は飛びかい、朝からテレビやネットは大騒ぎだった。
結局、停電の理由は解らなかった。
さぞかし、街の人々は怒っているかと思っていたら、
「昨日は、ゆっくり休めたよ」
「久しぶりに、たくさん寝たよ」
「一年分の疲れが取れたよ」
皆、優しい穏やかな顔をしていた。
夜勤の帰り、
たまに、あの部屋を見かける。
ピカ、
あの部屋には、
人工的な光ではない、優しい自然な光が光っていた……