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07 王都到着

 モンドから基礎術式を教わりながらの道中は、とくに大きなトラブルが起こる事もなく、三人は無事に王都へとたどり着く事ができた。

 関所を伴った城壁の扉を潜り、街の入り口に立ったレイアストは、その栄えた光景に目を丸くする。


「ここが、王都……すごい、人間(・・)がいっぱい……」

 うっかり、魔族としての感想が漏れてしまい、レイアストは慌ててモンド達の様子を伺った。

 幸い、彼女の独り言は彼等の耳には届かなかったようで、レイアストはホッと胸を撫で下ろす。

 三人はひとまず休憩を取るべく、手近な店に入って軽食の注文を済ませると、今後の事についてポツポツと話し始めた。


「さて、こうして王都に着いた訳だが、お嬢ちゃんはこれからどうするんだ?」

「私は……この預かった手紙を、届けようと思います」

「それって、誰に充てた手紙なんですか?」

 厳重の封印が施されている様子に、好奇心を刺激されたモンドが尋ねるが、ふと何かに気づいたレイアストの動きが固まってしまう!


(そ……そういえば、手紙(これ)って誰に渡せばいいのっ!?)

 思い返してみれば、和平のための親書を届けろとは言われたが、誰にとは聞いていなかった。

 何のツテも無い今の彼女では、精々城の門番に渡すのがやっとだろう。

 しかし、ばか正直に「魔王の末娘が、親書をお持ちしました♥️」などと言えるはずもない。

 そうなると、どこの馬の骨とも知れないレイアストの手紙など、上層部の権力者に届く前にゴミ箱行きとなる可能性が大である。


「ううう……困った……」

 手紙の宛先を聞いただけなのに、急に頭をかかえてしまったレイアストを見ながら、モンド達も戸惑ってしまっていた。

「ど、どうしたんですか、レイアストさん?」

「い、いや~……私が預かった手紙って、できるだけ偉い人に渡してくれって頼まれただけで、具体的に誰充てという訳じゃないんです……」

「なんだ、そりゃ!?」

 マストルアージが、呆れた声を出すのも無理はない。

 レイアスト自身ですら、自分の迂闊さに泣きたくなっているのだから。


(うあぁ……どうしよう……)

 いっそ、偉い人へのファンレターとか偽って強引に届けてもらえないだろうか……などと、アホな事を考えていると、マストルアージがため息を吐きながら仕方ねぇなと呟いた。


「俺達はこの後、城の偉いさん達と会う用事があるんだが、お嬢ちゃんも一緒に来るか?」

「えっ!いいんですかっ!」

「まぁ、ごちゃごちゃとした会議やらが始まる前に、誰かに手紙を渡すくらいならいいだろう」

 さすがは元英雄パーティの一員だけあって、顔が利くマストルアージの存在が頼もしい。

 一応は彼が魔王(ちちおや)の仇敵であることも忘れて、レイアストは深く頭を下げた。


「ありがとうございます、マストルアージさん!」

「なぁに、いいってことよ。ただ、お偉いさん達と色々と話し合いが始まったら俺はしばらく拘束されると思うから、その間はお嬢ちゃんにモンドの相手をしててほしい」

 その方がお前も嬉しいだろ?と、ちょっとからかうようにモンドへと話を振ると、彼は笑みを浮かべながら、素直に嬉しいですと答えた。

 それがあまりにもド直球な返答だったので、むしろマストルアージとレイアストの方が照れてしまって言葉を失う。


「ま、まぁそういう訳だから、俺に任せておきな」

「は、はい。よろしくお願いします」

 こうしてレイアストの仕事も解決の目処が立ち、そのまま運ばれてきた注文の品を平らげると表に向かう。

 まだ昼の日が頭上にある中、三人は通行人や馬車が移動する大通りを進み、遠くにそびえる王城へと向かって歩を進めていった。


            ◆


 登城してすぐ、門番に対してマストルアージが挨拶をすると、ほぼ顔パスに近い形で新顔のレイアストまで、あっさりと城内へと通してもらえる。

 ついでに、クズノハもちょこちょこと着いてきたのだが、それを咎める者もいなかった。

 そうして、城の入り口でマストルアージが誰か偉い人に取りついでくれと伝言を頼むと、すぐさま手配しますとの返事が返ってくる。

 しばらくすると、やって来た衛兵がこちらへどうぞとマストルアージ達を案内してくれた。


「なんだか……すごい特別待遇ですね」

「まぁ、俺達は前に魔王と戦った際に、あちこちで顔と名前を売ってたからな。偉いさんと顔馴染みの所では、けっこう融通を効かせてもらえるんだよ」

「へぇ~」

 わかりやすいくらいのVIPな扱いに、思わずレイアストは感心してしまう。

 魔術の腕前もそうだが、人脈にも大きなツテ持つ彼を、尊敬の眼差しで見ずにはいられない。

 そして、そんなレイアストの尊敬を集める師に対して、モンドは少し複雑な表情を浮かべていた。


(なんだかなぁ……)

 普段とは違い、レイアスト関連だと分かりやすいくらいに感情を見せる弟子の様子に苦笑していると、先導していた衛兵が通路の突き当たりにある大きな扉の前で足を止め、こちらへどうぞと促してきた。

 それに従い、開かれた扉を潜った先にあった部屋へ入った瞬間、レイアストはなぜかドキリとするような緊張感を覚える!

 初めてくる場所だというのに、どこかで見覚えがある気がするこの部屋の間取り、ズラリと居並ぶ重鎮らしき人物達……。


(あ、そっか!)

 この雰囲気……息の詰まるような圧迫感こそ無いものの、父親である魔王デルティメアに呼び出された、王の間にそっくりではないか!

 既視感の理由に気付き、レイアストは軽く周囲をチラ見してみた。


(なるほど、なるほど……お城の間取りって、魔族も人間もあんまり変わらないんだなぁ)

 妙な共通事項に感心していると、部屋の中央まで進んだマストルアージ達が、奥にいる人物に向かって片膝をついき、頭を下げる。

 慌ててレイアストもそれに倣ってしゃがみこむと、部屋を仕切るように降ろされていたヴェールが開かれ、豪奢な玉座に腰掛けた人物が姿を現した。


「久しぶりだな、マストルアージ殿」

「はっ。アスクルク様も御壮健のご様子、何よりでございます」

 アスクルクと呼ばれた王の言葉に、マストルアージから普段の砕けた雰囲気は鳴りを潜め、立派な魔術師然として堂々たる受け答えしていく。

 なんだか、すごく大人だわ……と、延々と交わされる王とマストルアージの硬い言い回しの会話をぼんやり聞き流していると、トントンと隣の人物に指でつつかれた。


(レイアストさん!)

(ふえっ!?)

 小声でモンドから呼び掛けられ、一瞬呆けていた顔を見られたかもしれないと、レイアストは思わずビクン!と跳びあがる!

 そして、そんな彼女にざわりと室内の空気が揺れた!


(はわわ……し、しまった……)

 相変わらずな、自分の間抜けさが嫌になる。

 部屋中にいる人物達の注目が彼女に集まるが、その中でもひときわ目を見開いていた者がいた。


「お……お主は……」

「え?」

 なぜか驚きの表情で、レイアストを見つめる人物……アスクルク王と目が合い、彼女の顔にいくつもの「?」が浮かぶ。


「……彼女が、いま話に出ておりました、こちらに来る道中で私の弟子が助けた少女、レイアストと申す者です」

 何かやらかしたのだろうかと、固まっていたレイアストに代わってマストルアージが彼女を紹介してくれる。

 どうやら、自分の事を話題にしてくれていたようだが、話をさっぱり聞いていなかったレイアストは、ますます恐縮してしまった。

 すると、王はそんなレイアストをまじまじと眺めながら、「そうか……」と小さく呟く。

 何故に、自分の顔をそんなにも見るのだろうか?

 よくわからない王の態度に戸惑っていると、再びモンドが小声で語りかけてきた。


(レイアストさん、手紙を……)

「あっ!」

 モンドに言われ、自分の使命を思い出したレイアストは、マストルアージが手紙を渡すタイミングを作ってくれたのだと気付き、わたわたと荷物の中から親書の入った小箱を取り出す。


「し、失礼します!ええっと、こちらなんですが……」

 そうして、中の親書を手渡すべく箱を開けた、その時だった!

 開封された箱が目映い光を放ち、空中に何らかの術式が込められた魔法円が浮かび上がる!


「っ!? これはっ!」

「え?」

 マストルアージのただならぬ緊張感がこもった声と、予想外な事態に呆けたようなレイアストの声が重なった!

 さらに、一瞬遅れて視界を城に染める激しい閃光と、凄まじい勢いで鳴り響いた雷の怒号が、その場にいた者達の耳目を塗り潰す!

 それは、城外まで届く大気を揺るがすような轟音と衝撃になって響き渡り、何事かと驚いた国民達の注目を集める!


 そんな彼等の視線の先に映ったのは、謁見の間を含む城の一角を吹き飛ばす、内側から発生した雷の嵐だった!

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