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06 人間《ひと》の技術《わざ》

           ◆◆◆


 境界領域の中にある現在地から、丸一日ほど歩いたあたりで、ようやく森を抜けられる。

 そこから、さらに半日もかければ、やっと人の住む村にたどり着くそうで、今はその村を目指して進んでいる最中だった。


「……はぁ、はぁ」

「大丈夫ですか、レイアストさん……」

「だ、だいじょう……ぶ……」

 息も絶えだえながら、レイアストは心配そうな顔をするモンドに無理矢理な笑顔で答えて見せる。

 しかし、一人で旅をしている時とモンド達に合わせて進む今では、ペースがあまりにも違い過ぎていた。

 もちろん、この危険地帯はさっさと抜けなければならないのだから、のんびり行く訳には行かないのだが、ただでさえ二人に劣るレイアストはみるみる体力を削られていく。


(あ、足手まといな……私なんかを、同行させて、くれたのに……迷惑は、かけられない……わ……おえっぷ……)

 思考が鈍り、吐き気をもよおすほどの疲労を感じながらも、根性のみで歩みを続けるレイアストに、先頭を行くマストルアージが休憩を告げた。


「わ、わたしなら……まだ……」

「いやいや、無理すんなお嬢ちゃん。それに、俺達も少し休まんと身が持たないからな」

「クズノハが周りを警戒をしてくれますから、ゆっくり休憩しましょう」

 湿り気の少ない場所を選んで座る二人を見て、レイアストもへたり込むように腰を降ろした。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 汗を拭い、息を整えながらレイアストはモンド達をチラリと見る。

 いまだに呼吸も荒い自分に比べ、この二人は早いペースで歩きながらも息を切らす事もなくここまで来た。

 レイアストだって鍛えてはいる方だし、魔族の血を引くだけあって普通の人間よりも体力で劣る事はないはずだが、こんなにも疲労の差が出るのはいったいどういう訳なのか?

 その辺の疑問をそれとなく尋ねてみると、二人は簡単に種明かしをしてくれた。


「俺らは、自分の魔力を体内で循環させて、身体能力を底上げしてんのさ」

「魔力を……循環?」

「はい。魔力を体外に放出するんじゃなく、体内に巡らせる感じで運用するんです。そうすると、普通より身体能力が上がったり、疲労の回復が早くなるんですよ」

「そんな事が……」

 魔族も戦闘時には身体能力を上昇させる魔法を使う事はあるが、平時にモンド達のような魔力の使い方をする者はいなかった。

 というか、魔族は攻撃に使用する以外の魔力の運用に、興味がなかったと言った方が正しいかもしれない。


「俺達人間は、魔族に比べりゃ魔力の総量で絶対的に劣ってる。そういう差を補うために、様々な技術を編み出してきたんだ」

 だから俺達は魔術師(・・・)というのさと、マストルアージは得意気に語った。


(すごいわ……魔族とは、魔法に対する考え方がそもそも違う……)

 レイアストは、そういった人間という種族が積み重ねてきた創意工夫に感心すると共に、もしかしたら落ちこぼれな状況から脱する鍵は、そこにあるのではという考えに至る。


「あの……マストルアージさん!」

「ん?」

「この道中の間だけでもいいので、私にも色々な魔力の使い方を教えてもらえませんか!」

 お願いしますと、レイアストは深々と頭を下げて懇願した。


「うーん、別にかまわんが……そうなると、お嬢ちゃんはモンドの妹弟子って事になるな」

 妹弟子……その響きに、レイアストとモンドは過剰に反応する!


「と、歳上の妹弟子って大丈夫なんですか!? 何か、インモラルな物を感じるんですがっ!」

「い、妹弟子ということは、モンドくんを『お兄ちゃん』って呼んだ方がいいんですか!?」

「何の心配してんでだよ、お前ら……」

 よく分からないポイントに食いつく二人に、マストルアージも呆れ顔である。

 そうして、お前らがそれでいいなら、好きにしろと嗜めなつつも、コホンと一つ咳払いをした。


「まぁ、術式の基礎を教えるくらいなら構わんさ。だが……お嬢ちゃんの場合は、それでもまともに魔術が使えるかはわからんぜ?」

「え……?」

「なんて言うかな……お嬢ちゃんには、うまく魔力が運用できないように、意図的な(・・・・)封印がなされてる(・・・・・・・・)感じがするんだよ」

「魔力を……封印……?」

 そんな事を言われたのは初めてで、レイアスト自身にも身に覚えがない。


「だ、誰がそんな事を……」

「さすがにそこまでは分からん。ただ、生まれつき大きすぎる魔力を持っていると成長課程で害が出る事があるから、それで封印した可能性もあるな」

 マストルアージの言葉に、レイアストは自分にそんな事をする人物が一人いた事を思い出す。


(お母さん……)

 彼女の母、フレアマールならば、レイアストの身を案じてそういった処置を施していたとしても不思議はない。

 だが、そうなるとここ数年間の母の態度は、少しばかり腑に落ちないものがあった。

 レイアストがろくに魔法を使えない事も、彼女が落ちこぼれと判断される要因なのだが、その原因である封印について何も告げなかったのは、なぜなのだろうか?


(もしかしてお母さん……私に封印を施した事を忘れてる!?)

 一緒にいた幼い頃の記憶を手繰ってみれば、うっかりミスを犯して「てへへっ」っと舌を出しながら誤魔化す、フレアマールの姿が何度かあった。

 そんな感じで、レイアストの魔力を封じた事を忘れていても、おかしくないような気がする。


(んん~っ……まぁ、このお仕事を終えたら会えるだろうから、その時に聞いてみよう……)

 昔の記憶にあるように、舌を出して誤魔化す母のちょっとかわいい姿を想像して、レイアストは自分でも知らないうちに、仕方ないなぁ……といって感じの笑みを浮かべていた。


「よし……いや、まてよ……」

 何かを思い付いたのか、マストルアージは少しばかり思案してから、弟子の方へ顔を向ける。

「ああ、そうだ。モンド、お前が基礎となる魔力の運用を、お嬢ちゃんに教えてみるか?」

「僕がですか!?」

 突然に話を振られて、驚いたモンドが声をあげた。

「ぼ、僕もまだ、修行中の身ですよ?そんな僕が、レイアストさんに教えるなんて……」

「基礎の術式を教えるくらいなら、お前でも大丈夫だろ。それに、他人に教えるって事はちょうどいい復習になる。まぁ、自信がないなら、俺が手取り足取り教えてもいいが……」

「わかりました、僕がレイアストさんに教えます!」

 魔力の流れを確認するため、時には相手の身体に触れねばならないという事を思い出したモンドは、即座に快諾の意を示した!

 その根底には、「僕以外の男性が、レイアストさんとベタベタしてもらいたくない」という、素敵なお姉さんに憧れる年相応な嫉妬心や独占欲のような物が見え隠れしており、それを察したマストルアージは小さく笑ってしまう。


「まぁ、妹弟子って立場じゃなくなるが、お嬢ちゃんの面倒をちゃんと見てやれよ」

「はい!僕がレイアストさんを、ちゃんと支えてみせます!」

「よろしくお願いします、モンドくん!」

 気合いを入れたレイアストに頭を下げられ、恐縮しながらもモンドは任せて下さいと胸を叩く!


(モンドもやる事があれば、少しは安定するだろう。あとは……)

 そんな二人を微笑ましい表情で眺めながら、マストルアージはこれからの事について、密かに考えを巡らせていた。

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