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11  剣鬼

久々ですが、活動を再開いたします。

ゆるゆる更新していきますので、よろしくお願いします。

 ひとまず和解したレイアストとライドスは、ほぼ同時に動いてジンガへと迫る!

 激しい拳と剣の応酬が渦を巻き、三人は目まぐるしく攻防を入れ替えながらぶつかり合った!

 だが……!


「……これは……マズい!」

 ほんのわずかな攻防の後に、端から見ていたモンド達からもレイアスト達が不利だハッキリと分かるほどに、戦局は傾いていく!

 その原因……それは、ジンガを攻め立てるレイアストとライドスの、息の合わなさ(・・・・・・)から来るものであった!


「馬鹿っ、おまっ……危ねぇだろ!」

「そっちこそ……どこ見てるんですかっ!」

 打撃戦に(いど)むレイアストと、剣撃戦を(のぞ)むライドスの間合いと呼吸の微妙な違いはぎこちなさを呼び、連携にズレを生じさせる。

 それどころかお互いが邪魔になって、攻撃にしろ防御にしろ、ガタガタのまま劣勢に追い込まれていくばかりだ。

 攻めているジンガですら、「なんか思ってたんと違う……」といった表情で、本気からは程遠い雰囲気である。


「そういえば、レイアはずっと一人で戦闘訓練とかしてたから、連携とかの経験は浅いんだわ……」

「僕とパーティを組んでからも、レイアさんは前衛で僕は後衛だったから……」

「ライくんも、私以外とはほとんど他所の冒険者と組んだりしなかったので……」

 この場で前衛を張る二人が、共に連携に不馴れという状況に、モンド達の空気が重くなる。

 だが、それを叱咤したのは経験豊富なマストルアージだった!


「お前ら、暗くなってんじゃねえよ!前衛が不調なら、援護してやるのが俺達の仕事だっつーの!」

 声をかけながら、詠唱を完成させたマストルアージは一点集中させた雷の魔術を放つ!

 それはレイアストとライドスの間を絶妙なタイミングで通り抜け、見事にジンガへと着弾した!

 貫通力のある雷は剣鬼を貫き、一瞬だけその動きを硬直させる!……はずであった。


「ふんっ!」

 マストルアージの魔術を歯牙にもかけず、平然とした様子でジンガは剣を振るう!

 そこに雷撃を受けた事によるダメージは、一切感じられなかった。


「な、なんだぁ!?」

 結構な魔力を込めたはずの一撃がまったく効いていない事に、さすがのマストルアージもわずかながらショックを受ける。

 そんな彼に、フォルアが声をかけてきた。


「気をつけて、マストルアージ!どうやら……噂は本当のようだわ!」

「噂?」

「ええ。ジンガお兄様は、戦闘中にあらゆる魔法を無効にする事ができる……そう聞いた事があるの」

「なん……だと……!」

 それは、かの剣鬼が単独で戦場を蹂躙する様を目撃した者達の間で広まっていた噂に過ぎなかった。

 だが、目の前でマストルアージの魔術を受けても平然している姿を見てしまうと、それが真実だったのだと思い知らされてしまう。


「ジンガお兄様は、ただ剣での戦いを楽しむためだけに、その能力(ちから)を身につけたらしいわ」

「それは少し違うな、フォルア」

 そこまで大きな声で話していた訳ではないのに、急に名指しされたフォルアはビクリと小さく飛び上がる!


「俺にチマチマした遠距離攻撃(まほう)が効かんのは、俺自身の能力ではない。この魔剣の力だ」

「魔剣……!?」

「まあ、そこの人間が持つ聖剣と似たようなもんだな」

 言われてみれば、彼が手にしている剣からは、なにか禍々しいオーラが立ち上っている。

 それは、ライドスの持つ聖剣のオーラとは真逆で、破壊と死を撒き散らすような……そんな凶悪なイメージを連想させた。


「そりゃ恐ろしい能力だな……だが魔剣なんて呼ばれるからには、その手の能力にありがちな『回復魔法や強化魔法も無効』……みたいなデメリットもあるんじゃねぇのか?」

 もしかしたら任意の魔法は通すかもしれないと思いつつ、マストルアージは情報を引き出すために敢えてカマをかけてみる。

 そんな彼の意図を見抜きながらも、ジンガはニヤリと笑って魔術師の意見を肯定してみせた。


「その通りだ、人間の魔法使い。だが、俺はその不便さをデメリットだとは思っていない」

「なに……?」

戦場(いくさば)において、傷を負わぬ事などあり得ようか?痛み、苦しみ、そして死は、すべての戦士に等しく与えられるべきだろう?」

 それは自分も例外ではないと、ジンガは断言する!


「そうした命のやり取りが、俺はたまらなく好きだ!特に剣はいい!間近で命を散らす様と、それを奪った手に残る感触が俺を滾らせる!」

「………………」

「戦場で弱者を蹂躙するのも、強者に苦戦するのも、たまらんな!すべての命が平等に失われ、勝った者が栄光を得る……そんな(せい)の輝きが花火のように舞い踊る戦場こそが、まさにこの世で最高のステージだとは思わないか!」

 アレな感じの持論を垂れ流し、ジンガは恍惚とした表情で天を仰ぐ。

 そんなバトルジャンキーへ、レイアスト達は「うわぁ……」といった目を向けていた。


「ジンガお兄様……私は直接関わる事がなかったけど、思ってた以上に危ない人だったんですね……」

「ええ……ワタクシもちょっと予想外だわ」

 かなり独特な価値観を持つ兄にドン引きしていた姉妹に、ジンガはぐるりとその視線を向ける。


「さあ、妹達よ……殺し合いを再開しようじゃないか!」

「ひえっ……」

「お前達を殺してやるから、お前達も俺を殺してみろ!」

 完全に何かがキマッたような笑みを浮かべ、猛然とジンガはレイアスト達へと迫る!

 凶気に取り憑かれた兄の姿に、姉妹は恐怖で行動が一歩遅れてしまい、ジンガの振るう刃の間合いまで踏み込まれてしまっていた!


(あっ……これはヤバ……)

 魔剣の刀身がレイアストの胸を貫こうとしているのが妙にスローに見え、彼女はどこか他人事のように感じる。

 そして、それはまもなく現実となるだろう。

 どんな強者であっても、恐怖に捕らわれた者があっさり死ぬなどよくある事なのだから。

 だが、レイアストの心臓を掴みかけた死神の手から彼女を救ったのは、横手から放たれたモンドの一撃だった!


「五行術式・火気『焔球(ほむらだま)』!」


 遅れてきた少年の声がレイアストの耳に届くと同時に、迫っていたジンガの姿が炎に包まれる!


「土気・『剛壁(ごうへき)』!」


 火気から生相の成り立つ土の気を得て、岩の巨壁がジンガの四方にそそり立ち、剣鬼を包囲した!


「金気・『鋼颪(はがねおろし)』!」


 さらに土気からブーストされた金気によって、鋼鉄でできた無数の巨大な刃が岩の壁から内側に発生し、ジンガめがけて隙間なく襲いかかる!

 いかなる達人であろうとも決してかわしきれぬであろう、全方向からの同時攻撃!

 だが、そんな死地においてもジンガは笑みをさらに深めていた!


「はあぁぁっ!」

 気合いの雄叫びと共に、凄まじい剣風が吹き荒れる!

 それは迫る刃を、取り囲む巨壁を、そしてまとわりつく炎のすべてを斬り刻み、塵芥へ変えて吹き飛ばしていった!


「フフフ……ハハハ……ハァーハッハッハッハッ!」

 高らかに笑いながら、ジンガは魔剣を振るう!

 完全に捉えたと思っていたにも関わらず、まるで問題ないと言わんばかりのその姿はまるで悪夢の産物!

 レイアストを救う事ができたとはいえ、追撃をするモンドもまた彼女と同じように全身から冷や汗が滲むほどの恐怖感を覚えていた。


(この敵は……今までの相手とは次元が違いすぎる!)

 今更ながら、眼前で暴れるジンガはこれまで対峙した魔王軍の幹部達とは、一線を画した圧力を放っている。

 その上、魔術も通じないというこの剣士に対して、いったいどうすれば勝てるというのだろうか。

 光明の見えない袋小路に追い詰められて行くような感覚に、レイアスト達は焦りを覚えていた。


「……いけるな、これなら」

 しかし、そんな重苦しい空気を払拭するように声を発したのは、前英雄のパーティメンバーだったマストルアージだ。

 膨大な戦闘経験を誇る彼の呟きは、若者達の心に思いがけないほどの安堵をもたらした。

 

「先生、いけるって……あいつを倒す算段がついたって事ですか!?」

「まぁな」

「マストルアージ、いったい何をするつもりなの?」

 モンドに続き、フォルアからも投げ掛けられる質問に、マストルアージは「あれを見てみろ」と、まもなくモンドの術式範囲から出てこようとするジンガを指差す。


「俺の魔術はまったく無防備で受けたくせに、モンドの術式は蹴散らしているだろう?つまり、通常の魔術とは形態の違うモンドの五行術式は、奴の魔力防御を突破するかもしれないって事だ」

 マストルアージの指摘に、モンドをはじめとした全員がハッとする。

 確かに、内なる魔力そのものを使用して放つ魔術や魔法と、外部にある自然の力と法則を使って放たれる五行術式は似て非なる物だ。

 魔術や魔法は効かないと豪語していたジンガが、ああして抵抗しているのは魔剣の能力が適応されない可能性を、奴自身が感じているためかもしれない。


「あの野郎を仕止めるには、モンドとレイアストの力を合わせた一撃がもっとも効果的だと思われるが……やれるな?」

 マストルアージが期待しているのは、フォルアが使役したゴーレムを粉砕した、二人の合体攻撃。

「モンドくん……」

「レイアさん……」

 顔を見合わせた二人は、力強く頷く。

 正直な所、お互いの気持ちを伝えたあの時ほどに、現状でテンションが上がるとは思えない。

 しかし、それでもできうる限りの威力を出すために、レイアストとモンドはキュッと手を握りあって再び頷きあった。


「さて……それじゃあ、そろそろ自由になるあの野郎を足止めするか」

 攻撃を全面的にレイアスト達に任せる以上、絶対に当てられる状況を作るのがマストルアージ達の役目だ。

「でも先生、あいつに魔術は……」

「そりゃ、直接は効かんだろうがな。だが、それならそれでやり方ってもんがあるんだよ」

 そう言ったマストルアージは、フォルアにも協力を頼む。


「俺とフォルアの二人がかりで、ジンガ周辺の地形に干渉して足止めを狙う」

「……なるほど、お兄様本人に魔法は通じなくても、行動を阻害するだけなら本人は狙わなくていいという事ね」

 我が意を得たりといったフォルアの返事に、マストルアージもさすがだねと相づちを打った。

 すると満更でもなさそうにフォルアは笑顔を浮かべ、ジンガの方へ向かって踵を返す!


「マストルアージさん、足止めのみが目的って言うなら、俺達も協力させて下さい」

「そうです!私達だけ、見てるだけって訳にはいきません!」

 方針が決まった所で、ライドスとリセピアの聖剣コンビが協力を申し出てくる。


「お前ら……」

 レイアストとはグダグダな連携しか取れていなかったライドスではあったが、本来のパートナーであるリセピアの力を得た彼なら、それなりの時間ジンガを釘付けにすることは可能だろう。

 そして、ライドスを援護する形でマストルアージ達が動くなら、レイアスト達が攻撃を決める可能性はさらに高くなると思われた。

(それにしてもよぉ……あのライドスが、自らレイアスト達に頼る作戦に協力してくるとはな……)

 内心、マストルアージが驚いてたのは、ライドス達の態度の変化だ。

 魔族への恨みに凝り固まっていた青年が、自分達の命運を半魔族であるレイアストに委ねる……それは彼にとってよい方向への変化に思え、魔術師は一皮剥けたかつての仲間の忘れ形見に、感慨深い物を抱いていた。


「よし……なら、お前達の立ち回りを中心にして、俺とフォルアが援護する」

「せいぜい頑張りなさい、聖剣の英雄」

 若干、トゲのあったフォルアの言葉にライドスは彼女をチラリと一瞥するも、特に言い返す事もなくリセピアを呼ぶ。


「リセピア、敵は相当にヤバい相手だ……アレ(・・)をやるぞ!」

「う、うん……わかったよ!」

 グッと彼女の二の腕に手を当てて引き寄せるライドスと、少し恥ずかしそうにしながらも意を決して顔を上げるリセピア。

 そんな二人の顔が近づいていき……唇が重なった。

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