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01 王族の会合

           ◆◆◆


 フォルアとの和解、そして襲いかかってきた兄の部下達を捕えたレイアスト達は、ここで一度全員で王都へと戻る事にした。

 まだ王都の結界が完成していない事もあるが、このような刺客がまた来るとするなら、バラけているのは危険だろうという判断からである。

 ただ、エルディファだけは人の多い所が苦手というのと、捕まえた魔族の見張りも兼ねて、森に残る事となった。

 ひとまずは、基礎訓練を怠らぬようにとの指示を弟子(レイアスト)授け、残る彼女に見送られながら、レイアスト達は王都へと向かう。


「──まずは、国王に事の経緯を説明して、フォルア嬢ちゃんを受け入れてもらわんとな」

まさか、魔族の中でも手練れ……しかも、レイアストに続いて魔王の娘が寝返ったのだ。

 場合によっては、大きな騒動になりかねない案件にだけに、マストルアージの心的負担も小さくはない。


「細かい事は貴方に任せるわ、マストルアージ。上手くワタクシとレイア(・・・)が、一緒にいられるように計らってちょうだい」

 苦い顔をするおっさん魔術師の苦悩も知らず、レイアストとすっかり打ち解けたフォルアは、今まで我慢していた分、妹とのスキンシップを堪能していた。


 とりあえずは、自分もレイアストを愛称で呼ぶ事を主張し、そんな関係にご満悦といった様子で笑顔を浮かべる。

 さらに、妹が眼鏡をかけるだけといった雑な変装を施していた事を受け、自らも眼鏡を着用するという浮かれっぷりだ。

 『姉妹でお揃い』という状況を楽しみながら、フォルアはレイアストの隣にぴったりとくっついて歩き、まるで逆隣にいるモンドを牽制するように時々流し目を送った。


 それを受けて、少年も表面上はにこやかな笑顔を張り付けながらも、フォルアを牽制するようにレイアストの手を握る。

 だが、そんなモンドのささやかな抵抗は、フォルアにとっては宣戦布告に等しかった!

 愛しい妹を独占させまいと、フォルアも残るレイアストの手を握って、現状を互角に持っていく!


「……フォルアさん、両方から手を繋がれたら、レイアさんが歩きづらいんじゃないですか?」

「それを言うなら、モンド少年こそレイアを解放してあげたらどう?」

 モンドとフォルア……互いにレイアストが大好きで引く事を知らない両者の間に、チリチリと見えない火花が交差する!

 なんとも重苦しい二人の雰囲気に、マストルアージでさえ触れようとしなかったのだが、そんな渦中の当人であるレイアストだけは、ニコニコと幸せそう笑みを浮かべていた。


「……なんだか楽しそうね、レイア」

「えっ!?ご、ごめんなさい……でも」

 もちろん、レイアストとしても大切な二人に揉めてもらいたくはないし、仲良くやってもらいたいと思っている。

 しかし、モンドとフォルア……大好きな二人と手を繋げる喜びに、幸せすぎてつい顔がにやけてしまうのだと、レイアストは素直に告げた。


「レイアさん……」

「レイア……」

 彼女の無邪気に喜ぶ気持ちを聞き、モンドとフォルアの間に無言の休戦協定が結ばれる気配を端から見ていたマストルアージは感じる。

 これでまぁ、しばらくは面倒な事はないだろうと安心しつつ、フォルアを国王(アスクルク)にどう紹介して受け入れさせたものかと、最大の課題に頭を悩ませるのであった。


            ◆


 半日ほどかけて王都へ戻ったレイアスト達は、早速アスクルク国王と面会する事にした。

 本来ならあれこれと手続きを踏まねばならないのだが、魔王の娘の一人であるフォルアがメンバーに追加されている現状を考えると、お偉方に説明するのが面倒な事になるだろう。

 そう判断したマストルアージは、自身とレイアストの名を使って直でアスクルク王との面会を希望する。

 いくらなんでも、それはちょっと……と、難色を示す大臣達ではあったが、レイアストの名を聞いたアスクルク王は二つ返事で受け入れるという、変わらぬ叔父バカっぷりを発揮してくれたお陰で、すんなり別室へと通してもらう事がてきた。

 そんなレイアスト達の元に、少し遅れてアスクルク王が姿を見せる。


「あ、叔父さま……」

「レイアストォォ!」

 部屋に入って来るなり、アスクルク王は溢れんばかりの笑顔で姪であるレイアストに駆け寄ると、その手をガッと握りしめた!


「久しぶりだな!元気でやっていたか?修行は辛くなかったか!?」

「は、はい……」

 エルディファの結界内で、体感時間として三ヶ月以上過ごしていたレイアストと違い、実際には十日しか離れていなかったハズのアスクルク王は、もう何年も会っていなかったかのような再会の祝しっぷりだ。

 そんなハイテンションな国王に、若干レイアストも引いてしまっていたが、マストルアージが諌めるように彼の頭を小突いた。


「姪っ子が可愛いのは分かるが、はしゃぎ過ぎだ。あと、お姉ちゃんがすげえ目で見てるから止めてやれ」

「……お姉ちゃん?」

 該当する人物に覚えがなかったアスクルクは、そこで初めてレイアストの手を握る自分に凄まじい目付きで睨み付ける、見知らぬ女性の存在に気付いた。

「……なるほど、確かに新顔だな。で、こちらの淑女(レディ)はどちら様なんだ?」

 マストルアージに尋ねるアスクルクの言葉に、フォルアは自ら立ち上がってドレスタイプの法衣の裾を摘まんで一礼すると、どこか剣呑な雰囲気を含んだ笑みで自己紹介をする。


「初めまして、人間領域の国の王。ワタクシは、レイアの姉にして魔王の第六子、フォルア・ハウグロードと申します」

「なっ!?」

 さすがに意表を突かれたのか、アスクルク王も驚愕したように顔を強ばらせる!

 しかし、続いて彼から出た言葉は、予想外の物だった!


「では……君も姉上の娘だというのかっ!?」

「あ?」

 自分が問われた訳でもないのに、思わずマストルアージの口から「なに言ってんだ、こいつは」といったニュアンスの声が漏れてしまう。

 それほどに、魔王の娘である事よりも姉の娘かもしれない事を重視する国王の言葉は、常識外な物だった。

 しかし、そんな王の懸念を理解するように、フォルアの顔からは不穏な空気が消え失せる。


「いいえ、ワタクシは母も魔族ですので。ですが、フレアマール様からは良くしていただきました」

「そうか……君は、姉上と親しかったのだな」

「ええ……心配性な弟君の事も、時折教えていただきましたわ」

「姉……上……!」

 魔族領域で囚われの身となっていた聞いていたが、こんなにも魔族の娘から慕われていた上に、身内の事も語ってくれていたなんて……!

 改めて、姉の素晴らしさにアスクルク王の目から、一筋の涙が溢れ落ちて頬を伝う。

 その姿に、フォルアも何か感ずる物があったのか、うんうんと頷いていた。


「……なんか知らんが、打ち解けたなら何より。それでだな、こっちのフォルア嬢ちゃんはレイアストに味方するべく、魔王軍を裏切って加勢してくれるそうだ」

「おお、妹のために戦うとは素晴らしい!まさに姉の鑑だな!」

「フフ……照れますわね。ですが、そういう国王様もフレアマール様への敬愛っぷりは、お見事。まさに、全ての弟の規範とすべきと感服したわ!」

「お褒めあずかり光栄だね……君とは、上手くやれそうだ」

「同感ですわ……」

 なにやら意気投合する、フォルアとアスクルク王。

 しかし、その二人と以外の全員が、(同類(シスコン)だからなぁ……)と、声には出さずに納得していた。


「さて……フォルア殿を受け入れる件については、私が便宜をはかろう。なので、こうなった経緯を教えてもらえるかな?」

 キリッとした王としての顔をしながら、アスクルクは当然の説明を求める。

 だが、その視線はレイアストへ向けてあり、姪っ子に説明してほしいという欲求が透けて見えていた。


「……ええっとですね、事の起こりは私の修行中に……」

 王からの熱視線と、何かを諦めたようにため息を吐くマストルアージ達に背中を押された気がして、仕方なくレイアストはフォルアとの一件について話し始めるのであった。


            ◆


「……っ、なるほど。苦渋の決断でしたな、フォルア殿」

「ええ……でも、この子が強くなってくれたお陰で、一緒にいられる事になった……さすが、ワタクシの妹だわ!」

「まったくだ!きっと、この娘の母である姉上も、喜んでくれているだろう!」

 レイアストの活躍とフォルアの秘めた苦悩に、アスクルクは大いに感心しながら天を仰いだ。

 さらに、レイアストの方へ笑顔を向けると、「えらい!すごい!かわいい!」などと誉めちぎる!


 そうして、ある程度姪を愛でる事に満足したのか、アスクルクは再び真面目な顔つきに戻ると、わずかに抱いていた懸念について尋ねてきた。


「さて、いまさらなんだがフォルア殿の後に乱入してきたという、魔族の戦士達……エルディファ殿に預けてきたというが、大丈夫なのか?」

 マストルアージ達にボコボコにされたとはいえ、そいつらは魔族の中でもかなりの強さを誇る精鋭だという。

 いかにエルディファが手練れであっても、不意を突かれて二対一の状況にでもなったら、危険なのではないだろか。

 そんな懸念を口にしたアスクルクに、モンドが自信を見せながら「そこは大丈夫です」と断言してみせた。


「あの二人の魔族には、僕が『禁術(きんじゅ)』を施しておきました」

「『禁術』……?」

 聞きなれない言葉に、アスクルクが小首を傾げると、モンドはその術について簡単な説明をする。


「禁術は、五行術式の派生である術式なんですが、読んで字のごとく物事の性質を封じる効果があります」

 例えば、炎を禁ずれば燃え移る事はなくなり、刃を禁ずれば切れ味を失う。

 そういった術式を、モンドは刺客の魔族達へ施してきたというのだ。


「炎使いのチャカルマンは炎を使えず、剣士のサベールはどんな刃物を持ってもなまくらになってしまう……今の彼等は、そういう状態になっています」

「なるほど……」

「ついでに、エルディファの奴が『エルフの呪い』をかけやがったからな。あいつらは、エルディファが許可を出さない限り、あの森から出る事はできねえよ」

 森を縄張りとするエルフ達は、目を付けた侵入者を絶対に逃がさないようにするため、時折そういった呪いをかける事がある。

 どれだけ方向感覚に優れていようと、なんなら空を飛べようとも必ず迷い、決して森から出る事はできなくなる、恐るべき呪いだ。

 そんな呪いをかけるほどに、『ババア』呼ばわりされた事が腹に据えかねていたのだろう。

 エルディファの逆鱗に触れる恐ろしさを再認識しつつ、マストルアージは逆にアスクルクへと、ある事(・・・)を確認すべく、逆に問いかけた。


「まぁ、こちらの状況はこんな感じだが……そっちの状況はどんなもんだ?」

「ああ、『聖女』レイアストの喧伝効果はちゃんと出ている。隣国からも、協力の申し出があったよ」

 『聖女』……なんだか、自分には荷が重い肩書きを聞くたびに、レイアストは少々気が重くなる。

 しかし、モンドからの……そして、そんな呼ばれ方をしている妹を見るフォルアからの、キラキラとした瞳に見つめられると、とても弱音など吐いてはいられない。


(なるべく、期待に沿えるように頑張ろう……)

 慣れる事のないプレッシャーを感じつつも、レイアストは密かに気合いを入れる!

 そんな若者達を横目に見ながら、マストルアージは本題とも言える一件について、さらにアスクルクへと確認を求めた。


「それで、あいつ(・・・)の方はどうだった?」

「そちらに関しても、話は通っている。あと数日もすれば、こちらに到着するだろう」

「そうか……いよいよだな」

「ああ……」

 なにやら、二人だけで納得している案件がある事を疑問に思い、レイアスト達はマストルアージ達へと質問する。


「あの、どなたかがこの国に来られるんですか?」

 そんなモンドからの質問に、マストルアージは珍しく神妙な面持ちで小さく頷いた。


「ああ、こちらに向かっているのは聖剣の英雄……その二代目だ」

「聖剣の……英雄!?」

 マストルアージの言葉に、レイアスト達は驚きの表情を浮かべながら、思わず顔を見合わせていた。

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