古き隣人の謎
とある高層ビルの最上階にあるバーラウンジ。
ここでは月に一度、賢人会議という名の会合が開催されていた。
出席者はいずれも国内外の一流大学を卒業した社会的にも成功した人物で場所を会議室へと移せば
そのまま何かの諮問委員会のメンバーとして通用するような面々である。
もっともこの会合で彼らが話し合うのは国家の指針などではない。
むしろその逆で「鶏と卵はどちらが先か」のような答えが分かったところで
国庫が増える訳でもない話題で世界最高峰の知性を浪費するという趣味人の会であった。
さてそんな賢人会議の今宵の話題は近年再評価が進む旧人類に対するものであった。
「先月発表されたイギリスの研究チームによると旧人類の能力は我々が想像していたよりも遥かに高かったそうだね」
「らしいね。しかし僕は眉唾だと思っているよ」
「ほう、何故だい?」
「彼らが本当に優秀だったならば我々ホモ・サピエンスだけが生き残るというのはおかしな話だろう」
「確かにな。先進国が原子力発電を行い月に人を送るほどの時代ですら密林には原始生活を送る部族が生き残っているのだ。
そう考えると多少の技術差はあったにせよホモ・サピエンス同様に石器を扱えた古き隣人たちが軒並み絶滅しているのは不可思議な話だ」
「だろう?現代人は旧人類たちを過大評価しているんだよ。
彼らはホモ・サピエンスが鉄器を発明するよりかなり前に絶滅している。
同じ石器同士でこうも生存競争に破れるというのは相当な間抜けに違いないよ」
同時刻。賢人会議が行われている高層ビルの遥か頭上の天国で旧人類たちが茶飲み話を交わしていた。
「しかし彼らホモ・サピエンスは随分と長く地上に残り続けているね」
「あれだけ様々な道具を発明しているのだから知能は決して低くないはずだろう?」
「我々が手にした知恵を欲望のままに振るい続ければ地球はあっという間に食い尽くされてしまう。
他の植物、動物たちのために道を譲るべきだと気が付かないほど馬鹿なんてことがありうるだろうか?」
「きっと何か事情があるんだろう。いずれにせよ彼らは正しい選択をするはずさ。
何しろ自らHomo sapiens(賢い人)を自称するほどの人たちだからね」