携帯小説考
まず前提として自分は「携帯小説」というものに一切馴染みが無く、小説家になろうというウチに対して、完全なソトの界隈という認識です。
そこにいた人間からすると当たり前なことですら、踏み外すこともあるでしょう。
本項はその上で、数字を転がして「小説家になろうの歴史に対する解像度を上げる」ことを目的としています。
問1.similarwebは比較で使えるか?
異なるサイト同士を比較する上で便利なサイトといえば「similarweb」である。
とりあえずGoogle検索で上位に来たサイトを片っ端から入れてみる。
全く知らない界隈相手となると、「まぁそういうもんか?」と納得しそうになるが、ところどころ「いや、どう考えてもこの数字はおかしい」という箇所にぶちあたる。
特に問題が大きいのは「合計訪問数」の箇所。
これと「PV/訪問」を乗算すれば、月間PV数を推し量ることができるわけだが、公称している数値との乖離が余りに激しすぎる。
similarwebベースだと月間で、野いちご125万PV、ベリカフェ1588万PV。
この差異をどう捉えるか、少し考えてみよう。
①公称値がウソ
まぁあり得ない。
②公称時期から急速に衰退した
公称値は2019年のデータであるが、その後も特に衰退を表すような兆候は見られず、まぁあり得ない。
むしろ微増基調だろう。
③反映されないアクセス量が存在する
代表的なものとして「アプリ」由来のもの。
そうしたアクセス量はsimilarwebだとごっそり抜け落ち、アプリ利用率が高いほど数字が小さくなってしまうという推測。
これ自体はあるような気もするが、それを踏まえた上でなお差が大きすぎる。
④純粋にsimilarwebの数値がおかしい
特に男女比あたりは1mmも信用できない。
公称女性98%、99%のサイトでも、男6割くらいとか言ってくる。
全部が全部使えないなんてことは勿論無いが、まるで参考にならないという部分は確実に存在する。
まぁこのへんは一旦脇に置いておこう。
企業系サイトの公称値は、基本的に最も信頼が置けるものであり、最も優先すべきものとして考えるべきだ。
問2.公称値は比較で使えるか?
企業系サイトの公称値は、最も信頼が置けるものである。
これは前提だ。
ただその数値の「解釈」に関しては、食い違う部分があるだろう。
たとえばKADOKAWA系列の2サイト。
上が魔法のiらんど、下がカクヨムの公称値である。
注目してほしいのは後ろ2つの数値で、このPV/UUを出してみよう。
魔法のiらんど 230.77
カクヨム 79.17
魔法のiらんどユーザーは、カクヨムユーザーの2.91倍、ページをビューしてるらしい。
これは「前者がそれだけ活動的」ということだろうか?
否。
結論から言うと、このあたりはサイト特性の違いだろう。
PCをベースとして成立したサイトと、携帯をベースとして成立したサイトでは、「ページ」に対する観念が根底から異なる。
例としてドリームノベル。
完全にスマホに移行した現在の人間からすると首を傾げる記述かもしれないが、ガラケー事情として考えればまぁそういうものだ。
ついでに2009年リニューアル以前の小説家になろう。
(「はじめにお読み下さい」中の記述)
Arcadiaなり小説家になろうなり、PCベースの小説投稿サイトにとって「1ページ」とは「1話」であり、「数千字」が想定される。
これに対し携帯小説は、00年代前半期ガラケーのスペックを念頭に、「1ページ数百字」×「数ページ~十数ページ」=「1話」という構造をとる。
スマホ時代に合わせてリニューアル等行われてこそいるが、こうした基本構造自体は変わっていない。
このためsimilarwebで言うところの「PV/訪問」は非常に大きな数値をとり、小説家になろうベースで考える人からすると不可解な感覚を覚える。
魔法のiらんどや野いちごといったサイトは、確かに月間3億PVがあるのだろう。
ただしその数値は、小説家になろうの月間25億PVと単純比較できるものではなく、実際の人間の動きとしては、割り引いて見るべき部分が大きいように思う。
仮説.小説家になろうユーザ集団の移り変わり
開設初期のなろうは「女性向け」色濃いサイトであったが、2008年頃から「男性向け」化が進行、10年代前半期にはランキング中で「男性向け」的傾向の作品が圧倒するようになっていく。
このあたりは別作で触れてる部分なので詳しく見ないが、こうしたユーザ集団の男女比に関して補足できるかもしれないと感じたのが「携帯小説」の存在。
Google検索量では、携帯小説は10年代前半頃にピークが来ていることを見て取れた。
……それ以前の数値の扱いにはかなり疑念もあるのだが、この時期の携帯小説系サイトが非常に大きな勢力であった、という一点に限ればまず間違いないことだろう。
かなり誇張した表現ではあるが、10年代前半期に、
男性向け=小説家になろう
女性向け=携帯小説系サイト
とでも言うような、別界隈を形成。
10年代後半期とは、そうして分断的だった2集団がなろうに統合されていった過程、と見做すことができるのではないか。
日間や週間のような短期間のランキング、どころか現在では四半期にまで、女性向けと見える作品が圧倒。
思い描く「昔のなろう」とのギャップを感じるというのは、こうした背景から生じているのかもしれない。
グラフ中「小説家になろう」の数値に関しては、「小説家になろう」「小説を読もう」「ノクターン ノベルズ」「ムーン ライトノベルズ」の合算値。
以下は作ったけれどうまくハマらなかった資料類。
①検索量比較
similarwebが全然機能していない携帯小説系サイトに関して、「月間訪問者数」的なものを表す上で、いくらか現実的な数字と思えなくもない。
ただまぁなろうの数値なんか全然足りない上、表記揺れも大きいなど、確信を持って使えるほどではね。
②小説家になろうの解剖生理
なろうはサブドメインを多数使っているので、similarweb推計がその分だけとれる。
公称で「小説閲覧数」が25億超と考えれば、大体実数2割引きくらいの推測値を示していると言えようか。
正確な数値はKASASAGIを毎日記録すれば自明なんだけれど、そこまではいいかなって。
部分部分は納得できるものだが、流石にブレも大きいだろう。
(2022/05/23追記)
流石に考え直してKASASAGI確認。
昨日: 77,228,266
一昨日: 69,644,244
合計: 146,872,510
×15.5:2,276,523,905
土日増加分で過大気味な数字となるはずな点には注意。
「小説閲覧数月間25億PV以上」はあくまで多い月の場合と考えるべきか。
③ガラケーのアクセス量
なろうもモバイル版停止して久しい現在だとある意味貴重なもの。
「平均滞在時間」が短いのに対し、「PV/訪問」はやたらと大きな数字を示す。
こうした昔のPVをどう考えるべきかという点ではちょっと困る。