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 輝くわたし、素敵な女性。

 浮かれて引く口紅のラインは今日も完璧で、彩香はお気に入りのパンプスを履いて今日も家を出た。

 転職して良かった。鬱みたいになっていたけど、思い切って行動して本当に良かった。


 頭のてっぺんからつま先まで、隙のないファッションに身を包み元気に出社すると、新しいゲームの立ち上げの会議がまずあった。

 一つ目に作ったアプリは正直大失敗だったものの、ゲームとしては良かったのではないかと開発陣が連日話し合っていて、バランスを調整し、キャラクターの絵柄、課金の方法など、男性だけではなく女性も取り込めるようなものにブラッシュアップしようと盛り上がっている。

 すかさずSNSで、なんだか新しい発表があったりして? なんて投稿して、彩香はイヒヒと笑った。

 熱心なフォロワーもすぐに反応して、なになに? たのしみ! とリプライが積み重なっていく。


 充実の一言だった。


 大輝の出した指輪を、可愛い感じだなーと思った。指輪がどうこうよりも、大輝本人がかわいらしいと思ったくらいだ。

 一生懸命選んだお店、選んだコース、選んだ指輪。乙女がなによりも望むものを喜んでもらおうと頑張った。

 

 今じゃない。

 そう、今じゃない。

 彩香(わたし)がもっと輝けば、大輝(カレシ)だって誇らしい。嬉しい、楽しい、幸せの倍プッシュの、更に倍だ。


 スマホを取り出しアプリを立ち上げ、すかさず録画だ。どんなモノだって、なにかいい感じのことがあれば使えるのだ。写真、動画、写真、動画。とにかく撮影して、ファンにサービスする材料を用意せねばならない。



 充実した日々は過ぎて、三か月後。

 リメイクされた一作目、「ファーライランド・サーガR」のリリースが決まった。Rはリメイクだかリファインだか、とにかく戻って来た感を出すためにつけられたらしい。

 社内は浮足立っていた。新作のリリースであり、失敗作のリベンジであり、更に「美人広報」がもう一人増えたのだから。



 アナウンサーを目指していたが採用されず、就職先を探していた部長の知り合いのお嬢さんである。

 打出(うちいで)小雪(こゆき)、二十二歳。大学を卒業したばかりで、今まで考えたことのなかった業界へ「面白そう」だけの前のめりで乗り込んできたミスなんちゃら大学に輝いたお嬢さんである。


「ゲームはあんまりしたことがなかったんですが、今はスマホにたくさんインストールして遊んでいます」


 新卒採用はフレッシュ極まりなくて、同じタイミングで入る開発の人材も新卒のはずなのに、打出小雪から漂うオーラは(カガヤキ)が違った。


「アプリと一緒に私も成長していきます! よろしくお願いします!」


 コネだろうがなんだろうがまずは試用期間なのだが、広報のニューフェイスはとにかくめっちゃ可愛かった。

 働き出してみれば、勤務態度もまじめで、打てば響く賢さもあった。

 会社のブログに新人のコーナーを設けてみれば、毎日きっちりプレイログがあがった。

 ゲーム初心者らしい凡ミスが、歴戦の猛者たちの心をくすぐる。ネット慣れしていない書き込みは初々しく、ゲームに魂を売った人間ヘビーユーザーたちの心はまるで浄化されていくようだったという。


 無事に試用期間が終わろうとする頃、初めて打出小雪の写真が会社のSNSに載ると、瞬く間に「いいね」の数は記録を更新。

 圧倒的な更新だった。

 アプリの売り上げも当然、彩香が担当し育てている三作目より、新作が上回っている。



 新しいものがウケるのは当然のことだ。

 目新しいし、技術だって上がっているし。画像も仕様もよりユーザーフレンドリーになっている。さすがの老舗の開発力と言えた、株式会社ブレイズオブグローリーの場合は。

 そこはそれ、どちらが上とか下とかではなく、双方が盛り上がればいい。

 ゲーム性も違う二つのアプリはそれぞれにファンがついていて、どちらも成績は良かった。

 

 けれど。


 今まで自分に向けられていたすべて。与えられていたすべてがかっさらわれてしまったように彩香は感じていた。


 打出小雪は可愛い。


 彩香と違い、小雪は自分の姿をSNSで出さない。会社が一度写真を載せただけで、普段は文字とプレイ画面だけの広報活動をしているのだから、見た目の可愛さがどうのこうのという話ではないはずなのに、後輩の愛らしさに勝手にひどい敗北感を覚える日々を送っていた。


 そんな彩香にとどめを刺したのは、会社が催した大反響大感謝キャンペーンなる、二つのアプリの合同イベントの告知用写真だった。


 いつの間にやらそれぞれのマスコットキャラクターのコスプレをした美人広報たちの写真が載ることが決まっていて。

 

 まったくもって、写真というのは容赦がない。

 修正がないありのままの姿のうちの一瞬を切り抜かれて、動画のような弁明の機会がないのだから。


 衣装のクオリティはどちらも良くて、なんの問題もない。

 けれど、二十二歳、ミスコンクイーン、新卒ピチピチでもとはアナウンサー志望、きっとチャラついた活動もしていた可愛い女の子と、女性が少なめの職場でたまたま採用されてチヤホヤされているうちに顔出して調子こいてた二十八歳、いや、二十九歳には、雲泥の差がある。それはずっとそこにあったものだったのだが、改めて、はっきりくっきりパーフェクトクリアに浮き彫りになってしまった。


 顔がデカい。デカくなかったはずなのに。

 腕が太い。普通くらいだと思っていたはずなのに!


 写真の反響の大半は、小雪ちゃん可愛い! に集約されている。

 けれどインターネットはそういう場所なので、ババア乙、なんてコメントもついてしまう。


 そんな罵詈雑言に加えて、本来は援護射撃なはずのハードな彩香ファンからの「熟女感がいい」「たぷたぷしたい」「二の腕たまらん」などのコメント群が出刃包丁になってハートに突き刺さる。



 たかだか半年でこんなにも。


 心の高度が下がることってあるものですか。

 


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