森のクマさんはあやまりたい
森に住んでいるクマさんは頭を抱えていました。
目の前には仲良しのキツネさん。
クマさんの悩みを聞いていてあげているところでした。
どうやらクマさんは親友のウサギさんと仲良く絵を描いていたようです。
クマさんは絵が得意ですが、ウサギさんは絵が上手ではないのです。でもとってもおいしいハチミツ入りのパンケーキが焼けるのでクマさんはウサギさんが大好きでした。
ウサギさんはクマさんの書く絵が好きです。なんとかクマさんのように上手になりたいと、横目でクマさんの絵を見ながら真似して書いておりました。
「できた! 眠そうな森の長老、フクロウさん」
クマさんは自慢げに胸を張ります。
ウサギさんも、真似したフクロウさんの絵が書き終わりました。
「私もできたわ。見て見て? 上手かしら?」
クマさんがウサギさんの絵を見てみると、やはりヘタクソです。まん丸な顔につんつんと羽根が飛び出した真っ黄色なフクロウさんの絵を見て、つい吹き出してしまったのです。
「プー! それがフクロウさん? ボクはまた、木のうろにヒマワリが咲いたのかと思ったよ」
そんなことを言ってバカにするものですから、ウサギさんも頭にきました。
「まあ失礼ね! クマさんなんて嫌いだわ。背伸びをしたら頭を木の枝に打ち付けてしまえばいいのに!」
といって、プイッと出て行ってしまいましたが、クマさんのほうでもウサギさんの言葉に腹を立てて、ドアを開けてウサギさんの背中に怒鳴りました。
「なんだと! ウサギさんなんて風邪を引いてウンウンうなるといいんだ!」
二人とも頭にきて、家の中に入ってしまいました。
しかし、カッとした頭が冷めていくと、クマさんは反省しました。大好きなウサギさんを怒らせたことを後悔して、部屋の中を行ったり来たり。行ったり来たり。
そこにキツネさんが来たので、そのことを相談したのです。
「そんなことがあったのね」
「ああ。ボクはとんでもないことを。きっと悪魔が取り憑いて言わせたんだよ。ウサギさんに謝りたい」
「謝る気持ちは大切だわ」
「でも会ってくれるだろうか?」
「うふふ。クマさんは女心が分かってないのね。プレゼントを持っていけば大丈夫よ」
「プレゼントか」
キツネさんのアドバイス受けて、キツネさんが帰った後にクマさんはさっそく釣り竿をもって出掛けます。自分の大好きなシャケのパイを作ろうと思ったのです。
幸運なことに、大きなシャケが釣り竿にかかりました。
「これはきっとおいしいパイができるぞ!」
勇んで家に帰り、さっそく準備しました。大きなお皿に丁寧に骨をとったシャケを置いて、パイ生地をかけて、オーブンに入れます。
焼き上がるまで時間があったので、クマさんはイスの上でしばらく寝てしまいました。
そこにキツネさんがやって来ると、オーブンから美味しそうな匂いがします。
「やや。これは大好きなシャケのパイだわ。とっても美味しそう。クマさんには悪いけど一口だけ味見させて貰おう」
そういって、ちょっとだけつまんで口に放り投げます。あまりの美味しさにキツネさんは震えました。
「もう一口だけ……」
ガマンできずに一口、もう一口とやっていると、ついには全部食べてしまいました。そこにちょうど目を覚ましたクマさん。せっかくウサギさんのために焼いたのにと大きな声で泣き出します。
「ゴメンね。私ガマンできなくて」
「ヒドいや、キツネさんたらぁ」
「でもウサギさんはシャケのパイは食べないと思うよ?」
「そうかな?」
「そうよ。キャベツとかニンジンが好きで、シャケが好きなんて聞いたことないもの」
そう言えばそうかとクマさんは頭をかきました。自分の好物がウサギさんが好きだとは限りません。
「なにをプレゼントしたらいいだろう?」
「歌は?」
「歌は苦手なんだ」
「だったら花は? 花もいいわよ?」
「花なら摘めるよ」
「あと踊りとか?」
「それじゃパレードだよ」
「それよ!」
そう。歌に花に踊り。
キツネさんはお友だちの歌が得意なカナリアさんたちや、太鼓上手なタヌキさん。ダンスが得意なお猿さんたちに声をかけました。
キツネさんもカラフルな三角帽子をかぶり、笛を持ちます。
「キツネさんは笛なんて吹けたのかい?」
「せっかくヘビさんに習ってるんだもの。みんなの前で披露してみたいわ」
腕に大きな花を抱えるクマさんに向かってキツネさんは言いました。
ウサギさんは、自分の家の中でぼんやりとしていました。そこに、遠くから賑やかな音が聞こえてきます。お祭りの日ではありません。
窓を開けてみると、森の仲間たちがパレードをしているではありませんか。
しかもウサギさんの家に向かってきます。楽しげな音に家を飛び出すと、クマさんは両手に抱えた花束を空に撒き放ちました。
赤や黄色や白い花はとてもとても美しくて、みんな目を奪われました。
もちろんウサギさんも。
「ウサギさん、この前はゴメンね」
クマさんがいうと、ウサギさんもそれにうなずきます。
「私こそゴメンね」
ウサギさんの言葉にクマさんは嬉しくなって、ウサギさんの両手をとって、笛や太鼓に合わせて踊りました。
その後、ウサギさんが焼いたハチミツ入りのパンケーキをみんなで食べてパーティーをしました。
とっても楽しいパーティーでした。