第1話 黒いエルフ1
エルフの子供はエルフなり。オークの子供はオークなり。争いの子供は争いなり。
ラーリシア地方に伝わる童謡より。
私の持つスキル【鑑定】は素晴らしい能力である(自分で言うことではないかもしれないが)。やや時間がかかるが、しっかりと分析をすれば、その人に向いている職業がわかるのだ。
私は幼い時、メイド、料理人、庭師に対してこう言った。
「私は凄いことに気づいてしまったわ」
まずは庭師として働く壮年の男に向かって言う。
「あなたは庭師に向いていないわ。あなたが向いているのはメイドよ」
「お嬢様、メイドは女の仕事でございます」
続いて料理人として働く若い男へ言葉をかけた。
「あなたは料理人に向いていないわ。あなたが向いているのは庭師よ」
「お嬢様、庭師は老人の仕事でございます」
そして最後にメイドとして働く女へ言った。
「あなたはメイドに向いていないわけ。あなたが向いているのは料理人よ」
「お嬢様、私は料理人の子供ではありません」
男女の差が、年齢が、家柄がなんだと言うのか。苦笑いをしながら最適でない仕事に戻っていく人たちの気持ちがよくわからなかった。
もちろん、私は私の分析も怠っていない。私が最も向いている職業は為政者だ。驕りではなく確信である。王子と結婚し、この国の政治に一定の発言力を持つことが私の生きる目標となっていた。ただそれだけだった。勉強、教養、語学、馬術、社交……大袈裟ではなく、1日だって休むことなく私はそれらに励んでいた。
だが、この前その目標はあっけなく瓦解したのだが。どうやら、殿方のハートを射止める才能は私にはなかったらしい。
「と言うわけで私は商人を目指します。私の次の適性は商人でしたから」
「随分切り替えが早いな」
「そりゃそうですわよ。向いている職業があるからって必ずしもその職業につけるとは限らないですもの。砂漠の国の人間が、船乗りの適性があるからって故郷を捨てることができますか?」
「それは道理ではあるが……」
ランスは若干不服そうな顔をした。
「まあ、しばらくは羽を伸ばさせていただきます。見聞を広げるためにも趣味の一つでも見つけたいわね」
「勝手にしろ。私は魔王に太刀打ちするための技を磨くとする」
「あら、復讐ですか?」
「愚問だ」
ランスは吸血鬼にもかかわらず、人間のような生活を送っている。朝、日の出とともに目を覚ますと朝食もそこそこに家を出る。近くの野生の魔物や山賊、あるいは冒険者と戦い、奪った素材や装備を町で売却して金に換えているようだ。
貴族時代の暮らしに比べれば質素な生活だが、それなりの暮らしをできているのではないかと思う。殺風景だった室内は家具や食器などの必需品がある程度取りそろえられ、それなりの生活感が出てきたほどだ。
かく言う私はランスのいない時間、森を1人で歩くのは危険なため、小屋の中で本を読んだり料理をしたりして過ごしていた。かつて料理などはしたことがなかったが、案外これが楽しい。十日もしないうちに【料理Ⅱ】のスキルをえたほどだ。
スキル段階は十段階に分かれる。熟練度によってⅠからⅩの番号で振り分けられる。もっとも、Ⅴ程度のレベルであればその道のプロを名乗ることができ、職探しなどで重要視される一つの基準である。
私は【料理Ⅱ】の他に【回復Ⅰ】【鑑定Ⅵ】を持つ超絶美少女天才金持ちお嬢様。仮に令嬢の立場を捨てようとも、優秀な人間であることには間違いない。そんな私だが、新生活が始まって二週間。危機的な状況に陥っていた。
「そろそろお外出たいわね……」
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