表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新しき一歩

作者: 鳩御門

 ————貴方は私を愛してくれていましたか。

 ————砕け散った思い出の中で笑っていた貴方の顔が、もう穴だらけで分からないの。


 少女は独り夢を見た。流れ続けたあの日の幸福を、貪るように夢を見た。

 戻らない記憶が心を腐蝕し、恋人を虫喰いに変えていく。

 言いたいことばかりだった。轢き潰された恋と記憶は車輪の彼方に過ぎ去り、虚穴に塗れた幸せの記憶が少女を辛苦に突き落とす。

 交通事故など、誰を恨めばいいのだろう。積み重なる激務に、気絶するように眠りついた運転手だろうか。それとも、その原因となった誰かか。考えることすら馬鹿馬鹿しい。

 泣き喚く。泣き喚く。泣き喚く。泣き喚いて————啜り哭く。

 少女にそんな余裕は無い。恨むなど、怒るなど。彼女に出来たことは一つだけ。


 もう、伝えられもしない。


 ————さよならも。

 ————おはようも。

 ————ごめんねも。

 ————愛してるも。

 ————深く、純粋な言葉の全てが、もう貴方には届かない。


 怨嗟も憤怒も塵芥。少女に溢れ溺れんばかりのそれは、悔いと悲嘆の奔流だ。

 もっと言葉を紡いでいれば。もっと想いを伝えていれば。

 崩折れる少女の細腕に籠る力は無力であった。それ故に、籠められた決意は力を欲した。


 ————強くなろう。今よりずっと、悲しみを受け入れられるように。

 ————強くあろう。貴方のいない世界を愛していけるように。


 それは凄惨なる第一歩。悲嘆の果てより歩みを進める、恋を失う第一歩。

「また明日」は叶わない。少女の隣は空白で、その度に彼女は、この絶望を思い出すだろう。

 愛してくれていたかどうかさえ、少女には分からない。知ることは出来ても、その愛は抜け落ちたままなのだから。

 悲しみに慟哭を。その悲劇に訣別を。


 ————強くなればきっと、貴方を魂の底から、忘れ去ることが出来るから。


 そうすれば、最早悲しみなど感じまい。

 ただ歩め。まずはその新しき一歩にて。


 己の寂寥に悶絶せよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ