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サバイバル・ワン  作者: 絶好調おにぎり
4/4

【 現実世界2日目 】 

・・・寒い。

チラチラと太陽の邪魔くさい日差しと、加減を知らない風で目が覚めた。

気付けばもう朝か?いや昼か?

とにかく寒い!

布団といっても掛布団が無いのだから、寒いのは当たり前だ。

暖炉の火は煙さえあげずに完全に消火後の灰のみになっていた。

身体がバキバキに固くなっているのは、転生して1日しかたっていないからなのか、布団とは名ばかりの地べたで寝たようなものだからなのか。

ミネルバさんはどこだ?

ミネルバさんの活動限界は今日の夜までだったな。

聞きたい事はそれこそ沢山あるけども、自分が知らなくてはいけない事は1つだけだ。

“いかにしてこの世界で生き残っていくか?”

なぜ戦争が?とか、なぜ自分が?などの答えの情報は、この極限のサバイバル世界においては何の役にも立たない。

自分の精神を落ち着かせるための質問ではなく、この極限世界で即役に立つ情報だけを

質問する事にしよう。

さて、と。

エルコは住居?と呼べない代物の丸太小屋を出て、快晴の大自然に不釣り合いな無数の石板群に向かって歩き出した。

いや、ちょっと待て!

スーツ!スーツ!

裸である事などこの世界においてはもはやどうでもいい事だが、単純に防寒や、防具の意味ではスーツは欠かせないのだ。

そして、何よりもエルコ自身のルールで“人間らしさ”を自らの意志で捨て去るべきではないと思っていた。

エルコは、乱雑に脱ぎ捨てられたブーツを少し見つめ、自分のガサツさを少し詫びるようにして足を潜り込ませ、ミネルバを探しに出かけた。


「エルコさん、おはようございます!」


「っおわぁっと!いたの?」


丸太小屋を出てすぐ横にミネルバが居た。


「驚かせてしまいすみません。私の作業の方も完了致しましたので、エルコさんが起床なさるのを、お待ちしていました。」


「・・・ってことは、丸裸でさっき外に一瞬出たところも・・。」


「はい。私はロボットなのでお気になさらないで下さい。」


ショートカットロり女子高生の表情はいたって冷静そのものである。


「まあ・・・そうだよね!笑

ここで赤面でもしてくれれば、この世界を生き抜く理由の1つにでもなったかもしれないのになぁ・・。」


「では、早速ですが完成した石板達のご案内をさせて頂いてもよろしいでしょうか。」


「うん。お願いいたします。」

そういえば、ミネルバの歩いている姿をきちんと見れたのはこれが初めての事だ。

これもプログラムのうちなのか知らないが、歩き方は女の子のそれのようであり、可愛い歩き方であった。


「この石板群達は総計32層、バームクーヘンのように何層にも連なって、この丸太小屋を

囲んでいます。」


おい!今、自分で“丸太小屋”と言ったぞ!?


「その両面全てに、この世界で生き抜くためのサバイバル知識の全てを書き込みました。

裏、表と交互に読んでいくのは非効率的ですので、裏は裏。

表は表と読み進められるように刻んであります。

基本的にエルコさんの生活されていた当時の端末やら、USBメモリー、パソコン、はたまた、紙などの記憶媒体は風化が早く、数十年もすれば消失してしまうものばかりです。

また、保管における管理も、電気や環境に依存するものがほとんどですので、何かの情報を長期間保存するのであれば、このように石板にて刻印して後世に残すのが基本です。」


「へぇ~。だから、ピラミッドとか古墳とかは石板に文字を残したんだね~。納得。」


「はい。その通りです。これは余談ではありますが、太古の昔の方が、エルコさんのいた時代よりもテクノロジーが進んでいたんですよ?

まあ、その話は置いといて、とりあえず、これからエルコさんには、たった1人でこの世界を生き抜いていってもらわなくてはいけませんので、出来るかぎりの必要な情報達をここに残しました。

天文は勿論ですが、植物や鉱山物による医学的な情報、病気や骨折などの治療の仕方、毒やガスなどの有害で危険な場所の感知の仕方、住居や飲食物の確保の仕方と保存方法、自然の力を利用した農畜水産の発展の仕方など、最終的には発電方法から、金属加工の方法まで事細かく記載しました。

また、この石板群はそのまま要塞という目的も果たしています。

地下深くまで石板は埋められているので、猛獣などの外敵は勿論、地震や津波、土砂崩れなどの自然災害などからも守られた安全な場所となっています。」


「ほうほう!」


「こんな過酷な環境で生き抜いていってもらわなくてはならなくなってしまった事には本当に申し訳ないと思っています。出来るだけの事をさせて頂きたく、精一杯、生き抜くための情報を書き残したつもりです。私に出来る事はこんな程度ですが、逆に今度はエルコさんの方から何かご要望やご質問など無いですか?あまり時間もありませんが、出来るかぎり、ご対応させて頂ければと思います。」


「まず、ミネルバさん、色々とありがとうね。

とりあえず、ミネルバさんが活動停止したあとも死なない程度に、頑張ってみるよ。

え~っと、質問なんだけど、三郎さんが言っていた、最終目的地のあの北極施設は

必ず行かなければならないんだよね?」


「はい。この場所で、ある程度のテクノロジーと生活基盤に余裕が出来るまでになったらで構いませんので、あそこに行って欲しいと思います。

もしかして、三郎様から聞いてません?」


「・・うん。三郎さんね、入り口付近で消えちゃったから、とりあえず、施設内のおおよその把握ぐらいしか達成できてないよ?」


「ガビーーン!!

それは失礼いたしました!

では、ご説明させて頂きますと、あの施設には、全ての人類達のDNA情報と、脳記憶のデータ、並びに生命や物質を生成するテクノロジーがあります。」


「さらっとスゴイ事言うね!笑

つまりは、僕に人類の全てを託したってそういう事?」


「・・・はい。申し訳ありません。

昨夜、物質間移動の話で、エルコさんは転移の技術に対しクローンの観点で位置づけて

おられましたが、その技術こそ、あの施設で実現可能なのです。

私が創り上げた転移ゲートはあくまでも、完成した部品を所有していたに過ぎません。

あれを1から創るのは私でも相当な時間と莫大なエネルギーが必要です。

つまりは、エルコさんはこれから、地球の新しい創造主に近い事をしていってもらうのです。

もちろん、全人類のDNAと脳記憶によって、全人類そのものを復活させなくても構いません。

あなたにとって、どのような地球の姿が美しいのか、あなたにとって、美しい人類の種とはどのようなものなのか、事実上、あなたの価値観こそが基準となります。

三郎様の後継というよりかは、新しい創造主の御立場となられます。」


「いやいや、ちょっと待って、ちょっと待って!

さすがにびっくりだよ!」


「すみません。」


「いや、創造主って、こんな地味なの?

もっと全知全能で魔法みたいのパァーと全ての想像を現実に出来ちゃうもののようなカンジじゃないの?

水や食料の確保に追われ、毒や病気に怯えながら、なんとか衣食住を実現していくであろうこれからの長い未来の果てに、そんな非現実的なファンタジーを実現させろと?」


「・・・はい。」


「ふぅー。

・・・まぁでも、何も希望もなく死ぬまで、サバイバルで生き抜いて下さい。

と言われるよりはまだ、少し希望が持てる話ではあったけども。」


「あの、すみません、エルコさん。

あの・・・、その、言い忘れていた事がもう1つありまして・・・。」


「・・ん?」


「あのぅ、エルコさん、死ねません。」


「・・・ん?なんで?」


「っえ~っと、あの先ほど言われていた、全知全能全ての想像を現実に出来る魔法みたいのを使える神様が、あなたが死なない設定にしてしまっているからです。」


「・・・はい?」


「・・・。」


「・・・え、だって三郎さんはもう死んじゃったんじゃないの?本当はいるの?」


「いえ、三郎様は先代の地球の神様ではありましたが、あくまでも1惑星の神様です。

権限も力も限られています。

それよりももっと上の原初の神様の意向が、あなたに働いているのです。」


「ぇえええー!?

なんかお決まりだな、いやありえない。いや、ありえるか?

っていうか、だってさっきだって、猛獣や地震から身を守れるように!とか言ってたじゃん?」


「はい。死なない身体ではありますが、痛いのは嫌ですよね?」


「はぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー。そういう事かい!」


「・・・はい。本当にごめんなさい!」


「・・・もういいよ。とりあえず全部わかったよ!

僕にまかせて!でも、とりあえず、死なないという事なら、少し精神的な事もあるから、のんびりとやらせてもらうよ?それでも良い?」


「はい!もちろんです。エルコ様が納得のいく時に納得のいく内容で気軽に人類を創造して頂ければ結構です!」


「いや、いつの間に“様”付けに昇格?笑

それに気軽に人類創造って!笑」


「私は安心しました。さすがは三郎様の見込んだ男ですね!」


「・・ミネルバさんってそんなテンション高くなる事あるんだね。笑

とりあえず、最初は本当に原始人みたいな生活から始めて、後々は飲食材、電気やエネルギーを恒常的に生み出せるようにして、それから、あの施設に行って、人類を創造しなおせばいいんだね?」


「はぁい!!そうです!」


「でもさ、それ、ミネルバさんがやれば良かったんじゃないの?」


「はい。エルコ様の言いたい事はわかります。

ただ、私はあくまでもロボット。自己の意志や想いなどは無く、命令やプログラムによって、このように感情の抑揚もシステム化されているにすぎません。

原初の神様はエルコ様を選びましたし、三郎様もあなたを推薦した。

それはきっと偶然ではない、人間の可能性をあなたの中に見たからだと思います。

・・・私にはできません。」


「・・・そう?まぁいいや。どんな地球になってもしらないよ?」


「はい、それは私達の判断できる所ではありません。

ましてや、あなた達を守れなかったわけですし。」


「・・もうその事はいいよ。

とりあえず、生命に対する哲学的な情報や、道徳的な学問みたなのもあれば、追加して

石板に刻んでおいてくれる?

あとさ、ミネルバさんの復活方法も記載しているのかもしれないけど、今の情報よりも更に詳しく、機械内部の設計に至るまで詳細に記載しておいてくれるかな?」


「はい。仰せのままに!他に何かございますか?」


「とりあえず、そのくらいかなぁ。

あとはなんとかするよ。早速、サバイバル生活やり始めるよ!」


「・・・なんと心強い!私は嬉しいです!きっとまたお会いできる日には、また、私を御傍においてください!」


「いや、三郎さん忘れてる!笑

なんて浮気性なロボットだよ。まったく!笑」


「では、早速再度、私も作業に取り掛かりたいのですが、どうでしょうか?

一応、私の活動限界は今夜までとなりますが、どうしますか?

別れの挨拶のお時間とか一応段取りしておきましょうか?」


「いや、いいよ。

寂しいからさ、そういうの。

形式上では、そういう事を人間ならやる。

ってプログラムされているのかもしれないけど独りきりの世界でのみねるばさんへの僕の想いは、きっと今も、これからも大きいよ。

仰々しくさよならをしてしまえば、君に会えない現実に理由が出来てしまう気がする。

また、すぐ会えるんだし、僕を信じて少しだけ、待ってて。」


「・・・はい。・・・エルコさん、強くなりましたね・・・。」

ミネルバは、今のエルコの記憶には直接残っていない、エルコの仮想世界での出来事の全てを思い出していた。


「じゃあ、それぞれの事をするか!」


「はい。そうしましょう。ではエルコさん。またあとで!」


「おう!」


こうして、2人は別れた。

さてと、気持ちを切り替えて、サバイバルの時間の始まりだ。

エルコはとりあえず、ミネルバ作成の丸太小屋を眺めた。

う~ん、まず、広さも足りない。

寝床も再度、作り直す必要があるし、防寒の為の壁の補修作業も必要だ。

今の季節が春か夏かは定かではないが、とりあえず、この地の今朝は寒かった。

その原因というのも丸太と丸太の隙間風が室内に漏れこんでいるせいかと思われた。

お風呂に関しても、今の状態のままでは、排水と過熱ができない造りなので、作り直す必要がある。

やるべき事が盛り沢山だ。

しかし、とりあえずの最優先事項は、布団の作成と、水、食料の確保だ。

布団・・・。

布団か・・・。

エルコは、原始的な方法で布団を作る方法を色々考えてみたが、布が存在しない現状においては落ち葉を集めて、その中に潜り込む事以外思いつかなかった。

落ち葉かぁ・・・。うーん。嫌だなぁ。

他に何か方法はないかな。

やっぱり布の布団で寝たいよなぁ。

布、布・・・。

布は糸。

糸は繊維。


「お!!」


何かを思いついたエルコは早速、お目当てのものを探しに出かけた。

どうやらこの石板群たちは4つの入り口がある。

32層で出来ているというだけあって、最後の端の層まではかなりの距離がある。

32層というなら、石板1枚が原稿用紙1枚程度であるなら、4つの入り口で分断されているので、256ページくらいという事か?

本1冊程度か・・・。

どれどれ、とエルコは軽く流し読みをするつもりで丸太小屋近くの石板を読んでみた。


「いや文字、小っさ!!」


きちんと読んでみて気付いたが、5,6メートル程の高さの石板の上部の文字はかろうじて

読める程度の小ささサイズの文字だ。笑

これは安直に本一冊どころの文字数ではないぞ。

まあ、これからの自分の生命維持活動に直接結びつく情報達なのだから、情報量は少ないよりも多いに越した事は無い。

少し安心したエルコは、いけない、いけないと思いだしたかのように4方の入り口通路に向かった。

明るい時間帯は“活動の時間”。

夜は“研究と作戦会議の時間”。

明るい今の時間は“活動の時間”である。

太陽が出ている貴重な時間を無駄には出来ない。

日々、自分の命への高い危機意識を心がけて生活しなくてはならないのだ。

サバイバル生活を送る上で効果性を意識する為に決めた自分ルールその1である。

サバイバル生活においては、サバイバル作業の能率の優劣がそのまま死に直結する。

特に病気やケガをしてしまえば、そのまま絶命する可能性が非常に高くなるし、暗くなる前に飲食材を確保出来なければ、空腹による睡眠不足となり、睡眠不足が日常化すれば、サバイバル作業に支障が出るのは目に見えている。

いつ怪我するかわからない。

いつ病気になるかわからない。

いつ、飲食材が枯渇するかわからない。

とりあえず、元気なうちに、明るいうちに、出来る事は先延ばしせずに即刻、行動あるのみである。

とりあえず、飲み水と布団の作成だ。

もし時間が余るようであれば、食べ物の確保もしておこう。

エルコはサバイバル時に一番生き残りやすい山林部の見える四方の入り口に向かって

勇みよく歩き出した。

ザッザッザッ・・・。

自然を荒らすだけの存在のこの足音、このリズムの音を拒むかのように森肌は険しく歩きづらかった。

人が居なくなったのが遠い昔というのが本当かのように、森林を構成する木々達には規則性は無く、広葉樹も針葉樹も国境の隔たりなくどの木種も密集して群生していた。

植物の背丈は高く、どれも青々と力強く、植物に負けじと羽虫に始まる虫達も活発に飛び回っていた。

弾性が強く、繊維質な木を探している。

松や杉などの固い木ではなく、ニレの木のような樹皮に適度な水分と多密度の繊維を含むものを探す。

あった。

道などは存在しないが、山の入り口付近すぐにもうニレの木を見つけた。

よし、こいつを十数本ほど伐採し、建材、薪、そして樹皮で布団を作ろう!

「あ・・・!」

何で伐採するというのか。

エルコは自分のサバイバル経験値をミネルバが何十回も仮想世界で鍛えたという話を疑った。

ナイフや斧がなくては木材さえ手に入らない。

そこからかい!

そんな初歩から自作せんといかんのかい!

実に不便な世界であった。

木斧か、石斧か・・・。

いや、木斧無理でしょ!笑

木が切れなくて、斧を作らなくてはいけない結論になったのに、斧の作製を木材でしようかなどと馬鹿な事を考えてしまった。

石斧を作製するならば石自体の耐久度が高く、なるべく平べったい石のある場所に行かなくては。

河の上流部から中流部付近だろう。

渓流部はまだ、石として若い可能性がある。。

しかし、川をどのように見つけるのか?

川の見つけ方など想像もつかない。

幸いな事に今登り始めた山は標高高く、広大であるため、必ずどこかに川があるであろう。

川があるとするのなら、山林の外周部を沿って探索するよりも、中心部から探索した方が効率が良いので、まずは山頂に向かって歩こう。

100年経ったとはいえ、流石に所々に山道は残っているようだから、目印さえしっかりつけていけば、迷う事は無いが、日没までには必ず戻れるようにしよう。

山頂までは、およそ2時間くらいか・・・。

往復するのなら、ギリギリの時間である。

う~ん不便だなぁ。

木材1つ手に入れるのがこんなにも困難とは。

エルコは小さい頃、初めて辞書で単語を調べた時の事を思い出した。

現代においては、その作業は無くなりつつあるアナログな作業なのかもしれないが、当時は単語1つ調べるのにも辞書を引いたものである。

しかも、はじめのうちは、わからない単語を調べても、その説明文に、また再度わからない単語が登場するのだ。

下手をすると、わからない単語を調べはじめると、調べる前よりも余計にわからなくなるのである。

辞書サーフィンをして、波で反転し、再度反転し、結局スタート地点に逆戻り。

その時の不条理なイライラ感をエルコは感じていた。

当たり前である。

現代人は、お金という時間短縮アイテムによって、あまりにもありとあらゆる全ての作業分担を労働としてシェアしているのだから。

その慣れ親しんだ“当たり前のサービス”を自分たった1人で実現し生き抜いていく事など現代人に可能なのだろうか?

いくらミネルバの仮想世界を生き抜いてきたからといっても、経験と経験の間に落とし穴は沢山ある。

食料ひとつ、飲み水コップ1杯手に入れるのさえ、現代の道具が無くては困難極まりない。

そもそも、それらを移動時に運ぶための容器も袋さえもないのだ。

このスーツは高性能なウェットスーツにといったところか・・・。

冷暖対策、軽い怪我や衝撃にも対応していそうな強度もある。

しかしながら、ハリウッド映画のヒーローが着るスーツのような耐久性は無いだろうし、そもそも、長時間着用していたら、汗がべたついてきて不快である。

未開の場所や、長期の探索時には着用が必須ではあると思うが、なるべくなら、通気性の良い衣類を着用したいものだ。

ザッザッザッ ・・・。

しかし、若緑達の木々は本当に綺麗である。

葉が擦れ合う音も、風も、透き通って届く若葉からの木漏れ陽も、自然の優美な姿は人間の心をたやすく感動させる説得力がある。

お腹が空いてきた。

エルコは山道を歩く最中も、何か食べ物になりえるものが無いかを探しながら登り歩いた。

ふと、歩きながら考えていらのだが、至る所に落ちているこのドングリ ・・・。

栗やクルミなどの都合の良い木の実は一切、発見できずにいたが、このドングリなら大量に見つける。

袋なんて万能なものは無いので、とりあえずフキの葉やオオイタドリの大きい葉に包んで持ち帰る事にした。

実はエルコはまだ知らないが、このフキの茎もオオイタドリの新芽も茹でれば十分食用なのだ。

貴重な食材を袋がわりにしているエルコは未だサバイバル初心者だという事を十分に物語っていた。

実は、我々が忌み嫌う雑草のほとんど全てが正しい調理法を施せば食用である。

スーパーで購入する葉菜類での栄養補給よりも、群生している野草を多種多様に摂取した方が健康には遥かに効果が高いのである。

現代人の多くは、安全安心という偏った大義名分のもとに、実は栄養価が低く、水分や食物繊維の極めて低い農薬びっしりの野菜類を好んで摂取しているのである。

農薬の殺対象となる虫類の多くもまた最高の食品である事もまた大切な事実である。

エルコは、心もとない食材ではあるが、葉で包んだドングリ達を雑草のツルでまとめ上げ腰からぶら下げてみた。

葉を何枚も厳重に重ねる事で、歩く衝撃にも耐えられるだろう。

このドングリを食用化できれば、なんとか、餓死だけは免れそうだ。

そんなこんなで、山の中腹部近辺まで来たエルコは沢のような山の傾斜を見つけた。

よし!

ぐしゅぐしゅと不安定な地面を踏み固めながら、慎重に沢まで降りたエルコは、ようやくお目当ての丁度いい平べったく頑丈そうで加工しやすそうな石を複数個手に入れた。

よし!

あとは帰宅するだけだ。

今夜の大切な火の事も考え、自宅に一番近い木でも伐採して帰ろう。

火の起こし方には自信があった。

うるさく聴こえていた野鳥達の声も、門限の時間が訪れたせいかまばらになってきた。

山道の中腹部までとはいえ十分な登山をした気分で、誇らしげなエルコの頬を夕陽が照らしていた。

パチッパチパチ ・・・。

ミネルバ遺作ともいえる松明に再度、火をつける。

いや、まだ死んだわけではないが。

“2人の男に愛されしロボットここに眠る”の文字とともに石板の箱が石板群の端に小さく建造されていた。

なるべく感傷に浸らないように慎重に心のブレーキをかけながら、エルコは帰宅後すぐに火を起こしたのだった。

火の起こし方は意外と簡単なのだ。

みんなが想像する棒を掌でこすってこすって下の木板の火の粉を燃えやすい藁などの屑に入れて、息を吹きかける方法は非現実的。

初心者がやれば、火おこしに数時間以上はかかる。

あの方法で火を起こすのであれば棒を糸でこする、弓引きの方法が現実的なのだ。

弓引きの道具も無い今、現実的な火おこしの方法とは、乾燥した木材2本用意し、1本を足で踏み固定しながら、もう1本を端と端を両手で持ち、かがむ姿勢にて、足の木材にスライドさせながら火の粉を出す方法が最短の現実的な火おこし方法である。

今日は仕方がないので、丸太小屋の木材を使用した。

布団も布も石斧さえ、今日作製するに至らなかったが、石とドングリは手に入った。

火も起こした事だし、松明に火を点けて石板群達の貴重な情報を調べに行くか!

ミネルバ遺作の松明の火を頼りに月灯り無い夜の石板群達の情報を調べるエルコ。

いや、暗い!笑

いちいち不便だ。笑

松明の火の光源では石板の上部の文字など見えないのである。

とりあえず見える場所だけでも読み進めていこう。

あ~ぁ ・・・。

まあ予想はしていたが、やはり、最初に石斧を準備するべきだとのアドバイスが記載されていた。笑

他にも、今夜読み進めた内容は、土器やかまどの作り方、粘土や石の活用方法、食用の野草や木の実など。

簡単な武器や罠、布やロープの作り方などであった。

石斧の作製方法には「打製」「砥ぎ」「石焼」などの方法があるらしい。

打製は文字のごとく、鹿の角や石などで、石をこそげ落とすように鋭利にしていく方法。

砥ぎに関しては、ある程度、目的の形状である事が条件ではあるが、かなり精度の高いものが作れるようである。

石焼に関しては盲点であったが、石を焼いていくうちに高温により石が割れ弾ける事がある。

その割れ弾けたものを矢やナイフ、斧の材料にするというものだ。

この方法は、石道具の為だけに高温の火を起こすのは愚策なので、生活の中で偶然、発生した時にでも作る事にしよう。

というわけで、さっそく砥ぎと打製によって、打製石器の石斧を完成させた。

このままでは石斧ではなく、ただの石ナイフなので「柄」の部分の作製もしなくてはならない。

今は持ちやすさなどの事は無視し、とりあえず柄が作れればそれでいい。

石板教科書の通りに作ってみた。

申し訳ない気持ちのまま、また再度、丸太小屋の建材を拝借し、手ごろな40センチ程度の角材の端に焼けた松明の破片を置いた。

その焼けている破片に息を吹きかけながら、角材の一部を少しづつ燃やしていくのだ。

その焼け焦げた穴に先ほど作製した打製石ナイフを入れる。

グラグラする件については明日、木の樹脂を塗り、焼き固め、ツルなどで補強すれば問題無い。

これで、ようやく石斧が完成だ。

明日は伐採の日にしよう。

今夜はベタベタして気持ち悪いが、掛け布団も無いので、このスーツのまま寝る事にしよう。

エルコは丸太小屋室内、敷布団を焚火近くまで引っ張ってきて、深い眠りについた。


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