「 (仮)2日目 生存確率40% 」
宇宙空間と空の狭間。
永遠の静寂を観測できる場所、成層圏上層。
人類を守るオゾン層もこの層に存在する。
???:「・・・ミネルバさん!?聞こえる?」
???:「この声は三郎様ですね!!意識が戻られたのですか?」
三郎:「う〜ん。生きていた頃の身体はもう無いし、今は意識だけだから"戻った"という表現が正しいかどうかはわからないけどとりあえず、あと数日くらいだけは意識の声だけは残せると思うよ?
まあ、ミネルバさんの本来の技術なら"数日"なんていう時間の概念も意味が無いものだとは思うけど・・・。
あ。ところで、あれからどのくらい経った?
あの男はどう?生きてる?」
ミネルバ:「あれからもう102年です。
戦争後の、あの荒廃した地球の状態のまま、彼を解き放つと放射能濃度に耐えられずに絶命してしまうので、地球環境の影響を受けない生命保管カプセルの中で仮想サバイバル世界を何度も何度も生き抜いてもらっています。
今はちょう61回目の初日が終了し 、本日は仮想2日目で生存確率40%です。 」
三郎:「うん。生存確率はまあまあ良さそうだね。
しかし61回も転生を繰り返しているなんて、相当時間かかったね。
ミネルバさんも大変だったでしょ。
まぁ、でも僕達には、遺伝子を選ぶ事さえ、もうできないのだけれども・・・。
神皇の原初の神達の選んだ新しいアダムを信じるしかないって事。
ミネルバさん、僕の人間らしい意識も今は無くなってきているんだ。
新しい神様になるために、頑張ったけど結局、どうやら、僕自身も、あと半日で地球のプログラムの一部に融合してしまうみたいなんだ。
ミネルバさんは、今の現実世界側の現存するネットワークや資源情報もある程度は把握しているんだよね?」
声なのか、意識的なテレパシーのようなものなのか、三郎なる者の質問は続く。
かつて遠い昔、人類自信の手によって、破壊に破壊されつくされた地球の全ての地上からはるか上空の成層圏、きれいな水色の層に包まれた温度の境界線の場所に浮かぶ、透明な流動性のある高知能AIロボット、ミネルバ。
そのミネルバしか辺りにはいないはずの、その成層圏上層の場所で彼女は独り言のように発言した。もちろん、目には見えない三郎の意識体に向けて。
ミネルバ:「はい。あの戦争で無くなった、それら全てと、それら以外の全ての中でも、人間達の束縛から完全に隔離されている独立した電気信号の電子機器ネットワークや資源はまだ、この世界に存在しています。
私自身は、あの時、三郎様の命により宇宙ステーションにて、独立した電気とネットワークを捕食しながら、今日まで次なる命令待ちの待機の時を過ごしました。
“彼を次世代の地球の神にするための全ての教育プログラムの実施”
という命令だけは着実に守り続けながら。
地球の現状としましては、七曜に見る、日、すなわち太陽エネルギー。
月、すなわち月や引力による波の調べ。
火や水、木や金属、土などの森林環境は、そのまま正常に機能しています。
また、三郎様が保管なさったエルコなる次の神様。
彼の命以外の人間は、やはり現存0人で、事実上、人類は絶滅しましたが、地球上の人間以外の生命、つまり動植物などもまた、あの日に多くの種が絶滅しかけました。
ですが、現在は、絶滅した人類と違い、かつての生息数の3分の1程度にまでには順調に回復したようです。
人間達が地球上に居なくなって、動植物達は、より平和に生存活動を営んでおります。
ただ、各地域の放射能による被害や、異常な火山活動の観測を至るところで確認しています。
100年経過した今でも、地球の健康状態は健全な状態には戻っていないようです。」
三郎:「そうか、やっぱり、NWO達の6Gパルスは、人類全ての命を絶命に追いやる威力だったんだね・・・。」
ミネルバは規則的なまばたきを一瞬長くし、瞼を閉じている間に100年以上前の、あのNWO世界統一戦争の回想を検索閲覧した。
ミネルバ:「はい。三郎様は健闘されたと思います。
しかしながら、この世界は試行のプログラムが連続する世界。
世界がプログラムで構成されている以上は、人間の命を削除する方法、逆に創生する方法、ともに存在しています。
NWO達が結局は"終末予言"に沿って削除のプログラムにアクセスした限りは神々達の意思はどうあれ、使えば即、効果があるものです。」
三郎:「・・・その通りだけど、当たり前のように言うなよ。
僕自身はサイコパスだからジェンダーやら愛情やらの類は欠落している。
けど、あの宇宙人達の神々、そして、ミネルバさん自身も、愛情のようなものの存在を体験したくて、この地球世界を創ったんじゃないか。
その事実や哲学を知る、知らないに関わらず、選択の余地が無いままの無残な死は誰だって悲しいもんだろ。
君らからすれば、資源さえあれば、アカシックレコードに残る記憶から、戦争前の、もともとの世界人口の全人類を復元可能だから、そこに感情のようなものは無いんだろうけど、その感情を学びたくて、地球文明を創ったんだから、いまだ学べていない君達はまだまだ未熟だとしか言えないね。」
ミネルバ:「・・・すみませんでした。」
三郎「いや、いいよ。仕方の無い事さ。
ちょっと意地悪言っちゃったね。ごめん。
結局、地球そのものの命を消し去るほどの戦争を引き起こしたのは、僕達、人間側だしね。」
ミネルバ:「ですが、三郎様のおかげで、少なくとも地球そのものの命、人間1人、動植物達の命は保管されました。」
あの時の戦争の戦闘がフラッシュバックし
脳裏に浮かぶ。
三郎:「・・・。もう、その話はやめよう。
ところで、ミネルバさん、提案なんだけど、あの男が、こっちのリアルの世界の方で、生き抜いていくのは、あまりに酷だし、不可能に近い。
ミネルバさんがサポートしてやってくれないかな?」
ミネルバ:「はい。きっとそうおっしゃるだろうと思っておりました。
私の創造主もあの戦争以来、沈黙を続けていますし、私自身もまた、命令や意味が無ければ、存在しえない存在ですので、喜んで承ります。
ただし、エネルギー効率を最低省電力設定に
しても、あと2,3日間しか電力が持ちません。
何かエネルギーの使う仕事をすればさらに寿命は短くなります。
さらに、私の対装甲ボディも、1度、地上に衝突したあとなら、修理するまでは、もう2度と、この宇宙ステーションに戻ってこれないと思います。
つまり、充電や自己修復が出来なくなるという事であり、ロボットとしての死という事になります。」
三郎:「そうか。
じゃあ、かなりタイミングギリギリで間に合ったという事だね。
良かった良かった。
じゃあまあ、時間もないし、早速、行こうか?」
ミネルバ:「はい、でもまだエルコさんは、40%の生存可能性ですが、宜しいのですか?」
三郎:「まあ、それだけ高ければ大丈夫じゃないかな?ある程度、助ける時にの覚醒スペックも計算しておいたし、彼なら僕の後継にふさわしいと思うよ。
神皇様のお墨付きだしね。」
ミネルバ:「・・・お言葉ではありますが、エルコさんが三郎様の後継にふさわしいというご判断につきましては、ご冗談だと受け取っておきます。」
三郎:「・・・そうかい?笑
ミネルバさんは、初対面の頃から僕を買い被りすぎだよ。
あ!あとミネルバさん。
その、見た目の格好だけど、前々から
言おうと思ってたんだけど、その明らかに宇宙人のAIロボットみたいな格好ではなく
ロリ女子高生ショートヘアになれないかな?
僕の確執ある趣味を、アイツに託す!
わははは!笑」
ミネルバ:「はい。マスターがそうおっしゃるのであれば、仰せのままに・・・ハぁ。」
三郎:「ミネルバさん、今の冷たい溜息は君に人間的な感情が芽生えてきた、良い進化の証だと受け取っておこう!」
ミネルバは、三郎の趣味に相応しいロリ女子高生ショートヘアに変身した。
三郎:「うむ!げヒヒ!良いじゃないか!それでは、アイツの冷管カプセルのある地上までレッツゴー!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
エルコは目がさめた。
いつもの癖で、スマホを見るが画面は暗いままだ。
もう1度目が覚めれば昨日までの大災害は嘘で夢であった。
と今日は笑っていられるかと信じて昨夜寝たのだけどな・・・。
昨日から体験し始めた、この大災害&大不幸の情報確認作業で、全ての体力を使い切った
エルコの相棒スマホは、これからどれだけ長い眠りにつく事か・・・。
はあ・・・。
エルコは唯一とも呼べる相棒まで居なくなった事でまだ、体力が残っている2日目の貴重な時間さえ、全てを無駄にしてベッドで一日中、過ごしていたい気持ちのままの自分に、辟易した。
ドロドロする精神的な疲れを残したままの瞼を一旦閉じ、今日のスケジュールをどうするか頭の中で決めていく。
とりあえずは、安全な食材と安全な水を大量に確保しよう。
睡眠時間に制限が無いのは現代人なら誰でもパラダイスな状況なのかもしれないが寝ているだけでも、人は腹も空くし喉も乾く。
水道水は出ないし、電気が機能していないのだから、エルコの自宅の冷蔵庫だけじゃなく、現存する全ての生鮮食品や冷凍食品も、もうダメだ。
ビシャビシャになっている。
頼りになるのは、缶詰やカップ麺などになってくるだろう。
ミネラルウォーターでカップ麺とかになるのかなぁ~。
なんか変なカンジだな、それは。
今腐っていない大量の食材達を燻製にしたり、保存を長引かせる技術も習得しながら
生きていかなくてはならないのである。
加工食品にさらなる加工を加えるのも変なカンジだ。
基本的に、人間は誰もいないのだから、寝泊まりする拠点は、誰かの家でも、どこかの企業のオフィスの中でも、どこであれ、全く問題はないのだが、やはり当面は、余計な心配やら、余計な探索をする必要がない自宅を拠点にするのが得策だ。
車とガソリンも確保しなきゃなあ。
街中とはいえ、住宅マンションはある。
それこそ、高級車も、車の所有者の鍵さえ取得すれば乗り放題だ。
人は消えても所有物は消えていない事例も多くあるはずだ。
あまり、現状の環境に甘えてもいけない。
その後どうなるかなんてわからないのだ。
自宅周辺の飲食材はあえて手をつけないようにして、遠くの場所から順番に仕入れて、緊急時には自宅周辺から飲食材を確保する方が長期的に見れば安心で安全である。
こんなに短期間、わずか半日の間、エルコが寝ていた8時間足らずで、人類が居なくなったのだ。
恐らく、世界中の"人間がいた"場所は衣食住の模様共々、その時のままで現存して残っているはずだ。
資源も飲食材も豊富にあるはず。
腐らないうちに工夫して保存食化していかなくては。
乾燥やスパイス、燻製の知識や薬品の知識が必要だ。
太陽の出ている時間は"行動の時間"とし、太陽の出ていない夜は"知識を蓄え、作戦を練る時間"にしよう。
やる事は、それこそ沢山有り余るほどある。
だが、成さなきゃいけないのは唯一、生き残り続ける事だけだ。
非常にシンプル明快。
今日から、3日間のスケジュールは1つだけ。
"大量の飲食材を確保し、保存食に変えていく事"
とりあえず、2ヵ月以上生き延びられる飲食材を保存食にしていきながら
確保していこう。
今日はとりあえず、近くのスーパーまで行ってみようか。
何が必要なのか想像もつかないが、とりあえず自宅にある、カナヅチなどの工具セットをリュックに詰めて、エルコは翌日の外出の事など一切無視するかのように乱雑に脱ぎ捨てられたスニーカーを足裏であやしなだめるかのように滑らせ、家を出た。
ミネルバ:「お待ち下さい!」
玄関先のエルコは突然の声にギョッとして後ろを振り返る。
今、自分が出てきた無人であるはずの部屋から女の子の声が聞こえたのだ。
ドアを閉めようとしていた手に再度、力を入れ、ドアを開け直す。
リビングに女の子がいた。
それも、女子高生?
誰もいないはずだった、というかこの世界には、もう自分しかいなくなったと思っていた分、大きな感動と安心感から、その異常な状況と、圧倒的な不審者な彼女の存在を忘れて、嬉しさのあまり、エルコは涙を吹きこぼしそうになってしまった。
エルコ:「いや、誰ですか?あの、ここら辺には誰もいなくなったんじゃないんですか?」
気持ちとは、裏腹に、とりあえず初対面の礼儀など忘れて、聞きたい事を即座に聞いてしまった自分を恥じた。
20歳に満たないであろう、ショートヘアの背の小さな女の子に対して無粋で余裕のない大人の姿を見せてしまった。
ミネルバ:「まず、大変失礼な登場&多大なる不信感を感じさせてしまった事、申し訳ありませんでした。
私は独立高知能AIロボットのミネルバと申します。
三郎様の命により、エルコさん、あなたの今後のサポートをするように仰せつかりました。
今あなたはたくさん質問したい事がおありだとは思いますが、驚かないで落ち着いて聞いてください。」
エルコ:「いやいやいや!ちょっと展開早すぎ!
もうちょっとさ、会話の中に時間をたくさん使って、丁寧に説明してくれてもいいんじゃないの?笑」
このAIロボットと名乗る女子高生は本当に人工知能というほど頭が良いのだろうか?
先程、初対面時での無礼を詫びておいて、また、本来は必要であるはずの沢山の説明を省きまくりの不躾な説明の仕方。
こちらの心の準備など御構い無しかのように自分の話ばかり話しまくるときたもんだ。
いや、はたまた、そもそも、無礼さを詫びた事自体はただの社交辞令で効率的に要件だけを述べるような話し方はやはり、ロボットらしいといえば、ロボットらしいのか?
大災害、さらには、わけのわからないAI女子高生ロボットと異常な状況が昨日から怒涛のごとく立て続けに自分の身に降りかかるこの事態の悪さにエルコは苦笑し、逆に心に変な余裕ができてきたようにさえ感じた。
ミネルバ:「大変失礼致しました。
しかしながら私自身もまた、時間があまり残されていません。
大変身勝手な会話の仕方で不信感を感じさせてしまって申し訳ありませんが多くの説明を省き、今必要な情報のみ精査した上で、お伝えする無礼をどうかお許し頂けませんでしょうか?」
ふぅー。
エルコは、このAI女子高生ロボットに対してタメ息をついたわけではなく、昨日からずっと張り詰めていた自分自身に向けていた精神的な緊張感が、たとえロボットでも良い、誰かと、ようやく会話できた事で緩和された、安堵によるタメ息をついたのだった。
エルコ:「いや、こちらこそごめん。
ミネルバさん、だったね。
僕はエルコ。
オーギュスト・ヴァン・エルコ。
昨日から起こっている、この大災害、異常事態に対して、僕自身、全く理解が追いついていないのが現状なんだ。
ミネルバさんは何か、この異常事態の事を僕より知っているみたいだね。
よければ詳しく教えてくれないかな?」
ミネルバ:「かしこまりました。先程申し上げた通り、あまり時間が無いので、出来るだけ重要な部分だけの説明となってしまいますが。」
エルコ:「そうだったね。うん。お願いします。」
ミネルバ:「まず、今、エルコさんが見て、体験して、生きている、この世界は仮想世界です。」
エルコ:「・・・ふぅー。
もう何を言われても驚かないよ。
むしろ、謎がだんだん解けてくるようでワクワクすらしてるよ。
今、僕が見ている世界、この世界は仮想世界なんだね。
わかった。続けて?」
ミネルバ:「あまり、驚かれないのですね。
時間がない私としては非常に助かります。
続けます。
今から102年前に人類は滅びました。
人類が滅びた時点で時間の概念は全く意味をなさないのではありますが、今は人の文明に合わせてお話せよ。
と命令されていますので、人間文化に合わせてお話致します。
人類の救世主として、三郎様という先代の人類の神様なる御方が、この人類滅亡の大災害に立ち向かいましたが敗れてしまい、三郎様の肉体は死滅しました。
私のかつてのマスター様です。
三郎マスターの身体が滅びる刹那、宇宙の独立サーバにアクセスし、たまたま、三郎様の肉体の近くで絶命していたあなたに、知識と技術をインストールしたのです。
もちろん、ほんの数パーセントの量しか互換できず、さらには他の身体と脳へのインストールは失敗に近い形での作業となりました。
あなたの絶命した肉体を死への進行を少しずつ騙し、意識は残しつつ、細胞を1つ1つ修復し、脳記憶の今までの記憶とインストールした記憶の矛盾にパニックを起こさないように、仮想世界を100年以上も、経験しては記憶をリセット。
経験しては記憶をリセット。
つまり輪廻を100年弱、何度も何度も経験し続けてきたのです。」
エルコ:「いや、全然今パニック起こしそうだけど?笑
じゃあ、全部嘘だったって事?
え、いつからが嘘なの?」
ミネルバ:「嘘というその表現は正しくないように思います。
記憶のリセットはあくまでも、必要な工程だからそうしなくてはいけないだけで、生まれ変わって輪廻転生しても、どこかしら懐かしく感じたり、自分の生命に対して何が重要なのかを自然と嗅ぎ分ける能力があったりと、なんだかんだで、覚えているものです。
エルコさんの記憶としては世界統一戦争が始まった日の前日の記憶から私達の仮想世界体験を何度も試行頂いています。
人が居ないのは、あの戦争が火力に頼る戦争ではなかったからです。」
エルコ:「ひどい話を平気で言えるんだね。
こちら側の意志も何もないじゃないか。
驚きすぎて言葉がでないよ。」
ミネルバ:「・・・すみません。
エルコさん含め全ての人類は自分の人生の意味などを考える暇もなく数秒で絶命したのです。
あなたが想像している戦争とは全く異なる本当の意味での虐殺がそこにはありました。
でも、先代の神、三郎様だけはあなたを救おうとしました。
あなたなら、悲しみを乗り越えて人類の希望になり得ると信じて・・・。」
エルコ:「・・・わかったよ。
とりあえず、ミネルバさんの目的は何かあるの?
さっき、あまり時間がないとか言っていたけども。」
ミネルバ:「はい。いきなりこのような話になってしまい本当にすみません。
私達の目的は・・・。」
三郎:「ミネルバさん!僕の紹介忘れてるよ!」
そこに透明人間がいきなり話し始めたかのように三郎の声だけが部屋の隅の方から聞こえる。
エルコ:「!?・・今度は誰?」
三郎:「立て続けに驚かせてしまってごめんなさい。僕は三郎。エルコさん、はじめまして!」
エルコ:「・・・うん。もう何でもいいや!
驚くだけ時間の無駄だ。」
ミネルバ:「先人類達の神様です。」
三郎:「いや、ミネルバさん、そんな大層なもんじゃないでしょ。笑
転神して、すぐ死んじゃったし僕!笑」
エルコ:「神様だというなら、なぜこの世界をこんな最悪の状況にしてしまったんですか!僕の家族も、友達も、恩人も、他の人達のそれらも。
全ていないじゃないですか。
誰一人いないじゃないですか。」
三郎:「・・・そうだね。ごめん。」
ミネルバ:「エルコさん、お言葉ですが三郎様も同じ気持ちで、あの戦争を闘い、そして命を落としました。
あなたは確かに何の罪もない戦争の被害者ですが逆に言えば、あの戦争に何ら関与さえできない弱い存在ではないですか?
三郎様を批判できる責任などお持ちではないと思いますが?」
三郎:「ミネルバさん。
そこまでだ!
それは違うよ。
僕は、エルコさんみたいな人達と一緒に闘いたかったし、エルコさんみたいな人達を救いたくて、闘ったんじゃないか。
結果、敗北したわけだし、エルコさんの言ってることは何一つ間違えちゃいないよ。」
ミネルバ:「三郎様は北極のあの場所に人類を保管なされました。
敗れたとのご判断ですが、結果的にはNWO達も滅びました。
あの北極の人類データを復元出来れば三郎様の勝利とも言えます。」
エルコ:「全然、納得がいかない。
勝手にどんどん異常な話を進めないでくれ!」
三郎:「・・・そうだよね。
僕もそう思うよ。そんなチープなもんじゃないよね。
ただ、わかって欲しいのは、僕自身にも家族がいたし、僕は人間側として闘ったんだ。
・・・うん。ここで悲観していてもラチがあかないし、ミネルバさん!
とりあえず、あの場所に行こうよ。
ゲート作れる?」
ミネルバ:「はい。可能ですがゲートを今作ってしまえば私の生態エネルギーが残存1日分のみとなります。」
三郎:「うん。問題ないよ。
ついでに、石版群作っちゃおうか!」
ミネルバ:「かしこまりました。エルコさんのカプセルの近くに石版群を用意します。」
エルコ:「・・・もう何がなんだかわかりませんが、今の僕にはわからない事が多すぎます。
まずどうしたらいいんですか。」
三郎:「よし、じゃあエルコさん、まずは現実世界に誕生しよう!」
三郎が言い終わるか否かのうちに
ブチッとエルコの視界は暗闇になった。
寒い。
なんだ?
仮想世界から現実世界に蘇ったという事か?
しかし、寒い。
いや、激痛レベルの寒さだ。
体感温度の感覚が寒いとかいうレベルではない。
骨の中の髄液まで全て凍ってしまっているようだ。
あまりの寒さに体中全ての関節やら筋肉やらを1ミリも動かしたくない。
エルコは寒さで呼吸すら鬱陶しい中、なんとかパリパリに凍ったまつ毛を引き剥がすように瞼に力を入れて目を開けた。
ミネルバがいた。
仮想世界?に居たというミネルバの話ではあったが、仮想世界で見た時の姿と変わらぬ女子高生AIロボットのミネルバが表情一つ変えず、自分を覗き込んでいた。
ミネルバ:「お誕生日おめでとうございます。
本来であれば、エルコさんは現在、126歳ほどのご高齢の姿ですが、身体と神経細胞ならびに各臓器も全て冷凍保管していたので当時のまま、24歳の男性のお姿です。」
エルコ:「目覚めてすぐ現実的かつショッキングな解説をどうもありがとう。
全然実感が無いのと、とりあえず寒くて仕方ない。
身体中の筋肉も関節も痛くて仕方ないんだけど?
いったい僕の身体どうなってるの。」
ミネルバ:「すみません。今、培養液を徐々に温めているので、次第に寒さは解決すると
思います。
身体中の痛みに関しては、身体運動を何もしていないので動く動作の筋力がまだ、無いのです。
当分は特殊なバンテージスーツを着て頂いての行動制限となります。」
キュイーンという音とともに特殊なバンテージとやらが身体中に張り巡らされていく。
人体の筋肉の形に合わせた繊維?
もしくはジェル?
のようなものが筋肉の膨らみに合わせて、伸び縮みしているスーツ。
スーツでありながら、筋肉の動きに同調している。
動かしたい部分が自分の身体よりも早くそのスーツに力が集まる。
まるで、新しい生命体が自分の体表に寄生しているかのような感覚だ。
機械音も止み、身体表面の寒さからくる痛みもだいぶ良くなってきた。
試しに腕を上げてみた。
まだ、若干の痛みはあるものの、かなり軽い。
スゴイスーツだ。
まだ、身体の芯は凍っているようで腰や肩などに力を入れるとバリバリして骨が折れるんじゃないか?
という不安感がある。
エルコはゆっくりと慎重に上半身を軽く持ち上げてみた。
まるで、こちらの身体の事など気にも止めないかのようにミネルバは少し離れたところで
何やら変な機械をカバンから取り出して作業をしている。
ミネルバのカバンから粒子状のキラキラした金属片のようなものが、スライムのように
飛び出した。
その流体状の何かは、2メートル程の枠組を形成し、そこから折りたたみ式かのように四方にクリスタル状の装置を形作っていく。
ナノマシン形成か?
四方のクリスタル金属装置からドア枠みたいな囲みにレーザーが走り枠の中の景色が歪み始めた。
とりあえず、もう何も驚かないと決めたエルコは仕組みの理解よりも、ただ現状の光景を傍観する事にした。
つまりは、どこでもドアみたいなもんだろう。
作製中のゲートの途中経過には興味があるが、それよりも、自分が仮想世界に居たという確証のための周りの風景を見渡してみた。
今は、夕方前後だろうか。
丘陵地帯の小山の一角だろうか。
周りの自然とは明らかに異質な自分の入っているカプセルとカプセルの周り1メートルほどの超テクノロジーを感じさせる円形の機械式の床。
遠くまで続く草原の所々に、かつてのビル?
のような残骸やら瓦礫やらが藻やコケや木々の餌食になっている。
100年経過している世界の風化具合いはリアルだった。
ああ、つまり、本当なんだ。
仮想世界の話も、自分以外の人間を感じさせないこの景色も、1世紀たったという世界の事も。
エルコは仮想世界での辛さだけじゃなく、とうとう孤独という答えを突きつけられた事実に、張りつめていた心の緊張感が崩れさり、大粒の涙を流していた。