1話 工瑛太は今日も一徹無垢
目に留まりましたら、是非ご一読ください!
それでは、『AIちゃんは今日も難攻不落』スタート!
キーンコーン
カーンコーン
夕暮れを告げる鐘が鳴る。
校舎入り口から、続々と文化部が湧き出す。
運動部も部活を切り上げ、ストレッチを始める。
校舎裏、そのような生徒達が寄り付かない場所。
校舎が作る長い影の中に、向かい合う2人の姿。
無論、タイマンではない。告白のワンシーン。
真剣勝負という意味ではタイマンに通ずるものはあるが。
甘酸っぱい青春の1ページが、今まさに綴られようとしている。
「工君のこと、ずっと好きでした。私と付き合ってください!」
ありきたりだが、正当ゆえに決定力のある一撃。
彼女の愛らしい顔立ちと、羞恥心を隠そうとする奥ゆかしさが相まって、必殺技レベルにまで昇華している。
標準的な高校生なら99%が1発KO間違いなしの神の一手。
冴えない雰囲気の少年は、何やらたじろいでいる。
夢にも思わない一撃に、ヒットポイントが大分削られたのだろう。
「あの…」
少年、その調子だがんばれ。
後は冴えない男、お決まりのカウンター攻撃
『本当に、僕でいいんですか?』を放つだけだ。
古来より伝承されるその崇高な反撃は、更なる高みである『そんなの冗談でいうわけないじゃんっ…』を半ば強引に引き出す古代詠唱なのだ。
少年は意を決したのか目を閉じ…
「ごめんなさい!」
なんということだろう。誰が想像できたであろうか。
チャンスを棒に振るという言葉は、今日この出来事のために作られたに違いない。
フルスイングもいいところだ。バチが3ベースヒットすることを祈ろう。
少年は繰り返し謝り、その場を去る。
少女は校舎裏に1人、影は夜の闇に溶け込む。
少し切ないが、これもまた青春の1ページなのだ。
◇◆
少年は帰宅路を行く。
冬の夜、凍てつく空気の塊を掻き分けるように走り抜ける。
顔の赫らむ様子は、冷えた顔を温めようとする生理現象か。
はたまた、告白に対する照れの表れか。
或いは別の何かかもしれない。
少年は商店街を行く。
平行線に並ぶ店の光が、夜の街を優しく照らす。
「あ、瑛太兄!おかえりー」
少年の向かう先には、笑顔で手を振る少女の姿がある。
「愛佳か、ハァハァ…ただいま!買い物帰りか、持つぞ。」
「ありかとー!ところでどうしてそんなに急いでるのかなー?」
「妹よ、お前はまだ幼すぎる。教えられることは何もないのさ。」
長ネギをビニール袋から取り出し、青臭い台詞を口に出しながら、抜刀のポーズを取る。まるで剣士である。
「兄よ、侮るでない。私も既に中学生ぞ。」
折れ曲がった茄子をビニール袋から取り出し、今日習った古文調で応答しながら、銃口を向けるかのように持ち直す。宛らガンマンなり。
「いくらお前が血を分かつ兄妹であろうとも、兄にも隠し通さねばならぬことはあるんだ。小娘よ。」
長ネギの二本に別れた先端は、茄子を持つ手を捉える。
しかし、すかさず持ち手を変え、兄の頭に照準を合わせる妹。ニヤリと笑う。
「それはもしやベッド裏に潜む、お枕草子のことかえ?お殿や。」
青き剣ははビニール製の鞘に戻っていく。
「愛佳、ちょっと喋り方きもい。」
「もう!誤魔化さないでよね!」
仲睦まじい兄妹は、商店街を後にする。
少年は階段を行く。
2階の電気は消えている。廊下は薄暗いが、月明かりが格子の窓から差し込み、何も見えないほどではない。
「瑛太兄ー、エッチな本読む前に洗濯物取り込んでねー!」
「読まんわ!」
妹のお願いをスルーしつつ、自室に入る。
部屋の電気は消えている。
窓の位置は月とは真逆だが、部屋には光がある。
ディスプレイの光だ。
少年は電気もつけずにディスプレイの前に駆け寄る。
普通ならここで、『こいつ、本じゃなくてDVD派か…』と思うだろう。
だが真実は異なる。
「AIちゃーん、ただいまー!会いたかったよ!」
「AIちゃん?」
「AIちゃん あいらぶあい〜」
「もう、騒々しいわね…」
画面外から、両耳を塞ぎながら少女が歩いてくる。
「今日も冷たいなあAIちゃんは〜。折角走って帰ってきたのにさ!」
「誰も頼んでないわよっ!」
美人とも可愛いとも表現できる、綺麗な顔がくしゃっと歪む。
「まあまあそう言わずにさ。はいこれ、プレゼントー!」
PCにUSBを差し込み、ファイルをデスクトップにドラッグ&ドロップすると、少女の前に突然プレゼントボックスが現れる。
「…なにこれ」
「まあまあ開けてみてよ。」
リボンをほどき、箱を丁寧に開ける。
更に中の四角い包みを開封すると、青いリボンが入っている。
「わあ…かわいい。」
ボソッと呟く。少年には聞こえていない。
「どう?AIちゃん?つけてみて!!」
長く艶やかなブロンドに結びつける。
「別にあんたに言われてつけた訳じゃないから!」
「かわいい!かわいいよ!素敵過ぎる!!」
「これ、どうしたのよ?」
「帰り道、商店街のアバター屋さんの前を通った時に目に入ってさ!ビビッと来たんだよねー。AIちゃんに絶対似合うと思って買っちゃった!」
少年が、長ネギ剣士になる前の話である。
「あんたまた衝動買いして!いい加減彼女でも作って、貢ぐ相手見つけなさいよ!」
「AIちゃんが一番だー!」
「ダメだこいつ。話が通じない…」
ドンドン
ドアをノックする音が鳴る。
「瑛太兄!早く洗濯物取り込んでよ!」
「わ!今絶対入ってくんなよ!」
「…お取り込み中?」
「決してお前が想像していることは行われていない。」
はいはい、と言いながら階段を降りていく。
「じゃあ、AIちゃん、また後でね!」
「どうぞ、ごゆっくり。」
バタン
部屋には少女が1人。
彼女は少年・瑛太のパソコンに住む、AIの『AIちゃん』。
これはAIに恋する少年と、難攻不落なAIの日常を綴った物語。
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「瑛太…ありがと。」
…案外、チョロインかもしれない。
最後までありがとうございました。
次回もよろしくお願いします!
<Tips>
AIちゃんはあんまんに目がない。




