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場外乱闘クラッシュ妹s

「我が家は先祖代々、一族全員赤毛です!嫁いできた母は金髪、祖母は銀髪、それでも生まれてきた兄弟は赤毛です。ということはつまり?」

「へえっ?つ、つまり???」

 ここでまさかのクイズ出題!?

 わかんない。難しい。

「はい!つまり!」

 モニカは生き生きと瞳を輝かせている。

 さすが魔性の妹はムチャ振りがすごいわ。

 きっと振り回されるハラハラドキドキがやめられないとまらないのよね。魂の姉妹だったら正解できなくて絶交されるところだ。危ない。

「えっと。ええ~っと……、モニカと親戚になれば、赤毛と仲良くなり放題……とか?」

 私は愛想笑いで誤魔化しながら様子を伺う。

「惜しい~!ほぼほぼ正解です」

 ボケに行ってニアミスとはね。

 『ほぼほぼ』という単語の信頼度はいかほどのものなのか。

「正解は、『ウィリアムお兄様と結婚すれば必ず赤毛の子供が生まれる』です」

 すごい。カンタベリー家の血筋スゴイ。すごい怖い。遠い未来、国民は全員赤毛になってしまうわ。

「ですからいかがでしょう?お兄様と結婚して、大好きな可愛い赤毛の子供を持つという人生設計は」


 空白の時間があった。

 私は驚いて目が点になっていたし、周りを確認する余裕はなかったが、おそらく隣のカーマインも同じようにあっけにとられていただろう。

「えぇッ!?これそういう話なの!?」

「勿論そういう話です。わたくしは本気です」

「で、でも……。本人のいない所でいきなり言われても、返事できないわ」

「何もいきなりではありません!むしろ遅すぎるくらいですわ!」

 モニカは用意していたらしい菓子の詰め合わせをさっと取り出し、トングで掴んでテキパキと皿に分配し始めた。その中の、ひと際美しい飾り菓子をテーブルの中央の皿に、視線を集めるようにして乗せる。

「よろしいですか。お姉様と第二王子殿下は、お似合いの高嶺の花なのです。注目されているのに挙動が不審過ぎます。お二人はロマンスの噂もあり、仲睦まじくて、王子妃狙いの女子も、侯爵家と縁続きになりたい者も割り込めないほどでしたのに、いつまで経ってもご婚約が成らないのはヘンです」

 お見合い王子・リュカオンの女避けとして、私という存在は充分役に立っていた。しかしその状況もそろそろ期限切れか。

 昨年の学年末、男子生徒にちょっかいをかけられたり、リュカオンがやたらと周囲を牽制するように行動を共にしたがるのは、現状維持が長すぎて、効果が薄れているからだったのだ。

 次にモニカは中央の菓子の周りにそれぞれ別の種類の菓子を並べた。

「何か事情がある、あるいは元から婚約する気がないのだと、気付き始めた有象無象が本格的に動き出す前に……」

 最後に赤いドライフルーツが乗った菓子で周囲の菓子をぐいと押しのけ、真ん中の飾り菓子の隣に置いた。

「我がカンタベリー家が蹴散らしますわ……!」

 頼もしい。

 でも見合いが大変なのはリュカオンだけで、その策略に嵌って、巻き添えでモテない私は困っているのよね。

「縁談除けが必要なのはリュカオン殿下だけで、私は別に……」

「まあ、縁談除け。なるほど。お姉様にも必要ですね。その名目で婚約していただけるなら是非しましょう」

「えっ?いや、私には縁談なんて全然……」

 話が噛み合わないのは気のせいかしら。

 モニカは可愛らしい顔なのに、二゛ゴと凄みのある笑い方をした。

「ありますわ。お姉様にも有益な縁談が、今まさに目の前に!」

 うわあ、賢い。詰将棋かな?キレイに揚げ足を取られた。

「んんん……。その、さすがに、子供の髪色で結婚相手を決めるほどではないっていうか……」

 そこまで常軌を逸した赤毛コンプレックスだと思われていたというのも、心外だ。

「それはレア度の高い付加価値に過ぎません。けれど、他の条件でも決して引けはとりませんことよ」

 話題豊富で機転に優れたモニカの話術は、苦し紛れでアイデア勝負の私とはモノが違う。

 今の私は猫に弄ばれるネズミの気分よ。


「ウィリアムお兄様は、将来に渡って王都での仕事が決まっていて、お姉様に慣れない領地暮らしはさせませんし、従属爵位を継ぐのも、新しく叙勲を受けるのも、婿入りするのも、フレキシブルに思いのままです。側近の護衛騎士として腕に覚えがありますから、二人きりでもお姉様をお守りします。それから景観を損ねない程度に見た目も良くて、お姉様の美貌を引き立てますわ。何よりアホではありませんが実直で、面白いように手のひらで転がりますよ」

 褒めかたが辛辣。最後の方本音がダダ漏れなのよ。

 確かに彼は申し分ない好青年である。

 ウィリアム・カンタベリーとは、リュカオンと一緒にいる時だけの付き合いで、それほど親しくはないが、4年もあればお互いに人となりを知るには充分だ。文武両道、容姿端麗、将来有望と三拍子揃って、他の女子からも人気、紹介してくれと頼まれることもある。

 カンタベリー家は古くからの臣下の家系で、単なる土地の領主ではない。箔付と発言権の為に土地を拝領しているが、領地の管理は二の次で、宮仕えが伝統的な家業だ。

 我が家にとってのクロードやケンドリックのようなものね。

 姉2人、妹2人の5人兄弟の第三子で、ウィリアムは嫡男だったが、幼い頃から王子の側近として頭角を現したので、爵位はすでに上のお姉様が婿養子を取って継いだと聞く。

 大きな身体にキュートな笑顔、実直で従順なワンコ系。ハイスペックな好条件に加えて、テンプレートなキャラ立ちで……どう見ても、攻略対象なんだよなあ……。


「みな少しでも条件の良い結婚相手を探していますから、釣り合いの取れるところから順に決まっていきませんと、後がつかえてしまいますわ。これは普段お姉様が行っている人助けの一環ですのよ」

 優先順位の一番は、私でもなく王族でもなくヒロインなの!ヒロインが先に誰を攻略するか決めてくれないと、私だって決められないよ!争うのも怖いし、好きになってから譲るのは辛いもの。

 いや、それより先に順番待ちのお見合いを片づけなきゃ。引く手あまたのウィリアムをお取り置きしておくなんて恨まれてしまう。

「お家の事情もあるでしょうから、第二王子殿下とさっさと婚約なさってとは申せません。ですが、我が家の事情なら分かっていますから堂々と言えます。お兄様とご結婚なさってください」

 ここまで言うからには、ウィリアムは条件だけでなく、私のこともちょっとは女の子として気に入ってくれているのかな?もしそうだったら、ヒロインのルートが確定した後に考えてみよう。ウィリアムみたいな優しい人と、婚約者として接すれば、きっと好きになってしまうし、悪い話ではない。

 何より断然リュカオンより御しやすいわ。

「考えてみるね」

「ちょっと待ってください!」

 にこにこ上機嫌のモニカが差し出した菓子の皿を受け取ろうとしたところで、カーマインがさっと横から取り上げた。

「結婚相手の条件でしたら、イリアス兄さんだって負けてません!将来性は二重丸。騎士の方ほど強くはないでしょうが、護身術に問題はありませんし、その分を差し引いてもお釣りがくるほど頭がいいんです!」

「おつり?おつりってなんですの?」

「小さいころから英才教育で外交と貿易について学んでいる上に、今は平民と言っても、バーレイウォールの傍流ですから血筋は尊いです。容姿に関しては、一目瞭然で言うまでもありませんよね。兄妹の髪色だって、赤・黄・緑と色とりどり。赤一色よりも、お姉様に必ずご満足いただけます」

 子供の髪色で夫を選ぼうとしてるような言い方は、人聞きが悪いから止めてもらえない?完全に誤解なんですよ。

「一般的な条件では、モニカ様の兄上様に及ばないでしょうが、お姉様の伴侶としてイリアス兄さんが劣るところはありません。どうかご再考下さい」

 カーマインは奪った皿の、赤いドライフルーツが乗った焼き菓子を手掴みしてバクリと一口で頬張り、残りを私の前に置いた。

 それを見てモニカはコロコロ笑う。

「やられっぱなしの覇気のない方より断然好感度上がりますわ」


「イリアスはもちろん素敵よ。ウィリアム様より親しい分、よく分かっているわ。食堂で騒がれるほど人気なのをあなたも知っているかしら?私には勿体ないくらい。だけど、血が繋がっていなくても、姉弟は結婚できないでしょう。あなたのお兄様も困ってしまうわよ」

 カーマインはもぐもぐと咀嚼している間、迷うような表情をしていたが、飲み下すのと同時に意を決して顔を上げた。

「イリアス兄さんは、まだ養子に入っておりませんし、お姉様の弟ではありません。これまで一度もバーレイウォールを名乗らず、姉上とお呼びしたこともないはずです」

 ん?弟ではありませんってどういう意味?

「……そうなの?確かに、姉だと認めてもらったことは一度もないのだけど……。それは同じ歳で、イリアスの方が兄らしいからかと……」

「なぜ誤解が生まれたのか分かりませんが、おそらくそう思っているのはお姉様と、お姉様がそのようにご紹介された方だけです」

 なぜ誤解したの?って言われたら、それはたぶん、ちょうどイリアスが来るぐらいの時期に、シャロンを養女にしようと画策していたからだ。妹が欲しいと言っているのに、お父様が細かいことを気にせず弟を連れて帰ってきたのかと思ってたから。

 え~……?イリアスって義弟じゃなかったの~。

 えっ、じゃあ今思うと私の行動は、子供とは言え色々慎みが足りなかったのでは……。

 平気でパジャマでウロウロしてたし。絶対他にも油断してたよね?

 私はショックを隠し切れず、額に手を当てる。

「でも、他の人はともかく、イリアスが事情を説明しなかったのはどうして?誤解を解けばよかったのに」

「それは……。兄に気持ちを聞いてみたことはありませんけれど、おそらく訂正するのが虚しかったからではないでしょうか」

 確かにね!結婚相手と思って出会った同じ年の女子に弟扱いされたらやってられないよね!

「とにかく!イリアス兄さんは、お姉様の伴侶にお誂え向きどころか、侯爵閣下が見つけて教育された、正真正銘、誂えた人材です。お姉様のお気持ちが得られない場合は仕方ないとしても、条件で選ぶなら、わざわざ外部の方を迎える必要はありません」

 そうか。誰とも結婚できないって焦ってた時、ケンドリックが否定したのは、イリアスがいるからだったんだ。

 おそらくイリアスは、私がどこかへ嫁ぐか、私と結婚するかしたら、侯爵位が貰えるのだ。

 我が家の後継者は私しかいないが、私自身にバーレイウォールの侯爵位は、才覚が足らず重すぎる。なにせ州知事と大会社の社長兼任のような立場ですから。

 傍流で血を受け継ぎつつ、結婚できるほど遠縁で、優秀なイリアスは、最高の婿養子候補だ。早くから手元に置き、教育を施すことにしたのだろう。

 しかし我が家は政略結婚非推奨である。

 父は、あの美しく明晰な男の子を、私が好きになる可能性に賭けた……のかな?

 ごめんね、お父様。私が人生2週目なばっかりに。そうでなければコロリとイリアスに惚れていたでしょうに。

 イリアスにとっても悪い話ではなかったはずだ。主家の娘と結婚しても良いが、したくなかったら嫁に出せば良い。私は、爵位のオマケのようなものなのだから。

「あら、専用に用意した者より、偶然条件が合う方がロマンチックだと思いませんか?」

「ロマンス成分は兄が見出された事実だけで充分だと思っております」

「婚姻に頼らず本当の妹になる機会に恵まれたカーマイン様は、わたくしに本当の妹になるチャンスを譲ってくださると思いましたのに……」

「まあ、うふふ。とても勉強になります、モニカ様。我がオーランド家は10人兄弟です。一人くらいはお気に召す者が見つかりますよ」

 モニカとカーマインがにこやかに会話しているのがかえって怖い。


 白熱している間に、いつの間にか戻ってお茶を用意していたらしいシャロンが、レフェリーのように割って入ってカップを差し出した。

「すぐに飲める温度です」

 あれほど喋ったら喉が渇いているだろうと判断したのか、あるいは二人の話が落ち着くまで待っていたらお茶が冷めてしまったのか。私たち三人は、ぬるいお茶を飲み干しておかわりをもらう。

 給仕の終わったシャロンが席に着き、珍しく積極的に会話に加わった。

「お嬢様方、争っている場合ではないと思います。何故ならこの戦いを制するのはお二人の兄上様ではなく、クロードさんだからです!」

 ジャジャーン!と効果音が聞こえそうなほど、シャロンはこの上なく得意げにドヤった。

「そ、それは本当ですか?」

「高身長・功労者・好感度MAXのクロード様が参戦!?」

 モニカとカーマインが同時に悲鳴をあげる。

 クロードのトリリオン家は、過去に何度も主家の娘と結婚している家柄だって昔言っていたから、ありえない話ではないと思うが……。シャロン適当言ってないかな?白熱した舌戦を目の当たりにして軍鶏のような闘争心に火が付いた?カワイイ顔が見られたから何でもいいけど。

「細かな条件など些末なことです!ローゼリカ様のお心に寄り添って、いつでも一番お役に立つのはクロードさんなんですから」

 クロードに寄せる全幅の信頼よ。確かにクロードはメンタリストの技能があって、私の気分を推し量ることにかけて右に出る者はいないだろう。

「つ、強そう……」

「手ごわいですわ。本気を出されたら太刀打ちできません」

 二人の妹たちは、シャロンの自信に気圧されてしまった。

「私たち、同盟を組んだ方が良いのかもしれません」

「そうですわね。先ずは強い敵を協力して倒しましょう」

 最終的にモニカとカーマインが仲良くなったようだからこれで良かったのだろう。

 ふと様子が気になって、クロードにチラリと視線をやると、後ろの方で真っ赤になって立ち尽くしていた。

 成長してすまし顔が板についてきたと思っていたが、中身の可愛げは健在らしい。

「僕、ちょっと席を外しますね。授業の前にお迎えにあがります」


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[一言] リュカオン圧倒的不利で可哀想可愛い 誰もオススメしてくれる人いないじゃん可哀想…私がオススメしてあげる… ローゼリカがにぶにぶなのはともかく、こんな状況になるようあえて作ったのはきっとパパ…
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