友達以上って何なのよ 友情こそが至高の感情
お知らせのためにとりあえず一話更新します。
順番にちょっとずつ作業している関係でこちら↓
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のほうに先にクロードの幕間が上がっています。
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待っとったんや!というありがたいお嬢様旦那様方がいらっしゃいましたらどうぞよろしくお願いいたします。
手製の表紙が付いておりますので見たくない方はお気をつけて。
陽射しも柔らかくなった夏の終わり。天高く抜けるような晴天は、新年度で心機一転のアカデミーで、学徒たちの意欲までも高く舞い上げている。
私はアカデミー五年目の年を迎え、監督生としての一年間が始まった。
このところ学内の食堂では、昼時になると静かな歓声が連日沸き起こっていた。
波のように伝播する感嘆の吐息により、姿が見えなくとも彼らが食堂に現れたのだとすぐにわかった。
人垣の向こうから現れたのは、勿論、第二王子リュカオンと我が家の養子イリアスである。
リュカオンとイリアスは、柔らかく上品な物腰、同じような背格好、それぞれ際立った美貌で、並んでいるととても様になる。そんな二人が、ふとした時に肩をぶつけてふざけ合ったり、背中を叩いて笑ったり、さらにはコソコソと耳打ちするようなことがあれば、食堂は最高潮に盛り上がった。
これよ、これ!私が望んでいたあるべき姿!
釣り合いの取れた二人が並んでいれば、ついでに私が周囲をチョロチョロしていても、かすんで目立たないって寸法よ!
それに、私とリュカオンが特別な関係ではなく、イリアスも含めた三人で幼馴染なのだという面目が立つ。
イリアス!あなたは何から何まで姉孝行な弟だわ!
あ、弟扱いは止めろと言われたんだった。気を付けないと。
二人は談笑しながらこちらへ歩いてきて、並んで私の前の席へ座る。
それだけで、押し殺した悲鳴が轟き、声量は静かながら、興奮のざわめきで広大な食堂全体が震えるように揺れた。
リュカオンとイリアスがアカデミーのアイドルとなって、日常は賑やかな黄色い歓声で、もっと騒がしくなると思っていたのだけれど、私の予想より最高学府に通う生徒は貞淑で賢明だった。
しかし人気が思っていたほどではないという心配はいらない。ケンドリックの情報網によると、注目度は充分、女生徒のお喋りのタネは、いつでも二人の様子でもちきりだということだ。
ま、王侯貴族も人気商売なトコはあるけど、この国にアイドルという職業はないし、応援の仕方も発展していない。非公式のファン活動をこっそり水面下で行うのは妥当かもしれないわね。
本当はもっと早く、イリアスがアカデミーに入学した時点で、こういう状況になってほしかった。しかし、彼は一年遅く入学しても、私たちと一緒に卒業するつもりらしく、昨年度までは講義が詰まっていて、非常に忙しかった。ようやく今年度から、専門的な講義で好成績を残すべく、受講数を減らし、食堂にも現れるようになったのだ。
私の方でも、我が家における結婚は、当人の意思が最も重要視されることをつい最近知って、リュカオンの外堀工事を無闇に恐れる必要がなくなった。気兼ねなく行動すると、自然と昼食を共にする機会が増えた。
「食堂とはこんなに混んでいるものだったのですね。日に日に増えているような気が……」
「新年度の昼時にしても、今年はいつにも増して人が多いようだな。混雑しているようだから、少し時間をおいてから食事を取りに行くとしようか?」
食事のためではなく、あなたたちを見るために集まっている人がほとんどだから、待っていても数は減らないのよ。
「行きましょう。もし席が埋まってしまっても、私が隣の方に相席をお願いいたします」
私たちは立ち上がり、ぞろぞろと列をなして料理の方へ移動した。
リュカオンと二人の取り巻き、イリアス、それから私とシャロンとクロード。それなりの大所帯だ。食堂は学生たちが多くの人と気兼ねなく交流出来るように、余裕を持って造られているが、こうまで人が多いと、7名分の席がまとまって空いていることはほとんどない。
でも大丈夫。新学期が始まって二週間が経ち、リュカオンとイリアスの行動パターンを学習し始めた生徒たちが、少しずつ席を空けて相席の声がかかるのをソワソワと待っている。
こんな風に、運試しと、少しでも確率を上げる打算の組み合わせはワクワクどきどきしちゃうわよね~。それに思わぬ出会いとイベントが起こりそうでとても良い。だれかうっかりリュカオンに見初められてくれないかしら。
アカデミーは資格取得のための知識だけでなく、規律と協調性、そして自立を学ぶ場所だ。領主免許を取得する主に貴族の男子と奨学生にとっては士官学校でもあり、自立の精神が、生活習慣として身に付くようになっている。その理由は、甘やかされた自分のこともできないボンボンが、身分だけで指揮官となったら、下士官の負担が大きすぎて勝てる戦も負けるからである。
その規則は、領主も士官も目指さない女子でも同様であり、入学資格の要綱には『自立して日常生活を行える者、またはその方法を自主的に学ぶ意欲を有する者』と明確に記されている。
その理念に基づいた食堂は内装こそ優美だが、給仕はおらず、軍隊方式のビュッフェスタイルだ。前世の学食と同じシステムで、つまり大人数を捌くにはこの方法しかないということなのだろう。
高貴な身分も性別も関係なく、全員がトレイを持って自分の食事は自分で選び、準備する。
給仕がすることを自分でやりたくないという世間知らずは入学資格がないので存在せず、自立を尊ぶ気風が育つ。
爵位なしや世襲ではない騎士爵を侮る風潮が全くないとは言えないが、奨学生が一目置かれているのをはじめとして、立場の違う者同士も尊重し合って、楽しい学生生活を送れる場所だ。
素行が目に余る生徒が登場する物語では、『魔力を有する者は例外なく』とか『貴族の子女は全員』だとかで、義務教育の場合が多いのではないだろうか。在籍が義務であれば、おいそれと退学にすることは出来ない。
しかしここでは、アカデミーへの在籍は義務でなく、みな自分の利益の為に試験を受けて入学する。規律を守れない者は退学となることもあり、必然、アカデミーの権力者は貴族の序列とは関係なく、教師である。
教師が高潔でなければならないという採用の難しさはあるものの、指導者が導くべき生徒に頭が上がらないよりは健全であろう。
育ち盛りでトレイに料理を沢山載せている男子たちを放っておいて、私は日替わりのワンプレートランチを一つ取ってさっさと一人で先ほどと同じ席に戻った。今日は待っている間座っていた席があったため、そこを埋めておく勇気がある者はいなかったようだ。すぐ後ろを付いてきたシャロンが隣に座り、私たちは全員が揃うのを待った。
寄せては返すさざ波のように、自主的に道を開ける人垣の向こうから、満足いくまで食事を盛った少年たちが席に帰ってくる。
第二王子のリュカオン、その二人の側近ウィリアムとパーシヴァル、国境警備と外交を司る侯爵家の有力継承候補イリアス、そして近侍のクロード。
神の手掛けた彫刻リュカオンを筆頭に、全員顔がいい。髪の色も彩り豊かで、それぞれタイプの違う性格とビジュアル。
食堂の天窓から降り注ぐ太陽の光を受けて、キラキラ輝く彼らは一枚の絵画のようで、どこからどうみても、ゲームの攻略対象かアイドルグループだ。
はい。序盤の集合スチルをいただきました。
その超美麗スチルのごとき彼らの手元に、上品さのかけらもないほど料理が盛られている絵面が私は大好きだ。だってめちゃくちゃ面白い。
「はぁ……。もうダメ。麗しいお顔を見ているだけで心臓が持たない。今すぐ天に召されそう……」
後方から、こらえきれなくなった女生徒の呟きが私の耳に入ってきた。
顔だけでなく手元も見てみ。盛られた料理のあられも無い姿を。生き返って二度見するレベルだから。
「何を言うの。ありがたくて寿命が千年延びるというのが最近の流行よ」
「そうね。この世に存在しているだけで、刻一刻と新しい美が生み出されていることに感謝して、少しでも多くの瞬間をこの目に焼き付けなくては」
生きてるだけで新規絵みたいなこと言ってるわ。
推しに対する限界オタクの表現力はどこの世界でも変わらないようね。
「昨年までは、お二人揃ってご尊顔を拝する機会は限られていましたのに。今年は供給の海で溺れてしまいそうです…!」
「エラ呼吸よ!エラ呼吸を身につけるの!!そのようなことで、お二人がご友人以上の関係となられた時、壁や天井になる事ができまして?」
「待って?それは因果関係が逆……。お二人がご友人以上の関係に一歩進まれて、恋人同士になられたから、現状の供給過多が続いているのかも」
「となれば、真実の愛を見つけたお二人は、すでに結婚していたと言っても過言ではありませんわ!!」
過言だよ。
それに、ちょおっと聞き捨てならないわね!
リュカオンとイリアスがどんな関係だろうと構わないけれど、恋愛関係が友人関係よりも上位だという認識にはモノ申す!!
人間はレアリティの高いものに価値を見出す。
この国には貴族以上にお金持ちの豪商や不労所得を得ている大地主だって沢山いるけれど、それでも貴族の名誉が尊ばれているのは、数が少なくて血筋が限定しているからよ。ちょっとしかないものに皆なりたいの!
人間関係にもその法則は成り立つ。この国の倫理観においては、何人いてもOKな友人よりも、一人しか認められない伴侶の方が、吟味した特別大切な存在になりやすい。
ここ大事なところだから間違えないで!?大切だから一人しかいないんじゃなくて、一人しかいないから慎重に厳選するってこと。
もちろん人間だって生物だから、生存戦略的な打算のアレそれもある。だから多くの人間が恋愛に関心が高く、恋愛を特別視していることも、一般論として理解はできるわ。
だけど想像してみて。さあ!心の翼を広げる時よ!!
もしも一般的に特別だとされている恋愛よりも熱い友情があったら、それは普通の恋よりもさらにレア!!ということになるでしょう!?
恋人よりも、伴侶よりも特別な親友。魂に灯りが灯るような、一生を左右するような唯一無二の友人を、恋人よりも下位だと位置づけるのは無理がある!ついでに言うと主従も好きです!!
友人どころか、殺したいほど憎み合う間柄だとしても、出会うために生まれた二人の間には確かな絆が存在するでしょう!?そうでしょう?誰だってそう思うわよね?
常識と規範を超えた向こうにこそ、心を揺さぶる感動がある!!
そりゃあ私だって、他人の妄想にケチをつけるほど野暮じゃないわ。
何をどんなふうに愛するかは個人の自由よ。
恋愛関係が好きな人は素敵な恋物語を妄想するもヨシ。私のような友情強火信者は恋を超えたバディ萌えを楽しむもヨシッ!
だけど、感情はどんな種類かよりも、思いの強さによって尊さが決まるべきじゃないかしら!?
単純には名付けられない巨大感情を恋愛以外で片づけるなんてあまりにももったいないの!
どっちが上とか下なんて序列を作るのはナンセンス!序列なんかなくても好きなものは好き。素晴らしいものは素晴らしい。それだけで充分なの!!
って、声高に布教したいけど出来ない!!
今ここで話に割り込んで、普段から淑女耳で聞き耳を立てていることがバレたら、警戒されて今後噂話を集めにくくなる!
だけど誰かに聞いてほしいよぉ……!
イチャイチャしないただ信頼を預け合う友情物語の素晴らしさををおおおお。
『友達以上恋人未満』なんてモノが、ただの言葉のアヤだってことは、分かっているつもりよ。私だって勝手に『友情こそ至高!』と思っているわけだし。
だけどそれは単に一番好きってことで、恋愛を最上のものとする既存概念に一石を投じたい私のほとばしる決意表明であってーーー
「食べないのか、ローズ」
「んはァッ!」
脳内で布教活動の原稿作成に夢中になっていた私は、声をかけられてビクリと身体を震わせた。いつの間にか、全員そろってすでに食事を始めている。
「い、いただきます」
慌てて食事を口に運んだ。
 




