お茶会が全て解決する
いつも仕上げがギリギリです…。
もうちょっと余裕を持って仕上げたい。
中だるみの中盤に、評価、ブックマーク励みになっております。
まずは「第一の女」を探そう。
それが諸々の問題を天秤にかけて出した答えだった。
第一の女とは、リュカオンが生まれて初めて出会った同年代の少女のことだ。
私はゲーム未プレイだ。だからこれまでわからないなりに仮説を立ててやってきたが、この仮説は、シナリオはおろか、キャラクターに至るまで、私の直感や推測に過ぎない。本当に芯から確実なのは『リュカオンがメインキャラクターであること』のみなのだ。
新しい事実が判明したなら、これまでの仮説に囚われず、彼の周辺から空白を埋めていくのが堅実と言うものだ。
しかも最初の女。とても示唆的存在である。見過ごすことは出来ない。
『第一の女』がモブなのかキーパーソンなのか。それは設定を洗ってみないと分からないが、登場人物にはそれぞれ役割というものがある。
モブならば情勢に影響なし。モブの小さな役割は、私がイベントの主旨を理解していれば代替え案を用意できる。
仮に第一の女がヒロインだった場合、シャロンが物語から脱落してしまう。
逆にその役どころが悪役令嬢だった場合、私はお役御免となる。私はシナリオにおける自分の存在意義をもう一度仮定しなおさなければならない。
またあるいは、私の想定を超えて、複雑な立ち位置が3人には設定されている可能性もある。
例えば、『第一の女』がヒロインで、リュカオンに強い影響力をもつ私が亡き者となり、その後侯爵家の養女となったシャロンが悪役令嬢だ、とか。
うーん、死にたくない。頑張ろう。
しかし、現実世界と違い、主題に沿ってデフォルメされた物語世界では、関係性も何もかも簡略に要約できると思っている。俯瞰的に物語を観察しているプレイヤーという存在があれば、それは尚更容易なのだ。
ただ…、一つ恐れていることがある。
それは『この世界』が『物語世界に転生した悪役令嬢をヒロインとする物語』だったらどうしよう、ということだ。
何を言っているか分からないと思うが、私も何を言っているのか分からない。
ゲームまたは小説・アニメ、メディア媒体は何でもいいのだが、作品を楽しむ立場だった者が、顛末を知っている物語の中に転生してしまう話を、転生モノの物語の中でも特に『悪役令嬢モノ』と(勝手に)分類している。派生型のモブ、登場人物外、一周回ってヒロインへの転生も同分類である。未来を予め知っているという強力なアドバンテージで逆境を覆す、運命改変の物語で、傾向としては因果応報の要素が強い。
これらの作品分類は、『乙女ゲーム』というジャンル、『転生』という構成要素が充分浸透した時代から生み出された新しい発想である。そればかりでなく、世界観を破綻させずに一人称視点でメタいツッコミが出来るという素晴らしい発明品なのだ!すごい!思いついた人は天才!
ジャンルとしての縛りが強い中で、作家たちの個性やこだわりが存分に発揮され、沢山読んだがどれもすごく面白かった。
自分の好きな世界に転生したなんてテンション上がる!そうよ!この聖地巡礼に似たワクワク感こそ悪役令嬢モノの醍醐味よ!
しかし、結末を知らない私では、そもそも成立していない上に、ストーリーを知らないと突破出来ない場面が定番であり、詰んだも同然だ。そして何よりゲーム本来のシナリオと、悪役令嬢モノとしてのシナリオ両方予測するのは複雑すぎる。
つまり、『乙女ゲーム』の中に転生したのならまだ良いが、『乙女ゲームの登場人物に転生する小説』の中に転生した、という事を恐れている。
私が転生を自認している時点で、これは『悪役令嬢モノ』だと断定できるのかもしれないが…、そういうメタフィクションな高次視点から、主人公は誰かという疑問を考え出すと、もう私ごときでは手に負えない。訳が分からなくなってくる…。
やめやめ。もう考えるのは止そう。おわり!
では気を取り直して、具体的にどのように『第一の女』を探すのか、話を戻そう。
まず、父に王宮で迷子になった少女の話を聞かなかったか確認したが該当情報なし。子供が登城することも、ましてや迷子になることも珍しいだろうから噂になってはいないかと期待したのだ。しかし外交官である父にまで近衛の話が入ってくることは少ないらしい。
王宮に問い合わせたりして、本格的に捜索を依頼すれば、記録なりなんなり調べることは出来そうだが、聞かれて答えられる理由を用意することが難しい。
次に噂話の本場、社交界での情報収集はどうかと言えば、実は私の母、社交活動を全く行わないので噂を聞く伝手がないのだ。
病弱な母は部屋に閉じこもっていて、家族以外と会うことはない。
私のプラチナブロンドは母から譲り受けたもので、貴婦人らしく物静かで上品な人だ。儚げな今の母からは想像もつかないが、昔は明朗闊達な人物だったという。私を産んだ折に体を壊してしまったそうだ。
大人の力を借りた情報収集の道は絶たれた。
そこでお茶会の出番である。
夜会や観劇など、夜の社交は出来ないが、昼のお茶会ならなんとか出来そうだ。
茶会も礼儀作法や様式もきちんと決まっていて、本来は社交界デビューした大人が開くものらしいが、この際細かい事はよかろう。子供達を集めて、それなりに楽しませさえすればよいのだ。
今は社交シーズンの終盤。王都の子も地方の子も、留守番ばかりで退屈している。子供だけのお茶会は高い参加率を期待できる。
そうと決まれば早速企画立案に取り掛かろう。まずは先立つもの、つまり予算の確認から。
「私が自由に使えるお金ってある?」
「姫様名義の資産はありますが、どれも旦那様が管理していらっしゃいます。無断でと言う訳には参りませんでしょう。何か欲しいものでもおありですか」
午前中の講義が終わって、今は昼食まで自室で休憩の時間だ。三人用に新しくした広いティーテーブルで、シャロンは自主的に補修している。
基礎教育を終えたクロードも同じ時間に高等教育の勉強をすることになり、私達は共に席に着くことが多くなった。二人もその事に抵抗がなくなってきたようで何よりである。
それまで考え事をしながら採点していた私が、唐突に発した声に、クロードはそつなく答えた。シャロンもさっと顔を上げたが、クロードが答えるのを聞いてまた勉強に戻った。
「同じ年頃の女の子を呼んで、お茶会をしようと考えているのだけど」
「それでしたら、ご予算の事は気になさらずともよろしいのではないですか。いずれ、女性側の社交は姫様のお役目となるでしょうし、少し早くはありますが、意欲のあることは旦那様もお喜びでしょう」
「そう?なら良かった。ガーデンパーティなら300人くらい呼べるわよね」
「さっ…300ですか!?」
「やっぱり人数が多いと、招待状一つとっても入用でしょう?家の事を考えると、あんまり変な物も出せないものね。いつも使っているレターセットの単価はいくら?」
「金額の事はともかく、300規模の茶会は難しいのではありませんか」
「庭でも300入らないかしら」
「そりゃあ、このお屋敷では結婚式も行われたと聞きますし、500や600ぐらい何とでもなるとは思いますが」
「やっぱり!そうよね」
「まずはもっと内々にされてみては」
「だって。その内々のお茶会にご招待するようなお友達がいないんだもの。だからいっそのこと全員呼んで、気の合うお友達を探そうかと思うの」
という名目である。
リュカオンの見合い相手は、世襲貴族のご令嬢50人。
公爵から男爵まですべての家を合わせて、8歳の娘は52名おり、リュカオンはその全員に会うつもりでいた。特に家を選んだりせず、総当たり戦をしてきたと言う。
社交シーズン中であったことから、ほとんどの者が王都に滞在していたが、領地で留守番中と体調不良の数人分が減ってしまい、キリの良い所までは家にいる姉妹にも面会したということだ。
『第一の女』は、シーズン中に王宮で目撃されていながら、見合い相手の中にいなかった。という事は、年が違うか、騎士爵以下の家の娘なのだ。
騎士爵というのは世襲制ではない一代限りの爵位である。
全ての世襲貴族と騎士爵の家は大体同数なので、家の数から考えて娘の数もざっと50人ほどだろう。すると同年の女子は約100人ということになる。一つ年上と年下も合わせて招待し、300人のお茶会という計算だ。
お見合いした相手50人を確認する必要はないけれど、そこだけ弾いたら意地悪しているみたいになってしまう。
ここまでやっても宛てが外れる可能性もあるだろうが、ここでうだうだ考えているより、やってみて判る事と判らないことがハッキリした方がいい。
「お料理は軽食とフルーツとお菓子を出すわよ。300人分の量と予算は私では判らないから、シェフと相談するのを手伝ってほしいな。それからいくつか催し物も考えているわ」
「旦那様にはご相談されなくてもよろしいのですか」
「何をするかわからなかったら良いも悪いもないわ。まずは予算とタイムスケジュールを書いた計画書を作るのよ!さあメモを取って!」
「は、はい!」
「招待状と帰りに渡すプレゼントの手配、飾りつけ、メニューの種類と量、それからどのお庭の花が見頃になるか、庭師とも話し合います。金額も見積もりましょう。今回は子供茶会だから、もてなす側も子供よ。この間一緒に遊んだ子たちの他に、あなたのように家の手伝いをしている子がいたら、協力してもらえるかしら」
「物品の手配などは、どの道エース家の管轄ですから、明日にでも呼びます。ちょうど私と同じ年の者がいますから」
「クロード、私達だけの時は僕でいいと言ったでしょ」
クロードは時々うっかり『僕』と言ってしまい、言い直すことがあるので、私の前では取り繕ったりしないように、先日たしなめた。
私が形ばかり怒っている風に唇を尖らせて言うと、クロードはそれだけで叱られた子犬のようにシュンとしてしまった。
「申し訳ありません」
反骨精神の欠片もないわ。こんなに従順でむしろ心配になる。
「謝るようなことじゃないのよ。私たちは一緒にいる時間が長いから、無理せず素直な言葉で話してほしいだけだからね。完璧なあなたじゃなくてもちゃんと好きになるわ。ゆっくりでいいからそのつもりでいてね」
「はい…。わかりました」
俯いてしまった。
繊細だなあ。クロードは。難しいなあ。
「それで、そのエース家というのはうちの御用商人ということ?」
クロードはグイグイと頬を撫でつけながら、気を取り直して答えた。
「いいえ。家臣の家柄の一つで、侯爵家の交易を中心とした事業経営を担っております。その関係で仕入れや買い付けも任せられています」
完全出資子会社と言う訳ね。
「そういえば、あなた達の他に一族で仕えてくれている家っていくつあるの?」
「領地から付いてきた家臣の家系は全部で五つあります。人が増えて分家に分かれたり、あとは待遇の良さから新たに加わった家もありますが、中枢は我々の五家で占められていますよ」
お茶会のもう一つの目的として、シャロンの攻略相手も同時進行で探していこうと思っている。
いくら『第一の女』が怪しいとは言っても、シャロンヒロイン説を捨てたい訳ではない。決定的な結果が出るまでは直感に基づくこの自説を推していくつもりだ。
シャロンのメイン舞台は、やはりここ。バーレイウォール侯爵邸であろう。ゆえにここにはクロード以外にも攻略対象がいるはずなのだ。同じ家格の者はいかにもおあつらえ向きではないか。
さて、ここで表立ってくるのが、『攻略者何人問題』である。
こんな事すらも、ゲームシステムを知らない私には決めがたく悩ましい問題だ。
個々のストーリーやイベントを重視したアドベンチャー系作品ならば、せいぜい10人前後というところだろう。
私個人的には8人が有力だ。
しかしキャラクターを色々集めて編成するパズルやアクションゲームの場合は登場人物100人以上という事もあり得る。そんなにいたら、どいつもこいつも攻略対象だ。
まあ、その場合は個々にシナリオがあるわけもないし、ヒロインにだけ注意していればいいから、かえって簡単なんだけど。
さあ、お茶会の開催で一挙両得よ!
「これが終わったら全員にご褒美アンドパーティだからね!」
ぐいっと力強くガッツポーズで頷くシャロンに対し、クロードは心配そうにため息をこぼした。
「心配だなあ…」
「クロードもその調子よ!言いたいことはドンドン言うのよ!」