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最初からグー!

誤字報告と感想ありがとうございます。

感想の返信ですが、最後にもう一度返信ボタンで確定させる仕様なのを忘れてしまい、返信したつもりが出来ていないことがたまにあるようです。ごめんなさい。

大事に読ませていただき、続きを書く活力となっております。いつもありがとうございます。

 当然ながらランチは中止となった。

 倒れたセレーナを部屋で寝かせ、私とケイトリンはそのままセレーナの部屋の応接セットで軽食を取る。

 ティースタンドに用意された一口サイズのスコーンやクロスティーニ。

 ケイトリンは食べやすそうなピンチョスを、彼女の所作の基準としては荒々しく口に放り込んだ。要は充分に上品だけれども、怒りが伝わってくる動きということだ。

 セレーナよりも当事者であるケイトリンの方が寝込んでもおかしくはないのに、食欲がなくなるという様子もない。ストレスで食べるタイプなのだろうか。ともかく肝が据わっている。


「わざとでないにしたって、反省もなくあの開き直りよう。ユグドラ紳士の名に恥じますわ。今日はお互いに気をつけていましたのに、どうして結局こうなるのかしら~……」

 ケイトリンは怒り心頭に発している。

「今日は気をつけていた?そういえばあなた、食堂に向かう前から少し様子がおかしかったわよね」

「嫌だ、聴こえていましたのね、あなたが忙しくて来られなかった街へのお買い物で、同じようなことがありましたの。わたくし、婚約者のいらっしゃるセレーナを醜聞に晒すわけにはいかないと、必死で守りましたのよぉ~」

 ケンドリックが勝手に私の予定をキャンセルした、旅行前の買い出しね。

 それなら温厚なケイトリンがあんなトゲトゲしい態度をとっていたのも頷ける。

「あのような方を側近において、リュカオン殿下が評判を落とさないか、本気で心配ですわぁ」


 リュカオンの側近として見る限りのパーシヴァルは、真面目で繊細、悪く言えば神経質で融通が利かない。保守的で堅物気味の性格である。リュカオンは鷹揚で泰然自若、もう一人の側近であるウィリアムは陽気で人懐こい。三人の相性は良く、その中でパーシヴァルは歯止め役となっている。

 ラッキースケベを起こすタイプの人間が、堅物設定というのはキャラとして正しい。

 基本的には天真爛漫で優しい人間。気弱だったり純情すぎることも多い。とにかくそういうことをしそうにない、望んでいないという点が重要だ。

 狙ったのではなく、ラッキーによるところがラッキースケベの、ラッキースケベたる所以なのだから。

 望んでいない時点で、幸運どころか不運なのだが……。


 私はリュカオンやパーシヴァルの評判について耳にしたことはないが、実際のところどうなのだろう。

 部屋に控えているシャロンをチラリと見る。

 いつもなら私が何か聞く前に、クロードが心得たように知りたいことについて話してくれるが、今現在部屋にいるのは、私たちがそれぞれ連れてきた三人の侍女だけだ。あんなことの後なので、クロードといえども、男性には席を外してもらったからである。

「ねえ、シャロン。あなたは何か知っている?」


「はい。パーシヴァル・ヘイデング様は、去年あたりから奇行が目立っています。士官候補生の訓練や格闘術の実技で、誰かの股間にダイブしたり、下着ごと軽鎧を剥ぎ取ったりしてよく悲鳴をあげています」

 男女見境なしか。

「よくあることならもっと注意深くなるべきじゃなくてぇ?学習能力がありませんわよ」

 あのような屈辱を受けて、不可抗力だからと簡単に許すわけにいかないだろう。ケイトリンは非難の手を緩めない。

 ラッキースケベは、スケベが起こってから怒られるところまでがワンセットだからね。

「組み手で密着することはよくありますので、同性同士、訓練生同士の時はさほど問題ではありませんでした。女子の訓練生は基本敬遠しておりますし、玉の輿狙いが近づくことがあっても、パーシヴァル・ヘイデング様は絶対に女子とパートナーを組みません」

「そんな方々と一緒にされたら堪りませんわよ。ローゼリカ、あなたもお気をつけ遊ばせ」

 

「私はあなたよりも顔を合わせる機会が多かったけれど、不思議とそういったことは今まで一度もなかったのよ。ね?」

 シャロンは貼り付けたような笑顔で、不自然に口角をぎゅっと釣り上げた。

「それは何よりでございます」

 何?その表情?いつでも可愛い顔だけど、もの言いたげよね。

 私はシャロンの微妙な笑顔の理由に想いを馳せる。

 何か変なこと言ったかな?

 私自身は別にパーシヴァルから被害を受けたことはないはず……よね?

 いつもの談話室での光景を思い出す。


 リュカオンと私と、シャロンとクロード。パーシヴァルにウィリアム。学校だから、カフェ以外では生徒が自分でお茶の用意をするのが決まりだけど、いつも決まって給仕をしてくれるのはクロードとシャロンだ。学校での二人は使用人ではなく、私たちと同じ生徒という立場なのに、失礼しちゃうわ。

 しかし給仕をするのは二人の希望でもある。

 リュカオンも座っていいと言ってくれるが、クロードもシャロンも同じ立場で扱われるのは落ち着かないようで、給仕などの用事を済ませてからという条件で、二人は同席することを了承したのだ。

 私の椅子を引いてくれるのはウィリアム。

 あら?パーシヴァルはいつも私から遠い場所にいるわね。座っている場所もテーブルの反対側だ。

 部屋に入る時も……、出る時も……、さりげなくシャロンやクロードが、私の立ち位置をパーシヴァルから遠のくように誘導している。

 リュカオンは先日、パーシヴァルが立ち上がって行動しようとするのを止めていたな。

 ん?じゃあ皆して私がパーシヴァルの有効射程内に入るのを防いでいたってこと?


 はっとなってシャロンを見上げると、彼女は静かに頷く。

 そっかあ。私って知らないうちに皆に守られているんだね。

 でもコッソリでもいいから教えてほしかったな。


「これまで廊下ですれ違うくらいでは、トラブルが起きることはなかったようですから、油断しておりました。ケイトリン様をお守りできず、誠に申し訳なく思います」

「あなたは悪くないわぁ。謝らないで。むしろ助けてくださって感謝しておりますのよ」

「差し出がましきことながら、今後同じような事が起きた時の対処法をお伝えします」

「そうねぇ、是非お願い」

 私も参考までに聞いておこう。


「ヘイデング様に接触した時点で、すかさず痛烈な一撃をお見舞いします」

 ラッキースケベキャンセラー!!

 なるほど!ラッキースケベは被害者の鉄拳制裁でオチがつく。それを先んじて行う事で途中経過を省いた感じになるのね!素晴らしいわ!

「一歩及ばす絡まってしまった場合でも、慌てず、落ち着いて、体重の乗った攻撃を放ちましょう。それで先ほどのような膠着状態からは抜け出せます。同様の事例を何度も目撃しておりますのでまず間違いありません」

「グーで?グーでいってもよろしいのかしらぁ?」

「拳より、蹴りの方が良いですね。人間は足の力の方が何倍もありますから」

「まあ……。でもシャロン、ご覧になった?わたくし、もがいている間に、いろいろ足に当たったけれど、ちっとも効果がなかったように思いますのよ……」

 当たったどころか、これでもかってくらい、パーシヴァルの顔面を踏みつけていたわよ。

「お優しいケイトリン様。あんなものは痛烈な一撃とは言えません。ローゼリカ様でも、あと三倍は強く蹴れますよ」

 エヘヘ。まあね。護身術がんばって、体も鍛えていますからね。

「あの程度、ヘイデング様にはご褒美レベルです」

 無茶苦茶いうなぁ、オイ。


「高いところから、足の重みで思い切り振り下ろすか、腹筋に力を入れて、曲げた足を思い切り伸ばしましょう。次に効果的な位置、つまり急所ですね。下から順につま先、脛、膝、金的、鳩尾、喉、顎、こめかみ、脳天。その時一番狙いやすいところを蹴ると良いです」

 風向きが怪しくなってきた。

「そうですね……。ケイトリン様の脚力でしたら、自信をもって、殺すつもりで蹴ってください」

「ちょ、ちょっと待って。言葉の選び方がマズイと思うの」

「よくわかったわぁ、シャロン」

「よく判らないで、ケイトリン」

 そりゃあ、それくらい思いきりという言葉のアヤだとは思うわよ。ギャグ漫画で顔が変形しているくらいだったらパーシヴァルに同情の余地はない。だけど、ラッキースケベの代償に鉄拳制裁でチャラというのは根本的解決になっていないし、何より、万が一友達が人を殺してしまったらと考えるとすごく怖い。不運ついでに死んでしまったら誰も幸せになれないわ。

 

「御心配には及びません。ヘイデング様は独特の間の取り方、動きで呼吸が読みにくく、対人戦闘はめっぽうお強いです。その上トラブル体質のため、体は丈夫で非常に打たれ強いです」

「まぁ……、意外ですわぁ。てっきり運動は苦手なのかと」

「そうよね。私もそう思ってたわ」

 こう言っては何だが、鈍臭いので人とぶつかったりしているのだろうと思っていた。

「球技やボートをはじめ、スポーツ万能で成績優秀ですよ。ただし、ダンスは苦手だそうです。他人と息を合わせるのが苦手なので、接触した時も余計にこじれるのでしょうね」

「詳しいわね、シャロン」

「情報収集の一環です。本来深窓のご令嬢の打撃が当たる様な方ではありませんが、せめてもの罪滅ぼしにと攻撃はすべて受けるようにしているようですね」

「ま、まあ一応良心はお持ちのようね」

 ここで初めてケイトリンはパーシヴァルに少しだけ同情したようだ。

「はい。困ったお方ではありますが、決して悪人というわけではありませんから」

 シャロン、超有能~……!!

 落として上げる作戦で、見事にパーシヴァルの好感度低下にストップをかけたわね!


 今後ラッキースケベを食い止めていければ、二人がいがみ合わなくていい。せっかくのバカンス、険悪ではなく楽しく過ごしたいもの。

 相性が悪いのに無理やり仲良くする必要はないけれど、善人の二人なら距離を置きつつ円満に過ごすことは出来るはず。

「どんな方が結婚相手でも上手くやっていけると思っておりましたけれど、今回の一件で、相性の悪い方もいると知れたのは収穫でした。わたくしにも男性の好みという指標が生まれましたわ」

「災難だったけど、一歩前進ね。それで、どんな人がいいの?」

 パーシヴァルが反面教師になったということよね。

 落ち着いておっとりした人かしら?それとも明るい朗らかな人?

「あの方とは正反対の方がよろしいわぁ~……!!」

 可愛らしく顔を綻ばせて、自信満々にケイトリンが言い放つ。


 ケイトリン……。

 いや、それはそうなんだけど。

「あの方との相性は最悪ですわぁ。あなたは以前、性質というのは良し悪しではなく、短所も長所も表裏一体と仰ったわよね?ですから、正反対なら、息があって心安く過ごせるのではないかと思いますの~」

 でもだからってパーシヴァルを基準にしちゃうと、なんか話が変わってきちゃうっていうか。

 あっ、フラグが立ち上がりたそうにこちらを見ている!

「確かに具体的な指標ではあると思うわよ。あの、でもね?もっと客観的な物差しでないと、条件としては分かりにくいかな~って……」

「そうなのねぇ。いつもローゼリカの意見は参考になりますわぁ。対処法も教えていただきましたし、もう怖くありません。よく観察して、性質を見極めますわよ~」

 それは……。

 押すな押すなのネタ振りになっちゃいそうだけど、大丈夫?


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