女好きは才能
では気を取り直して次のファイルを見てみよう。
エントリーナンバー2:マーカス
公爵家の三男坊で、アンジェラより一つ年下の16歳。濃いめのアッシュブラウンヘア。大柄な体格で腕に覚えがあり、アシュレイ殿下の護衛、兼側近を勤めている。勉強も得意で、殿下と同時に入学し、アカデミーは六年目。性格は人懐こく爽やか。
側近なので、アシュレイ殿下と共に孤児院を慰問したり、事前に行われた視察に同行している為、アンジェラと出会っている可能性がある。また彼の家はいくつかの孤児院に大口の寄付をしており、その中にはアンジェラが保護された孤児院も含まれている。
主な出没場所は教練場。好きな色は緑。
公爵家はたいていが、王室の分家で、血筋は尊い。男爵家からすれば、家の格に開きがあるといえるけれども、マーカスは三男で爵位を継承する可能性はほとんどないので、一人娘で爵位継承権を持つアンジェラとはお互いにメリットのある、釣り合いの取れた伴侶候補だ。
マーカスは性格や見た目から言って、年下ワンコ系というところかな。
ワンコ系は以前イリアスがやってきた時にちらっと触れたことがあるけれど、犬っぽい忠実で従順な可愛らしさと、動物的なギラギラした雄らしさが一粒で二度おいしい。ギャップにキュンとくるツボを押しまくるキャラだ。
それから小柄なアンジェラと大柄なマーカスは体格差カプでもある。
体格差は対照的な二人が一緒にいることによって、大きくて直線的な男性らしさと、華奢で丸みのある曲線美が強調される。これも万人受けが良い伝統美だ。
アンジェラは懐きたい姉御肌という感じでもないけれど、そのあたりはプレイヤーの性格や選択肢に依存しているのかもしれないな。
はい、続きまして。
エントリーナンバー3:ジェフリー
子爵家の一人息子で、色の薄い銀髪碧眼の17歳。アカデミーは6年目。眼鏡で線が細く、神経質な印象。アンジェラとの領地は遠く、孤児院にも所縁はないが、ホワイトハート男爵領と王都を結ぶ主要な街道が領地を通っており、家同士も交流があるため、幼少期に出会っている可能性がある。
主な出没場所は自習室。好きな色は青。
男爵が過去に叙勲されたことで格上げされる子爵は、領地が小さくとも、王宮では一目置かれることが多い。家格はジェフリーの家が少し上だが、最近台所事情が厳しいらしく、資産家のアンジェラとは良縁だ。本人は秀才で婚家のバックアップがあれば将来も有望である。
ジェフリーはわりと物静かで、眼鏡もかけているので『鬼畜』か『ツンデレ』かで判定を迷った。眼鏡をかけない鬼畜もいるが、『鬼畜』といえば、『眼鏡』。これは高度に暗号化された符牒であり、おいそれと軽んじることはできない。しかし根気よく観察を続けたところ、真っ赤な顔で
「勘違いするなよ!お前の為じゃないからな!」
と発言する場面を押さえることに成功した。
これによりツンデレメーターが振り切れて、ツンデレ一本勝ちとなった。
ツンデレは今更説明不要の超大手ジャンルだろう。古くはツインテール女子が持つ属性であったが、男子ツンデレが市民権を得たのは、おそらく国民的バトル漫画の愛妻家王子の存在からだと思う。余談だけれど、武闘派のツンデレ愛妻家王子って属性てんこ盛りでキャラクターが濃すぎる。
好みは人それぞれだが、一般的にはツンの度合いが高ければ高い程、希少価値があり尊いという。中にはツンデレの度合いが100:0で、果たしてそれは『ツンデレ』なのだろうか?というキャラもいる。
その基準で考えると、ジェフリーはレアリティ低めのキャラである。程よいと言うか、そこは乙女ゲームなので、判定甘め、糖度高めの設定だ。
最後のファイルは、
エントリーナンバー4:パトリック
パトリックは少し年上で、アカデミーの学位を取得したあとも学校に残っている研究生の22歳。すでに跡を継ぎ本人が侯爵となっている。黒髪ですらりと背が高い。
明るく陽気な女好き。洗練された物腰と年上らしい包容力、お色気を併せ持つハイスペックだが、軽薄な不真面目さが玉に瑕。
主な出没場所は学校中が見渡せる三階テラス。好きな色は黄色。
侯爵には実子がなく、パトリックは養子で家に入っている。侯爵家は伝統的な血筋を持つ資産家であったがそれも先代で途絶えた。
パトリックの属性は『チャラ男』…かな?『チャラ男』というには上品すぎる気もするが、何にせよ女慣れしている故に、完璧な夢見心地のエスコートを実現してくれるという長所と、浮気の心配と嫉妬が付き物という短所を併せ持つ女好き系のキャラだ。女好きキャラとの恋愛は、不安な気持ちからスタートして、固い絆で結ばれた唯一の人になるところまでがセット。非常にロマンチックな展開は脈々と受け継がれしテンプレートである。
ただし、世間一般で言う所の『女好き』と私の定義する『女好き』には隔たりがある。
『女好き』というのは、女性が好きで、節操なく追いかけまわし、誰彼構わず関係を持つ『女癖が悪い』事と混同されやすい。しかし、そうすることで女性を傷つけ、泣かせ、あまつさえモノ扱いしたり、性欲のはけ口とする人物のどのあたりが、本当に女を好いていると言うのか。それは女を自分と同じ人とは思わず、屈折した形で女に復讐を働く『女嫌い』の所業と言えよう。
私が考える真の『女好き』とは、とにかく女性に優しい者の事だ。純粋に女性の傍にいることが嬉しく、楽しい。男がやったら許さないことでも、女なら許してしまうような人物の事である。ある意味では差別主義者とも言えるかもしれない。優しいからモテるので、女癖が悪くなってしまう事もあるかもしれない。結果としてそうなったとしても、女性で性欲を満たすより、イチャイチャする方が好きな奴、それが真の『女好き』だ!
当然、女だから無条件に優しくするというのは誰もが実践できることではない。つまり、『女好き』は女に優しくする才能を持つ者たちのことだ。この定義で行くと、『真の女好き』は一般的な解釈よりもずっと数が少ないレアキャラということになる。
私が見たところ、パトリックは軽薄だが、さほど『女好き』ではない。
さらに、どう見ても攻略対象でありながら、こいつだけ過去にアンジェラとの接点がない。なんか逆に怪しい。どうにも裏がありそうなキャラだ。
注意しておこう。
ここにアシュレイとリュカオンを足した6人が、現在目をつけている攻略対象である。
アシュレイは柔らかな物腰と冷淡な合理主義から考えて、属性は『腹黒』かな。『腹黒王子』は令嬢モノでは最もポピュラーな、言いかえれば最も人気のある設定だ。
私も大好物!
ただ私の印象では、アシュレイは『腹黒』よりも『変態』という印象が強いけれど。非の打ち所がない完璧な王子という設定を『変態』という短所で相殺するキャラクター設計は魅力的である。
どちらにしろアシュレイのルートはもう潰れているので細かい事はよかろう。
リュカオンの事は良く知り過ぎているのでかえって属性が良く判らない。『ショタ』枠を割り振るのが順当というものだが、お前のようなショタがおるか!という自分の感想ばかりが先に立ってしまい、分析が進まないでいる。
人を良く知れば知るほど、属性という簡略化された記号で対象を分類するのは難しいようだ。
シナリオ予測が立たなくとも、リュカオンルートであれば情報はヒロイン側からも攻略対象側からも、双方から筒抜け、入り放題だから、この際置いておくとしよう。それに頭が良く用意周到なリュカオンならば大抵の試練を上手く乗り越えるだろうという信頼もある。
それよりも、私が予想していたよりも攻略対象が少ないことに危機感を感じている。他にも目ぼしい人物は何人かいるのだが、アンジェラとは今現在の交流が全くないのだ。アシュレイの属性が『変態』だったり、リュカオンの属性が『ショタ以外』だったりするよりも、脇からポッと伏兵に出てこられた方が、調査が追い付かなくて困ってしまう。
とはいえ、どれだけ攻略対象がたくさんいても、結ばれるのは一人だけなんだから、むやみに増やせばいいってものではないのかも。
とにかくこちらは独自に調査を進めながら、ヒロインの動向を見守るしかないだろう。
そう悠長に構えているうちに、季節は冬が過ぎ、春になり、気温は温かさを通り越して、暑くなり始めてしまった。
ちょっと、ちょっと!コレ大丈夫かしら!?
もしかして一年カレンダーじゃなくて三年ものだったりする!?
嫌だわ、三年も付き合ってられないわよ!




