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『俺様キャラ』判定セリフ

 乙女ゲームの俺様キャラなら『おもしれー女』となるところなのかもしれないが、凡人モブの私は、こんなトラブルメーカーに近づくのは正直怖い。

 たった今巻き込まれてアシュレイの恐ろしい一面を見たばかりだし。

 しかしゲームタイトル1の主人公の手助けをすれば、2の予行練習になることは間違いない。

 傾向と対策も知りたいのだから、ここは協力一択よねえ。

 よし、予防線を張りつつ、あくまで情報提供に徹しよう。

 情報収集はもとからやっているのだから、アンジェラに分けてあげても損はない。タイトル1の全貌を知れるならメリットばかりだ。ちょっと怖いけど頑張ろう。


「わかりました。私は情報提供を約束します。でも実際に確かめて人探しをするのはアンジェラ様自身ですよ」

「ええ、それでいいわ。いい人ね!よろしく!」

 同盟が成立し、固い握手を交わした私達などそっちのけで、アシュレイはクスクス含み笑いをしながらヴィクトリアにかまけている。

 ナニコレ。押し付けられた感…。


 それにしても。こんなにヴィクトリアにぞっこんのアシュレイですら、条件を満たしてルートに入ればアンジェラに乗り換えてしまうなんて、すれ違いって怖いわね。

 これは教訓だわ。

 私も家臣たちの深い忠誠心にあぐらをかかず、彼らのハートをがっちりつかんで離さない、有能かつ恩情に溢れた主人でいなければ。

 目指せ!ヴィクトリアのようなカリスマ!!


 さて、アシュレイとヴィクトリアの事は放っておいて、私は必要な用事を済ませて、とっとと退散するとしよう。

 鞄からノートとペンを取り出して、アンジェラに必要事項を書かせる。

「まずは名前と生年月日を書いてください」

 独自に調べて知っていますけどね。教えたから私が知っていても当然だという理由付けが必要ですよ。よく判らない理由で、勝手に自分の事を調べ上げている気持ち悪い人間と、友好関係を築くのは無理があるから。

 ついでに趣味や好物も聞いておこうかな。


「それから交友関係を全て書き出して。学校外での付き合いは特に詳しくお願いします」

 アンジェラの学内での交友関係はすでに把握済みだが、情報に穴があってはいけない。物語を知らない私は、情報と推理だけが頼みの綱だから、情報収集や裏とりに、念を入れて入れ過ぎるという事はないのだ。

 学内であればおのずと目を光らせていられるが、学外の調査は骨が折れる。本人から情報提供があるのはありがたい。

「書くのは別に構わないけれど、友達の中にはいないと思うわ。だってそれなら向こうも思い出してくれるはずだもの」

 普通はそう思うかもしれないが、これは乙女ゲームだ。必ず接点のあるキャラの中に目的の人物は居る。

 相手も忘れているのかもしれないし、全てわかっていて近くで見守っている可能性もある。それを正直に言ってしまうと、脳筋のアンジェラは、何故?どうして?と根掘り葉掘り聞いてきそうなので黙っておく。

「情報は情報です。知っていることが役に立つか立たないかは、私が決めますから」

「そっか。それもそうね。あなたを見込んで頼んだのだから、素直に言う事聞くわ」

「アンジェラ様も、私が答えられる事ならば何でも聞いてくださって結構ですよ」

 他にもいくつか質問をしてからノートを回収する。

「私の方で、全校生徒をふるいにかけて、条件に当てはまる人物の優先度の順位をつけておきます。お時間は少々頂きますよ」


 私がすっと席を立つと、その後ろにクロードが付き従った。

「ヴィクトリア様の要件は解決しましたから、私はこれで失礼します。ヴィクトリア様、アシュレイ殿下、ごきげんよう」

 アンジェラも思いついたように立ち上がる。

「私も次の時間は授業があるからもう行くわね。それじゃあ」

「待って…!!」

 三人そろって談話室から出ようとするところを、ヴィクトリアが必死の形相で呼び止めた。


「あの、わたくしも一緒に連れ出して下さらない?」

 ヴィクトリアは拘束から逃れようともがいているようだが、アシュレイの膝の上で手足をフラフラと遊ばせているようにしか見えない。

 アシュレイは一見細身だが、それでも王子として体を鍛えているのだろう。お姫様育ちのヴィクトリアが太刀打ちできる隙は全く無い。

 ヴィクトリアはアシュレイの豹変ぶりにすっかり怯えてしまっている。追いすがるように手を伸ばしてくる姿が哀れを誘う。


 両想いなのになんか上手くいかない二人だなあ。もどかしい所が萌えると言えば萌えるけどねえ。

「そうして差し上げたいのは山々ですが、貴族社会の一員として、アシュレイ殿下の勘気を被る恐ろしさを、身をもって知ったところでございます。ご自分の貞操はご自分で守ってください」

「貞操ってそんな!!わたくし今そんなに危険な状況なのですか!?」

 ヴィクトリアは真っ青になって悲鳴を上げた。

「私達はともかく、ヴィクトリア様でしたら、アシュレイ殿下も悪いようにはなさらないと思うので頑張ってください」

「無理よ!さっきあなたもお分かりになったでしょう?怒ったらすごくすごく怖いんだから!!」

 分かる。生物としての圧が違うって思ったわ。

「心配いらないよ、ヴィクトリア。私は君の嫌がる事なんか絶対にしない」

 空気を読まずにさっさと行ってしまったアンジェラに後れをとるまいと、私とクロードは冷や汗をかきながら、不穏な言葉が聞こえないように談話室の扉を閉めた。

「必ず、君の方からお願いと言わせてみせる」




 それからの私は、依頼の通りに情報収集に取り組んだ。ヒロインの視界に入らないように調査する場合と違い、ヒロインサイドの協力者は立ち回りの良さが違う。

 この選択は正解だった。

 度々アンジェラは私の元へ質問に来るようになり、毎回探し回らせるのも時間がもったいないので、定位置の居場所を作った。

 カフェが併設している図書室のテラスに、授業がない時の私は大抵座っている。


「さあーて」

 その机に、私はどさりとファイルをいくつも積み上げた。

 家の財力と権力と組織力を存分に使った、攻略対象たちの調査書が上がってきたのだ。

 お茶を飲みながら目を通すことにしよう。




エントリーナンバー1:オスカー

 伯爵家の嫡男で赤味がかったブラウンヘア。両親が遅めに授かった待望の一人っ子で、甘やかされて育ったため、自信家で傲慢。同時に素直で裏表のない人物。

 主な出没場所は中庭。好きな色は赤。

 領地がホワイトハート男爵領と隣接しており、当主同士も交友がある。

 子供のころは濃いめのブロンドだった。


 この男はいわゆる『俺様キャラ』だろう。

 アンジェラとの出会いで、お決まりのセリフ『おもしれー女』をぶちかまし、以来何かとアンジェラにちょっかいをかけている。


 『俺様キャラ』というのは、つまるところ昔ながらのガキ大将である。

 自己中心的ではあるが、親分肌で面倒見が良い。庇護下にあるものは守るという性質を持っている。傲慢と言うのは人にも自分にも素直な証拠であり、単純で判りやすい性格は、初心者向けの攻略対象と言えるだろう。

 人に合わせるのが苦にならないならば、相性が良く、頼り甲斐のある人物である。


 オスカーの調書を読んでいると、ちょうどアンジェラがオスカーの事を聞きに来た。

「先日オスカー様からプレゼントをもらったの。お返しをしたいんだけど、どんなものがいいか相談に乗ってくれない?」

「そうね。彼の趣味は乗馬よ。乗馬の道具や馬をモチーフにした小物はどうかしら?それから好きな色は赤。赤と言っても色々あると思うけれど、彼が身に着けている色をよく見て、似た色を選ぶといいと思うわ」

「ありがとう!そうするわ」


 アンジェラは人に合わせるのが得意というタイプではないが、大所帯で育っただけあって融通の利く性格だ。

 トラブルメーカーのヒロインと俺様キャラの組み合わせは、一世を風靡した有名な作品以降、少女漫画の王道であり、悪く言えばよくあるパターンだ。

 我の強いヒロインの場合、一筋縄ではいかない恋模様のもどかしさと喧嘩のハラハラ感に、読者は否が応でも盛り上がる。先の展開が読めたとしても、喧嘩やすれ違いの、面白い掛け合いは、それ自体が萌えなので何の問題もないのだ。

 いわゆる『喧嘩ップル』は一定の需要があり、好きな人は何杯お代わりしても足りないぐらい好きな、一種の様式美なのである。

 オスカーはなかなか有望な攻略対象のようだな。

 領地が隣ということで、幼いころに出会っている可能性も高い。

 しかし、率直な性格から、裏や秘密があるとは考えにくく、オスカールートに入った場合は何か共通の困難に立ち向かうというシナリオになりそうだ。


 報告を聞く限り、アンジェラはそれぞれの攻略対象と順調に好感度を上げているようだが、まだこれと言って親密な関係の相手はいない。

「さて、他の攻略対象はどんな感じかな?」

 私はお茶を一口含んでから、次のファイルに手を伸ばした。


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