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キャラ被り死すべし

イリアスが三か月ほど誕生日が遅いだけの同い年という設定を説明し忘れていました。

どこかに入れておきます。

 オネエキャラ。それはジェンダーから解き放たれた自由の翼である。

 好意ですらしがらみに囚われたこの時代、私の力量でこのテーマについて語り切ることが出来ようか。いや、やらねばならぬ。キャラを愛する者の端くれとして、難しくもやる前から投げ出すことなどあってはならぬ。

 ではしばしご清聴ください。

 

 大ギャップ時代においても、屈指のギャップキャラであり、男と女の融合、剛と柔、大胆と繊細を兼ね備え、相反する二面性が魅力である。

 高い共感性と共通の話題で、楽しく頼りになるお姉さんのようでもあり、世話焼きでオシャレで何でも得意なお母さんのようでもありながら、ただ相手を恋い慕う一人の男でもある瞬間のギャップに、キュン死は不可避。どうあがいてもガチ恋。

 特徴的な話し方などただの表層、アクの強さに段階はあれど、特筆すべき点は高い美意識である。

 彼らは外見だけでなく、内面まで含むすべての要素が、彼自身の望むものだけで構成されている。教養と良識を持ちつつも、人の目を憚らない彼の強い自我が、それを可能とする。「常に在りたい自分でいる」という女子の憧れを体現しているキャラクターなのだ。

 無論彼とて最初からその高みにいたわけではない。そこに至るまでの紆余曲折が、彼を豊富な人生経験者足らしめる。傷ついた分だけ優しくなり、磨かれた宝石は輝きを放つ。そしてその存在自体が、私達の道しるべと成り得るのだ。

 独特の強いアクは、ポジティブで強かな精神と、本質を見失わない審美眼、明晰な頭脳の発露なのである。

 時に滑稽に描かれることもある。しかし決して無様ではない存在。それがオネエキャラだ!!


 ただし、「こんな話し方だけど恋愛対象は女の子よ」なんて、取って付けたようなおためごかしはノーセンキュー!!

 誰を愛そうが構わぬ。最後にこの世紀末覇王の横におればよい!!

 愛だの恋だの友情だの、単なる名前を超えた先の、特別な絆が真骨頂よ!

 つまりね(詰まってない)、男らしさは優しさなの!!!

 たゆまぬ日々の努力で天然ものより女らしい人物が、優しさも兼ね備えているという事は!女らしさも男らしさもパラメータがMAXフルカンストしているということに他ならない!!そんな人間がこの世におろうか!いやいない!!正統派王子とは別方面の欲張り全部盛なんですありがとうございます!!


 全然パッション足りてないけど、そろそろ夢にまで見た目の前の本物を鑑賞させていただくとしようか。

 はあ~。ご利益ご利益。


 高い身長と熱い胸板で惚れ惚れするような肉体美だ。お仕着せのテールコートも喜んでいる。ブルネットに明るいヘーゼルアイで、大きな瞳は妖艶に細められて、派手な美貌と洗練された所作はバーレイウォールの近侍に共通している。

「あなたはトリリオン家の方?」

「まあ!姫様まだお小さかったのに、アタシの事覚えててくださったの?トリリオン家の長男ハワードよ。6年間バーレイウォールでの学業を終えて戻って参りました」

 そう言えば、クロードは三男だと言っていたが、見かけるのは父の近侍をしている次男の方だけだった。どこか裏方にいるのかと思ったら、留学していたのか。

バーレイウォールにも官僚養成の高等学校があり、ハワードは領地のカントリーハウスを手伝いがてら、そちらに通っていたそうだ。休暇で帰省することはあっても本邸に顔を出すことはなかったそうだから、私と最後に会ったのは6年以上前ということになる。

 4年前の見合いで、前世30年分の記憶が割り込んできてからというもの、それ以前の事はほぼ吹き飛んでしまっている。察しがついたのはクロードの面影と徹底された近侍教育のなせる業だ。

「お帰りなさい。イリアスの近侍になってくれたのね。私の事もよろしくお願いします」

「はい。それが我らトリリオンの喜びです」

 めっちゃエエ声~。

 クロードもこんな感じに成長するのかな。高身長は侍従の条件の一つだから、トリリオン家の人たちは全員背が高い。14歳の現在、まだ美少女のクロードもこれから背が伸びそうだ。

「今日は素敵なドレスですから、お召し替えなさらず、そのままダイニングへどうぞ。アタシがお二人をご案内するから、クロードたちは着替えてらっしゃい」

 私は後ろに控えている二人を振り返って、一人ずつ手を握ってお礼を言う。

「クロード、シャロン、今日は遅くまで付き合ってくれてありがとう。もう上がって、明日の朝はいつもより二時間遅く部屋へ来て。私も疲れたから、今日はゆっくり休むわ」

「畏まりました」

「それでは御前失礼いたします」

 クロードとシャロンの挨拶を見届けてから、ハワードが移動を促した。

「では姫様、イリアス様、参りましょ」

 ハワードは仕草が自然で上品な上、どことなく可愛らしい。それが大きな体とそぐわないどころか、威圧感を減らし愛嬌となっている。

 何故か最近ケンドリックから武将と呼ばれる私は、ハワードを見習って、少しぐらい可愛さを磨くべきかもしれない。

 いや待って。このゆるふわガールのどこらへんが武将なのよ。失礼しちゃうわ。

「姫様、ご恩情ありがとうございます」

 ハワードはこそっといい声で囁いた。

 たぶん、二人を労って、明日の時間を遅らせた事を言っているのだろう。

「フッ。これがうちの普通よ。あなたもこれからそのつもりでね」

 やはりハワードを見習う事には一考の余地がある。

 この通り溢れ出る漢らしさで、学校生活でのあだ名が武将になったら嫌だからな。




夕食を済ませ、いつもより少し早い風呂上がりの一人の時間に、私は早速本日の成果を書き留める作業に取り掛かった。

こっそり書き付けた手帳のメモと照らし合わせて、城の地図を書く。

 表側の公的施設を「本城」、中庭を挟んで回廊で繋がった奥の私的区画を「裏宮」と慣例的に呼ぶという。

 王宮全体の建物の配置と、裏宮の判る限りの見取り図を作り、大体の距離と注釈を書き加える。

 詰め所への隠し通路は西側のサロンから南へ約6メートル。何の目印もない場所で壁の模様の陰になっている。

 南側の通路に面した三番目の応接室。鍵になるのは一番堅そうな椅子。

 随分楽しそうな冒険の記録になった。微笑ましい子供の日記のようにも見える。


 それから今日出会った人物、アシュレイとハワードについても書き記しておこう。

 人物に関する総評はところどころ、不自然な単語は前世の文字で書くようにして、万が一誰かに見られても、肝心なところは読めないようにしている。

 メインキャラクターとか、ドS執事の兆候なしなどという書付は不審以外の何物でもない。ましてや第二王子のリュカオンに対する正統派の評価を、反逆的な思想と誤解されても困る。

 書き付ける場所を探して、これまでの、登場人物と思しき人間の所感や設定を記録したページをパラパラとめくった。


 ローゼリカ・ディタ・バーレイウォール

 ジョブ:不明。悪役令嬢(仮)サポートキャラ(希望)

 白金髪青眼。


 リュカオン・ベネディクト・アルビオン

 ジョブ:正統派王子型攻略対象 メインキャラクター確定

 銀髪青眼。眉目秀麗、鷹揚自若。高貴な王族の風格漂う正統派王子系攻略対象。当家との婚姻に意欲有り。赤毛の少女と因縁有り。

 

 シャロン・ミレニアム

 ジョブ:武闘派ヒロイン(仮)

 濃茶菫色。超絶可憐な凄腕護衛。見た目よりも塩対応。


 クロード・トリリオン

 ジョブ:同僚(仮)近侍(仮)

 黒髪淡褐色。初恋泥棒美少女(男)。今後の成長は未知数。近侍設定は捨てがたいがドS執事の兆候なし。


 ユージィン・レヴィ・バーレイウォール

 ジョブ:外務省高官

 灰褐色青眼。シナリオ登場不明。善人だが海千山千の外交官。油断は禁物。現在汚職の兆候なし。皇太子殿下と親交あり。


 メイヴィス・バーレイウォール

 ジョブ:バーレイウォール侯爵夫人

 白金髪青眼。元騎士爵令嬢。出産にて体を壊し、闊達な性格は一変して柔弱に。家政には携わっているが、社交は一切しない。


 私の項目に書かれている「サポートキャラ(希望)」の記述が悲しい。切実さを感じる。

 母の項目には皇太子妃殿下と旧交有りと書き足しておこう。

人物総評を読み返していると、ページの最後の方の、攻略対象一覧表に目が留まる。


  名前    ジョブ   恋愛類型   シナリオ傾向

 リュカオン:正統派王子:身分の差恋:宮廷サスペンス系

 クロード:同僚(近侍):職場恋愛:お屋敷日常系

 ケンドリック:多属性:ツンデレ喧嘩っプル:商売繁盛一代記?

 フィリップ:花屋さん:芸術家とミューズ:ほのぼの目標達成型

 ウォルター:運動少年:部活恋愛:私を甲子園に連れてって


 何とか一言で表そうとして、大変詩的な表現になっており、書いた本人にすら当時の真意が計り知れない。

 まあ、こういうのは理屈でなく直感ですよ。

 新規参入のキャラも書き足しておこう。


 イリアス:正統派貴公子:身分差恋(弱):逆契約結婚ヒロイン改

 アシュレイ:正統派王子(絢爛):身分差恋(特大):略奪愛

 ハワード:妖艶オネエさん:人生相談からの:君を食べちゃいたい


 「正統派」というのは、以前論じた通り、優しく賢く格好良く、条件満点で癖のない男子を意味する。

 攻略対象の及第点を得た8人の未婚男子の内、実に三人が正統派である。

 何も私自身が正統派を好んでいるわけではない。単にリュカオンとイリアスとアシュレイが取り立てて欠点のない完璧貴公子なのだ。


 ペンを置き、手帳を持ってベッドへ移動する。天井と手元の手帳を交互に睨んで思案した。

 

 物語においてキャラ被りは致命的だ。一つの物語に同じシナリオは二つも要らない。いずれ三人の差異が広がってくればよいが、そうならなかった場合、攻略対象ではないと判断するか、設定の見落としを疑うか迷う所だ。

 全年齢向け乙女ゲームで略奪愛のシナリオはあり得ないとは言わないが、いかがなものか?

 同じ王子系でそんな際どい所を攻めるより、もっと足りない成分を補う方が先という気もする。

 年上とオネエキャラは出たが、テッパンの冷徹眼鏡はいないし、全体的に上品で柔和な人物ばかりで、俺様や毒舌と言った、オラついたキャラもいない。辛うじて上品の枠から外れそうなケンドリックも、言葉遣い以外に乱暴な所はない。

 王子キャラ三人もかぶせるぐらいなら、人外がいるほうがまだマシだ。シナリオ予測がしやすい。

 侯爵邸内でのシナリオ展開を主軸に考えていたが、学園生活も加わるならば、攻略対象選びは先が思いやられる…。

 迷いが迷いを呼んで、何も分からなくなる前に…、もう少し、確定事項が増えると良いのだが…。

 いや、弱気は私の信念に反する。コレは状況証拠が揃ってきたあかしなのだ。きちんと組み合わせて考察すれば……真実に近づける。……はずだ……。

 ……。




「はッ」

 鳥のさえずりが聞こえる。昨日は手帳を抱えたまま寝落ちしてしまったようだ。

 いつもより遅い時間だが、ゆっくり休むと伝えたおかげでまだ誰も起こしにきていない。

 私は秘密の手帳を机の二重底に丁寧に片付けた。

 鍵をかけてはいないが、動かせばわかるような仕掛けがしてある。今の所誰にも見られた気配はない。

 一人で身支度して部屋を出た。ギリギリ、朝食の時間に間に合うだろう。


 ダイニングに入ると、すでに父の姿はなく、イリアスだけが残り半分ほどの朝食をゆっくり食べているところだった。

「おはよう、イリアス。寝坊してしまってごめんなさい」

「おはようございます、ローゼリカ。俺もあまり早くはなくて、侯爵様には朝のご挨拶だけしかできませんでした」

「そうなの。なんだか顔色が良くないわ。疲れてる?」

「ええ、昨日は自分で思うより疲れたようです。体力の問題ですから、ご心配には及びません」

「昨日は用事があるから留守番したのよね。何か大変な事があったの?」

「お誘いをご辞退申し上げたのは、近侍が昨日からお屋敷に上がると聞いたからです。俺にとってトリリオン家は使用人ではなく、ご家老の家柄ですから、せめてご挨拶をと思いましたので」

 それで気疲れしちゃったのかしら。イリアスとハワードはあんまり相性がよくなかったのかな。

 考えていることがそのまま顔に出ていたのか、イリアスは苦笑して言った。

「ああ、ええと。疲れたのはその後の護身術の授業の方ですよ。慣れない事をしたので、まだ体中が痛いです」

「そうだったの。護身術の授業、辛いわよね。一緒に頑張りましょうよ」

 バーレイウォールの家の子になれば誘拐の危険性は段違いだから、イリアスも護身術を身に付けなきゃならないのね。

 秀才キャラのイリアスは、運動は不得意なのか。同情するわ。そして私は道連れが出来て嬉しい。


「それで一晩考えて、アカデミー進学は来年に延期しました。勉学以外に、交友関係の把握やマナーですとか、身に付けなければならない事が沢山ありますので」

「まあ、そう…」

 予想は外れてしまったな。イリアスの性格なら、私の希望を加味して今年からの進学を決断すると思っていた。

 それでリュカオンと共に女子たちにキャーキャー言われて、アカデミーのトップアイドルみたいになるのかと。

 それほどマナーや護身術の授業が大変だったのだろうか。

 生活習慣の問題は、一朝一夕には解決するものではなかろうが、イリアスなら何の問題もなさそうだが。

「ご期待に沿えず、申し訳ございません」

「いいのよ、そんなに残念そうな顔してた?あなたの決断を鈍らせたら、またお母さまに怒られてしまうわ」

「いいえ、残念がってくださるお気持ちが嬉しいです」


 朝食を終えて、イリアスと部屋の前で別れた。

 室内ではクロードとシャロンが窓を開け、ベッドメイクをやり直している。

 ぬうう。シーツの張りが甘かったか。今日は上手にできたと思ったんだけど。

「おはよう二人とも、もっとゆっくりで良かったのよ」

「おはようございます、姫様。僕たちはそんなに疲れていませんから、充分に朝寝を満喫しました。ありがとうございます」

 インドア派の私より、二人の方が、体力があるのは間違いない。

「おはようございます。姫様こそ、お疲れは残っていらっしゃいませんか?」

「今日はゆっくり試験勉強でもするわ」

「そうなさいませ」


 ソファに座った私に、クロードがすかさず食後のお茶を差し出した。日替わりで出てくる朝のフレーバーティーはとてもいい香りで、いつも私の気分にぴったりだ。クロードの近侍スキルの高さには感服する。

「イリアスの進学は来年に延期ですって。今聞いてきたの」

「そうでしたか。もし奨学生ということであれば、基礎訓練の授業もありますから、そのほうがよろしいでしょう」

「基礎訓練って?」

「将校になるために必須の、基礎体力を身に着ける単位です。奨学生は領主と将校の資格を取得することが条件となっていますから」

 頭は良くても、実技訓練では体の大きさがモノを言う。

 優秀な成績を収めることが目的なら、入学を遅らせる選択肢も有りというわけね。

「皆で学校帰りに寄り道したら楽しそうだったのに。残念ね」

「僕たちがおりますよ。イリアス様にはお土産を買って帰るのもようございましょう」

「そうね!あなたたちがいてくれたら学校生活も楽しいわ。来年にイリアスが加わるまでに、先輩らしくアカデミーのことに詳しくなっておきましょう」

 クロードは手際よく仕事を終わらせて、傍に控える。

 そろそろ、学習室に移動する時間かな。

「そうだ!学校では姫様って呼んだらダメだからね。本物の王子殿下や内親王がいらっしゃるのに恥ずかしいんだから」

「心得ました」

 シャロンもすっと隣に立つ。

「姫様は…送り迎えだけでなく、随伴をご所望でしょうか」

「随伴なんて要らないわよ。王族も通う学校は安全だと思うわ。二人とも受けたい授業を受けていいんだからね?」

 その答えを聞いて、クロードとシャロンは顔を見合わせる。

「リュカオン様も誤解していらしたようですが…、僕たちは学校へ参りませんよ」

「ん?でも今、学校帰りに街へ遊びに行こうねって話を…」

「お迎えに上がりますので、放課後の外出にはお付き合いします」

「送り迎えだけ?二人とも学校には来ないの?」

「深窓のご令嬢が、近侍を連れて通学される場合に備えて、控室があるとは聞き及んでおりますが、授業を受けるなら授業料を納めませんと」

「それってすぐ失神しちゃうような人のお付きでしょ!授業を受けないなら学校でなにをするのよ、時間がもったいない!!」

「はい。でしたら秋から学校へ通われるのは姫様だけです」


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