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華麗に翻れ、手の平!

投稿できてなかった……。

後書きまで書いたの、夢だったのでしょうか……?

 アカーン!

 セリフが悪役そのもの!

 もしかして痛い事しちゃうつもり!?それで無理やりにでも口を割らせる的な……。

 夜の倉庫街。広くて閑散とした屋敷。生意気な拘束男。

 あまりにも舞台装置が完璧すぎる。

 秒で始まってしまう、暴力にものを言わせた尋問が!

 そしてイリアスが悪役令息に闇落ちしてしまう!

 睨み合うイリアスとセオドアの間で、オロオロハラハラしている私の心を知ってか知らずか、ケンドリックが鼻で笑って煽り合戦に参加する。

「クロードにあっさり捕まっておいて、笑わせるなランダッグ。スキル持ちは逆境に弱いからいくらでも対策出来るんだとか?大口を叩いて恥の上塗りだ。主人の前で笑いをこらえる身にもなれ」

 さすが罵倒までも語彙力多彩なケンドリックだ。減らず口を閉じないと、さらに恥をかかせると遠回しに言われ、セオドアは言葉に詰まる。

「お前は……ケンドリック・エース。バーレイウォール家中の者だったのか」

「ふむ。情報に偏りがあるようだな」

 そこでようやくセオドアは口をつぐんで視線を逸らした。

 舌戦を制したのはケンドリック!


「黙るなよ、つれないな。迂闊な間者がペラペラ喋って接待でも受けてる気分だったのに」

 早速の揚げ足取りに抜かりはない。会話の主導権がケンドリックの手中に収まった。イリアスもひとまず矛を収めることにしたようで、威圧的な視線を逸らした。

 勢力図が一転して、何か失言をしましたみたいな雰囲気だけど、今の短い会話の中に、読み取れるようなことがあっただろうか。

「どういうこと?」

「エース商会がバーレイウォール傘下なのは、調べれば分かるって話はしただろ。商圏や運送ルート、取引先を見れば予測できることであり、古参の貴族ならば当然知っている事でもある。それに対して、クロードに心理技能メンタリズムのスキルがあるのは、本邸でも一部しか知らない機密事項だ」

「確かに、なんだかちぐはぐね」

 入手が困難な情報だけを持っているのは不自然だ。イリアスをボンボンと表現するのも、いかにも事情を知らない人間の発想である。実際彼は、クロードなどよりよほど世間慣れしているのだ。

「カネの流れなんて最初に調べることなのに、おそらくこいつは初心者なんだ。自力でクロードの技能に気付いたとは思えない」

 たった一言でここまで推察できるなんて大したものだ。こりゃ私も隠しているつもりでバレてることいっぱいあるな。

「あら?じゃあ機密を知る数少ない誰かが漏らしたってこと?まずいじゃないの」

「そこなんだよなあ」

 ケンドリックは思案顔でどこからか椅子を持って来てセオドアの前に設え、恭しく手をとって私を座らせた。


「最も忠誠が篤いはずの本邸から裏切り者が出たとなれば大事件だが、その可能性はない。本邸に居るのは、先祖代々バーレイウォールに仕えるために生きているような人間ばかりだ。こんな素人に引っ掛かるかよ」

 忠誠が篤いというと大層に聞こえるが、バーレイウォールでは好待遇とこまめな聞き取り調査で、世代単位で長く勤めたくなる職場環境の整備を徹底しているのである。

「機密と言っても、大した内容でもなし、うっかり者が口を滑らせるぐらいは有り得るのだろうが……接点を持つのも簡単ではないからな」

 バーレイウォールの使用人は基本的に敷地内に住み込みで、出入りの商人も全てエース商会が取り仕切っている。加えて、貴族屋敷の使用人に取り入ろうと考える者は沢山いるらしく、そういった思惑を退けるため、彼らは子供のころから霊感商法やハニートラップに対処する教育を受けていた。

「クロードと同じような心理技能士メンタリストが独自に気付いて、話題に上った線はどう?」

「偶然聞いたということですか?あまりに運頼みですね」

「奇跡のような偶然でも、起こる時には起こるのよ」

 物語においてはしばしば起こり、いたずらに運命を翻弄する。

「実際のところどうなんだ?」

 ケンドリックが気安く問いかけた。

「答えるわけないだろ」

 セオドアは苛ついた口調だったが、先ほどまでの威勢はなくなっていた。


「ならば答えたくなる話をしてやる」

 イリアスは長い脚を組んで傍のテーブルにもたれかかった。

 後ろ手に縛られて床に転がったままのセオドアを、フィリップが腕と足を使って、器用に一瞬で座り直させた。乱雑に扱ったためか、セオドアが思わず苦痛の声を漏らす。フィリップはいつもと同じ、花の見ごろを伝えるような表情と声で、淡々と報告を始めた。

「セオドア・ランダッグは、母一人妹一人の三人家族。父親不在のため、現在は奨学生の傍らデリオル男爵に仕官しております」

「仕官の口があったのね。報酬にシビアな様子だったから、てっきりフリーランスなのかと思っていたわ」

「僅かな北方訛り、時折独特な古い単語を使うことから、ティターニア王国、しかも貴族階級の出身ではないかとストレイフ子爵から情報提供があり、調べましたところ、王国十三騎士にランダッグの姓がありました。北方古武術特有の歩き方からも、王国滅亡の際に落ち延びた末裔とみて間違いないでしょう」

 ティターニアは約50年前に戦争で滅びた古王朝で、リュカオンの母である王太子妃の出身国である。近隣の国の中で最も歴史が長く、言語もここから派生していったので、ユグドラ人の感覚では古語に近いと聞く。

「喋り方や足運びだけでそこまで……?」

 セオドアは呆然と呟いた。

「諜報ってのはこうやるんだよ。その上、ストレイフ家は技能のある退役軍人を数多く雇用している。お前の素性なんか、はじめから分かっていて受け入れたんだ。さすがに客人を襲撃するとは思わなかっただろうけどな」

 ケンドリックの言葉で、再びセオドアの目が怒りに燃えた。

「そこまで調べてあるならもう分かってんだろ!俺だって好きで汚れ仕事なんかやってるわけじゃない!」

「経緯は不明ながら、仕官とは名ばかりで、借金のかたに家族を人質に取られ、酷い扱いを受けています。多少腕に覚えはあるようですが、碌な教育もなく、危険なことをさせられています」

「お前が黙って秘密を守る理由などないはずだ。クロードのことは誰から聞いた。こちらの質問に大人しく答えろ」

 イリアスお得意の、心を挫く搦手である。


「だけど……、万が一、裏切りが露見したら、母親と妹はどうなるんだよ……」

「はあ?」

「助ける!」

 イリアスの素っ頓狂な疑問符と、私の反射的な返答はまさしく同時だった。

「敵の敵は味方って言うでしょ?だから私たち協力しましょう!」

「捕まっている俺の家族を奪還してくださる……と?」

「そう!ご家族が取り戻せたら、あなたが私を狙う理由はなくなるのよね。我が家の方針は、根本的な原因を排除した予防策なの。そのためなら労力を惜しまないわ。そうでしょ、イリアス!?」

 この世の全ての妹に甘いイリアスは、気の毒な家族をきっと助けてくれる。

 イリアスは不機嫌な視線をゆっくりと私に移した。一瞬の沈黙が長く感じられ、緊張でごくりと喉が鳴る。

「その通りです」

 よしっ!

「ありがとうございます、イリアス・オーランド様!この御恩は一生忘れません!何でもやります答えます!!」

 手の平を返し、嬉々として張り切るセオドアを前に、イリアスは疲労感たっぷりの長いため息を付いた。

「ランダッグ。ちょっと黙ってろ」

「はい喜んで!」

 

「フィリップ、まだ伝えていなかったのか」

「はい、イリアス様」

「どおりで。何かおかしいと思った」

「だって、何も考えず学校に通っているだけで問題が解決してしまったら、先ほどのイリアス様のお言葉を借りると、精神衛生によくありません。まだ若いのに、成功体験で他力本願な人格になってしまいます。僕はコイツのせいで死ぬほど師匠にしごかれたのに」

「そうだな。多少怖い目に遭わせてもバチは当たらないだろう。ランダッグに何も響かず俺が疲れただけという点を除けば問題はなかった」

 イリアスとフィリップの会話から察するに、人質になっている家族を救出する方向で話がまとまっていたのに、捕えてきたフィリップが、わざと態度が悪くなるよう、セオドアに伝えなかったらしい。

 フィリップとイリアスの力関係は微妙なようだ。

「始めからセオドアと家族を助けるつもりだったのね」

「はい。コイツは心底どうでも良いですが、母親や妹のことまでいい気味だとは思いません」

 うん。だってあなたはシスコンだもんね。

「よかった。セオドアがあなたを怒らせるからどうなることかと」

「あんな安い挑発に乗りませんよ。家族のこともあるのに短慮だとムカついてましたが、誤解であればもういいです」

 なるほど。減らず口に怒ってたんじゃないってことか。

 今のイリアスは、いつもの穏やかな微笑を保てず、ドッと疲れた顔をしている。


「そうと決まれば作戦会議しましょ!」

 私は空気を変えようとわざと明るい声を出した。

 こちらは知りたいことが分かり、あちらは家族が助けられるなら、Win-Winだわ。イイことするのは気持ちいいし、悪を懲らしめて一石四鳥、大漁旗を掲げての凱旋、勝利の晩餐は鴨鍋で乾杯にきまり!

「それには及びません」

「あら、もう計画までちゃんと詰まってた?」

「ランダッグ親子は、すでに保護してこの屋敷の客間で休んでいます」

「えっ」

「えっ」

 セオドアが感嘆符を叫ぶのに一拍遅れて私も驚く。これはおそらく反射神経の差であろう。

「もう助けてきたの!?」

 何歩も先を行くその敏腕は未来視レベルじゃない!?仕事が早いはあなたのためにある言葉!

「イリアス~!超有能!!すごい!最高!」

 私が惜しみなく賞賛を贈っても、イリアスはいい気になるでもなく、さも当然といった風情だ。シャロンだったらめちゃくちゃドヤ顔するんだけどな。

「あなたがこの方針を取ることは分かり切っていたので、許可を取る工程を省いただけですよ」

「デリオル男爵は借金返済と称して債務者たちを強制労働させていた。当然違法だ。バーレイウォールの人材派遣制度を参考に、ほうぼうへ人を送って荒稼ぎし、ピンハネして債務者たちの借金がいつまでも減らないよう飼い殺しにしてな。今、告発の準備を進めている。近いうちに摘発されて爵位はく奪となるだろう」

「他の監禁されていた人たちも、通報して保護してもらいましたよ」

 ケンドリックの解説とフィリップのフォローが入る。出来る男たちの仕事に私が割り込む余地は一切なかった。

 

「そのデリオル男爵は、第一王子を擁立するイングラハム派ということ?」

 ストレイフ子爵が怪しいと言っていた人物の手先ならば話がつながる。

「デリオルは拝金主義で、王室の後継争いに興味はない。家事使用人以外の表沙汰には出来ない業種も人材派遣していたようだから、どこからか王室とバーレイウォールの縁組阻止を依頼されたのだと思う」

「ええ~?工作員の貸し出しなんて、借りる方も貸す方も、アホすぎないかしら?」

「傭兵の運用だとそうでもないさ。借りた方はおそらく、いざという時実行犯を切り捨てて、足跡をたどられないように人材派遣を利用したんだ。それに気付かず子飼いの密偵を派遣して、芋づる式に悪事がバレてんだから、アホはデリオルだけだ。敗因は素人が裏社会に首を突っ込んだことだな」

「ですから我々としては、情報提供元と依頼主についてランダッグから話が聞きたいところです。たとえ消去法のような限定的な内容であったとしても」

 敵は手ごわく、なかなかしっぽを掴ませてくれないようだ。

「膠着状態が少しでも動くなら歓ばないとね。セオドア、これであなたも一安心でしょう」

 

 振り返ると、セオドアは縛られたまま額を床にめり込ませて土下座していた。

「大変……大変ご無礼いたしました……」

 そうなっちゃうか……。恩人に憎まれ口きいてたんだもんね……。

「だから恥かくぞって言ったろうが」

 ケンドリックの忠告は煽りではなく、優しさから来ていたらしい。

「お前が暴れるから拘束しなければならず、そんな姿を見ては家族が傷つくだろうから会わせてやれなかった。もう暴れるなよ」

「無論です。俺はイリアス・オーランド様の偉大さと自分の愚行について、余すところなく家族に伝え、子々孫々に語り継ぐ所存です」

「そういう余計なことを言わないようにしろと、分かってもらいたい……。フィリップ、縄を」

「イリアス様。面白いからもうちょっと見物しましょうよ」

 フィリップは大人しそうな顔に似合わず、土下座を記念写真に納めるタイプだな。


 家族の再会を見届けて、車の中では船をこぎ、這う這うの体で家に帰り着くと、私のクローゼットでは、シャロンのための特別講義がまだ続いていた。

「いいこと?シャロンちゃん。同じ布と同じ色と似た色と同系色は全部別物なの。だから、共布ともぎれのサッシュと言われて同じ色で代用しようとしちゃダメよ」

「はい。ハーマイオニさん」

 私が腰を抜かしたり、動悸息切れで吐きそうになってる間、シャロンもがんばってくれてたんだ。

 邪魔しないようそっと様子を伺いながら、疲れのせいもあり、私は涙腺が緩んだ。

「お返事はいいのよねぇ~」

 シャロンの返事は元気だが、ハワードの声には疲労が滲んでいる。

「共布の小物があればそちらが最優先で、次に同系色。今日はそれだけ覚えましょ」

「はい。指し色は選ぶのが難しく、同じ色は素材の違いが際立つからですね。ゲテモノのような組み合わせでさえなければ、あとは姫様が服を着こなしてくださいます」

「その通りよ」

 いつも期待に応えられる私でありたいが、彼らの期待は重すぎる。

「それでもやはり疑問点があるのですが……」

「嫌な予感がするけど、どうぞ……」

「同系色には似た色が含まれ、似た色の中にも同じ色が含まれます。ですから、同系色を突き詰めていくと、同じ色に行きつくのですから、同じ色を選ぶのが最も無難ということになるはずで……」

「だ~から、違うって言ってるだろうが!」

 ハワードが思わずキャラづくりを忘れて頭を抱えた。

 頑張っているのはハワードの方だったか……。


誤字脱字報告をしていただき人生が捗ります。ありがとうございます。

二人きりでもなく、色気もなかったですが、イリアスとのドキドキ港町夜景デート編終了です。

次はリュカオンとのズキューン王都散策デート編を書き溜めていきます。楽しんで書きますので頑張って読んでいただきたいと思います。

伏線を張り終わり、そろそろ広げた風呂敷を畳んでいきたい所存ですが、どうやら私は伏線を回収するのが苦手なようです。その理屈はおかしいと思う。回収するためにバラまいた種を収穫するのが下手なんておかしいと思う。


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