で・で・出オチの大暴走
来週あたりそろそろ更新がギリギリです
駆け落ちの仕方を教えて欲しいのです……(エコー)
駆け落ちの仕方を教えて欲しいのです……(エコー)
駆け落ちの仕方を教えて欲しいのです……(エコー)
何でそうなるの!?
リュカオンによって鍛え上げられた、疑問符を叫ばないスキルを駆使し、私は口角にぐっと力を入れて端を吊り上げた。吸った息を一拍貯めてから、ため息だと思われることがないように、鼻から静かにゆっくり長く息を吐く。
慌てた時こそ深呼吸。息を吐くことで副交感神経を活性化させ、動揺を鎮めるのよ!
「…………」
そして当然のようににっこり笑って頷いた。
「もちろん。一緒にうまくいく方法を考えましょう」
それを聞いたヴィオレッタとセバスチャンはほっと安堵の表情を見せた。
セ~~~~~フ!
交渉においては、なるべく相手の要望を却下したり否定したりしないことだ。肯定しつつ条件を付けくわえることで落としどころを探っていく。
「ですが、お二人が本気であることの証明や安全面の考慮など、守っていただきたい条件はありますよ。よろしいですか」
「ええ、そうね。わたくしたちでは心もとないと思ってあなたを頼ったのだもの。注意点は守ります」
彼らは自分たちを客観視して、人を選んで協力を仰いだ。その分冷静で本気である。一笑に伏したりせず、ちゃんと話を聞こう。
「本題に入る前に確認しておきたいことがございます。お二人の覚悟に関することです」
ヴィオレッタの瞳はまだ濡れて、沢山の星が浮かんでいたが、それでも悲劇に打ちひしがれるヒロインではなく、重大な計画を話し合う顔つきに変わった。
この姉妹は実務的な話になると、途端に冷静になる傾向がある。
「駆け落ちとは、煩わしい大人たちを置いて、自分たちの楽園へ逃避行することではありません、むしろ、すぐには信じられないほど希少な真実の愛を証明するための戦いです。
慣れないことばかり、上手くいかないことばかりなのに、恋人と一緒にいる時間さえ減るかもしれません。それでも、その証明のためだけに人生を賭ける覚悟がありますか?」
「あなたの仰りたいことはわかるつもりです。逃げた先に待っているのは、理想郷ではなく、先送りにしただけの試練に過ぎないでしょう。ですが、水が合わず住処を移した野生動物を、恥ずかしいと嘲笑うものはおりません。わたくしも、ただ妥協せず自分で道を選びたいのです。たとえ失敗し後悔することになったとしても、それら全てを愛の証として受け入れる覚悟です」
涙に潤んだ瞳で、まっすぐに見つめ返す凛とした眼差しの美しさに、心打たれないものは恐らくいない。
心弱い一面もあるが、本質には芯の通った強さを持っている。儚さと強かさ、夢想と使命感、情熱と冷静、ツンとデレ。
ジェットコースター顔負けのギャップにセバスチャンも魅せられたのだろう。
ヴィオレッタの横顔に見惚れていたセバスチャンもハッとなって頷いた。
「わ、私も同じ気持ちです」
この二人、案外主導権を握っているのは、毒舌チョイSのセバスチャンではなくて、ヴィオレッタの方なのかもしれない。
「であれば、私から改めて駆け落ちの是非を説くまでもありませんね。次に段取りの確認です。いつ実行するか、実行後はどのように暮らすか、具体的なビジョンはお持ちでしょうか。お話を聞く限りでは、ご家族に反対された訳ではなく、まだ打ち明けてもいらっしゃいませんよね?」
「許しをもらえるなら、それが一番良いとは思います。ですが父は……いえ、私たち親子は思い込むと一直線な気質で」
自覚あったんだ。
「もし反対されてセバスチャンと引き離されたら、世間知らずのわたくしは逃げ出すこともできないでしょう。ですからいざという時の準備を整えてから勝負に挑みたいのです」
説得を試みて反対されたら、大人しく引き下がると見せかけて駆け落ちするプランなのね。合理的だわ。
「ヴィオレッタ様の本気が伝わってきます。大変結構かと存じます」
「二人で小さな家に暮らせたらとは思いますけれど、良い時期や現実的な暮らしぶりもあなたにご相談させていただきたいわ」
小さな家っつってもな~。ヴィオレッタの小さい基準がわかんないからな~。
「承知いたしました。では私主導でご提案し、譲れないところは修正する方式で進めましょう。どこでどのように暮らすか。そのために何の職を得るか。見知らぬ土地で就職するには資格がモノをいいます。今から必要な資格の準備を進めて下さい。生活力と金銭感覚も養いましょう。行方をくらますには人流の激しい時期がよいので、新年度が妥当です。幸い時間はあります」
「時間のかかる準備から始めるのはわかりますが、今お話しされているのは、最終的な生活の事ばかりですね。もっと前の段階、逃げ出す方法やルートの検討はしなくて良いのでしょうか」
「ご心配はもっともです。ご説明いたします」
私はおもむろに立ち上がって、推理中の名探偵よろしく、ウロウロとソファの後ろを行き来した。
「お二人の目標は、駆け落ちではなく、駆け落ちしてでも一緒になり、幸せになることです。ゴールのビジョンがぼやけていると、道を間違い辿り着くことは出来ません。さらに、人間2、3日の苦労は我慢できますが、2年3年ともなるとその消耗は想像を絶するほどです。逃避行よりも生活の方が長いのですから、より困難な問題にリソースを割くのは当然と言えます。完璧に逃亡しても、新生活に失敗して家に戻ることになれば、連れ戻されるのと大差ありません」
この場にいる、私以外の四人の視線がこちらに集中しているのを感じる。盛り上がってまいりました!
「愛さえあればお金は要らないというのは、贅沢するお金は要らないという意味で、生活するお金は必要です。生活の基盤を支えるのは労働ですが、幼いころから上級使用人として頭角を現したセバスチャンに、木こりや農夫の仕事は非効率。必然的に行先は山間部農村部を除外し、都市部になります。さらに言うと、子供ができるまではヴィオレッタ様が働くのも良いかもしれません」
「こ、子供……」
「あら?お子様はお望みでないのですか?」
「望みはあります。ただ、そんな先のことまで考えたことがありませんでしたので」
ヴィオレッタは少し恥ずかしそうに、祈るような手つきで未来に思いを馳せて中空を見上げた。カワイイ。
「どんどん考えましょう。駆け落ちがパフォーマンスでないのなら、いずれ選択を迫られることです」
「ヴィオレッタ様はあなたと違い純真無垢なのです」
セバスチャンがむきになって抗議する。
あなたは一体何を想像したのよ。
「純真さは今関係ありません。人生設計の話ですので」
私が冷たく言い放つと、セバスチャンは言葉に詰まった。
ふっ、青いわね。今は明らかに顔が赤いけれど。
「話を続けます。ヴィオレッタ様に出来るお仕事は何でしょうか?刺繍やレース編みの職人も良いですし、良家のご令嬢の家庭教師も良いですね。ですが人づてに居場所が分かってしまう可能性が高いので、家庭教師をする場合は、外国も視野に入れて遠くまで移動することを考えるべきです。お二人が堪能な外国語が候補地に絞られます。反対に新しい外国語をコッソリ訓練するのも一つの手です」
「裏をつくということですか」
ヴィオレッタは感心して頷いている。
「遠くまで逃げれば追手がかかる心配は減りますが、その分安全なルートと資金の確保には時間がかかります。反対に近ければ偶然見つかる可能性は高まる一方で、こちらも動向を探りやすい面もあり、資金のほとんどを新生活に充てることが出来て長期的に暮しが安定するでしょう。と、まあこのように、準備さえきちんと整えれば、方法など無限にあります。ですから、まずは最終的な到達点を想定し、必要に応じて準備を進めるうえで、無理のないよう柔軟に計画を変更するのが最もスムーズであるとご提案いたします」
「大いに納得いたしました。あらゆることに造詣が深くていらっしゃるのは、類まれな才能だけでなく、たゆまぬ努力と研鑽の賜物でしょう。素晴らしいわ」
褒められちゃった!うふふ!
「恐れ入ります。駆け落ちに詳しいわけではなく、全ての段取りにはコツがあるのです。そのたった一つの極意とはすなわち!」
褒められて調子に乗り、最高潮に盛り上がった私は、キレのある動きで突如振り返り、大見得を切る。
このローゼリカが全てお見通し!
「計画はケツから詰めることです!」
「ケ……」
聞きなれない単語を復唱しようとしたヴィオレッタの口を、セバスチャンはすんでのところで塞ぎ、発声を阻止した。
「レディ・バーレイウォール!あなたが何を言おうと構いませんが、時と場所を考えてくださいと申し上げましたよね!それともなんです?高貴な方の美しい唇から卑猥な単語を聞くのが好きという歪んだ趣味をお持ちですか?崇高過ぎて私には及びもつきませんが!」
ごめ~ん。強い単語を使おうとして線引きを誤ったみたい。
正直、興奮しないといえば嘘になるけど。
「そもそも、あなたのヴィオレッタ様を見るいかがわしい目つきは尋常ではありません。いつか卑劣な手口で欲望を満たそうとするのではと危惧していましたが、まさかこのような公衆の面前で……」
私が密かにヴィオレッタの可愛らしさに悶えている事に勘づいていると言う事は、この男も同様の感情を抱えているからに他ならない。私たちは激しく同族嫌悪し合っているのだ。
けれど長くなりそうなお小言を聞いている場合ではない上に、どうせならヴィオレッタに叱られたいからスキップさせていただくわ。
「お黙りなさい、セバスチャン!大事を前にして些事にかかずらう者は失敗します!!」
「些事などでは……」
「本当に苦しく危険なことからおまもりする以外は、ヴィオレッタ様にも強く逞しく成長していただかなければなりません。もしそのような変化を少しも望まないのでしたら、あなたは駆け落ちを甘く見ています」
「ローゼリカ様、お怒りにならないで。彼の分もわたくしが謝ります」
「ヴィオレッタ様が謝ることはありません。一方的に尽くすのではなく、お互いに協力しなければならないと、覚悟を持ってもらう必要があるのです」
「献身より協力……。わかります。そうでなければきっと慣れない生活を乗り越えていくことはできないでしょう」
「うぐ……」
勝気そうなつり目なのに、微笑むとホワっとした丸い花のエフェクトが飛んだ。ヴィオレッタの肯定的な意見の前に、セバスチャンは再び押し黙った。
オーホホホ!愚かなりセバスチャン!ヴィオレッタみたいに、尽くされ慣れた生まれながらのお姫様キャラは、恋人に対等な関係を望むと相場が決まっているのよ!
「では、まずわたくしたちが理想の新生活について具体的に話し合うところから始めればよいのですね」
「さすがヴィオレッタ様!その通りです!その間に私の方でも基本となるプランを練っておきます。市井に詳しい訳ではありませんから、抱えているアドバイザーに相場や治安について相談しますが、守秘義務についてはご心配いりません。もし縁談が舞い込むようなら、将来について真剣に考える時間が欲しいと、正直に仰ればよいと思います」
「名案です。そうしましょう」
「駆け落ちは飽くまでも反対された時の最終手段です。家族に祝福されるのが一番ですから。譲歩を引き出す切り札として使うのもアリです。その点も含めて検討してください。その結果お二人の意思が堅いのであれば、一度お試ししてみてもいいですね」
「お試しというと?」
「きちんと名目を作って市井の暮らしを体験してみるのです」
ヴィオレッタの頬が期待で上気した。
「まあ……、憧れますわ。是非お願いしたいです」
げへへ。こんなんなんぼ見てもええですからね。ヴィオレッタを喜ばせるの、やめられないわ。
ただやはり、入れ知恵したからには釘も刺しておかなければいけない。
「ただし、予行練習を行う場合は絶対に守っていただきたい条件がございます。手狭な家で親密に過ごす機会が増えることと思いますが、期間中は絶対にフライングしないとご誓約ください。でなければ責任問題の観点から計画を提供することは出来ません」
「フライング?」
ヴィオレッタとセバスチャンが仲良く同時に首をかしげる。
「婚前交渉を持つという意味のスラングですね」
「んなッ、何と言う事を……!」
セバスチャンが性懲りもなく激昂する。
「仮にも侯爵令嬢ともあろうお方が何を仰るのです!信じられない!なんたる下世話な!気の毒に、トリリオンも気苦労が絶えないでしょう。どうりで天使か老兵のように落ち着いているわけだ!」
仮にもじゃなく、歴とした侯爵令嬢よ。コイツ超失礼。
「生命の営みを神聖だと考えられない方に、愛を語る資格はありません!」
いかにも崇高なことだと自信をもって宣言すると、クロードから拍手が沸き起こった。
ご清聴ありがとう。
「その通りですよ、セバスチャン。わたくしたちは皆そうして生まれてきたのだもの」
「えぇ……まさかの劣勢……」
たしなめられて、セバスチャンは慣れないせいか、すっかりショックを受けてしまった。
デレの大安売りだったヴィオレッタだが、落ち着いていつのまにかツンの仮面を元通り付け直している。
「ともかくわかりました。今日ローゼリカ様が仰ったことを踏まえて、二人で入念に話し合います。報酬の情報は、先ほど話にも上がりました、姉の婚約について第一王子派閥で妙な動きがある事でまかなっていただきたいのだけれど、よろしいかしら」
「報酬は不要ですが、ありがたく頂戴いたします。もちろん内容としては十分です」
「そう、良かったわ。わたくしたちはこれで。ひと月を目途に、またこちらからご連絡さしあげます」
「かしこまりました」
不服そうに口角を下げたセバスチャンが忘れず一言付け足した。
「あなたの回りすぎる知恵と口で、良い結果がもたらされることを期待しています」
やっぱセバスチャンはスゴイよな。最後まで嫌味たっぷりだもん。
私は息を吐くように嫌味や皮肉が出てくる性悪なので、嫌味たらしいキャラ、セバスチャンのセリフも余裕やな!と思っていましたが、嫌味や皮肉というのは内容スッカスカでなんの意味もないので、話を進めるのに役立たず非常に苦労しました。
皆様も嫌味や皮肉を言われることがありましたら、話を聞き流し、コイツ性格悪いなと思いながら心の中で叩き潰すとよいと思います。




