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怠惰の盤上  作者: 黒田 修平
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1/

あいつが人間だったら、僕は家畜になる。

僕が人間だったら、あいつは家畜になる。

何の変哲の無い世界のルール。僕は嫌気がさしていた。


懐かしい夢を見た。珍しく、嫌な夢で無かったことに安堵の息。

僕の名前は久保田くぼた 颯人はやと。今年高校に入学仕立ての15歳だ。

勉強やスポーツは優秀で、もちろん成績も優秀。

そして、何よりイケメン。ナルシでは無いけどただ、周りの人達が言ってるだけで、自分では良いとはおもわない。


目覚ましの音で目が覚める。

時計を見ると、午前6時10分をさしていた。

寝ぼけた頭と寝ぼけた目で周りを見る。少し考えた後、そこは自分の部屋だと気付く。

何故こうなったかと言うと、懐かしい夢のせいである。あの夢の感覚・・・と言うものが残っている。

「はぁ・・・。遅刻しないようにはやく用意するか。」

そんなこと考えている暇など無く起きた。

ベットから体を起こし、クローゼットを開けた。

服を脱ぎ制服に着替えた。学校指定の制服は、少し動き辛い。そして、ださい。

鞄に必要な教科書類を入れ、チャックを閉じた。

そして、首にガラスの小瓶をかける。中には小さな小さな『骨』が入っていた。

ふと、机の上の写真に目がいった。その中に女の子が写っている。『骨』の持ち主でもあった彼女は笑っていた。そう。とても眩しく。


「あら。颯人。おはよう。」

階段を降り、ダイニングに行くと母さんが朝食を作っていた。

「母さん。おはよう。」

僕は笑ってそう言った。

「もう少しで出来るから、待っててくれる?」

「ああ。分かったよ。」

この家には、僕と母さんの二人暮らしだ。父は浮気ばっかりしていて、いっつも母さんを困らせていた。

そんな父はある日、死体で見つかった。犯人は不明。胸に一刺しらしい。当時3歳だった僕は、意味不明だった。

実際、僕は父なんてどうでもよかった。家にそんなに居なかったし、母さんや僕に手を出したりしたからだ。今生きてひっそり暮らしていても、僕は探さないよ。

何て考えて居たら

「颯人~。ご飯出来たよ~」

と、ダイニングから聞こえてきた。


「美味しいでしょう。今日は頑張って気合い入れたんだから。」

確かに美味しい。・・・と言っても母さんのご飯はどれも美味しい。

「いつも美味しいからそんなに変わらないよ。」

「あら。うれしい。」

母さんは頬杖をつきながらニコッと笑った。

僕の家では朝、一緒に食べない。理由は知らない。もっとも、母さんは対面に座っているが・・・

と言うことで母さんに聞いてみた。

「ねぇ、母さん。何で一緒にご飯食べないの?」

母さんは頬杖をついたまま言った。

「ナイショ。」

そして、人指し指を僕の口の横に当てた。そして、何か取った。

「ご飯。口に付いていたよ。」

そして、メインの鮭のお皿の端につけた。

「あらあら。顔を真っ赤にしちゃって。」

「えっ・・・いや・・・あの・・・その・・・。」

「うふふ。昔からなぁんにも変わってない。」

母さんはそう言って微笑んでいる。


こんな母さんだから言えない。

僕のことを・・・


「そういえば颯人。学校楽しい?入学当時はカチコチだったけど。」

「うん!楽しいよ。」

僕は今年の4月で高校に入学した。県で3位くらいの頭の良さを持っている公立に。

実際あんなこと無ければ、楽しいに違いない。

そして、母さんは言った。


「本当?いじめとか無い?」


「うん。無いよ。」

嘘だ

「本当に?」

違う

「うん。大丈夫だよ。」

嘘なんだ

「よかった。何かあったら言ってね。」

僕の

「わかった。」

僕の・・・

心の声に、気付いて!!


「ごちそうさまでした。」

お皿と茶碗を重ね、キッチンまで持って行く。シンクに置き、水に漬けておく。

そして、テーブルに戻り朝刊を読む。

今日のトップニュースは、テロ。ヨーロッパのほうで勃きたらしい。映画館爆破。今のところ、死者は20人らしい。

犯人は逃走中らしい。でも、顔やどんな人かは解ったらしい。


「母さん、学校に行ってくるよ。」

「はーい。お弁当持った?」

「うん。」

玄関先で靴紐を結んで話していた僕は、時計など気にしていなかった。

電車で通学する訳でもない。バスも無い。遅刻もしない。

じゃあ、何故か。


いじめを一つでも回避する為である。


今は7時35分少し前。家から学校まで30分かかる。いじめっ子達は8時に来る。僕が着く5分前でも何かしら仕掛けてくる。

走れば間に合うかも知れないが、今日の鞄はすごく重い。こんなので走ったら5メートル走っただけでもバテバテになる。

もう一度言っておく。僕はこの時時計を見ていない。つまり、普段通り『歩いて』いってしまった。

だから間に合わなかった。

下駄箱の上靴には、画鋲が入っていた。ご丁寧にテープで留めてある。僕は二つの意味のため息をもらし、画鋲をゴミ箱に捨てた。

教室に入って静かに移動。皆の目が僕に集まる。その目のなんと冷たいこと。僕を人として見ていない。まぁ、僕も人として見てないけど。

席に鞄を置いて中身を机に入れた。・・・実際は入らなかった。机の奥に何かあった。

出してみるとそれは、ヘビだった。しかも腐っていた。

僕は無言でそれを取り無言で教室を出た。そのとき僕は、アイドルだった。


廊下でもアイドルだった。とりあえず中庭に行って『そいつ』を埋めた。

「これで・・・よし。」

土の上にタンポポを置いた。

そこへ・・・

「よぉ。優しいねぇ。」

ヒュゥと口笛を吹いてそいつはやって来た。背後からだが誰かはわかった。

「・・・。」

僕は無言で立ち上がった。そして無視しようとした。

「おい。待てよ。」

そいつは僕の肩を掴んだ。僕は振り払ったが、取れなかった。

「あれ。まさか逃げようとした?」

「んなわけねーだろ。」

僕はため息をついて、振り向いた。

そこに居たのは同じクラスの浜田はまだ くにだった。その後ろに女子二人。携帯をいじくっている。

「何の用だ。」

僕は早くこの場を離れたかったので、用件を聞いた。

すると目の前に拳がきていた。

それをうまい具合にパシッととる。

「誰に向かって口をきいてる。」

続け様に頭突きが来る。得意の運動の良さを生かして回避しようとした。

が、出来なかった。後ろにいた女子に捕まっていたからだ。浜田のデコが僕の眉間をとらえた。

「ガッ・・・」

僕はそんな情けない声を出して後方へ吹っ飛んだ。

そのまま背中から地面に落ちた。

「痛っつ・・・。」

眉間をやられたのに鼻血が出てきた。

浜田は僕の胸ぐらを掴んで僕を持ち上げた。

僕は抵抗しなかった。

「颯人よぉ。俺のことはさぁ『浜田様』だろ。」

僕は黙ったまま浜田を見た。

「ほら、言ってみろよ。『浜田様』って。」

僕が抵抗しなかったのもめんどいからだ。だから、今回もめんどいから言った。

「そりゃどうも。雅功まさとし)さん。」


何で僕はいじめを受けているか。その理由は二つある。

一つ目は、上で書いたとおりのこと。成績優秀。スポーツ万能。そして、イケメン。この3つのせいである。

あいつらは嫉妬をしている。

小2の頃、初めていじめが来た。そのときは、ただの無視だった。まぁ僕は気にはしていなかった。勝手にしとけの感じ。

しかし、その態度が気に入らなかったのであろう。いじめがエスカレートした。

と言っても菌回しになっただけなので、気にはしなかった。

でも、それを止めてくれる人がいた。その人物は、僕の親友であった人だ。

名前は梅田(うめだ) (かい)。男。イケメンで何より明るかった。

なので皆からの人気もあった。

スポーツは優秀。勉強普通。よく、俺に問題の答えを聞きにきたっけ。

2つ目にいくよ。

2つ目は、怪を殺したこと。

僕が直接殺した訳では無い。僕の手はまだきれいなはずだ。

そう。あの日・・・。

僕と怪は、母さん同士の中も良かったので小さい頃から知っていて、よく遊んでいた。

その日も二人で一緒に遊んでいた。夏至が終わって三日たったとても暑い日。

僕と怪は、山へ探検に行っていた。中1にもなってそんなことをしていたのを、今はとても恥ずかしく思う。

「颯人。早く来いよ。」

「待てよ。おまえ早すぎ何だよ。」

「おっ、もうすぐ山頂か。」

「えっ、もうそこまで来たのか。」

木々をかき分けながら進むこと30分。ようやく山頂に着いたらしい。

「うっわ~。すげぇ~。」

「ほんと。最高。」

山の峰が続いているのが見える。それはもう遙か遠くまで。

「おい怪。あっちに一本の樫の木があるぜ。」

僕は小高い丘のうえに立っている樫の木を見つけた。

「言ってみようぜ。」

怪はそう言うと、樫の木に向けて走り出した。

「あっ、おい待てよ。」

僕は怪の後を追いかけた。

「へへぇ。俺が一番。」

「いや、ずるいだろ。フライングだぞフライング。」

僕と怪はぜえぜえ言いながら樫の木にもたれかかった。

空が蒼い・・・。

「なぁ、颯人。」

怪がそう言って、座っている僕の前まで来た。

「何だ?」

「俺たち、ず~と一緒だよな。」

「・・・えっ?」

突然の当たり前に僕の思考回路はついていけなかった。

「いや、『えっ』じゃ無くてずっと一緒だよな。」

「う・・・うん。」

僕はコクりとうなずいた。

「じゃあ、この木に誓おうよ。『俺たちの友情は永遠に』って。」

怪はそう言って幹に触れた。

「うん。『僕たちの友情は永遠に』。」

そう言って僕は笑った。

「あはは。何笑ってるんだよ。」

そういう怪も笑っていた。


帰り道。僕と怪は、裏通りを歩いていた。

僕の提案でこっちから帰ろうと言ったからだ。

「うわぁ。た・・・助けてくれぇ。」

角からそんな声が聞こえてきた。僕たちは、急いで声のした方へ向かった。

そこには、40代後半っぽいおじさんが、二人組に絡まれていた。

「おい。お前!何をしている!」

怪がそういった。

「やべぇ、逃げるぞ!」

そう言って二人は逃げた。

「くそ、待て!!颯人、追うぞ!!」

「おう!!」

僕たちは二人組を追った。二人組は狭い路地などを移動しながら、僕たちから逃げていた。

でも、それもすぐ終わった。

二人組は行き止まりの倉庫に入ったからだ。

「あそこか。よし、いくぞ!」

あたりを警戒しつつ僕たちは西日が差し込む古びた倉庫に入っていった。

「てやぁ!」

僕に向かって一人来た。それを右手で受け止める。

「くっ。こっちからも。」

かの声が聞こえたので、僕は言った。

「怪!そっちを頼む!こっちは任せておけ!」

そう言った時、鉄パイプが右目横をとらえた。

「ぐぁ・・・」

「颯人!!」

「よそ見はだめだぜい。」

「くっ。」

ごろごろと回転し、右手で起き上がった。

相手を正面にとらえ、じりじりと間合いを詰めた。

「てやぁ!」

僕は左頬に殴りかかった。・・・と見せかけ左足で回し蹴りをした。

相手は予想外の攻撃に防御出来ず、左頭をもろに受けた。

相手がよろけたのを見逃さず、さらに回転し右足の甲を左頬に一発いれた。

相手は吹っ飛び頭から壁に強打し、気絶した。

「はあ、はあ、・・・。」

右目横が痛むが、我慢して相手に鎖を巻き付けた。

「これで・・・よし。」

きっちり固め無力化したのを確認すると、静かになった向こうの方に言った。

「お~い。怪~。何処~。」

するとオイル缶の横にもう片方のやつの足が見えた。

「あっ。何だ~。こんなところにいたのか~。お~い、怪・・・。」

言葉が出なかった。

「へっ。手間かけさせやがって。」

そう言ったのは、予想と違う人だった。

僕は頭が真っ白になり、意識が飛んだ。

そして、すぐ。違う人は死んでいた。

でも、僕は気にしない。それより怪だ。

「怪。怪。怪・・・」

怪は数十カ所刺されていた。ひどかった。


ねぇ、怪。返事してよ・・・。


ほらいつものようにさ。


笑ってよ。


眩しい太陽のようなあの笑顔を作ってよ。


あの笑顔はボク、大好きなんだ。


だからさ、笑ってよ。


勉強のこと教えるからさ。


お前いっつも解らなかったら、ボクのところに来たね。


9月にある中間テスト、教えてやるからさ。


笑ってよー


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