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課題

『小鷹みのりを救え、期限は一週間とする』




 封を切って内容を確認すると、手紙にはその一文だけが記されていた。


 …………えーっと、どちら様でしょうか? 


『小鷹みのり』なんてそんな名前の奴、俺の知り合いにいたっけ? ていうか、課題の内容ってこれだけなの? 




 一応はと外装をひっくり返し裏面も見て確認してみるものの、これといって何も書かれていなかったわけで。


 つまり、現状の手がかりとしては『小鷹みのり』という人名らしきワードだけで、情報が少なすぎる。


 なんだよ小鷹みのりを救えって……。


 そもそも、こいつがどういう人物かも知らん上に救えだとか無茶振りにもほどがあるんじゃないか……。


 しかも一週間の期限付きときたもんだ。




「小鷹みのりさんって、しょーへーの知り合い?」




 課題の人物が検討もつかず頭を抱えていると、天音がひょこっと横から顔を覗かせた。


 あー近い近い近い距離が近い。もうちょっと距離感ってものを考えて? お前可愛いんだからドキっとしちゃうだろからね。やっぱこいつ俺に惚れてませんか?




「いや、知らない。そもそも女の子の知り合いなんていないに等しいんでね」




 近づからただけでドキドキしているなんて気付かれたらまた面倒なのでここは冷静を装う。


 天音は俺から離れ「ふっ」と鼻で笑う。なんかイラっとするな。


 そもそもやっぱりこいつ、教室では猫被ってただろ。あの清楚系お嬢様っぽいキャラどこいった。




「あー、確かにしょーへーって、異性に距離を置かれそうよね。ほら、髪の毛とか寝癖そのまんまだし、なんか目つきいやらしいし、あとキモい」




 あの……こいつ殴りたい。つうか殴らせて。


 今日会ったばかりの奴に対してひどすぎないか? きれっそ、超きれっそ。温厚で有名な俺もさすがにおこなんですけど。




「私服とかもセンスなさそう。もしかしてまともなところないんじゃないの?」




 ………………。




「最初の授業の時も下心丸出しだったし? しょーへーモテないでしょ? 年齢=彼女いない歴みたいな。ぷぷぷ」




 なに、なんなの? この天使、俺のハートへし折りに来てるの? 


 ちょっと自分が可愛いからって調子に乗りすぎなんじゃないんですかね? 


 男子高校生が下心持ってて何が悪いっていうんだ。あんまり俺を怒らせると揉むぞ、その大きなおっぱい。




「ねーねー、本当のこと言われて今どんな気持ち?」




 あああああうるっさい! なにが『あなたが課題を取り組むのを見守りながらサポートするように言われた天使です』だ! 邪魔でしかないんですけど!


 俺の内心を無視して、天音は距離を徐々に詰めながらしつこく聞いてくる。




「ねーねー? 答えてよ、しょーへー?」




 最初は可愛らしい声だと思ってた時期もありました。


 今はもう天音の声を聞くだけでイライラしてしまう。


 こんな奴にかまってる暇ないんだよ。こっちは命掛かってんだから、無視無視。


 うるさい天音を無視するため、体の向きを変えて今後のプランを考えることにした。


 まず、最初にすべきは――




「ねーねー? なんでなんでー?」




 この手紙に書かれている『小鷹みのり』を――




「ねーってばー?」




 うるせえええええええええ!




「あっち行って――」




 むにゅっ。




「ろ?」




 後ろからひたすら絡んでくる天音を右手で払いながら振り返ろうとすると、何やら右手に柔らかい感触が伝わった。こ、これは……?


 その感触の正体を確かめるために、視線を右手の方に移す。


 すると、俺の右手は天音の大きなメロンをしっかり掴んでいて。




むにゅむにゅっ。




 これが――おっぱい……なの、か。




 さり気なく二回ほど揉んだ。いや、割と堂々と揉んだ。気持ちよかった。


 さっきの腕の時のよりも数段良かった。


 厚めの制服越しでもそれはわかるくらい。


 おっぱいはましゅまろとはよく言ったものだ。こんなん直に触ったらどうなってしまうん?




 恐る恐る天音の顔を覗うと、何が起きたのか理解できていないらしく、自分のおっぱいに視線をやりながら固まっている。その間にもう二回ほど揉んだ。




 もみもみ。




 うむ。余は満足じゃ……。


 ほんほんとにんまり顔の俺とは対照的に、天音は身体をぷるぷる震わせながら顔の赤色面積を広げていく。


 どうやら何が起きているのか理解し始めたらしい。




「ぎゃあああああああああああああああああ!?」




 絶叫に近い悲鳴を上げ、天音が両肩を自身の腕で抱く。


 年頃の乙女とは思えないような耳をつんざく声が、裏庭どころか辺り一帯にきーんと響き渡る。


 ……あ、というか天使だから年頃の乙女じゃないじゃん。天使はこういう叫び方をするんだな、メモしておこ──。




「あべしっ!?」




 なんて考えていたら、左頬に乾いた衝撃音が走った。思考が一瞬スローになったものの、じんわりとした痛みが追いついたと同時に、天音がより瞳を細めて俺を鋭く睨みつけてくる。




「なにするんだよ!?」


「それは私のセリフでしょ!? な、ななななんで人の胸揉んでるのよ!?」


「決まってるだろ。そこにおっぱいがあったから、だ」




 胸じゃなくておっぱいって言って欲しかったけども、などど考えつつどやっとした顔で言い放つ。


 瞬間、ごんっと鈍い音が響き、頭がぐわんと揺れた。


 今殴ったね!? 暴力系ヒロインは人気でないんだぞこの野郎!




「くだらないこと言ってないで課題について考えるわよ!」




 鬼のような形相で天音はそう言い放った。待って? 先にくだらないこと言い始めたのはお前だからね? そこ間違えないで?


 そう思い、不満の目を向けると思い切り睨まれた。ふん、俺は暴力には屈しないぞ!




「何か文句でもあるのかしら?」




「……ないです」




 こんなん屈するに決まってますよ。だってあれ、絶対人殺したことある目だよ? めっちゃ怖いんだけど。




「それじゃ、どうするか考えましょう」




 うん、それはいいんだけど、なんで天音が仕切ってるの? これ俺の課題じゃないの? まあやってくれるなら楽になるからいいんだけどさ。




「……了解」




 でもなぁ……、考えることって大体決まってるよな……。




「とりあえず小鷹みのりさんになにか悩みがあるのか聞いてみましょうか」




 そうそう、とりあえず本人に聞くことが大事――って、……ん?


 突拍子もない天音の提案に驚いて振り向くと、目の前の天使はキョトンとした顔でこちらを見つめている。




「天音は小鷹みのりがどこにいるのか知ってるのか?」




 尋ねてみると、「何言ってんのこいつ」みたいな顔をされた。


 こいつのなかで俺の扱い低すぎませんかね。


 さっきまではお願い信じてぇぇぇとか泣きわめいてたくせに……。女って怖い。いや、天使って怖い……。




「知るわけないじゃない? なんで私が知ってるわけ?」




 天音は腕を組み、両眉を吊り上げむすっとした顔で言い捨てた。


 その様子から、若干の苛立ちが見て取れる。


 ……ねぇねぇ、なんでこの子がイライラしてるの? 翔平わかんない。




「いや、悩みを聞くとか言うからさ。ああ、知ってるんだな、と思うだろ普通。知らないなら、まずは小鷹みのりについて調べないとじゃないか?」




 天音の提案はステップ二だろ? ステップ一飛ばしてどうするの。




「確かに、それもそうね」




 俺の言葉を聞き、なるほどと顎に手を当て真顔でうんうん頷く天音。


 むしろ調べるところから始める以外なかった気がするけど。


 でも、だからといってツッコミ入れたら怒られそうだしやめておこう。しっかし、こいつ主導で進めて果たして本当に大丈夫なんですかねえ。




「でも、調べるってどうやって調べるの?」


「そうだな……」




 普段は使わない頭をフル回転させて考える。自分の命が懸かってますし。


 こういう場合、情報が少ないのには理由があるはず。


 神様は『課題』と言った。たぶん『救え』としか書かれていないのは、小鷹さんの抱えてる問題か何かを自分で見つけ出せということなのだろう。




 次にこの『小鷹みのり』だ。これは俺の知り合いにはいない名前だ。


 日本中に何人の『小鷹みのり』という人物がいるかわからないが、これが課題である以上、その中の一人なはず。


 そしてそれは、ある程度俺の活動範囲内にいる気がする……。期間が一週間でこの課題を達成させるなら、そう考えるのが妥当なところだと思う。




 となると、まず調べる場所は――




「この学校の生徒の中に小鷹みのりという生徒がいないか調べよう」




 休日は家でゲームやアニメを見ている俺はあまり外出はしない。


 となると、やはり一番可能性が高いのはこの学校ということになるはず。




「この学校?」


「そうだ」


「どうして?」




 俺の言葉に、天音はこてっと首を傾ける。可愛いけれどなんだろうな、果てしなく馬鹿っぽい。


 というのも、こちらを見る天音の顔がもはや思考停止していることを物語っていて、自分で考えることをやめてすぐ答えを求める駄目な感じのオーラが出ていたせいだろう。


 この子もしかして頭あんまりよろしくないのかしら?


 そう思って懇切丁寧に説明してあげることにした。うん、俺って優しい!

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