神様2
もしかして俺の心を読んだ?
「うん。神様だし、人の心くらい読めるのだよ」
さいですか……。まぁ実際目の前でこういろいろ見せられたら今更こんなことでは驚かないけど。
それに今はそれよりも確認しておきたいことがある。
「つまり、俺は鈴原さんが言うとおり一週間後に死ぬってことでいいんですかね」
「うん、君がこのままなにもしなければなのだけどね」
「それってつまり、鈴原さんが言っていた課題ってやつをクリアすれば助かると」
「そういうことなのだよ。理解してくれたみたいで嬉しいのだよ」
へらへらとしながら話す神様。なんか調子狂うな。
神様ってもっとこう威厳ある感じっていうかなんでこんなフランクな感じなの?
こんなんじゃいまいち締まらないんだけど……。
「それで……、俺はなにをしたらいいんですかね? 社会に貢献しろとか悪人をとっ捕まえろとかそんな感じですか? つっても俺自体どこにでもいるの普通の高校生なんであんまり難しいことはできないと思いますけど」
「それについては天音の方から説明があると思うから彼女から聞くのだよ。あんまり彼女を泣かせないでおくれよ?」
「まぁ、彼女が言ってることが嘘じゃないとわかったんで、その辺は大丈夫だと思いますけど」
そういうことならクラスのやつらが鈴原さんに質問しても秘密で押し通していたのも……もうすこしマシな言い訳もあったと思うけど納得できなくはないな。
「よろしい。用件も済んだことなのだし、これで失礼するのだよ。神様は多忙なのでね」
神様がパチンと指を鳴らすと、止まっていた時間が動きだし、再び風景が動き出す。
「あ、あれ……私はどうしてこんなところに……」
意識が戻り混乱しているのだろう。星野先生は慌てながら掻き分けていた前髪を元に戻し顔を隠すと、いそいそとこの場をあとにした。
結構綺麗なのにもったいない。余程の恥ずかしがりなのかね。
「森くん!」
っと、そういえば鈴原さんに呼び止められそうになったところで時間が止まったんだったっけ。
振り向くと鈴原さんの目尻には涙が溜まっていて今にも零れ落ちそうだった。
なんとか泣き止ませないとな。神様との約束なんだし。
「ねえ、もう一度だけ考え直して! 本当にこのままじゃ森くんが死んじゃうの!」
「そのことならわかったよ、信じる」
「だから信じてってば、本当に本当のことなの! 確かに天使の力なんて見せることは――って、え?」
「落ちつきなよ。信じるよ鈴原さんの話」
まあ、あんな力を見せつけられてしまった以上、話を信じるしかない、よな……。
「本当に!? 本当なのね!?」
信じてもらえて嬉しかったのだろう。鈴原さんはこちらに詰め寄ってきて俺の両手をぎゅっと掴むとぶんぶんと上下に振りまわす。
「良かった……良かったぁ……」
嬉しいのはわかったけどそんなに強く手を握られると、女の子に免疫のない身としては気恥ずかしい。
女子の手ってこんなに小さく柔らかいものだったのか……もうなんか一生握られてたい。
「あっ、ごめん。興奮しちゃって……」
「い、いや大丈夫。むしろずっとこうしていたかったというか……」
「え、今なんて?」
「ううん、なんでもないなんでもないから!」
危ない危ない。危うく本音を聞かれるところだった。こんなこと聞かれたらまた変態と罵られてしまうじゃないか。……それも悪くはないな。
「ところで、これから俺はどうしたらいいのかな?」
「そ、そうね。えっとさっきも話したけど、森くんには神様からの課題をクリアしてもらいたいの。それをクリアすることができたら一週間後に起こるであろうあなたの死も回避できるはずよ!」
「それで、その課題っていうのは結局なにをすればいいのかな? 神様も鈴原さんに直接聞けって教えてくれなかったんだよ」
「神様!? 森くん、神様に会ったの!?」
「え、会ったけど。タイム待って鈴原ざんぐるじい」
どうやらこの子は興奮するとすぐ人を揺さぶる癖でもあるらしい。
しかも無駄に力が強いせいで苦しい。本当それで死んじゃうからやめて!
「あ、ごめん……」
「さっき鈴原さんの代わりに力っていうのを見せてくれたんだよ。それで君の話を信じたってわけ。さすがにあんなの見せられたら信じるしかないからな」
そう、あれほど凶悪で破廉恥な鈴原さんのパンツ――じゃなかった。時間を止めるなんてこと普通じゃありえないからな。
「そうなのね……そっか、神様来てたんだ」
「ところで、なんで見ず知らずの俺をそんなに助けたがってたんだい?」
「へっ?」
俺の質問に素っ頓狂な顔をする鈴原さん。ほう……こういう表情もなかなか可愛いな。
「あ、ああ……それは若い人が不幸な死を遂げるってやっぱり可哀想じゃない……? 家族だって悲しむだろうし。助けられる命なら助けてあげたいじゃない。それに人助けこそ天使である私の大事な仕事だもの!」
「本当にそれだけ?」
その言葉にギクッとしたのを俺は見逃さなかった。
「え、それって……?」
俺に隠し事はたとえ天使でもできないのだ。
既に俺は、鈴原さんがなぜこんなにも俺を助けたがっていたのか、その理由をわかっているつもりだ。
それは――
「俺に惚れちゃったわけだ」
「いや、それはないから」
即答された……。
いいもんいいもん。俺には二次元があるもん。
悲しくなって土を弄っていると、後ろから優しく肩に手がかかった。
「ねえ?」
「なんだよ……ほっといてくれよ」
「とりあえず課題、確認しないのかしら?」
ああ、そう言えばそうだった。それをクリアしないと俺死ぬんだったな。
「それでどうやって課題を確認するわけ? 鈴原さんがなにかするの?」
「天音でいいわよ。鈴原って名字あんまり好きじゃないの」
いきなり名前で、しかも呼び捨てとか、やっぱりこの子本当は俺のこと好きなんじゃないの?
「じゃ、じゃあ俺のことも翔平でいいよ」
「オーケー。じゃあ、しょーへー」
あれ? 俺の期待してた呼び方となんか違うんだけど。なんでそんな間延びしたふわふわした感じなの。
「質問に答えると、私は神様から課題の書いた手紙を預ってるの」
天音は鞄に手を入れると、ごそごそと中を探して一通の手紙を手にとった。
「これね。どうぞ」
「お、おう」
これが神からの手紙……、なんか普通だな。百均とかに売ってそうなんだけど。てかこれ、朝下駄箱に入ってた手紙のやつと同じものじゃないですかね。手抜きすぎだろ、神様。
「天音はこれになにが書かれてるのか知ってるのか?」
「知るわけないじゃない。課題を最初に見るのは当事者って決まってるのよ。決まりを破れば罰を受けるんだから」
「そうなのか……」
今更だが緊張してきた……。
「ふう……」
気持ちを落ち着かせるために、軽く深呼吸をする。
この課題をクリアできるかどうかに俺の人生が懸かってるんだ。
「開けるぞ……?」
「う、うん」
一体どんな内容が書かれているんだろうか。
死を回避するための課題だと言うんだから、中々に厳しいものに違いない。
不安の中にちょっとした好奇心が混ざった心境で俺は、手紙を手に取り封を開けた。