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転校生2

 ……結論から言うと、あれから鈴原さんとはなんの進展もないまま放課後になってしまっていた。

 せっかく休み時間に鈴原さんとイチャイチャできると思っていたのに……。空気の読めないクラスメイトたちが休み時間になるたび、鈴原さんの机の周りを取り囲み質問攻めをしていたせいで取りつく暇がなかったのである。

 まったく……。こいつらは少しは人の気持ちというものを考えた方がいいのではないだろうか? 鈴原さんはきっと俺とたくさんお喋りがしたかったはずなのだ。というか絶対そうで間違いない。

 けれどまぁ……クラスのやつらが鈴原さんにいろいろと質問をしていたおかげで、俺もある程度は彼女のことを理解できた気がするのも事実だ。


 どこから来たのか→秘密。


 彼氏はいるのか→秘密。


 趣味は→秘密。


 その他もろもろの質問→全て秘密。


 …………いやいやいや! 全然わかんないからね!? 一つもまともに答えてないじゃんなにこれ!? 全部秘密とか何処の秘密主義者だよ! なんか答えちゃいけない理由でもあるの? あれか、実はどこかの未来機関とかに所属していて、この時代の未来を変えるようなことは全て禁則事項として答えられないとかそういうのか? それなら納得……しねえよ!


 まぁ彼氏がいるだとか趣味に関しては言いたくないこともあるかもしれない。ただ、前に住んでた場所なり、好きな食べ物だったり、それくらいについては答えてやってもいいんじゃないかとさすがに思うわけなんだが……。

 どれだけクラスメイトたちが質問したところで返ってくる答えは「秘密です」という言葉のみで、クラスのやつらもちょっとこの子おかしいんじゃないの? なんて思い始めたのだろう。朝に比べると休み時間に鈴原さんの周りに来るやつらは段々少なくなっていた。

 …………っと、今はそんなことどうでもいいんだった。今から俺の人生の中でも過去最大級のイベントが起きるのだ。途中から鈴原さんに気を取られて、若干忘れていたような気もしないではないが、とにかくこうしてはいられない。


 待っててくれTさん、今会いに行きます!


「翔平、帰ろうぜ!」

「誰だお前」


 人が気合いを入れたところで、爽やかイケメンクソ野郎からお声がかかる。

 大体なんでこいつは話かけるときに一々人の肩を思い切り叩いてくるの? 痛いんだよ、ちょっとは加減しろよ馬鹿!。


「お前……さすがにひどくない? 日に日に俺の扱い雑になってきて心折れそうなんだけど」

「元からこんなだろ?」

「昔はもっと優しかったと思うぞ……。まぁいいや……、とりあえず一緒に帰ろうぜ?」

「あのね、靖之くん。今日は靖之にかまってる暇ないんです。忙しいんですよ俺は。大体、お前部活はどうした、部活は」

「なんだよ、今日は部活休みだから遊べると思ったのに」


 お前の希望なんて知るか! 俺は今から大事な用事があるんだよ! 男、しかも靖之になんてかまってる暇はありましぇーん!


「そういうわけだからお前は一人で帰ってどうぞ。じゃあな靖之」


 しょんぼりと落ち込んだ様子の靖之を華麗にスルーしつつ、そそくさと帰り仕度を済ませる。

 まだ放課後になったばかりだがもしかしたらTさんがもう待っているかもしれないし、俺は急いで裏庭に向かうことにした。


 この高校の裏庭は滅多なことでは人が来ない。それは一年間この学校に通っていてよく知っていた。昼休みなんかにたまにそこで昼食をとったりするのだが、人なんか見たことない。たぶん放課後もそうなのだろう。そう考えると、告白する場所には打って付けの場所というわけか。


 裏庭に到着すると、まだ人の気配はなかった。どうやら俺の方が先に着いたようだ。到着したとき先に女の子が待っていて「森くん……待ってたよ……」と、顔を赤らめながら告白されるなんてのを想像していたのだが残念無念。


 まぁ、後から慌てて来たTさんが、既にいる俺の姿をみて動揺する姿を眺めるというのも悪くない。それはそれで全然有りなわけで、大人しくTさんのことを待つとしようか。



 暇つぶしにでもと、最近ハマってるスマホアプリを起動して遊んでいると十分が過ぎていた。

 

 ちょっと早く来すぎたかな? と思いつつ、も再びアプリを始める。


 二十分後……。


 まだこないな。


 三十分後……。


 ……ちょっと遅くないかな?


 四十分後……。


 あれ? もしかして俺騙されてる?


 一時間後……。


 これは……誰かが俺を嵌めたな……?

 靖之か? 靖之なのか? ラブレターをもらった俺の反応を楽しむドッキリだろこれ! どこかで俺のことを監視してるに違いない!

 あの野郎……。さっき一緒に帰ろうとか言ってたのも演技か演技だな。騙された俺を見て今頃どっかで大笑いしてるんだろうと、周囲を見渡す。しかし、それらしい人影は見当たらない。

 いや、本当なんなのこれ……。辛い……。



 それからしばらくの間、裏庭で一人立ち尽くし、いい加減諦めて帰ろうとしたときだった。

 

「ごめん、ごめん! お待たせ! 待たせちゃった……?」


 きっと大急ぎで来たのだろう。さらさらとしていた綺麗な髪は少し乱れていて、息を切らしながら謝る彼女。

 本来ならどんだけ待たせるんだよと、怒る場面なのだろう。だけど俺は、目の前に現れた少女が想像していた三人の誰でもなくて、今日転校してきたばかりの鈴原天音だったことに、ただ驚いてしまっていた――。

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