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ラブレター2

 小さく深呼吸をして、今度は他人の下駄箱だっていう落ちじゃないよなと思い確認する。


 うん、やっぱ俺の下駄箱だわ。間違いないわ。


 となると、あとはこの手紙が誰宛かってことだ。

 例えば、おっちょこちょいのドジっ子属性の女の子が誰か他の奴の下駄箱に入れようとして、間違って俺の下駄箱にいれてしまったということも十二分にありえることなわけで。


 靖之にバレないように、気を配りながら手紙を手に取り確認する。

 すると、裏側には『森くんへ』と書かれていた。


 …………ふふ、ふふふ、ひゃっふううううううううううううう! きた、きましたわー! ついに来ました俺の時代! いやー待った、待ってたわーついにこの時がきちゃったかー!

 

 間違いなくこれは正真正銘俺宛の手紙だ。わざわざ下駄箱に手紙を忍ばせておくなんて間違いなくラブレターだ。もうそれしか考えられないでしょう! 


 っと、こうしてはいられないな。


「あ、いてててて……」

「どうした?」

「い、いや、腹痛が痛くて……悪いけど先に行っててくれ……」

「お、おう。大丈夫か? 保健室まで一緒に行こうか?」

「大丈夫だから。たぶんこれお前の顔見たせいだから。だからお前はさっさと教室に行っててくれ」

「それはひどくね? ……まぁ気を付けてな?」

「おう……あとでな」


 ちょっとばかし言い訳におかしいところもあった気がするが、とりあえず靖之は納得したようだ。

 教室に向かう靖之を見送り、すぐさま一階のトイレへと駆け込む。こんな手紙を教室でなんて開いて誰かに見られたら堪ったもんじゃないからな。

 特に靖之になんて見られようものなら一ヶ月は話のネタにされるだろう。あんなやつに高校初、いや、人生初のイベントを邪魔されてたまるか……!


「どれどれっと……」


 空いている個室に入り封を切って中身を確認すると、手紙は女子高生が書くような可愛らしい丸字で書かれていた。


『今日の放課後、大事な話があるので裏庭で待ってます。Tより』


 なるほどなるほど、これは完全にラブレターですね、わかります。

 手紙自体には敢えて細かいことは書かずにシンプルに。詳しいことはその時に話すつもりなんだろう。

 これが本物のラブレターであると確信した俺は思わずニヤケつつ手紙を鞄にしまい、いつもより軽い足取りで教室に向かった。


 わいわいと朝から騒がしい教室に到着し席に着くと、同じタイミングで担任の星野先生が教卓の前に立つ。


「おはようごさいます……」


 今日も変わらず声が小さいなこの人。


 教卓の前に立つ暗いオーラを纏った細身の女性。黒色の長髪が貞子のような髪型になっていて、誰も先生の素顔は見たことないらしい。本当か嘘かは知らないし別に興味もないが。


 まぁそのせいあってか、生徒たちの間では貞子というあだ名で呼ばれている。


「今日はホームルームの前に、これからこのクラスで一緒に過ごしていく転校生を紹介したいと思います……」


 え? 今なんて言ったんだ? 声が小さすぎて一番後ろの俺までよく聞こえないんだけど。

 どうやら真ん中あたりの生徒も上手く聞き取れなかったようで、

「えー、今何て言ったんですかー?」なんて声があがる。それを聞き取れた一番前の生徒が、後ろの方に伝えるのがこのクラスの日常である。


「転校生がくるってー!」


 前の生徒がそう言うと、クラス中がざわつき、席の近い者同士が話し始めた。


「可愛い子がいいな」

「イケメンかな?」

「どんな子かなー?」


 どうやらクラスのやつらは転校生に興味深々のようである。

 だが、今の俺にはぶっちゃけそんなことどうでもいいんですよ。たとえ転校生がどれほど可愛かろうが、綺麗だろうが、性格が良くても俺には関係ない。何故なら俺にはこの手紙の主、Tさんがいるからだ。


「みなさん、お静かに……」


 星野先生が何か言ったように聞こえたが、生徒がざわついているせいで全く聞き取れない。代わりにまた前の生徒が口を開く。


「静かにしろだってさー」


 その言葉でようやく静かになる教室。しっかしこの代弁システム本当めんどくさいと思うんだけど。というかこの先生よく教員になれたよな……。


「では鈴原天音さん、お入りください……」


 またぼそぼそと呟く。もうちょい大きい声だせないのだろうか……。いや、だせたらこんな代弁システム使ってないわけなんだけども。


「転校生さん、入っていいって先生が言ってますー」


 ああ、なるほど。呼んだけど転校生に聞こえなかったのね。まあドア越しだし無理もないか。

 もはや転校生への興味がほとんどなかった俺は、机に突っ伏す形で居眠りの準備を始めていた。

 どうせこのホームルームが終わったらそのまま星野先生の授業なわけで、こんな後ろの席ではなに言ってるかわからないからだ。


「失礼します」


 透き通るような声がした。

 その声に反応して、身体を急いで起こす。

 ゆっくりと扉を開けて、綺麗な姿勢で教卓の前まで歩いていく転校生。


 天使がいる――。


 素直にそう思ったんだ。


 くりっとした丸い目をしていて、まるで二次元のキャラが現実世界に降臨したんじゃないか、なんて思ってしまった。


 歩く姿がとても絵になっていて、さらさらと靡く明るい色の長い髪がよく似合っている。


 モデルでもやっているんじゃないかと思ってしまうほどスタイルが良く、制服越しでもそれはわかる。

 細めのウエストに、少し短めのスカートから見えるすらっとした生足にニーハイがベストマッチしている。

 そして極めつけは、彼女が歩くたびに揺れているおっぱい。とても高校生のものとは思えん。けしからん。


 そんな天使のような少女は教卓の前に立つと挨拶をし始めた――。

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