魔法使いの杖
あるところに、悪い魔法使いがいた。
悪い魔法使いはたくさんの悪いことをした。強い魔法を使って人の金を奪い、人の命を奪った。人々はその圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかった。
そして悪い魔法使いは善い魔法使いと戦い、長い死闘の末敗れた。
その時悪い魔法使いの体は真っ二つにされてしまったが、彼は死ぬ寸前に自分の魂を杖の中に込めた。彼の魂の込もった魔法の杖は、近くの川に落ちて流れていった。
悪い魔法使いが死んでから1年後。10歳の誕生日に家の近くの川で遊んでいた少年のところに、長さ30cmくらいの、木製のおかしな杖が流れてきた。
少年が拾うと、杖の中から三角帽子をかぶって髭を生やした霊が出てきて、彼に言った。
「私は魔法使いだ。お前は運の良いやつだ。私の魔力を自由に使わせてやろう」
少年は丸くて青い目をちょっと輝かせた。
「本当かい? でも、何をしようかな」
魔法使いは答えた。
「それじゃあ、たくさんのお金をあげよう。あの丘の上の家の前でこの杖を振ってごらん。そしたら、あの家は煙になってしまう。残ったお金は君のものだ」
少年は細い腕を組んで、しばらく考えた。
「そんなにたくさんのお金は、僕には使えないなあ」
悪い魔法使いは困ってしまった。というのも、この少年が杖を使って悪いことを3つしてくれれば、彼は少年の体をのっとることができるのだ。
魔法使いは、次の提案をした。
「それじゃあ、君の嫌いな人の前でこの杖を振ってごらん。すると、その人は人形になってしまう。君に嫌なことをしなくなるよ」
少年は、ちょっと目を輝かせた。
「本当かい?でも、誰を人形にしてしまおうかな」
悪い魔法使いは答えた。
「本当だよ。君に嫌なことをする人なら誰でもいいんだ」
少年は言った。
「本当にそんなことできるのかなあ」
魔法使いは言った。
「本当に本当さ。なんなら、あの丘の上の家の人で試してみようか」
少年はちょっと考えてから答えた。
「よし、じゃあ試してみよう」
―――――――
「本当だ」
少年はそう言うと杖を真っ二つに折り、魔法使いの人形と一緒に川に放り投げた。
そして、お母さんが昼ご飯を作って待っている、丘の上の家に帰っていった。
急にこういう終わり方の短編が書いてみたくなって書きました。
似たような作品ありそうですね。