お悩み相談放送室の良子さん(仮名)
人それぞれ悩みはあります。
「今日の悩めるお便りは、こちら!」
大きくて明るい声が、放課後の教室に響く。
この高校には、月に1回放送されるお悩み相談放送がある。
お悩みを聞いてくれるのは、良子さん。
良子さんと皆が呼んでいるが、仮名である。
良子さんは、ここの生徒なのか、それとも教師なのか。
誰も知らない。
良子さんの正体が気になった生徒達が放送中に姿を確認しに行ったが、人影は見付からなかった。
それからというものの、生徒達は良子さんの正体を暴こうとしなくなったのだ。
ただ、黙って良子さんの放送を聞く。
それだけ。
しかし、誰でも悩みを聞いて貰うことは出来ない。
良子さんに悩みを聞いて貰うには、放送室の前のポストに手紙を投函すること。
その手紙を良子さんが読んで、悩みを聞いてくれるのだ。
誰もが、自分の悩みを良子さんに聞いてほしくて、ポストの中に大量に投函していた。
今回も、大量の手紙から選ばれた1枚が良子さんの手によって読まれた。
"良子さん、わたしの悩みを聞いて下さい。
わたしは、欲張りなんです。例えば、わたしには好きなキャラクターが沢山います。
こぶたのぷっちょさんも好きだし、いるかのムーンも好きだし、人参のカロ太郎さんも好きです。他にも、沢山好きなキャラクターがいます。
今日、友達に、「なんでそんなに沢山好きなの? 私は、キャラクターものは好きじゃない。せめて、一つにしなよ」
って、言われてショックを受けました。
しかし、わたしは好きなキャラクターを一つにする事は出来ません。
やはり、一つにする事が出来ないわたしが、可笑しいのでしょうか?"
静かに、お便りを読んだ良子さん。
そして、少し考えてから口を開いた。
「うーん、まず思うのは、貴女の好きという感情は、誰のものかしら?
そう、貴女のものよね…
だから、可笑しいとは思わないわ。
貴女は、沢山のキャラクターが好きだって、言ったわね。
そして、欲張りかもしれないって。 欲張っていいじゃない。
嫌いなものが溢れている世界よりも、大好きなものが沢山溢れている世界の方が、何十倍も素敵!
私は、貴方が羨ましいわ。
だって、貴女の世界には、好きが溢れているんだもの!
友達は、まだ好きなものに出会えてないだけだもの。
貴女は、貴女よ! 自信を持っていいと思うわ。
そして、貴女は、可笑しい人ではなく… 好きなものを好きだと言える素敵な人なのよ!」
そう言って、今日の良子さんのお悩み相談放送が終わった。
放送を聞き終わり、次々と下校しようとする生徒達の中を、カバンに大量のキャラクターのキーホルダーを付けた女子生徒が、嬉しそうな足取りで下駄箱に駆けて行った。
世界に好きなものが溢れているなんて、素敵で幸せな事だと思います。