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ひとしきり叫んでひとまず落ち着いた後、まずは街を探すために移動を開始した。
数時間後、目の前には高い壁。門のようなものがあり、そこで馬車やら人やらが手続きのようなことをしている。お望み通り、街への到着だ。
「えぇー…」
どう考えてもヌルゲーです本当にありがとうございました。
元いた草原は道どころか地面の土すら見えないほどの真緑の絨毯状態のだったのに関わらず、まずはあっち行ってみるか、と軽いノリで歩くだけで第一セーブポイントというべき街に着いてしまった。実は方向音痴なはずだったんだが、そんなこと関係ないと言わんばかりの話の早さである。
まるで面倒くさがりの作者がよくある話をかき集めて纏め上げた出来の悪い創作物の世界観にいるようだ。そりゃ序盤に街につかなくて詰んだらつまんないよなぁ。
くだらない事を考えているうちに門のところまでたどり着いた。
「身分証をだせ」
着いて早速この言われようである。仕事だから当たり前か。
厳つい顔、低い声で威圧してくるように言ってくる門番の人。鎧を着て腰には剣らしき物を下げている如何にもといった風貌だ。
さて、とりあえず身分証とはなんぞ?さっき前の人みとけばよかった。軽く後悔したがまあいい、こんな時は…
「すいません、身分証を無くしてしまって…」
相場(自分調べ)ではこのセリフと決まっているんだ。この後は金を払って仮身分証的なのを貰い、街の中でちゃんとしたものを作るという流れかな。鮮やかな回避と予測に内心ドヤ顔していると
「何⁉︎お前、異端者だな⁉︎ステータスがないなどそうとしかあるまい!」
いきなり剣を抜かれてこちらに向けられた。
「ファッ!?」
変な声が出た。ちょっと待ってちょっと待って。違います異端者じゃないです!ただの異世界人です。怖い怖いごめんなさい!す、ステータス?
「ス、ステータスオープンっ!」
「なに?あるじゃないか、どういう事だっ!」
合ってた、合ってたよ、身分証=ステータスなのね!知らなかったんです許してください剣をしまって!おっさん沸点低すぎだろ。剣など初めて見たし、その切っ先がこちらに向けられているので俺は半分パニック状態になりながら必死に言い訳をひねり出す。
「し、知らなかったんです!田舎からきたもので」
「ステータスを知らないだと?どんな田舎からでてきたんだ。怪しいな」
胡散臭いものを見るような目で見つめられる。ちょっと気を抜きすぎてた。対処の仕方なんていくらでもあっただろうに。え、というかそんなに地雷ですか。まずい。
「例えば、お前が他国の間諜でこの街に入ることが目的とする。ステータスは偽造することができないからな、見せるわけにはいけない。どうだ、こんなことも考えられるだろう?」
どうだと聞かれても困る。なにぶん先程俺は生まれたわけで。この世界の世界情勢どころかこの街がどこの国に所属しているとかも分からないのだ。
「自分にはこの門を守る仕事があるわけだ。そして残念なことにこの町に異端者が入ることは許されておらず、お前が異端者だとしたら牢へと閉じ込める必要があるしその権限もある」
ゴクリ。脅しのような、というかまんま脅しのセリフに唾を飲み込む。さすがに異世界初日牢獄スタートは本当にやめてほしい。なんとかしてほしいという俺の目線に気づいてか気づかないでか、兵士は話を続ける。
「だが、お前の話が本当だとしたら無実の人を牢に入れることになる。それは大変に心苦しい。どちらかだと判断するにはあと何か一つほど要素が欲しくてな…」
「?」
「つまりだ、お前は自分が正しいとなんらかの形で証明しなければいけないのだ。どうだ、誠意を示すことはできるか?」
ゆっくりと説き伏せるように、何かを伝えるように話してくる兵士。こういう遠回しな言い方は非常に苦手だ。伊達にラノベである貴族同士の会話を飛ばして読んでいない。
………あぁ!やっとわかった。
沈黙が続いて3分ほど経っただろうか。たかが3分と思うことなかれ。3分間も無言の中答えを待つというのか中々にイライラするもので兵士もだいぶキているらしい。
答え合わせをするべくポケットからあるものを取り出し手に包む。そのまま手を差し出し
「なるほど!しかし私は本当のことしか言ってません。どうか信じていただけないでしょうか?」
握手を求めた。
こちらの意図が伝わったのか兵士は握手に応じ手の中を確認する。すると先ほどまでの態度と一転、かなり驚いたあと気持ち悪いくらい軟化した態度で
「まあ、ここはおれが責任を取ろう。俺くらいになると目を見ればわかる。入っていいぞ」
こう言うのだった。
少し軽くなったポケットをさすりながら門を潜り抜ける。殺されたり門に牢に入れられなくてよかった。気づいたことは二つ。一つはテンプレ要素を期待しすぎて適当な行動をとるのはよくないということ。先ほどは自分でも気づかなかったが異世界に来たということでかなり興奮して気が抜けていたようだ、世界そのものが違うのだから心構えをしっかりとしたほうがいいだろうと思いなおす。
そして二つ目。お金の偉大さは全世界共通だな!
町へと入った俺は困惑していた。
周りを見渡すが疑問は晴れない。
ここは異世界のはずだ。テンプレな流れにのっとってやってきた駄女神様のお墨付きの異世界のはずだ。
なのに
なのになぜ
なぜケモ耳っ娘がいない!
ぐわッと顔を上げたため周りの人が驚いたようにこちらを向いたが無視する。そんなことよりなぜだ!獣人とかは絶対お約束のはずだろ!?なのに見渡してもケモ耳っ娘どころか亜人系の人種がどこにも見当たらないじゃないか!
俺のイメージがただおかしいだけだろうか。いやしかし人種とかについては駄女神様によく聞いていた。そのくらいの知識は一般常識だろうからなきゃ困るし、何か話がなければ延々と言語の勉強をさせられるからである。
その話によるとこの世界には間違いなく亜人種、つまりはリアルに猫耳生やした子だとかエルフがいるはずなのだ。けれども周りですれ違う人は欧米などにいそうな彫りの深い顔立ちをしているレア度でいうところの☆2程度の人しかいない。全くうれしくもなんともない。
というか、そもそも人種に限った話ではなく異世界っぽさがなにもない。石でできた家々。西洋系の顔立ちの人々が行き来し、黒髪が珍しいのかこちらを眺めてくる。周りを見渡してもせいぜいがヨーロッパ旅行にきた、といった程度の感想しか持てない。
こ、こんなはずでは...
必死に頭を働かせる。よく考えろ、せっかく異世界に来れたのにこの感想はあまりにもひどい。俺のなかでの異世界らしさとは何だ?考えろ。
ケモ耳。今現在は見当たらない。魔法。空飛ぶ人も街中での魔法バトルもない。チート。そんなものはなかった。冒険者。
「これだ!」
天啓がひらめいたように反応してしまった。周りの目がきつくなった気がするが気にしない。愛想笑いを浮かべてそこらの人に無理やり場所を聞き出し歩き出す。
いざ冒険者ギルドへ、異世界らしさを求めて!
「おいおいおいぃぃぃぃ、いつからここはガキがくるようになったんだぁあ?ゥヒック」
「ガキは帰ってママのおっぱいでもしゃぶっときなぁ!ギャハハハハハハハ、オエッ」
冒険者ギルドなる建物に入りわずか二十秒。俺の周りには赤い顔をした息の臭いおっさん達4人に囲まれていた。丸太のような腕。もの凄い威圧感。身長が2メートルは優にあろうかという高さからにらまれ、肩幅は最低でも自分の二倍はある。こ、これは...
い、異世界っぽい!
俺は歓喜した。別におっさんに囲まれて喜んだのではない。この体験こそが異世界っぽいのだ。
異世界転移、転生モノには3大テーマがある(編集者俺)。冒険者、学園、ダンジョンだ。作品によって名称が変わったりもするが大体この中で一つは話に関わる作品が大半だ。そのうちの一つ、冒険者というテーマのある種のお約束を俺は今、体験している。
冒険者とは主に魔物などを狩って金に換える仕事のことだ。狩人なんかに一番近いのだろうか。当然自身の命がかかってくる仕事であり、とても危険な仕事だ。そんな仕事に子供が来たらどのように思うだろうか。きっといい気はしないだろう。
そうして絡んでくる冒険者たちを逆に挑発し、喧嘩を売って見事に返り討ちにする。周りで見ていた奴らは「おい、あいつすごくねーか...」と評価を上げる。ここまでが一種のお約束であり、異世界転移モノが好きな人は『冒険者になる』と聞いたら絶対に頭に浮かぶはずな流れなのである!
しかし考えてほしい。果たしてムキムキのおっさん複数人相手にそんな無双はできるだろうか。
否である。
なんの力もないのにそんなことできるわけない。そもそもただの高校生にそんな力も度胸もあるはずがない。こんなおっさん達に喧嘩を売ったり、ましてや返り討ちにすることができるはずがない。畜生、チートさえあれば。これも全部駄女神のせいだ。
まあいい。異世界っぽいのを見れたから満足だ。今日は許してやってここは戦略的撤退を図ろう。
「すいません間違えました」
「ちょっと待てや」
ショウはにげだした
しかしまわりこまれてしまった
why?
逃げだすことすらできなかった。どうやら素早さが足りないらしい。
てか俺のリアルラックはどうなってやがる。なぜこんなにすぐにおっさんに絡まれるのだ。周りを見ても助けてくれるような人はいないらしい。
「いや、ご忠告通り帰らしてもらいます」
「いーや、なんとなくゆるさねぇ。ここはおとなしく喧嘩を売ってもらおうか」
!?
訳がわからないよ。なになんとなくって!しかも俺から売るのかよ!
どう考えても言動がおかしい。どうしてこうなったと嘆きたいところだが相手は逃がす気もないらしく、徐々に距離が狭くなっている。今はここを切り抜けるのが先か。
いいだろう
腹をくくろう。できれば目を合わせずにさっさと逃げ出したいが無理なら仕方がない。
駄女神様にもらったのが言語チートだけだと思うなよ?もう一つの力を見せてやろう!
「わかった、俺についてこい」
敢えて上から言うのがポイントだ。めちゃくちゃ怖いけど。下手に出てはつけあがる。これから先ずっとこのようなことが起こるのは困るしはっきりということがポイントなのだ。声震えるけど。
俺はぞろぞろとおっさん4人を引き連れ、目的の場所まで案内する。
「ガッ八ッハッハ。おめえなかなかわかってるじゃねえかぁ!」
「でしょう!さあ、どんどん行きましょう!」
場所は酒場。冒険者ギルドと内部でつながるように酒場があった。つまり先ほどのおっさん達もここで酒を飲んでいたのだ。どうやら冒険者ギルドが運営しているらしく利用者も冒険者たちが多い。多くの人が昼間だというのにかかわらず酒を飲んでいる。
そう、つまり俺は先程の冒険者たちに酒をおごっているのである。
わざわざテンプレ通り喧嘩を売る必要なんてないのだ。冒険者はただ酒が飲めてラッキー。ギルドは売上上がってラッキー。俺は礼儀の分かるやつだということで安全になりラッキー。ここにいるすべての人が全員得をするのだ。
ここは現実。創作物のような流れにする必要はない。俺は現実主義で平和主義なのだ。
金TUEEEEE!