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俺が何をしたというんだ。


煮え切らない気持ちが渦を巻いて激しく俺の心を揺らす。この気持ちを目の前にいる相手にぶつけてみたところで返ってくるのは心からの謝罪だけ。別に謝罪されることに憤りを感じるほど人間が終わっているわけではないが、今現在に限って言うのならば謝罪は一番いらない言葉だった。それはこの現状が紛れもない事実だと暗に意味するからだ。相手も本気で謝っているのがわかるし女性だから怒るに怒れない。


『本当に申し訳ありません!』


目の前には土下座一歩手前ぐらいに大きく頭を下げた女性。豊満な胸、鮮やかな金髪に彫りの深い顔。スラッとした体型。理想の女性像というものを体現化したのかとすら思えるその現実離れした姿を改めて見ることで、この状況が事実らしいことを再確認する。


「とりあえず、もう一度状況説明お願いできます?」


ため息交じりに吐き出された俺の言葉を相手は前向きに捉えたらしく、ほっとしたかのような顔の相手に向けて再びため息を吐きたくなる気持ちをグッとこらえた。


~~~~~~~~~~


「おっはー」

「よう、ショウ。英単語テストの範囲やってきた?」

「俺がやるとでも?」

「うん、知ってた」


自分の名前は雪村(ゆきむら) 紫陽(しょう)。日本人の母と日本人の父の間に生まれた普通の日本人。ちなみに秋生まれだ。現在高校2年生。残念ながら今現在彼女はいないが友人は普通にいる。ぼっちやいじめられっ子なわけでも超優秀な奴でもない。なにかの話で書かれるとしたら冒頭に二、三回ほどの会話で出番が終わりそうな、スクールカースト上の下か中の上あたりに位置する普通の生徒である。


運動や勉強が特別苦手ということはない。成績だって平均以上は維持できている。コミュ障というほど話せないことはなく無難に乗り切れる程度には会話力もある。部活を頑張って毎日の学校や勉強に追われて、土日はゴロゴロして。なにか驚くようななことは全くない平和な毎日だ。まあ、逆に言えば普通すぎるということだけれど。


なぜ、俺がここまで『普通』ということにちょくちょく意識を置くのか。もちろん自覚はある。これは自身の趣味によるものだと自己分析している。





夜11時。父と母も寝静まり辺りは静寂に満たされる。自由な時間が訪れたことを確認して自室のパソコンを立ち上げる。お気に入りからいつものサイトを立ち上げて、ブックマークの更新された作品を確認する。それが終わると検索機能やランキング機能から面白そうなものを探していく。


お分かりの人もいるかと思うが俺の趣味といえるものはWEB小説巡りだ。今の時代、ネット上では毎日いくつものオリジナル小説が投稿され読み放題になっている。恋愛、推理、SF。ジャンルは多くあれど俺のお気に入りは断然ファンタジーだ。まあ、俺が愛用させてもらってるサイトの傾向とかもあるが。


ファンタジーのワクワク感や非現実感がたまらなく好きだ。転生、勇者、魔王、魔法。心躍る単語ばかりだ。たいていの話では主人公が生まれ持ってのチート野郎とか『一般人』を名乗りながら銃とか兵器作ったり内政しちゃったりと『非常識』なやつしかいない。


当然このような話ばかり読んでいれば恥ずかしい話だけれど妄想なんかもしてしまう。実は隠された能力がとか、ある日突然魔法陣に包まれて、とか。けれどそんなことはなく自分自身が本当に普通だなんてことは誰よりも自分がわかっているんだ。まあ、だからこそファンタジーの作品が面白いと感じるという面もあるのだろうけど。


ただ最近の話は作者の方々には申し訳ないとは思うけど少し食傷気味だ。同じような話が続いて最終的にはチーレムで終わり、なんて少し飽きてきてはいる。いわゆる『テンプレ』と化してしまったお話にいちいち一人でツッコミを入れるというのが最近の流れだ。まあ、それでも時々抜き出てるのがあるからつい探しちゃうんだけど。



ただ、勘違いしてほしくないのはこの日常が俺は本当に好きだということ。ファンタジー小説の主人公のように日々の退屈さに絶望したり、現世に未練がないなんてことは全くない。


当たり前の日々を過ごして、同じような時間を過ごして、それでも少しずつ学んで進んでいく。控えめなスパイスに日々の小説巡りをチョイス。平和な家庭に友人たちやこの環境など手放したくないものばかりだ。だからもしも異世界召喚ができるなんて言われても俺はきっと断るよ。




俺はこの平穏が大好きなのだから。




深夜1時。いい塩梅なのでパソコンの電源を切り、明日に備えてもう寝よう。明日もいい日でありますように。


結果として俺、雪村 紫陽には明日がくることはなかった。










目を開けると眼前に広がる真っ白な天井。いや、天井というにはそれはあまりにも離れた場所に広がっていて空のように雄大にあるだけだ。ただひとつわかるとしたらこれはどう考えても俺の部屋ではない。もちろん俺の家の天井でも親戚や知り合いでもここまでの広さの天井を持っている人は知らない...


「知らない天井だ」


なんとなくガッツポーズをかましたくなった。


よくやった俺。寝起きでそのボケをかませるとは俺もなかなかだな。


脳内はちょっとした達成感に浮かれている。今日はきっといい日だ、なんて能天気なことを思ってから現在の状況の拙さに気づく。


「ここ、どこだ?」


辺りに広がるのは限りなく広がる❝白い❞世界。床一面が一点の曇りなく純粋な白で塗りつぶされている。壁はどこにも見当たらず地平線の彼方まで同じ光景がただ広がるだけ。こんな光景、日本ではない。いや、人間技ではない。


俺の腐りかけのファンタジー脳が素早くこの状況の予測を伝えてくる。


動悸が激しい。いやな汗が止まらない。何もなかったはずの背後に気配を感じて反射的に振り返る。



こんなの


『申し訳ありません雪村紫陽さん。あなたは私、神の手違いで死んでしまいました』


テンプレすぎるだろ!

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