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新たなる敵?

 一夜明け、西国の城ではお馴染みとなったいつもの三人が執務室に集っていた。

 怪しげなイケメンから何やら多大な精神的ダメージを受けたと言って、幸雄がディフィルをかばうように自室に引きこもってしまったため、彼の処遇を話し合う場が翌日に持ち越しとなっていたのだ。

「ユキオさん、体調が芳しくなさそうですが大丈夫ですか?」

 普段の少々おかしなベクトルを持つ妙な自信と不敵な言動が陰りを見せ、病み上がりのように覇気のない幸雄のことが気になったのか、陽巫女が心配そうな声をかけてきた。

「ああ、いや、なんかあのイケメン鎧が俺の想定から明後日の方向にぶっ飛んでたんで、色々と悩んでたんだ」

 その若者を早々に勇者らしき何者かと推測した幸雄は、言葉責めで色々となぶって遊んでやろうと考えたのだ。無論、相手がイケメンだからというわけでは断じてない。魔王が勇者をおちょくるのは職業病というべきか、むしろ習性といってもいいであろう、と幸雄自身はもっともらしい理由をつけて自己肯定している。

 しかし、ディフィルへの言動から、彼が正義感に縛られた清廉潔白な常識人ではなく、幸雄の出身世界でなら通報されそうな性的趣味を持った紳士である可能性が真夏の積乱雲のように湧き起ったのだ。

 そのことに幸雄は言いようのない不安に襲われた。

 ゲームのレイドボス戦に挑むかのようにハイレベル勇者様御一行が大挙して押しかけてきた、と言われた方がまだましだったような気がするほどだ。

 そしてふと気づいて苦笑した。

 ――なんか俺、こいつの保護者にでもなっちまったみたいだな。

 たしかにディフィルは見た目だけなら幼く、可憐であろう。見ていてどこか危なっかしい感じもする。しかし、その戦闘力はチート武器である魔王の剣を装備した幸雄すら上回り、舌足らずなしゃべり方の割に行動は意外にもしっかりしていた。

 色々としがらみの多い幸雄の出身世界でならともかく、この世界においてディフィルが幸雄の保護を必要とすることなど皆無といっていいだろう。

 それだけに、こんなに自分が気をもむこともないのだが、父性本能とでもいうべきものが妙に勤労意欲を発揮しているようなのだ。

 まさか『魅了』に囚われ続けているのでもないだろうが、ともかくあのイケメン鎧から幼いヴァンパイアを護らなくては、という思いが募っていた。

 そんな幸雄の懊悩に気づくわけもなく、ディフィルは幸雄にもたれかかってうとうとしていた。が、はっとしたように眼を見開くと、がばりと顔を部屋のドアへと向けた。

「な、どうした、ディフィル?」

「……初めて聞く足音なのん」

「まさか侵入者か?」

「そんな、衛兵がいたはずなのに……」

 たしかにこの城は戦時中アークデーモンの侵入を許し、ルティアネスの命を危険にさらしたことがある。

 だがそれもディフィルの活躍で事なきを得るに至り、今となっては、もはや城の守りを抜けられるほどの敵はいないずだった。

 だが、こうして何者かの存在を感知した以上、何もしないわけにはいかない。

 幸雄は壁に立てかけておいた魔王の剣を手に取り、いつでも斬りかかれるように構えると耳を澄ませてドアのほうを窺った。

 程なくして幸雄の耳にも金属が石の床を打つ甲高い音が聞こえてきた。特に足音を忍ばせるつもりもないようだ。

 何か話し声が聞こえた後、ドアがノックされ、こちらの返事も待たずにすっとドアが開かれた。

「失礼する……んっ、ど、どうなさった?」

 現れたのは、アークデーモンのようなモンスターではなく、兜を片手に抱えて無駄に豪奢な鎧を纏った金髪のイケメンだった。その後ろには、ここまで彼を案内してきたのであろう侍女が立ち去ろうとしている姿がちらっと視界をかすめていった。

「くそっ、そんなことだろうと思ったよ」

 途中から薄々予想してはいたが、あまりにも予想通り過ぎて幸雄は悪態を吐いて剣を下した。

「いえ、お気になさらず。聞き慣れない足音がしましたので、念のためユキオさんが警戒してくれていたのです」

 陽巫女の返事に、なるほどと頷いてマックスが部屋に入ってきた。

 それだけで異様に部屋が狭く感じたが、幸雄は何も言わずにさりげなくマックスの視線からディフィルを隠すような位置に移動した。

「そうでしたか、たしかに魔王に支配されている以上、警戒は重要です。こちらこそ勝手に出歩いて申し訳ない」

 マックスは昨日のきょどり具合が嘘のように、自然に言葉を交わしていた。

 おそらくこれが本来の彼なのだろう。昨日は目覚めてすぐということもあり、状況が呑み込めないうちに幸雄の独特なペースに乗せられて調子を崩していたのだろう。

 だが、性格なのか経験不足なのか、余計な情報を口走っていることには気づいていないらしい。

 ――ほほう、魔王に支配されてるから警戒しろってか? こいつは確定だな、魔ックスさんよお。

 この世界の住人なら、もはや子供でも魔王が敵ではないことを知っている。

 腐敗した神官たちがこれまで行ってきた悪事を公開して断罪し、はぐれモンスターを魔王自ら退治してまわっているのだ。

 肩書こそ『魔王』だが、行動はむしろ救世主に等しいだろう。

 そんなことも知らない以上、彼がこの世界の住人ではなく、『魔王』という存在自体を許さない者であることはまちがいない。

「まさか単に政権嫌いの極左人間ってことはないだろうしな」

「ん? なにか言われ――――」

 幸雄が意地の悪い笑みを浮かべて呟いた声に、陽巫女との会話が一段落したマックスが幸雄の方へ顔を向けて驚愕したように青い目をいっぱいに見開いた。

 その瞬間、幸雄の背筋に悪寒が走り抜けた。

「おおっ、わ、我が女神……ご、ごほん、げふん、い、いや、失礼した。ディフィル殿もいらっしゃったのですね。気づかずとんでもない失礼を。昨日は命を助けていただきながら、ろくに礼もできず申し訳なかった。ここで礼を言わせてほしい。本当にありがとう」

 どうやら暴走はぎりぎりで回避したようだが、この場に二人きりだったらどうなっていたことだろうかと幸雄は改めて戦慄を覚えた。

「……それで、いずれ魔王を倒した暁には、ぜひとも我が故郷へと――」

「失礼いたしますっ!」

 マックスが怪しげな提案をしようとしたところ、開けっ放しになっていたドアから衛兵が叫びながら駆け込んできた。

「一体どうしたのです、騒々しい」

「つい先程、中央山脈付近の森にて未知のモンスターを発見したとの報告が入りましたっ!」

 はっとしたように、陽巫女が幸雄へと緊張した顔を向ける。まさか他にもモンスターがいたのかと。

 しかし、魔王である幸雄も今まで見てきたモンスター以外は把握していなかった。人狼、オーガ、ハーピー、レッサーデーモンにアークデーモン――実物やイラストを見せて周知したそれら以外のモンスターなど、幸雄の関知するところではなかった。

「なん……だと……」

 幸雄は思わずお約束通りのセリフを素で吐いていた。

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