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二人目の異世界人?

「あらっ、ユキオさん、ずいぶんお早いお帰りですね。この城が恋しくなりましたか? それとも私が? それともこの肢体が?」

 ディフィルが先行していたため、幸雄が西国の城に到着した時には、既に連絡を受けた陽巫女がエントランスで待ち構えていた。

 二〇歳という年齢にしては小柄でディフィルより少し高い程度だが、腰のあたりまで伸ばした艶めく赤い髪が大人びた雰囲気を纏わせているのか、彼女からはそれほど幼いといった印象を受けない。

 むしろ若さに溢れた瑞々しい白い肌や、ややつり気味の黒い瞳と相まって、生まれ持った気品をより一層引き立てているようだ。

 そんな楚々とした女性が上目使いで、幸雄の出身世界でもっとも有名な小悪魔セリフをアレンジしてきた。

「な、ななな何言ってやがる、誤解を招く発言は控えやがれください! っていうか、いつの間にそんなセリフを……くっ、陽巫女、なんて恐ろしい娘」

 ほぼ初対面でこの美しい巫女服姿の女性にそんなことを言われたら、内心の動揺を押し隠すために挙動不審という言葉を面白いように体現していたかもしれない。

 しかし、幸か不幸か、幸雄は既に彼女とはそこそこの付き合いがあり、周りに他人がいなければ、そういったいたずらを仕掛けてくることも知っていたため、まだ多少の余裕を持ったリアクションを返せた。

 その幸雄の反応が期待はずれだったのか、陽巫女は軽く溜息を吐くと、両手を腰に当てて幸雄を睨みあげた。

「ユキオさん、いくらルティアネスさんではないからといって、女性にこんなことを言われたらもう少し面白い反応をしてくださらないと失礼ですよ?」

「えっ? い、いや、そ、そういうわけでは、いや、ルティアがどうこうとか、いや、ほんと、まったく、そんなこと思ってなくもないというか……はっ、まさかここまでが罠、だとっ!?」

 幸雄はルティアネスの名前を出されて、ついしどろもどろになってしまったが、いつの間にか陽巫女がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこちらを見ていることに気付いた。

「素直でよろし……あらっ? 態度は素直ですけれど言葉はそうでもないですね……。これがユキオさんが以前言っていたツンドレイというものでしょうか?」

「ツン奴隷じゃねえ! ツンデレだっ! って、違う違う! 意味はあってるけど、別に俺がツンデレってわけじゃ……ないんだからねっ!」

 まったく、野郎がツンデレなんて誰得だよと心中で文句をつけながらも、意外と動揺していたらしい。思わず放ったセリフはどう考えてもテンプレじみていた。

「って、そうじゃなくて、ディフィルが運んできたゴツイ鎧野郎はどうなった?」

「ふふっ、苦労しましたが、ディフィルさんがすべて脱がせてくれましたわ。まだ目覚めていませんが、今は医務室の方で休んでもらっています」

 今の陽巫女相手に舌戦は不利と悟った幸雄は、やや強引かと思ったが、あまり墓穴を掘らないうちに話題を変えて医務室の方へと歩き始めた。

「そうか……で、やっぱり知らないヤツだったか?」

「やっぱり……ですか。何かご存知のようですね。ええ、たしかにあの鎧も初めて見ましたが、金色の髪というのも初めてです」

「へえ、金髪かよ、そうなるといよいよ二人目の異世界人登場イベントってことだな」

「異世界人……というと、ユキオさんと同じような境遇のかたですか?」

「どうだかな?」

 石造りの廊下を二人で歩きながら、幸雄は予想していたパターンのひとつが当たったとほくそ笑んだ。

 おそらく何らかの要因で世界間移動をして、自分と同じように気を失ってしまったのだろう。

 だが、自分の場合は魔王による召喚魔法という明確な要因が存在していたが、もはやその可能性はない。

「でも、そうなると、どうやってそいつはこの世界にやってきたんだ?」

 ――まさか自分でそんな高位魔法を使ってやって来た? いや、でもそれで気絶してたらアホとしかいいようがないだろ。

 開きっ放しになっていた医務室へと入ると、幸雄はまだ寝台で眠っている金髪の若者を見て首を傾げた。

「ゆっきー、遅いのん」

「いや、お前が空飛んで行ったから速いんだ。俺も一緒に連れてってくれればよかったのに」

「……はふぅ」

 どうやらこの幼いヴァンパイアにはあの重装鎧を抱えていても、まだ余力があったようだ。

 だが、ついでに幸雄まで連れて行くという結論に至らなかったのだろう。

 その発想はなかったとでも言いたげに感嘆の溜息を吐き、大きな赤い瞳に驚きの色をたたえて幸雄を見上げてきた。

「くっ、このロリ野郎……まあいい、それより、お前はどう思う? 誰かに召喚されたのか、それとも自力でここに来たのか」

「……魔王さんのような魔力はないのん」

「つまり、誰かに召喚されたか、あるいは……」

「何者かに私たちの世界へと送り込まれた……と?」

「ってことだな。まったく、どんな意図があってか知らないが……いや、これは面白くなるか?」

 灰色の中二脳に妙なフィルターのかかった現状が入力され、怪しげな変換処理が施されたアウトプットが吐き出されてくる。

 ――代表的な世界間移動のパターンとなると、自分のようにその世界の何者かから呼び出されるパターン、元の世界から何らかの意図を持ってみずから、あるいは誰かに頼まれて異世界へ赴くパターン、元の世界から排除されることでたまたまその世界に行き着くパターン、といったところか。まあ、1番目がない以上、残り2つか、もしくは例外的なパターンでこの世界に来たことになるな。

「たまたま流れ着いたってんなら、まあ無害だろう」

 戦力的に考えて、よほど特殊な能力でも持っていない限りこの金髪の青年がヴァンパイアに勝てるとは思えない。

 問題があるとすれば、それは――

「意図してこの世界に来た場合だな。お約束的にその場合は……、ほぼ間違いなくこいつは俺たちの敵になる」

「――――っ!?」

「言っちゃ悪いが、この世界にめぼしいお宝があるようには思えない。何か特殊な特産品とかない以上、資源目当てでわざわざこの世界に来るとは思えない。そもそもひとりで来たところで持ち帰れる量なんてたかが知れてるしな。そうなると、誰かに吹き込まれたか、何らかの方法でこの世界が魔王の手に落ちたと知って正義感に溢れた勇者様が乗り込んできた――ってのが俺的には一番おいしい展開なんだがな」

 幸雄は苦笑しつつ、みずからの願望に近い予測を披露した。

 今時勇者ひとりで敵の本拠地に特攻かけるなど、無理ゲーもいいところだ。必ず1対1でのバトルが約束されているならともかく、よほど圧倒的な力量差がない限り現実では『多勢に無勢』という言葉の意味を嫌というほど思い知らされるのがオチだろう。

「はあ、願望ですか。あまり驚かさないでください、ユキオさん。せっかく戦後復興が軌道に乗ってきたところにまた戦争なんてことになったら、この西国だけでなく東国も含めて大変なことになってしまうんですからね」

「おっと、すまんすまん。でも、あながちただの願望ってわけでもないかもしれないんだよ、パターン的に」

 中二脳の分析からすると、この異世界人(仮)の登場というイベントが平和裏に終了する可能性はゼロに等しい。

 どうなるかはわからないが、少なくとも何事も起こらないということだけはありえないと、幸雄は思っている。

「うっ……」

 そんなことを話していると、気を失っていた金髪の若者が呻き声をあげてうっすらと目を開いた。

「ぱっと見でイケメンだと思ってたけど、この金髪碧眼野郎、目を覚ましたらさらにイケメン度があがりやがった」

 幸雄の口から思わず呪詛の念が漏れ出ていた。

 その若者は、幸雄が言ったように、金色の髪に碧い瞳、彫りが深くて鼻が高いという、幸雄の出身世界で言えば絵に描いたような西洋系の白人種の特徴を有していた。

 西洋系ならイケメンかと言えばそうではなく、純粋にこの若者がどことなく育ちの良さような気品を感じさせる何かを持っているのだ。それが幸雄としてはあまりおもしろくないというだけのことだった。

「ここは――」

 そのセリフが聞こえた瞬間、幸雄の中二脳が瞬時にその先の言葉を歪曲して奪い去った。

「――どこ? お前は誰だーーーっ!」

 かつて、今は亡き巨人に対して無礼にも指を突き付けて叫んだセリフを、今度は異世界人(仮)に対して怒りをぶつけるかのように叩きつけた。


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