017話
今回は長めで、いつもの1.5倍です。
すこし、夢中になりすぎて話を伸ばしてしまいました。
どうにか船には乗れたが、父からの説教は免れなかった。弟は哀れな顔をこちらに向けている。口に出さないが、顔が「馬鹿だな」っと言ってるのがよくわかる。姉は今度は弟を巻き込もうという決意に満ちていた。
もうコリゴリだ。女(姉)は怖い。
父から解放され、私は船の甲板に行く。出港して一時間、高速帆船と名乗るだけあってアクアムニルムが遠い。
船は追い風に吹かれて順調に速度を上げている。帆船にとってはめったにない良いコンディションだろう。
チャイナ服が風に撫でられてなびいている。潮風が気持ちがいい。
ふと船首をみると、汚れた船員の制服を着たじいさんが目につく。ワイン瓶を片手に持ち、空を見上げている。
どこにでもサボりはいろのだな。
そう思い目を背けようとした瞬間、じいさんは手を高く上げた。
鐘が鳴り響く。
一斉に船員が続々と出てくる。そして帆を一斉に帆の向きを変え始める。船長らしき人が慌ただしく指示をしていき、五分もすると縄の固定位置も変わった。
それが終わると同時に向かい風が横風に変わる。
船はさらに加速度をましていく。速度は帆船とは思えないほどに上がり、波にあたって水飛沫を上げる。
注意深くそのじいさんを見ると、なにか手で合図をするたびに船の帆の位置が変わってるのに気付く。
私は船首に向かう。
「おじいさん、そこで何しているの。」
「見ての通り、サボりじゃ。」
どうやらとぼける気らしい。
「でもおじいさんが手を上げるたびに船員が忙しそうにしているよ。おじいさんはえらいさんなの。」
「ほう、よく見ておるのお嬢ちゃん。だが、わしは見ての通り、ただの普通の船員じゃよ。」
確かに見た目はボロボロの服だが、ほかの船員と変わらない。
「それで、なにをしているの。」
「・・・風を読んでいるのじゃ。世の中は魔力で溢れておる。すべての生物は魔力をもつ。じゃが魔力は生物だけに存在するわけではない。
・・・ごくわずかじゃ、もうほとんど感じることができないくらいに少しだけ、風にも魔力が乗っておる。もちろん水にも、海水にも、この船に使われている木にも、ごくわずかじゃが魔力があるのじゃ。
わしはその魔力の流れを感じて風を読んでいるのじゃ。」
なろほど。
私は目を閉じ、できるだけ鋭敏に魔力を読む。
じいさんの魔力は一番最初に分かった。なんたって一番近くにいるのだから。姉の魔力もわずかに感じる。だが私はこれくらいしかわからなかった。
「おじいさん、すごいんだね。」
「ほっほっほ、船長以外にそんなの言われたのは何年振りかの。この風読みは昔の船乗りはだれもができたのじゃが、いまの船乗りはこの風読みを失ってしまった。昔の船にとって風は敵であり、味方じゃった。風は船の推進力となるが、同時に転覆の可能性を上げる。当時は風の情報は生死を分けるものだったのじゃ。
今は技術が上がり、風で転覆することなんでめったにない。だからわしの世代ではもう風読みを教える人はわしの師匠を除いていなかった。」
じいさんは目を細めて昔を懐かしいんでいる。
「おじいさん、その風読みってなにかコツがあるの。」
「そうじゃの、ふだん当たり前と思っているものに目を向けることじゃ。例えば風は手にあたると手をよけて進む。それは皮膚の感覚からわかることじゃが、それだけじゃない。
風は空気をおす。このように風の変化を見て感じ、それを魔力でも感じるように魔力を凝らして感じるのじゃ。
そうすれば、お嬢ちゃんのように魔力を全く感じない人でもすぐに分かる。」
そういうじいさんの目は白かった。おそらく重度の白内障なのだろう。おそらく視力はない。
私はその日から常に魔力を感じるように努力した。五感からの情報がすべてではない、そう初めて認識した。
読んでいただきありがとうございます。
今回は風読みのおじいさんの話でした。
楽しんでいただけたら幸いです。




