クレイジー・クレイジー
『四時になったら首吊る』
それだけいって切られた電話。時計を見やるとちょうど三時半を指している。
携帯と財布と車のキーをポケットにねじ込んで、環貫は駆けだした。
車から飛び出して玄関のチャイムを鳴らす。家の中で音が反響しているのが聞こえるが、一秒でも惜しいいまはそれすら焦れったい。
遠慮なくドンドンとドアを叩くと鍵が開けられる。ドアが開かれるより先に勝手に開けると、驚いて目を丸くする祐樹が立っていた。
「環貫さん…?どうしたんですか?」
「優斗は!?」
祐樹の問いかけに答えず詰め寄ると、祐樹は気押しされながらも「たぶん部屋に…」と教えてくれる。
「邪魔する」
靴を投げ出して勝手知った部屋に向かって一目散に階段を駆け上がり、ドアの前で止まる。
ドアノブを乱暴に回せば、予想外に鍵がかかっておらず、簡単に開いた。
「優斗!――っ!」
ドアを開けた瞬間環貫は息を飲んだ。
天井から吊るされた縄。縄の先端に作られた輪に首を通してぶら下がる姿を目撃して。
急いで吊るされた身体を縄から外し、身体を横たえる。首を吊ってからさほど時間はたっていないらしく、外したときに激しく咳き込む姿に環貫は安堵した。
「大丈夫か」
背中をさすりながら呼吸が落ち着くのを待つ。
自殺志願者の白川優斗の監視するのが環貫の仕事だ。監視といっても四六時中そばにいることはない。優斗が不穏な行動をすれば、先ほど玄関で迎えてくれた優斗の双子の弟の祐樹が教えてくれる。もしくは今回のように本人から直接電話が来るのだ。
そのたびに環貫は車を走らせ駆けつける。それが仕事であり、習慣のようになっていた。
「ごほっ……あれ、環貫さん、間に合ったんだ」
たいしたことでもなさそうにいう優斗。
「残念。今回は、間に合わないと思ったのに」
背中をさする環貫の手を「もういいよ」と払いのけながら、優斗は起き上がる。
その手首には数えきれない自傷跡が生々しく存在していた。
「いつも大変だね。いつでもどこでも駆けつけなきゃいけないなんて」
そういいながら微笑む姿に、環貫は一瞬見惚れた。
「……仕事だから、気にするな」
「ふぅん。お仕事おつかれさまです」
何事もなかったように優斗は立ち上がり、ぶら下がったままの縄を外しにかかる。人前では死のうとしないのが彼のモットーなのだ。
その背を見ながら環貫は苦い顔をする。
初めのうちは間違いなく仕事だった。否、いまも仕事であることに変わりない。けれど電話がかかってくるたびにどうしようもなく胸が高鳴るのだ。
彼の――優斗の死にそうに弱り切った姿が見れると。
彼を殺したいわけではない。
弱り切った姿が愛おしくて、環貫はその姿に恋してしまったのだ。
だからいつ何時でも駆けつける。
仕事と名の付けた欲のために。




