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残ったもの


ゼナルは王の首を片手に肩で息をしていた。


まず第一に頭にあったのはリュークのことだ。あちらは『無事に』終わったのだろうか。


そしてすぐさま、王の首を持ったままレファムの元へと急いだ。どちらにせよ、リュークがここに来ていないと言うことは向かわなければならないし、もしレファムが負けていれば自分が相手をしなければならないし、何にせよ通る道だ。


走りながら、ゼナルはレファムの心配をしていた。


自分の中で区切りはつけているはずだった。

もちろん恨んでいる。リールも、レファムも、『リボルト』と縁を切ったつもりでいた。


だがレファムに先に行けと言われたときに湧き出た感情は、恨みではなかった。



許したつもりもない。

向こうも許されたいと思ってなどいないと思う。

自分は要らない人間で、あの人達の心にはいない。もうわかったことだ。


それでも今は、助け合わなければならない。



ゼナルは何か自分の考えと心とに違和感を感じながら全力で走った。










戻ってきて目に入ったのは、横たわる二人だった。可能性的にはあり得たことだが、これはどういうことか。相討ちではない倒れ方をしている。


頭では瞬時にそう考えた。しかし体は思ったようには動かなかった。


「兄さん!おいっ!」


『兄さん』という言葉を何年ぶりに発しただろうか。すぐにでもリュークの元へ行かなければならないのに、自分は一体何をしているのだろう。そんなことを考える余裕もなく側に駆け寄った。


酷い有り様だ。


少し肩を揺らしながら呼び続けた。


「兄さん!兄さん!兄さん!!!」


するとほんの少しだけ目が開いた。うっすらと開かれた目には力がないが、それでも生きていたことに安堵した。


ふっと、軽く息を吐いたところで、レファムの口が微かに動いているのに気が付いた。ただ息をしているだけではないその動きに、耳を口元に寄せた。


「ゼ…………ナル……」


息が漏れるように囁かれた言葉に耳を傾ける。


「あ…あいつ……みたい…な、兄じゃ……なくて…………悪かった…………」


「……え?」


レファムを見ると、目を閉じていた。


「……兄さん?」


先程の言葉の意味を問いたくて呼ぶ。しかし返事がない。再度目を開けてくれることもない。


「兄さん?」


どういうことか、理解できない。レファムは自分を嫌っていたのではなかったのか。


「兄さん、ねぇ」


嫌っているのなら、もっと辛辣な言葉を吐いてくれていい。どうしてあのプライドの高いレファムが自身を落とすようなことを言うのか。


「兄さん!」


もう一度、ちゃんと聞きたい。そして意味を聞かせてくれ。


「兄さん……頼む、起きて」


ゼナルは初めて、自分の持っていた感情の根源を見つけた。


子供の時も、捨てられた時も、再開して言い合いになった時も、先に行けと言われた時も、今も。ただただ寂しかっただけなのだと。こんなにも大切な兄弟に、憎しみなど持てるはずがなかった。ただ寂しかったのだ。悲しかったのだ。恋しかったのだと。








動かなくなった心臓を確認した後、ゼナルはむくりと立ち上がった。


すぐさまリュークの元へ向かわなければならない。もう誰も失わずにすむ世界のために戦っているのだから。


もう一度、レファムの顔をしっかりと見ると

出口に向かって走り出した。もう振り替えることはなかった。今は、今できることを。



外へ出ると、都市内はすでに静かなものだった。薄情にも兵達は逃げ出したらしい。


すぐさま二番目に高い建物へ向かい、扉から中に入ろうとしたとき。


「おーい!」


上を見上げると、最上階であろう場所から誰かが手を降っている。リュークに他ならなかった。


「これ頼む!」


明るくそう言われ、ヒュルヒュルと袋がまっ逆さまに落ちてきた。言われずもわかる。首だ。


ゼナルが見事にキャッチすると、リュークはグッと親指をたてた。


「ちょっと先に頼む!時間ねぇだろ!」


躊躇するゼナルに、見えていないかもしれないがもうニカッと笑うと、ヒラヒラと手を振った。


「俺はこの高いところからゆっくり見させてもらうわ!頼むぞー!」


確かに時間がなかったのもあり、ゼナルは一つ頷いて走っていった。


「……頼むぞ」


これが、リュークの最後の『嘘』になった。


もう一度、ゆっくりと振り返り部屋を見渡すと、二つの遺体がある。


一つは、罪もないのに加害者とされ、本当は誰よりも優しく自分を殺しにきた者に謝罪し、笑顔を向け、首を跳ねられた男。

殺したのは自分だ。


もう一つは、恋をしたのが自分の父親の命を狙う反逆者であった可哀想な娘。自ら敵を敷地内へ招き入れてしまった馬鹿な娘。父親も、仲間も、他人を大切にする、親に似た優しい娘。そして、帰ってきて部屋を見て、全てを悟ってしまった哀れな娘。

殺したのは、自分だ。


耐えられなくなって、発狂して、自害しようとした。父親が持たせていたであろう、護身用の剣は、自らを傷付ける役割を果たした。


ただ人間は簡単には死ねないもので。


半死にな状態に止めを指した。




ワアアァァァァァアッ!!!


外から聞こえる歓声に目を向けると、壁の上から外が見えた。大勢の大衆が集まっているらしく、歌え踊れのどんちゃん騒ぎ……と言うほどではないにしろ、随分と喜ばれているようだ。



しかしリュークは沈んでいた。


何もわからなかった。


自分が望んでいたのはこんなことだったか?


わからなかった。


どうして罪のないやつを手に懸けてしまったのか。

いい人だった。優しい人で、自分よりずっとこの国に尽くしてくれた人だ。


わからなかった。


結局、自分がミーナに抱いていた感情は何だったのか。しかし今になってはわかりたくなかった。それを理解した瞬間、壊れそうな気がした。


結局、何もわからない。



達成感?……ない。

喜び?……ない、何故だ。

期待?……持っていいのか?


あるのは焦燥感と、悲しみと、絶望と、哀しみと、寂しさと、無力感。それから……


自分はこれから、どうしたらいい?



太陽が少し傾いている。

あぁ、暖かい。その物理的な暖かさに触れたくなった。


窓から少し身を乗り出す。


あぁ、眩しい。


届くか。届くはずもないのに、少し身を乗り出して…………


「リューク!!!」


ふと振り返った瞬間、ぐらっと体が傾いた。


ゼナルが必死の形相で走ってくる。その伸ばされた腕に、熱いものを感じた。


ゼナルは冷え性で熱いはずがない。まずふれてもいないのに、太陽のように暖かさにを感じるのはおかしい。


でも何か、何か言い表せないものを感じ、


リュークはその腕に向かって手を伸ばした。







初めての作品、完結してよかったです。


最後は何か中途半端に終わった気もし、またもっといい風に書けたのではと後悔も少々。


しかしまず書ききったことに安堵。


読んでくださった皆様、ありがとうございました。


別の作品もよろしくお願いいたします。


P.S.もっと腕をあげなければ。まだまだ私の挑戦は続く。


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