2捧げたリスペクト
地獄絵図のような現場に響き渡る雷鳴のような怒鳴り声。フードの男が振り向くと、遠くの方から一匹の生き物……一人の人間が派手に砂埃をあげながら猛ダッシュで走ってくる。
人間とは思えない凄まじいスピードで、近くに来て表情がわかるようになるとさらに恐さが増した。眉間にシワを寄せ、眉はつりあがり、歯をむき出しにして、こちらをガン見している。
そしてあっという間にすぐそばに来て、フードの男の前に急ブレーキで止まった。
「ぜぇぇ……はぁぁっ……ぜぇぇ……」
「遅かったじゃないですか、リューク」
肩で息をしているリュークと呼ばれた男に向かって、フードの男は冷静に声をかける。先程の鋭く冷たい表情は嘘のように消えていた。
リュークは背筋を伸ばして、大きく一呼吸すると、
べしっ
叩いた。頭を平手で。
「おいこらっ!なんだよこの状況!って誰が見てもわかるんだよ!お前がやったな?人を斬ったり殴ったりすんなって言わなかったっけ?言ったよな俺?何度も言ってるよな?ん?」
顔を近づけ、至近距離で凄い剣幕で捲し立てられて、フードの男はうつむきがちに呟く。
「……………だって荷物よこせって襲いかかってきたのこいつらだし………ちょっと斬ってもしつこかったので気絶させただけです。」
ゆっくり離れ、リュークはやれやれというように首をふって自らの黒髪をかきあげる。落ち着いた表情で足元の一点を見つめた。
そして顔を上げ、フードの男の眼を見る。
「ゼナル」
名を呼ばれ、ゼナルも目線より少し下にあるリュークの真っ黒な瞳をまっすぐ見る。
「お前は、俺についてきてくれた」
「……………はい」
「それにはすっごい感謝してる。でも来るなら、本当にこれだけは守ってくれ。何度も言ってるよな?こいつらも俺たちと同じ犠牲者だ。国民は傷つけるな。それ以外はお前の好きにしてくれていい。ついてくることも強制してないんだぞ?どっかで可愛い子でも捕まえてちゅっちゅしててもいいんだぞ?」
にかっと悪戯っ子のように笑って頭の後ろで手を組む。
しかし、ゼナルは全く笑わない。むしろ表情は強張る。リュークがそれに気付き、声をかけようとしたとき、短剣を持ったまま素早くフードをかぶり、心臓のあたりのローブをぎゅっと掴んだ。
「どこまでも、リュークについていくと決めています。」
沈黙……リュークが軽くため息をつき、にやっと口元を緩ませて言う。
「お前がそうしたいなら、そうすればいいんじゃねーの?別に止めないさ。俺もしたいようにしてるだけだし。」
顔を上げたゼナルの顔には安堵の色が見られた。
リュークは呆れたように笑う。
それから片足でくるっと後ろを向いたと思うと、ピタッと動きを止めた。
「あー、そうだ。ゼナルは俺の言うことなんでも聞いてくれるのかなー?」
唐突に聞いた質問になんの躊躇もなく頷く。
「なんでもおっしゃってください」
「じゃあこの人たち手当てして。」
ゼナルが最後まで言い終わらないうちに、顔だけ振り向いて言い放つ。するとさっきまでの忠誠心はどこへやら、ゼナルはあからさまに嫌そうな顔をした。
「お話もしなくちゃいけないしー、やっちゃったのゼナルだし。」
「…………でもほっといても「早く」」
しぶしぶしているのがまるわかりの様子を見て、リュークも満足そうに手当てを始める。
そう、この人たちにも謝って、お話、しなければならない。
「そういえばリューク」
「んー?」
「用をたすのにどうしてこんなに時間がかかったのですか?」
「森から出たら迷子だったんだよ。」