第四章:Requiem
「そう、そしてーーそこに君の求める全ての答えがある」
ロイに案内された場所は、なんでもない普通の教会だった。
意外と外装は新しく、汚れも見あたらない。そのため、壁が白く光っている。
「ここが……闇ってのォ!? ただの教会じゃない!」
リオは納得がいかない、とばかりに愚痴をこぼし始める。
しかし、それに対してロイは説明を続けるだけ。
「ここが闇への入り口。全てを知るために中へ行こう」
ロイに連れられ、教会の裏へ回る。なんでも、表面上教会を運営しつつ、裏では闇の組織として活動しているらしい。
「ようこそ、スタンくん」
オレンジ色の鍔広帽子は、どこかで見た覚えがある。
「あ……砂漠のオッサン!」
彼はオアシスで出会った男性だった。
「あんときはありがとな。で……なんでオッサンがここに?」
スタンが首を傾げて訊ねると、男性は
「簡単なことだ。私が……闇の創立者だからだ」
「闇の……創立者」
「そう。そして君の求めるものはこの先にある」
彼が指差したのは、幾つかの扉のうち、一つだけの黒い扉。
「そこに……全てが」
スタンは、つかつかと歩き、扉に手をかける。
「スタン。これを持って行け。役に立つはずだ」
「ん? わかった」
ロイはスタンに、自らの腰に納めていた剣を手渡した。
「リオちゃん……だったかな。君も行きなさい。君の求めるものも……そこにあるはずだ」
「……はい」
リオもスタンに続くように、ドアノブに手をかけた。
「そういやさ……リオ、お前が守ろうとしてた……大切なものって、なんだったんだ?」
「……ペンダント。お母さんの……最後のプレゼント」
リオは悲しそうに、俯いた。
「最後……か」
「うん。いつの日か、いなくなってた。私は、お父さんと二人で旅に出たって聞いてたんだけどね。それが、二人とも死んだって気づいたのはそれから五年も後。笑っちゃう」
「…………そうか」
扉の向こうには、何もなかった。まさに、闇そのもの。
暗い空間で、近くに誰がいるのかもわからない。
「やだ……何これ」
「……闇」
徐々に紫色の光で辺りが照らされる。それと同時に、そこに佇む影をも映し出して行く。
「なんだ……アレ」
「まるで……悪魔」
そこにいたのは、漆黒の翼を生やした魔物。その経常は、何かで見た悪魔そのものだった。
「我は全てを司る者。お前たちのことも知っていた。我は世界を見た。蒼き瞳を通じて」
悪魔は重たそうに口を開く。
「蒼き瞳……オレの目のことか」
「その通り。なぜならば、あの日に貴様が開いた魔術書は、我のものだからな」
悪魔の言葉に、スタンは驚愕するしかなかった。
「そして、小娘。お前の両親も魔術書のために死んだ」
「え……!?」
リオは、瞳を大きくして、悪魔にすがりついた。
「何それ……どういうことっ!?」
「その日、スタンが開いた魔術書は事実上『アルバテル』ではないのだ。まして、今手にしている『ソロモンの鍵』も本物ではない」
悪魔は次々と彼らの知らなかった真実を語り始める。
「その二つは、小娘の父親が記した魔術書。『蒼焔の瞳』の一部だ」
「……お父さんが、魔術書を……?」
スタンもリオも、自分たちの知らないところで、そんな繋がりがあったことに驚くばかり。
「だからといって、なんでお父さんたちが死んだの!」
「魔術書の封印が解かれたからだ。だから、魔術書の関係者の命と引き換えに、我が生まれた。そこの少年の手によってな」
「……!? オレのせい……なのか」
悪魔の言葉は、スタンの心に突き刺さった。
自分が魔術書に手を出したせいで、リオの両親は死んだ。
今まで感じていた罪悪感がより強くなっていく。
「いや……お前のせいではない。スタンよ……お前の瞳に命は今もある」
そう言われても、スタンはいまいちピンとこなかった。
キョトンとしているスタンに、悪魔は一言、囁くように言った。
「我を……殺せ」
「どういう意味だよ!」
スタンは悪魔の考えが理解できず、怒鳴り声で訊ねる。
「その瞳は我そのもの。貴様の弟の持つ精神力……そして、貴様と弟との繋がりを利用して碧眼を貴様に植え付けた」
スタンは冷静にその言葉を受け止めた。
「つまり……あんたが全ての命を司っている。そして」
――あんたを殺せば、全てが元に戻る。
「そういうこと……だな?」
「その通りだ。殺せ。我はもう生きる必要はない。お前を通じて、十分に生きた」
スタンは隣で怯えるリオに優しく語りかける。
「戻そう。全てを、オレたちの手で」
「うん」
スタンはロイに渡された剣を構える。
リオはその手に自らの手を重ねた。
その刃は、悪魔の心臓を貫いた。




